「私はここにいる」愛子さまの30センチ断髪は"小室圭問題"への回答である
プレジデントオンライン / 2021年4月29日 11時15分
■髪のカットから読み解ける愛子さまの「強さ」に感動した
愛子さまが髪を切った。とても驚き、しみじみ思った。そうか、ここまで来たか、すごいな、強いなと。順を追って書いていく。
愛子さまの“変身”を知ったのは、『女性自身』5月4日号。巻頭グラビアが、皇后雅子さまと愛子さまの最新ショットを報じていた。ご一家で改修工事中の皇居・旧吹上仙洞御所を視察に向かう4月13日の写真なのだが、愛子さまは髪を短くし、肩までのふんわり内巻きスタイルにしていたのだ。
とにかく、愛子さまといえば超ロングヘア。トレードマークのようにとらえていた。同誌が並べて掲載した約半年前(2020年12月)の写真も、髪は腰あたりまである。多分、30センチ以上、切ったに違いない。雅子さまの隣でほほ笑む明るい表情に、見出しは「愛子さま 新学期はボブヘアで♪」とあった。
4月から学習院大学文学部の2年生になった愛子さま。「女子大生らしいおしゃれ心」と説明する文章はもちろんその通りなのだが、それ以上のことを読み解いてしまった。雅子さまと愛子さま、お二人はある時からずっと「ロングヘア」だった。それは「皇室」という世界で、手に手をとって歩んできたお二人の「絆」の表れだったと感じている。その姿を見てきたから、愛子さまの決断は「おしゃれ」だけではないと思うのだ。
髪を切った=絆を切った、などと言うつもりは毛頭ない。そうではなく、「絆」は次の段階に入ったのではないだろうか。愛子さまのボブヘアは、皇室という場所にしっかり両足をつけ、歩いていけるという証し。愛子さまだけでなく、雅子さまも歩いていける。そう思えたから髪を切った。その強さに感動したのだ。そんな思いをわかっていただくには、お二人の「ヘアスタイル史」を振り返ることだと思う。
■幼い頃からずっとショートヘアだった雅子さま
まずは雅子さま。1993年、皇太子さま(当時)との婚約が内定し、たくさんの写真が報じられた。幼い頃から外務省勤務に至るまで、小和田雅子さんはずっとショートヘアだった。それは皇太子妃になってからも変わらず、雅子さまがロングヘアになったのは2007年のことで、それは愛子さまの影響を受けてのことだった。
なぜわかるかと言うと、毎年12月9日のお誕生日に合わせ「ご近影」が公表されるから。雅子さまお一人の写真だけでなく、親子3人の写真も含まれる。2006年にはあごのあたりまでしかなかった雅子さまの髪が翌年には肩下10センチほどに伸びていて、愛子さまの長さに追いついた、とわかるのだ。
実は2006年、雅子さまの43歳のお誕生日に公表された写真は、4年ぶりのものだった。事情は後述するが、そこには皇太子さまと雅子さま(ボブヘア)の真ん中で両手をつないだ5歳になったばかりの愛子さま(肩下10センチほどのロングヘア)がいて、じっとカメラを見つめていた。
■娘の好みに合わせるため1年かけて髪を伸ばした
それから1年、2007年も皇太子さまと雅子さまの真ん中に、手をつないだ愛子さま。長い髪の雅子さまは前髪もすべてあげ、おでこを見せるスタイルになっていた。愛子さまも短かった前髪を伸ばし、同じくおでこを見せるスタイル。前年より少しほほ笑んでいた。
雅子さまは娘の好みに合わせるため、長年慣れ親しんだショートヘアをやめて1年かけて髪を伸ばした。そう解釈したのには、そこに至るまでの雅子さまの苦難がある。2003年末に帯状疱疹で入院した雅子さまは長期療養に入り、2004年7月に「適応障害」と病名が発表された。だから2003年から2005年のお誕生日に写真は公表されず、写真どころではない状況から何とか親子3人での撮影に臨んだのが2006年。そこから1年かけてロングヘアにしたのだから、何か期するものがあったに違いないと確信した。
2006年から2007年を思い起こすと、天皇陛下(当時)と皇太子さまの関係が疎遠になっていると盛んに報道された時期だった。2004年に皇太子さまが「人格否定発言」をし、その衝撃が冷めやらぬ2006年12月、お誕生日にあたり陛下が「残念なことは、愛子は風邪を引くことも多く、私どもと会う機会が少ないことです」と発言した。
そんな時期だからこそ雅子さまの支えは娘の成長で、娘の好きなロングヘアを目指すことも励みになったと想像する。2007年以来、前髪をすべて上げた「おでこ見せスタイル」が母子の定番になる。2008年、学習院初等科1年生になった愛子さまのことを、雅子さまが「制服のあかきネクタイ胸にとめ一年生に吾子はなりたり」(2009年「新年歌会始の儀」)と詠むと、「皇太子妃なのに内向きだ」と批判された。
■来たるべき令和に向けそれぞれが踏み出した一歩
追い討ちをかけたのが、愛子さまの不登校問題だ。最初は2010年3月、初等科2年生の時で、雅子さまは毎日のように付き添って登校した。そっくりの髪型のお二人がひたすら前を向いて登校する様子が週刊誌などに掲載されると、「母子密着」と揶揄(やゆ)された。「欠席」は中学生になっても断続的に報じられ、「叱らない子育て」が批判されもした。批判が高まると、雅子さまと愛子さまの髪の毛は長くなる。そんなふうに思ったこともあった。
2016年8月、陛下が退位を強くにじませた「おことば」を公表。世論もそれを後押しした。そしてその年、中学3年生の愛子さまは激しく痩せた。12月1日が愛子さま、9日が雅子さま、2017年2月23日が皇太子さまのお誕生日。その都度写真が公表され、愛子さまはどんどん痩せていった。指まで折れそうに細い愛子さまのほほ笑みが、痛々しかった。
2017年6月、退位特例法が成立。その年の12月、雅子さまのお誕生日に公表された写真には二つの変化があった。愛子さまの姿がなかったこと、雅子さまが長い髪を一つにまとめたお団子ヘアにしたことだ。振り返ると、この年が「愛子さまボブヘアへの道」の第一歩だったと思う。高校生になった愛子さまは、ご両親のお誕生日ごとに撮る家族写真を卒業した。雅子さまは下ろした長い髪を一つにまとめ、仕事モードに入った。来たるべき令和に向け、それぞれが一歩を踏み出したのだ。
■おそろいのロングヘアは生きづらさの共有だったのか
以来、オンオフ問わず、いつでもお団子ヘアの雅子さま。令和に入ってからは行くところ行くところ大勢の人が押し寄せ、「雅子さまー」という声に包まれた。愛子さまも高校2年の夏にイギリス留学をした頃から元気さが増し、「高偏差値」「運動神経抜群」など「スーパー少女」として報じられるようになった。
勝手な想像だが、雅子さまの「生きづらさ」に心を寄せる人が増えたことも大きかったのではないだろうか。「男系男子」による皇位継承を定めた皇室で、生身の女性が「男子出産」を迫られる。その苦しさが広く伝えられ、このままでいいのかという議論になっていった。愛子さまの不登校や痩せた姿も、「男子でない」という自身の存在が根底にあると今はわかる。生きづらさを共有した母子のロングヘア。何か切ないような「おそろい」だったと思う。
■30センチの断髪は愛子さまからのメッセージのように思えた
2019年春、二つの世論調査結果が発表された。一つは朝日新聞が4月19日付の朝刊で発表したもので、「女性も天皇になれるようにした方がよい」が76%、「女系天皇を認めてもよい」が74%。もう一つは共同通信社が5月1日と2日に実施したもので、「女性天皇を認めることに賛成」が79.6%だった。
次代を担う男性皇族が秋篠宮家の長男悠仁さましかいないという現実、病を得た雅子さまが何とか折り合いをつけて皇太子妃から皇后になろうという姿への共感、そのようなものが背景にあっての数字では、と思う。「愛子天皇待望論」が週刊誌で毎週のように取り上げられたのも、その頃だった。
とここまで書いて、何か懐かしいような気持ちになった。2020年から新型コロナウイルスの感染が拡大、天皇ご一家も皇居にこもりきりになった。愛子さまの学習院大学初登校は2020年10月で、陛下と雅子さまはオンラインでの「視察」や「訪問」を試みている。だが国民と直接触れ合えないのはつらいもので、この間に話題を独占したのは秋篠宮家の長女眞子さま。というより、眞子さまとの婚約が内定している小室圭さん。最近の国民の感覚は、「皇室問題=小室さん」だと思う。
そんなところに飛び込んできたのが、愛子さまのボブヘアだった。30センチも切るって、なかなか決断できることではない。それは、愛子さまからのメッセージのように思えた。私はここにいる。そして、雅子さまもそこにいる。ロングヘアからの卒業は、愛子さまの太鼓判。雅子さまと愛子さまの長かった道を思い、しみじみとした気持ちになった。
■女性皇族を取り巻く議論の行く末は…
折しも「安定的な皇位継承のあり方を議論する有識者会議」(座長は清家篤前慶応義塾塾長)が3月下旬に始まり、専門家を招いてのヒアリングが回を重ねている。2019年施行の「皇室典範特例法」の附帯決議が「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について」速やかに検討し、結果を国会に報告せよ、と政府に求めた。その宿題を果たすための会議で、議論の中心は女性皇族になる。
本音で書くなら、この議論にも小室さんの問題は影響を与えるに違いない。女性宮家、さらには女性天皇を後押しする意見が出れば、「結婚相手のことをどうするのですか?」と聞き返す「男系男子派」がきっといる。
だけど、当たり前だが問題のありかは小室さんではない。1人の女性が「男子を産む」ことの重圧はどれほどのものか。女性皇族にとっての公務が「結婚して民間人になるまでのつなぎ」で、生きがいを感じられるのか。考えてほしいことは、いくらでもある。
ジェンダーギャップ世界120位の日本だ。もし愛子天皇への道が少しでも見えたら、大変な刺激になると密かに思っている。髪を切った愛子さまは、12月に20歳になる。頼もしい限りだ。
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コラムニスト
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長。著書に『笑顔の雅子さま 生きづらさを超えて』『美智子さまという奇跡』『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』がある。
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(コラムニスト 矢部 万紀子)
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