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中国との半導体競争に敗北…それでも"親中外交"を続ける韓国大統領の迷走

プレジデントオンライン / 2021年4月30日 15時15分

韓国の文在寅大統領(韓国・ソウル=2021年04月15日) - 写真=EPA/時事通信フォト

■バイデン政権は補助金を提供へ

近年、世界の半導体産業の構図が大きく変化している。その一つは、業界盟主の座が米インテルからファウンドリー最大手の台湾積体電路製造(TSMC)に移ったことだ。世界各国の主要企業の多くは、最先端から汎用型までのほとんどの半導体に関してTSMCへの依存度が大幅に上昇している。

世界的に半導体不足が深刻化している現在、TSMCの存在感は上がるばかりだ。米バイデン政権はそうした状況に危機感を強め、中国の台頭阻止と自国の半導体生産の強化のために日台などとの緊密な連携を強化すると同時に、米国内での半導体生産体制を構築するために多額の補助金などを提供しようとしている。

■ここへきて対中姿勢を強める文政権

その状況下、韓国のサムスン電子は、投資の積み増しや海外半導体メーカーの買収を模索している。それは、TSMCとの競争に加え、中国の半導体企業からの追い上げに対応する意図があるとみられる。

韓国経済にとって半導体産業は成長の牽引役だ。米国が半導体などのサプライチェーン再編に取り組んでいることを考えると、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は安全保障面で米国と連携し、サムスン電子などの事業運営を支援することが重要な課題となるはずだ。

ところが、足許、文氏の対中重視姿勢はむしろ強まっているように見える。中長期的な韓国経済の展開にとって、米国よりも中国重視の政策は大きなリスクを伴うと考えられる。中国企業は、いずれ韓国企業にとって強力なライバルになる可能性が高いからだ。韓国国内でもそうした見方を持つ世論が増加している。それは、文大統領の支持率が低迷する一因になっているとみられる。

■競争力でとうとう中国に抜かれた

リーマンショック後の世界経済において、中国共産党政権は高速道路や鉄道建設などのインフラ投資によって景気を維持しつつ、“中国製造2025”によって半導体の自給率向上や電気自動車(EV)の普及を推進した。“国家資本主義体制”の強化によって中国は在来分野から成長期待の高い先端分野へ生産要素を再配分し、経済成長の実現と軍備拡張に取り組んでいる。

中国は影響力の拡大を目指して台湾への圧力を強めている。台湾には、TSMCの生産拠点がある。台湾海峡の地政学リスク上昇は、政治、経済、安全保障のすべての面において米国にとって差し迫ったリスクだ。その対応のためにバイデン政権はわが国と首脳会談を行い、韓国との首脳会談も予定している。

他方で、中国は米国に対抗するために、産業活動に不可欠な半導体の自給率向上を急いでいる。それは、半導体関連企業の国際的な業界団体であるSEMIが発表したデータから確認できる。2020年の世界の半導体材料の販売額では、中国向けが韓国を抜いて世界第2位に浮上した(1位は台湾)。半導体の製造装置市場では中国が世界トップの需要地だ(2位は台湾、3位は韓国)。

プリント回路基板とチップ
写真=iStock.com/Kuzmik_A
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kuzmik_A

■潜在的な成長力は軽視できない

わが国の半導体製造装置や半導体部材、工作機械メーカーの業況が回復しているのは、世界的な半導体不足に加えて、中国の共産党政権が半導体メーカーなどに補助金を支給し、半導体製造に必要な装置、部材、機械の需要が拡大しているからだ。特に、わが国企業が手掛けるシリコンウエハーやセラミックコンデンサは原料レベルから高い純度を実現し、模倣が容易ではない。

現時点で、最先端の半導体設計などの知的財産や半導体の生産技術に関しては、米国が競争上の比較優位性を維持している。ただし、製造装置は分解でき、技術の模倣が可能だ。それに加えて、米国の制裁を克服するために中国共産党政権は段階的に市場の開放を進め、その見返りに海外企業からの技術移転をより重視するだろう。人工知能(AI)や宇宙開発における中国の技術向上を踏まえると、中国半導体企業の潜在的な成長力は軽視できない。

■中国に追い上げられる韓国の苦しさ

それは、基本的には日米の資材や資金、技術を用いて半導体メモリ分野などでシェアを獲得してきたサムスン電子など韓国の半導体産業にとって脅威だ。韓国のエレクトロニクス産業の一角では、中国企業との価格競争への対応に行き詰まる企業が出始めた。韓国のLG電子はスマホ事業から撤退した。

また、2020年の液晶パネルの出荷数では、中国の大手パネルメーカーである京東方科技集団(BOE)が世界トップだった。半導体の部材や製造装置市場における中国の購買量増加は、半導体分野でも韓国企業が中国企業の熾烈(しれつ)な追い上げに直面しつつあることを示唆する。

それは、韓国経済にとって無視できないリスクだ。半導体以外の産業に目を向けると、造船を除いて韓国が国際競争力を発揮している産業は少ない。また、韓国経済の歴史を振り返ると、基本的には日米との関係がGDP成長に大きな役割を果たした。1960年代以降の韓国では、過去の保守派政権が財閥系大企業の事業運営体制の強化を重視し、汎用品の大量生産と輸出によってGDP成長を実現する経済体制が整備された。それが“漢江の奇跡”と呼ばれた高度経済成長期につながった。

■日本からの技術移転で発展してきた

それを支えたのが、当時の韓国政府が米国との関係によって安全保障の基礎を固めたことだ。また、韓国はわが国などからの技術移転を重視し自国の工業化を進めた。韓国企業がエレクトロニクス分野での競争力を発揮したのは、わが国企業からの技術移転があったからだ。それが今日のサムスン電子や、SKハイニックスのDRAMやNAND型フラッシュメモリ市場での競争力を支えている。

IT先端分野を中心に米中対立は先鋭化し、米国は半導体、医薬品、バッテリー、レアアースなどの重要物資に関して自国を中心とした供給網の構築を目指している。韓国がそうした世界経済の変化に対応するためには、米国との安全保障面での関係を基礎に、国際世論との関係を築くことが欠かせない。それが、韓国企業と日米などの企業の円滑な取引と、外需依存度の高い経済の安定と成長を支える。

■日米関係を重視すべきのはずが…

しかし、韓国の文大統領は、自国経済の安定と成長にとって不可欠な日米との関係の重要性を十分に認識していないように見える。むしろ、最近の文氏の発言からは、経済面で中国を重視する姿勢が一段と強まっているとの印象を持つ。博鰲(ボーアオ)・アジア・フォーラムにて文氏が中国から新興国などへのワクチン支援を高く評価したのはそのよい例だ。その背景には、自動車などの対中輸出を増やして当面の景気回復を実現し、支持率回復につなげたいという文氏の思惑があるだろう。

ただし、長めの目線で考えると、その政策運営スタンスでは、韓国が半導体など自国経済にとって重要な分野で中国企業との価格競争に対応することは難しいだろう。文氏の対中姿勢は、競争相手(敵)を利することになる、といっても過言ではない。

2012年11月1日、タイ・バンコクのサムスンショップ
写真=iStock.com/holgs
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/holgs

韓国国内ではそうした見方を持つ人が増えている。4月に入り、財界関係者は文政権に、李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長を赦免するようより強く要請し始めた。それだけ、サムスン電子の半導体事業などが韓国経済に与える影響は大きい。逆に言えば、文政権の経済運営によって韓国企業への逆風は一段と強まる恐れがあるとの見方が増えている。

■内憂外患はいっそう深まっている

文氏の支持率低下にも、経済環境の先行きを不安視する社会心理が影響しているはずだ。不動産価格の高騰に加え、韓国では若年層とそれ以外の世代の雇用・所得格差の乖離(かいり)(二極化)が鮮明だ。家計を中心に債務も増加している。

その状況下、サムスン電子などが中国半導体企業に追い上げられ、最先端の製造技術面でTSMCに引き離されれば、同社の半導体輸出の増加などによって外需を取り込み、成長してきた韓国経済には無視できないマイナスの影響があるだろう。

2021年1~3月期の韓国の実質GDP成長率は前期比1.6%のプラスだった(速報値)。文氏は経済が成長の軌道に戻ったと自画自賛しているが、そうした主張とは裏腹に中長期的な韓国経済への不安が徐々に高まっていることは軽視できない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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