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大ヒット商品「カボチャの皮もむけるピーラー」が浅草の小さな店から生まれたワケ

プレジデントオンライン / 2021年5月12日 9時15分

「飯田屋」6代目店主の飯田結太さん - 撮影=小林久井

街中の小さな店はどうすれば生き残れるのか。東京・かっぱ橋の老舗料理道具専門店「飯田屋」の6代目・飯田結太さんは「売れ筋を仕入れるのは大手企業の戦略だ。小さな店では“売れな筋”の魅力を伝えることが、生き残る道になる」という――。

※本稿は、飯田結太『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■売れ筋を仕入れるのは大手企業がやること

売れ筋を意識した仕入れをすれば、どこにでもある品揃えの店になります。それがかつての飯田屋でした。

売れ筋を仕入れ、在庫回転率を高めることは大切かもしれません。しかし、それは資金力のある大手企業の戦略です。同じ戦いに挑んでは、飯田屋のような小さな店はあっという間に埋もれてしまいます。わざわざ飯田屋に出向く理由がないからです。

僕たちのような小さな会社が生き残る一つの道、それは大手企業が見向きもしない“売れな筋”の魅力を伝えることです。

売れ筋にはわかりやすい魅力があります。そのわかりやすさが万人を惹きつけます。

では、売れな筋には魅力がないのでしょうか? いえ、そんなことはありません。その魅力が少し伝わりにくいだけです。

■「売れな筋」を日本でいちばんわかりやすく説明する

たとえば、職人が細部まで手をかけた商品は、使ってこそ魅力がわかるものも少なくありません。置いておくだけで勝手に売れる商品ではないため、接客を通して魅力を伝えなければなりません。

それでは時間も手間もかかるため、大手企業では取り扱いたがりません。また、生産量が少ないものも大手チェーンでは展開しにくく仕入れたがりません。

そこに、中小零細企業のチャンスがあるのです。

僕たちのような小さな店の強みは、大手と比べて圧倒的に少ない固定費にあります。だから販売効率に囚われず、お客様とじっくりお話しできます。一人ひとりのお客様にかけられる時間が物理的に長くなります。

もし、僕たちが大手企業と同じような売れ筋しか仕入れなければ、小さくて狭くてアクセスが悪い飯田屋に、お客様がわざわざ来店する理由はなくなります。そこで取り組んだのが、売れな筋を日本でいちばんわかりやすく説明することでした。

■「ものすごい能力を秘めた道具」が眠っていた

さまざまな料理道具を実際に使ってきて、確信したことがあります。「万人に合う道具がないように、すべての人に使いにくい道具もない」という当たり前なことです。

万人が使いやすいよう平均的につくられた道具ではなく、限られた人だけが大満足するような道具が売れな筋にはたくさんあります。そして、多くの人が気づいていないだけで、ものすごい能力を秘めた道具も売れな筋の中にたくさん眠っていたのです。

飯田屋にとって売れな筋は、大手との差別化のための最終兵器というだけでなく、今では運命共同体のような存在です。

もし、僕たちが売れな筋を発掘しなければ、それをつくる職人さんたちはやがていなくなってしまいます。すると何が起こるでしょうか。

売れ筋で大手企業との戦いに挑むしかなくなり、結果的に自分たちの首を絞める結果につながります。飯田屋にとって売れな筋の仕入れは、継続的なものづくりを実現してもらうための投資でもあるのです。

飯田屋店内の様子
撮影=小林久井
飯田屋店内の様子 - 撮影=小林久井

■「1年間に1個」でも売れるなら仕入れる

それゆえ僕たちには、売れな筋の中から魅力ある逸品を見つけ出す力が問われています。それは、10万人中たった1人でも歓喜の声を上げるほどの魅力ある商品を見極める力です。

この10万人というのは、飯田屋の年間来店客数です。つまり、1年間にたった1個でも売れるなら、その商品を仕入れるのが品揃えの方針です。

飯田結太『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)
飯田結太『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)

初めは10万人に1人の熱狂から始まった商品でも、時間をかけてしっかり魅力を発信していけば、作り手の思いのこもった商品は必ず世に広まっていきます。大手企業のバイヤーが「なぜ今まで気づかなかったのか」と恥じ入るくらい有名になり、彼らの売場に並んでいく商品を今までにいくつも見てきました。

そんなときは、「最初に目をつけたのは僕なんだぜ」とおもしろくて仕方がありません。売れな筋を中心に取り扱い続けた結果、大手企業には仕入れてもらえない尖った特長を持った数々の道具と、その作り手たちが飯田屋に集まってくるようになりました。

■「売れない商品」がスター商品に育つ

一般的には「売れない(と言われる)商品」が、飯田屋では仕入れが追いつかないほど売れるスター商品に育つことがよくあります。

そもそも、飯田屋のように売れな筋を取り扱う店は多くありませんから、それがスター商品になったら、そこには価格競争とは無縁のブルーオーシャンが広がっています。

「そんな夢のような話、一生に一度あるかないか……」

そう思われがちですが、ありがたいことに飯田屋では、毎月のようにスター商品が生まれています。それは、超小規模店でありながらロングテール販売を貫いているからです。

飯田屋では、33坪の小さな売場で約8500品目もの商品を取り扱っているので、お客様は自分に合うものかどうかを簡単に見比べられます。ネットショッピングと違い、手に触れながら大きさや重さが確認できることは実店舗の大きな強みです。とはいえ、道具は使わなければ、本当のよさを知ることはできません。そこで僕たちは、仕入れた商品は片っ端から試します。

スタッフルームのテーブルには、いつもピーラーやフライパンなどたくさんの道具が並んでいます。ピーラーは200種類以上を試しました。ここまで道具を使い比べるのは、飯田屋の従業員たちくらいではないでしょうか。

■「かたいカボチャの皮もむけちゃう最強ピーラー」というPOP

なぜそこまでするのかというと、使い比べるほどにそれぞれの特長が詳細にわかるようになるからです。見た目には特長のない地味な道具が、とんでもない性能を持っていたりします。スター商品の原石を発見する瞬間です。貝印の「SELECT100 T型ピーラー」もそうでした。100円ショップで売っていそうなシンプルな見た目なのに、価格は1320円。当初はあまり売れない商品でした。

しかし、試してみると「これはすごい!」と、思わず声を上げてしまったのです。人参やじゃがいも、大根の皮がむけるのは当然で、プロの料理人でも面倒なカボチャの硬い皮でもするするむける逸品だったのです。

感動して「かたいカボチャの皮もむけちゃう最強ピーラー」とPOPを付けて販売すると、あっという間に評判が広まり、年間1万本も売れるスター商品へと成長しました。

世の中にはいい商品にも関わらず、魅力が伝わらず廃番になってしまうものがたくさんあります。飯田屋では、そんな売れな筋の魅力もしっかりと伝え、出会うべきお客様と道具をつなげたいのです。

飯田屋の店頭にある「かたいカボチャの皮もむけちゃう最強ピーラー」というPOP
筆者撮影
飯田屋の店頭にある「かたいカボチャの皮もむけちゃう最強ピーラー」というPOP - 筆者撮影

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飯田 結太(いいだ・ゆうた)
飯田屋6代目
大正元年(1912年)に東京・かっぱ橋で創業の老舗料理道具専門店「飯田屋」6代目。料理道具をこよなく愛する料理道具の申し子。TBS「マツコの知らない世界」やNHK「あさイチ」、日本テレビ「ヒルナンデス! 」など多数のメディアで道具を伝える料理道具の伝道師としても活躍。自身が仕入れを行う道具は必ず前もって使ってみるという絶対的なポリシーを持ち、日々世界中の料理人を喜ばせるために活動している。監修書に『人生が変わる料理道具』(枻出版社)。2018年、東京商工会議所「第16回 勇気ある経営大賞」優秀賞受賞。

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(飯田屋6代目 飯田 結太)

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