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「大手電力も新電力も総崩れ」電力不安を抱える日本から、工場がなくなる日

プレジデントオンライン / 2021年5月9日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

■電力会社に「カルテル容疑」で初の立ち入り検査

4月13日、中部電力と販売子会社の中部電力ミライズ(いずれも名古屋市)、関西電力(大阪市)、中国電力(広島市)の4社が独占禁止法違反の疑いで公正取引委員会の立ち入り検査を受けた。公取委がカルテル容疑で電力会社に立ち入り検査に入るのは初めてだ。

容疑は大型工場やオフィスビルなどで使われる「特別高圧電力」と、小規模工場などで使われる「高圧電力」をめぐるもの。それぞれ00年と04~05年に自由化され、電力会社がエリア外の事業者に供給できるようになった。4社は2018年ごろから特別高圧と高圧を巡り、互いの管轄区域を越えて営業活動を行わないよう制限していた疑いがあるという。

2016年の電力小売り全面自由化で同年4月に5%程度だった新電力の販売電力量のシェアは20年9月時点で19.1%に上昇した。家庭向けを含む低圧分野では21.1%まで高まった。

■「セブンとNTTの長期契約」に大手電力が焦り

一方、今回の容疑は特別高圧と高圧の分野だ。関電、中部電ともに20年3月期の特別高圧と高圧の割合は全販売量の約7割に達する。家庭向けの低圧に比べて利幅は薄いが、安定して多くの電力を使用するため、送電網など設備の固定費を下げられるという。

このうち「特別高圧」は送電線を工場や施設に引き込む必要があるほか、事故を防ぐための規制も家庭向けや高圧より厳しい。このため、発電所や送電網を持たない新電力にとって参入は難しい。経産省によると、20年9月時点で特別高圧の新電力のシェアは8.5%にとどまる。

このため、業界内では「カルテルの疑いは主に高圧分野だろう」とみる向きが多い。小さな工場や商業ビル、食品スーパーなどが使う高圧は新電力も参入しやすいからだ。高圧分野の新電力のシェアは20年9月時点で24.2%と、16年4月から2倍以上になった。

関電や中部電など電力大手が危機感を募らせる背景には、電力自由化に加え、菅政権が掲げる「脱炭素」の動きがある。需要家も「脱炭素」のため、化石燃料に依存する火力発電から、新電力が売り込みを強める再生可能エネルギーでの電力調達に切り替えつつあるからだ。

その象徴となっているのがNTTがセブン&アイ・ホールディングスから獲得した再エネの長期契約だ。

■トヨタ、パナソニック、シャープ、マツダがどう動くか

NTTは店舗の脱炭素を進めるセブン&アイのために専用の太陽光発電所を新設、20年の長期契約で電力を販売する。NTTはエネルギー子会社のNTTアノードエナジーが千葉県内でセブン&アイ専用の太陽光発電所を2カ所新設、6月から首都圏のセブン‐イレブン40店に電力を供給する。対象の店舗は東京電力などから乗り換える。

NTTは2020年夏に再生エネ事業の拡大を明らかにしてから初の大型契約になる。年1000億円を投じ、小型発電所や蓄電設備を全国に設ける。約7300カ所の電話局も活用する。地域密着型の発電能力を備え、各地の既存電力会社からの乗り換え需要を取り込む考えだ。

セブン&アイは50年までにグループの小売店舗で排出する二酸化炭素(CO2)を実質ゼロにする計画。コンビニが大半を占める全国約2万2000店への再生エネの拡大はその柱となる。

契約を打ち切られる東電もきついが、今回のカルテルで疑惑の上がった中部電や関電、中国電も戦々恐々としている。中部電は地元にトヨタ自動車など多くのメーカーと大口顧客として抱える。関電もパナソニックやシャープなど、中国電力も造船やプラント、マツダなど自動車関連の顧客を持つ。今後、こうした大口の需要家がセブン&アイのような「鞍替え」の動きを強める恐れがあるからだ。

■新電力最古参「Fパワー」が負債464億円で経営破綻

2016年にスタートした電力の小売完全自由化の目的は、「総原価方式」に守られていた大手電力の地域独占を打破し、電気料金を引き下げることだった。自由化に伴い、電気料金は各社が自由に決められるようになり、「新電力」のシェアも2割程度まで伸びた。

このため経済産業省の幹部は、今回の中部電などのカルテル疑惑について「電力自由化の根幹を揺るがすきわめて深刻な事案」と厳しい口調で話す。本来なら今回の事案をきっかけに新電力の伸長を促し、自由化を一段と進めたいところだが、その思惑に水を差す出来事も起きた。新電力大手のF-Power(Fパワー)の経営破綻だ。

Fパワーは3月24日、東京地裁に会社更生法を申請した。負債総額は21年に入り最大の464億円だった。16年4月に破産した日本ロジテック協同組合の負債163億円の約3倍に達する新電力最大の倒産となった。

■年末年始の電力逼迫で、「ペナルティー料金」が高騰

新電力最古参のFパワーは顧客のライフスタイルに応じたさまざまなプランを用意し、積極的な営業戦略で年間売上高は瞬く間に1000億円超と急成長した。18年4月には新電力の電力販売量でも全国トップに上り詰めた。売上高のピークは19年6月期で、1606億円に達した。

しかし、利益面では苦戦が続いた。発電所を持たない新電力会社は大手電力などと契約した発電所や、日本卸電力取引所(JEPX)から電力を調達しなければならない。自由化で料金競争が激しくなるなか、いかに安く外部から安く電力を調達できるかが新電力の生き残りのカギを握る。

経営破綻した新電力大手F-Power(Fパワー)のサイトには<「安価」から「適正価格」へ。>というメッセージが掲示されていた。
画像=同社ウェブサイトより
経営破綻した新電力大手F-Power(Fパワー)のサイトには<「安価」から「適正価格」へ。>というメッセージが掲示されていた。 - 画像=同社ウェブサイトより

こうした状況の中でFパワーの息の根を止めたのは年末年始の電力逼迫(ひっぱく)だ。全国的な寒波で電力需要が急増、大手電力でさえも策を打たなければ停電の危機が迫る中、JEPXへ供給される電力が底をついた。この結果、取引価格が通常の10~20倍に高騰する中、Fパワーも市場から高い電力を買わざるを得なかった。

新電力各社は顧客への安定供給を果たすため、需要が供給を上回った際に不足する電力を大手電力に穴埋めしてもらう契約を結ぶ。その際、後日、不足した電力を肩代わりしてもらった分を「ペナルティー」として支払わなければならない。この「インバランス料金」がFパワーの経営を直撃した。

■新電力4社に1社が救済措置を申し入れる異常な事態

Fパワーの場合、1月分のインバランス料金は197億円。銀行借り入れは2020年6月期で長短合わせて約137億円にすぎない。このインバランス料金が支払えなくなったため、破綻に追い込まれたのだ。

経産省は1月以降、所定の条件をクリアした新電力にはインバランス料金などの分割払い(最大9カ月)を認めたり、政府系金融機関への支援要請などの資金繰り支援策を追加したりして対応に躍起だ。分割払いの猶予措置を受けた新電力は4月時点で約180社。登録事業者716社中、およそ4社に1社が救済措置を申し入れる異常な事態となっている。

大手電力はカルテルで電気料金の下げ止まりを画策し、大手電力を切り崩す期待を背負う新電力は経営破綻の予備軍であふれる——。これが電力自由化から5年がたった日本の現状だ。新電力が苦境に立つのも、この年末年始の電力逼迫時に大手電力がJEPXに「売り惜しみ」をしたため、電力価格が高騰したためではないかという疑念がある。

■大手電力が蛇口を閉めれば、新電力はすぐに干上がる

大手電力の立場に立てば、自社管内で停電間際の状態にあるのに、侵食してくるライバルの新電力に与える電力は「ない」ということだろう。取引市場に供給する電力の8割を占める大手電力が蛇口を閉めれば、発電所を持たない新電力はすぐに干上がってしまう。

菅政権は先に米バイデン大統領の呼びかけで開催された地球温暖化を巡る国際会議で30年までに13年比で46%まで温暖化ガスの排出量削減を目指すことを表明した。これまでの26%からの大幅な引き上げだ。

しかし、日本の電力業界の現状に目を向ければ、お寒い限りだ。大手電力が期待を寄せる原子力発電所は東電による相次ぐ不祥事や、使用済み核燃料の処理を巡って、いまだ結論が出ない状態にある。再稼働のめどが立たない原発も多い。

■製造業など大口の需要家の「海外逃避」を招くことに

再生エネにしても太陽光パネルを敷設する平地は少なく、期待を寄せる洋上風力は安定して風が吹く海域が少ない。欧州ではすでに再エネのほうが化石燃料を使った石炭やガス火力発電より安くなっているが、日本では欧州並みに再エネ価格を下げることは難しい。

富士山とソーラーパネル
写真=iStock.com/paprikaworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paprikaworks

今までは安定的に電力を供給することが電力事業会社の唯一のミッションだったが、ESGが声高に叫ばれる現在は、電気の「質」や「由来」も問われている。要は再生エネを使った「クリーン」な電力かどうかが電力各社に求められているのだ。

再エネに充てる原資を確保しなければならないこの時期に、大手、新電力とも総崩れの事態に、国はどう対応するのか。5年たった電力自由化の検証をせずに脱炭素化を進めれば、「良質」で「安価」な電力供給はおぼつかない。それは後々、日本から、製造業など大口の需要家の「海外逃避」を招くことになる。

(プレジデントオンライン編集部)

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