Jリーグを殺すのは「欧州スーパーリーグ」を否定する人たちである
プレジデントオンライン / 2021年5月12日 11時15分
2021年4月21日、イタリア・ローマのビルの壁に、ストリートアーティストLaika MCMLIVが描いた壁画には、ユベントスの会長がナイフでサッカーボールを刺している様子が描かれている。 - 写真=EPA/時事通信フォト
■あっという間に頓挫した欧州スーパーリーグ構想
今年4月18日、12のビッグクラブの合意により、「欧州スーパーリーグ構想」が電撃発表された。これは、UEFA(欧州サッカー連盟)が主催するチャンピオンズリーグ(CL)に取って代わる大会となり得るため、UEFAやFIFA(国際サッカー連盟)が猛烈に抗議。さらに、選手やサポーター、ボリス・ジョンソン英首相、エマニュエル・マクロン仏大統領も批判の声を上げる事態となった。
スーパーリーグ参加クラブには米国人オーナーが多いこと、米国の大手投資銀行JPモルガン・チェースが総額40億ユーロ(約5200億円)の資金を拠出するという報道もあり、欧州人のプライドを傷つけた側面もあったかもしれない。
こうした猛反発を受けて、スーパーリーグから離脱するクラブが相次ぎ、構想は頓挫することになった。世間には「スーパーリーグは各国の協会やリーグ、そして多くのサポーターを無視していた。金持ちビッグクラブによるビジネスリーグで、頓挫してよかった」という評価があるようだが、本当にそうなのだろうか。
■ビジネスライクと批判されるのはUEFAも同じ
拝金主義かつ選手軽視でビジネスライクと批判されてきたのは、UEFAやFIFAの方も同じである。スーパーリーグに参加表明しなかった、ドイツのバイエルン・ミュンヘンやフランスのパリ・サンジェルマンが称賛されているが、彼ら自身も裕福なビッグクラブであり、実際のところは、後からスーパーリーグに合流するつもりだったとも噂される。同じ穴のムジナ同士の縄張り争いなのだ。
実際のところ、今年4月に発表されたフォーブスによる最新の「世界で最も価値のあるサッカークラブ」ランキングでは、バルセロナ、レアル・マドリードなど当初スーパーリーグに参加表明した全12クラブだけでなく、バイエルン・ミュンヘンとパリ・サンジェルマンもランクインしていた。今回ランキング入りした20クラブの平均価値は22億8000万ドルと、前回より30%高い。
コロナ禍でチケット収入が減少するものの、グローバルに広がる圧倒的なファン層の存在からメディア放映権など収入はさらに伸びる余地があると投資家に評価されているのだ。
■「儲かる」「ワクワク」への欲望は止められない
いずれにせよ、今回は頓挫したが、ビジネスの観点からいずれスーパーリーグは実現することになろう。なぜそう言えるのか。理由は単純だ。儲かるからであり、ワクワクするからだ。例えば、「レアル・マドリード対ポーランドの優勝チーム」の試合よりも、「レアル・マドリード対ユベントス」の試合を見たくはないだろうか。
実際、欧州ビッグクラブのグローバルな集客力は絶大だ。コロナ前までプレシーズンマッチとして、米国各都市や中東、中国、シンガポールなどで開催されてきた、欧州ビッグクラブ同士の対戦や大会は、公式戦でもなく、チケットも高額であるにもかかわらず、満員御礼だ。日本でも、コロナ前の2019年7月に埼玉スタジアムで「バルセロナ対チェルシー」の試合などが行われ、高額にもかかわらず成功している。
儲かるのか、ワクワクするのか、という目線から考えれば、スーパーリーグはうまい仕組みである。今までゲームソフトの中でしか実現しなかった、または何年かに1回しか実現しなかった対戦を何度も見ることができる。さすがは世界のスポーツ界を牛耳る欧州だ。新しい制度やルールやゲームの創造に長けている。
スーパーリーグによって「ワクワクする」→「行きたい、観たい」→「集客力・視聴率アップ」→「入場料・放映料アップ」→「収益力アップ」→「ますます魅力的に」という好循環が実現することになる。人々のスーパーリーグを見てみたい、儲けたい、という欲望を止めることはできないはずだ。
■なぜJリーグの存在感が薄くなってきたのか
Jリーグはどうだろうか。
1993年に華々しく誕生したJリーグも、今年で28年目を迎えた。地域密着という理念は大成功したといえよう。
しかし、今どこのチームが首位で、どんな選手が活躍しているのか、を具体的にスラスラ挙げられる人は多くはないのではないだろうか。以前に比べれば、話題性に乏しく、存在感が薄くなっていないだろうか。
無論、Jリーグには熱狂的なサポーターがいる。だが、その他ファンとの乖離(かいり)が進んではいないだろうか。同じユニフォームで同じ応援歌を歌う熱狂的なサポーターの排他的な雰囲気が、ファミリーで観戦する、会社帰りふらっと見にいく、というニーズを遠ざけていないだろうか。これでは、アンチや無関心層も多くなる。より多くのファンを生みプロリーグとして発展していくことはできなくなろう。
■「アジアの時代がやってくる」は幻想
コロナ禍であることを差し引いても、Jリーグは、観客動員数、興行収入、試合内容、メディアへの露出度など、どれをとっても頭打ちであり停滞感が漂っているのだ。
残念ながら、サッカーを含む日本のプロスポーツ市場は、①米国ほど国内市場が大きくはなく、②欧州ほど魅力ある近隣諸国にも恵まれておらず、③中国や中東ほど資金力もなく、④アジアほど市場の若さと成長性もないのが現実だ。
Jリーグそのものやクラブチームの規模の小ささが、さらなる飛躍を阻害しているともいえ、実際、欧州主要リーグやビッグクラブに比べてその規模は、大きく劣っている。
■「川崎フロンターレ対広州恒大」が世界で人気になるとは思えない
こうした状況下、必ず出てくる話が、「これからはサッカーでもアジアの時代、アジアチャンピオンズリーグが欧州CLを上回るはず」というものだ。本当だろうか。経済力とプロスポーツはある程度リンクするので、アジアが大きな市場になるのは確かだろうが、日本を含めアジアのチームやリーグが世界的な人気を得るのかどうかは別だ。
例えば、「日本対カンボジア」の代表試合や、「川崎フロンターレ対広州恒大(中国)」の対戦が、「イングランド対ドイツ」や、「レアル・マドリード対ユベントス」の対戦よりも、世界規模で人気化し、観戦され視聴されるとは、現時点では全く思えない。
理想はともかく、アジアの時代は幻想であり、日本人として贔屓目にみても、当面儲かることも人気化することもないだろう。
■外国人選手枠の撤廃、外資系資本の受け入れを
もちろん、Jリーグもただ座している訳ではない。今年4月に「リプランニング推進サポートチーム」を発足させ、2030年の実現を視野に、リーグの在り方などを議論していくという。
Jリーグ側は否定しているが、J1の上位に新たにリーグを創設するいわゆる「プレミアリーグ構想」などによって日本版ビッグクラブを育成するといった大胆な改革をしない限り、じり貧状態は続くと考えられる。富裕層を呼び込むVIPラウンジやVIPチケットの導入、放映権やライセンスの管理、スマホ化、バーチャル化、有料コンテンツの充実なども必要となろう。
専用スタジアムによる集客力アップも必要だ。鹿島、大阪、京都などでサッカー専用の次世代型のスタジアムが登場しているのはいい流れだ。宿泊施設、ショッピングモールや遊園地併設など、プラスαの集客力が求められることになる。
そしてもっとも効果があるのが、外国人選手枠撤廃と、外資系オーナーの容認ではないだろうか。前者は、欧州など海外で活躍する一流プレーヤーを増やすことによるJリーグ全体の魅力度向上やレベルアップにつながり、後者は、豊富な資金力による選手獲得やスタジアム建設などが期待できる。国内資本からみても外資からみても、投資対象として魅力あるプロリーグになることが必要なのだ。
■日本がUEFAに加盟するほうが現実的
Jリーグがイングランドのプレミアリーグや欧州スーパーリーグをしのぐ日が来る可能性はゼロではないとはいえ、果てしない改革が必要となる。非現実的だろう。
閉塞感の打破には、アジアを飛び越して、例えば、日本がUEFA(欧州サッカー連盟)に加盟し、日本代表やJリーグのクラブがNL(ネーションズリーグ)やCL(チャンピオンズリーグ)に出場するという方が、可能性があるのではないだろうか。
何を突拍子もないことを言うのか、と思うなかれ。中東のイスラエルがAFC(アジアサッカー連盟)からUEFAに移籍し、オセアニアの豪州がAFCに移籍した前例もある。
■日本のプロスポーツに欠けた視点
閉塞感、停滞感は、Jリーグだけの問題ではなく、日本のプロスポーツリーグ全体にいえることだ。問題は共通しており、「日本のプロスポーツはいまいちうまくいっていない」のだ。
プロ野球は安定しているがおなじみの12球団での試合だ。1リーグ化や沖縄、四国、新潟、北関東などを加えた16チーム化といったワクワクする構想も、既得権益が絡み進展はない。ラグビーの新リーグも名称さえまだ発表されていない。鳴り物入りでスタートしたバスケットボールのBリーグや卓球のTリーグにも勢いは感じられない。
Jリーグ同様に、日本のプロスポーツリーグには、①儲かるのか、②ワクワクするのか、という視点が著しく欠けている。この2つの視点は、プロリーグのスポンサーであり取引金融機関である事業会社や金融機関にも当てはまることだ。
スポンサー企業により成り立つ多くの日本プロクラブでは、経営陣は「大丈夫だ、問題ない」と根拠のない笑顔を振りまきながら、抜本的な改革などに踏み切れず、痩せ我慢の末に、最後は身売りや解散となって、選手やファンに多大なるダメージを与えてきた。欧州スーパーリーグのように、ワクワクする、儲かる仕組みをつくり、閉塞感や停滞感を打破しなければ、ニッポンのプロスポーツリーグには明るい未来はない。
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マリブジャパン代表取締役
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』など。
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(マリブジャパン代表取締役 高橋 克英)
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