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「日本はIOCにハッキリ言うべき」米メディアで増える"五輪中止"の大合唱

プレジデントオンライン / 2021年5月8日 9時15分

国際オリンピック委員会(IOC)の理事会に臨むトーマス・バッハ会長=2021年4月21日、スイス・ローザンヌ[IOC提供] - 写真=時事通信フォト

■リーダーが責任回避しているよう

少しずつ増えていたアメリカメディアの東京オリンピック・パラリンピック報道が、ここへきて批判的なアングルになってきている。開催が2カ月後に迫っているからでもあるが、アメリカでは一度でもワクチンを接種した成人が56%に達しているのに比べ、日本での接種は1.1%と相当遅れているうえ、再び感染が拡大していることが知られ始めたからだ。

批判報道のポイントを見ていくと、これが日本だけの問題ではなく、オリンピックという巨大イベントの将来、さらに資本主義と人権の問題にも関わる深刻な事態であることが見えてくる。

アップルがiPhoneに搭載しているニュースアプリは、テレビや新聞をチェックしない若者も日常的に見ている。3日付のオーディオニュースのトップは、「オリンピックは今年行われるのか?」という見出しで伝えた。

ワシントンポスト紙の記事を引用した内容は、開催まで3カ月を切った日本の医療は逼迫(ひっぱく)し、オリンピックが本当にできるのかという疑問が高まっている。各地で病院ベッドが不足する中、医療関係者は多数のアスリートや関係者が来日することに懸念をあらわにしている。

菅義偉首相は「遂行するかどうかの決定権はIOCにある」と、自ら距離を置いているように見える。アメリカ人がこれを聞く限り、リーダーが責任を回避しているように受け止められても仕方ないと感じられる言い方だ。

■布マスク2枚と消毒液1本だけ

ボランティアの深刻なリスクを伝えたのはニューヨーク・タイムズ。東京の記者がボランティアや関係者への取材を通じて書かれた非常に読み応えがある記事で、他メディアにも引用され広く読まれている。

それによれば、7万8000人のボランティアには布マスク2枚と消毒液ボトル1本が支給されるだけで、あとはソーシャルディスタンスの規定だけ。ワクチンも受けられない。これでどう彼らを守るのか? これでは世界中のアスリートと接触することでスーパースプレッダーになる可能性が高いと懸念するボランティアの声を伝えている。

また、あるボランティアは自分が知らずに感染し、アスリートや家族に感染させてしまうのではないかという不安を感じている。そのため自分で会場に近い高いホテルをとったり、公共交通機関を避けるために自転車を買ったりするという苦肉の策が紹介されている。

同紙は、日本の当局が安全性を世界にアピールする中、自己責任で自分と家族そしてアスリートの安全をも確保しなければならない状況になっているとコメント。また開催延期して1年が経つにもかかわらず、安全対策を数値に基づいたものではなく経験と勘だけに頼ったとかなり批判的な書き方だ。

■看護師がリスペクトされないなんて

看護師の置かれた厳しい状況を伝えたのは米大手のAP通信だ。通信社の記事はニューシス(韓国)などの海外通信社から米地方紙、ネットまで広く掲載される。

それによれば、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会が500人の看護師派遣を要請したのに対し、全国的に看護師が足りない中、人命を軽視し医療現場を無視した無神経な行為だと日本で怒りと批判が湧き起こっていると伝えた。

筆者の周囲のアメリカ人はこの記事を読んで驚いていた。なぜならこんなことはアメリカではありえないからだ。

病院の廊下を歩く医療チームスタッフたち
写真=iStock.com/JohnnyGreig
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JohnnyGreig

アメリカの看護師は医師以上にリスペクトされる存在で、病棟を仕切るのも医師ではなく看護師だ。年収は平均850万円で、2020年のパンデミックで看護師不足が深刻になった時には、駆けつけた看護師に対し、最高で1週間に100万円が支払われたケースもある。

尊重されるのは待遇だけではない。ニューヨークでは毎晩7時になると、街中の窓という窓から、看護師への賞賛の拍手が巻き起こり、オンラインで行われた多くの重要なイベントにも看護師の苦労が紹介されたり、招待客としてフィーチャーされたりした。

もちろん過酷な労働であることに変わりはないが、コロナ前に比べて看護師志望の学生が増えたという良いニュースもある。

ボランティアにしても看護師派遣にしても、日本では彼らへの感謝やリスペクトがなさすぎるという印象を与えたのは間違いないだろう。

■「オリンピックは開催すべきではない」

切り口がちょっと違うのは、若者が読むスポーツのニュースサイト「デッドスピン」で、聖火リレーの一部が白い幕で隠されて行われていることや、観客が一部のエリアで締め出されていると報道し驚きを与えた。

また、聖火リレーの関係者から6人の感染者が出たことも伝え、観客の締め出しは「一般人を守るためなのか、それとも抗議行動を防ぐためなのか」と疑問符をつけた。そして、ここまで一般人を締め出す聖火リレーは意味がない、開催自体を見直すべきではとコメントした。

そしてはっきりと「オリンピックは開催すべきではない」と言い切ったのが、サンフランシスコの有名紙「サンフランシスコ・クロニクル」のスポーツコラムニスト、アン・キリオンだ。

「アメリカはワクチンが行き渡り、緊張状態が緩和されてきたかもしれないが、インドをはじめ世界的にコロナが深刻化する中、今は世界的な巨大イベントを行う時期ではない。もしパンデミックから何かを学ぶべきとしたら、人々の健康よりも経済を優先することはできないということだ。それは必ず裏目にでる」とコメントした。

感染が悪化していた昨年春の時点で、コロナ禍で亡くなるアメリカ人は累計30万人と予測されていた。ところが実際には2倍近くの60万人に達しようとしている。これも早すぎた経済再開が理由だったという見方が広がっているのだ。

■ワシントンポストは「今こそ損切りを」

5日付ワシントンポストに掲載されたスポーツコラムニスト、サリー・ジェンキンズの意見はもっと手厳しい。

「オリンピックが日本の利益にとって脅威なら、日本のリーダーは日本を踏み台にしているIOC(国際オリンピック委員会)に対しはっきりと『搾取するなら他でやってくれ』と言うべきだ。中止は痛いだろうが、同時に治癒につながる」

さらに「日本人の72%が反対しているオリンピックを、なぜIOCは何が何でも決行すると言えるのか? それは開催国にとって非常に不利な契約だからだ」とこれまでの開催国が被った経済的負担を指摘し、記事はこう続く。

「日本のリーダーは今損切りをすべきだ。キャンセルは筋が通らないと言われるかもしれないが、お金がかかりすぎるオリンピックはもともと筋が通らない上に、世界的なパンデミックの最中で行うのはさらに筋が通らない。もしキャンセルされたIOCが訴えでもしたら、逆にIOCの信頼に関わってくるだろう。日本の立場は思っているほど弱くない」と、かなり強い調子で中止を呼びかけている。

新聞各紙
写真=iStock.com/Sezeryadigar
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sezeryadigar

■「経済か人命か」決断の時は迫っている

どの報道も突きつけているのは、オリンピックは人の命を犠牲にして、国民が我慢してまでやるほどのものではないのに、「経済優先か人命優先か」という、いまだに煮え切らない日本のトップの決断だ。

これはオリンピックだけの問題ではない。グローバル化が進む中で、途上国の国民や少数民族が搾取に遭い、その犠牲の上に一部の先進国が豊かな経済を享受するという構図は世界のあらゆる場所で長年放置されてきた。そしてその不満が、コロナ禍をきっかけに噴き出している。

その怒りは今、オリンピックにも向けられている。「一体誰のためのオリンピックなのか」と、世界の平和とスポーツの祭典のはずが利権にまみれ、その一方で巨大なマネーゲームの犠牲になる人や国が少なくないからだ。東京オリンピックの行方は、今後のオリンピックのあり方自体を考え直すきっかけにもなりつつある。

筆者は東京大会について、中止でも開催でもどちらでも構わないという立場だが、どちらを選択しても、「日本は絶対に人命を優先します」とはっきり打ち出すことが必要だ。

■「決められない国」になってはいけない

開催なら今すぐ巨額の予算を組んで、ボランティアにも看護師にも高給を払い、外部との接触を遮断する「バブル」方式で生活してもらうなどの対策をとる。彼らにワクチンを優先接種、または手厚い検査体制を整え、その必要性を国民に丁寧に説明し、理解を得る。来日するアスリートたちにも同様のケアを徹底的にする。

それができないなら中止するしかないが、人命優先なら誰も反対することはできないし、多くの犠牲を払っての決断はリスペクトされるだろう。

アメリカ人はそれを今回のコロナ禍で学んだ。世界最悪の感染国から最速のワクチン接種国になれたのは、経済優先による失敗を繰り返すまいとしたバイデン政権が巨大な予算と人材をつぎ込み、何がなんでも人命優先でコロナを収束させると決めたからだ。巨大資本主義国の体力があったからできたという側面もあるが、日本にもその体力はまだ残っているはずだ。

一番リスキーなのは、中止と開催、どちらを選ぶにしろ政府と組織委がなし崩し的に決断することだ。そうなると日本人は政府への信頼だけでなく、自分たちの国そのものに対する自信さえも失ってしまうだろう。

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シェリー めぐみ(しぇりー・めぐみ)
ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。

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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ)

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