「緊急事態宣言しか打ち手がない」日本の医学界が抱える4つの問題点
プレジデントオンライン / 2021年4月30日 11時15分
■臓器ごとの専門家ばかり養成している
今回、3度目の緊急事態宣言を受けて私は、日本のコロナ対策は、医学界のダメな点がすべて露呈してしまったと痛感している。
日本の医学界のダメなところは大きくわけて4点ある。
その第1は、医学部や大学病院には「内科がない」こと。医師は呼吸器内科とか消化器内科、循環器内科というように、臓器ごとに専門分化されている。総合内科という内科があるところでもそれは、専門内科で教授になれなかった人のためにつくった診療科という側面があり、スタッフの数は少なく、あまり重要視されていない。
人は年を取れば取るほど、三つや四つの病気を抱えていたとしても不思議はないのに、臓器ごとの専門家ばかり養成しているから、一人の患者を総合的に診断する医師がいないのが実情だ。
■感染症専門医の「暴走」ともいえる状況に
たとえば循環器内科では、LDL(低比重リポタンパク)は“悪玉コレステロール”と言われ、数値が上がると動脈硬化を進め、心筋梗塞のリスクが高くなるから患者に下げるように指導する。ところがLDLは動脈硬化に対して悪玉なだけであって、免疫細胞を活性化するし、鬱になりにくくするなど良いところもたくさんある。また男性ホルモンの材料でもある。むしろLDLの値の高い人の方が長生きするというデータもあるほどだ。
しかし日本の大学の医学部には、専門が異なる分野の先生の意見に対して口をはさむことをよしとしない土壌がある。そのためこうしたことはあまり知られていない。
コロナ対策も感染症専門の学者しか意見できず、それに対してあまり反論できていない。私から見れば、感染症専門医の暴走といえる状況だ。
■医師が医学界の批判ができない本当の理由
そして日本の医学界のダメなところの第2に、上に逆らえない風潮がある。数字よりも“学会のボス”が言うことがまかり通る。もし、「統計上、コレステロール値が高い人のほうが長生きしているというデータがあります」などと言えば干されてしまう。どんなに統計調査や疫学調査をもって意見したところで、医学界では偉い先生が言っていることが正しいのだ。
コロナでも、誰も偉い教授の意見に統計数字で反論しないから、インフルエンザ並みの致死率しかないにもかかわらず、恐怖心が大きくなる一方だ。
余談だが、医師が医学界の批判ができないのは、82の大学医学部すべての入試に面接試験があるからだと思っている。子どもを落とされたくない医師が教授に忖度するからだ。医師としての適性を面接でみるのであれば、入試でなく国家試験でやるべきだ。そうすれば、医学部6年間の教育も変わるに違いない。
■「アメリカの言うことは正しい」と受け止めすぎ
話を戻そう。日本の医学界のダメな点の第3は、「アメリカ追随モデル」であることだ。日本人とアメリカ人は食生活も体質も違うのに、アメリカの医学界で正しいとされたことが日本でも正しいことになる傾向にある。
アメリカの医学界が「健康のために肉を食べる量を減らせ」と言ったら、日本の医学界も「肉を減らそう」と言い出したことがあった。アメリカ人は1日平均300グラム、日本人は平均80グラムと、食べている量がそもそも全然違うにもかかわらず、アメリカのデータは正しいと信じた。ところが実はその当時、1日平均100グラムの肉を食べていた沖縄の人や120グラムのハワイ在住日系人のほうが長生きだったのだ。
今回のコロナもアメリカで怖い病気だから、日本も追随して怖い病気にしてしまったように感じる。
ダメな点の第4は、心に関心がないこと。コロナの感染拡大防止対策の内容をみると、医療関係者を大事にしろと言いながら、心が無視されている。夜遅くまで現場で働いた医療関係者が、いざ晩ご飯を食べる時間にはもう店が開いていない。会食は禁止、仕事が終わった後の愚痴も禁止。
感染症の医師たちはふだん動物実験の研究が多いから、治療の現場に思いが至らず、心ない対策しか立てられないのだ。
■人間的な楽しみを犠牲にすれば、感染症患者は減る
インフルエンザは薬もワクチンもあるのに、死者数は関連死を含めて毎年1万人にのぼる(2021年1月17日公開記事「 『コロナ死4000人vs.肺炎死10万人』という数字をどう読むべきか」を参照のこと)。
医師はみな、コロナはその程度の病気だとわかっているはずなのに、誰も言わない。コロナが重症化し死亡するのは、高齢者と基礎疾患のある人。これもデータで明らかだ。インフルエンザでも肺炎でもこれは同じ。今シーズンはインフルエンザが激減し、肺炎で毎年約10万死んでいたのが1万人以上も減っている(編集部註:厚生労働省速報、肺炎死者数は2019年9万5498人から2020年は1万2000人減)。
要するに、人間的な楽しみを犠牲にすればインフルエンザも肺炎も減ることがわかった。コロナが出るまでは肺炎で10万人死のうがインフルエンザで1万人死のうが、市民生活を犠牲にしようという話にならなかった。
ところがコロナ対策では市民生活を犠牲にすることが当たり前になった。
ここまで国民に我慢を強いれば、あらゆる感染症患者の数は減るに決まっている。これが当たり前であれば、コロナが終息した後はインフルエンザや肺炎を減らすために国民に我慢を強いる生活をずっと続けるのだろうか。
■日本は「高齢者が多い国としての対応」をしていない
スウェーデンは集団免疫を目指し、あまり市民生活に制限をかけない方針をとった。失敗したと言う人もいるが、死者数をみるとそれほどでもない(4月23日時点、人口1023万人に対し死者数1万3923人)。
フィンランドは逆に非常に短期間、ロックダウンを徹底的にやって感染者を抑えた(4月25日現在、人口552万人に対し死者数903人)。
この北欧2カ国には共通点があって、人口に占める高齢者の割合が高い。だから両国とも、高齢者の足腰が弱ってしまっては福祉財政に莫大な悪影響を及ぼすという発想から対策を練った。スウェーデンは外出自粛を要請せず、フィンランドは逆に短期間に収束させるという政策をとったわけだ。
そして日本は両国を上回る、世界一の高齢社会だ(65歳以上人口の割合を示す高齢化率は、スウェーデン20.2%、フィンランド21.4%に比し、日本は28%。2019年世界銀行調べ)。高齢者が多い国なら高齢者が多い国としての対応をするのが為政者の務めであるはずだ。しかし今回、3度目の緊急事態宣言での内容を見ても、そうした発想で対策が考えられているとは到底思えない。
■どうしてここまで怖い病気として扱うのか
さらに今回の緊急事態宣言で犯罪的だと感じるのは、テレビ局の報道である。
報道は本来、政権側の意図に即した意見だけでなく、感染拡大防止措置に批判的な意見も提示しなければ、国民の知る権利に応えられないはずだ。しかし政権に具申する立場の医師とは、異なる医師の意見を徹底的に排除している。
しかもテレビ番組では街のルポというかたちを取りながら、リポーターが「街に人があふれています」「こんな夜遅い時間でもまだ営業している店があります」「路上飲みをしている若者がいます」と自粛ポリスみたいなことをやっている。この国は本当に怖いと思う。
テレビの報道は感染者の数ばかり取り上げるけれど、それはPCR検査で陽性反応が出た人の数。その陽性者も8割ぐらいは無症状。しかもPCR検査を受けていなくて陽性の人もいるだろうから、ほとんどが無症状のはずである。
しかしテレビは、後遺症をもたらすとか、若者も重症化するとか統計データの外れ値みたいな例外的な事実を大きく取り上げて不安を煽っている。どうしてここまで怖い病気として扱わなくてはいけないのだろうか。
■煽られた不安感情は、人間を愚かにする
健康の問題では、とかく報道は不安を煽るきらいがある。
遺伝子組み換えや添加物などの食品の問題もよく取り上げられるが、どんなものにもゼロリスクはない。ゼロにしようという発想自身が心理学でいうところの「強迫」につながる。
私はタバコを吸わないが、喫煙者は喫煙後も体から有害物質を出し続けているという三次喫煙リスクが報道されるのを見たときに、科学的根拠がさっぱりわからなかった。タバコを目の敵にしている人の話を聞いていると、世の中に正解があると信じている人たちに見えるが、それはもう宗教だ。実験してみなければわからないというのが科学であり、やる前から答えが決まっているのが宗教だからだ。
そうした煽られた不安感情は、ものすごく人間を愚かにする。感情が暴走すると、ファクト、統計の数字が見えなくなり判断を狂わせる。
だたし誤解してほしくないが、コロナを怖がらなくていいと言っているわけではない。私は今のコロナの騒ぎ方は異常と思っていても、ワクチンは受けるつもりだ。毎年インフルエンザのワクチンを受けているように。
コロナを極端に怖がって、ありとあらゆる生活を我慢すればメンタルがおかしくなる。私のように「インフルエンザ程度に怖がる」ことをお勧めしたい。
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国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。
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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)
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