「日本に悪路は少ないのに」なぜジープの販売台数は10年で13倍に急増したのか
プレジデントオンライン / 2021年5月16日 11時15分
■10年以上販売台数を伸ばし続けている
包まれるような安心感はどこからくるのだろうか?
2021年、Jeepは誕生から80年を迎えた。軍用車両からスタートした米国のJeepが、この10年以上、日本で販売台数を伸ばし続けている。2020年にJeepが国内で販売した車両は1万3588台と2009年から約13.5倍も増えた。SUVに限定して計上すると、メルセデス・ベンツ(2万0263台)、フォルクスワーゲン(1万5210台)に次ぐ3位の台数だ。
日本での一番人気モデル「ラングラー」は、2021年3月に月間販売台数1123台(同年同月Jeep全体の約58.3%)を記録した。ラングラー単独で1000台/月を超えたのはこれが初めてだ。ラングラーはすっかりJeepの顔となり、2020年は5757台とJeep全体の約42.4%を占めた。
Jeepブランドの末っ子モデル「レネゲード」の販売台数も導入以来、右肩上がりだ。2020年は3881台とJeep全体の約28.6%に達した。扱いやすいボディサイズとJeepらしいアイコン的なデザイン、300万円を切る車両価格にJeep本来の魅力である走破性能が加わり人気を博す(台数は日本自動車輸入組合、及びFCA広報部の発表値)。
■日本で人気のSUVと一味違う方向性
日本でJeepの引き合いが強い理由のひとつにSUV人気が挙げられる。大地をしっかり捉える大きなタイヤに、セダンよりも背が高く見晴らしの良いボディ、そして4WD(4輪駆動)方式による道を選ばない優れた走破性能は、潜在的なユーザーにとって魅力的に映る。
SUV人気は15年以上に渡って続く世界的な流れで、今や自社のラインアップにSUVを持たないブランドのほうが少ない。スポーツカーメーカーとして名を馳せるポルシェも、今やSUVである「マカン」や「カイエン」が屋台骨を支える。
日本でのSUV人気にはいくつかの特徴がある。トヨタ「ヤリスクロス」、「ハリアー」、「RAV4」、ホンダ「ヴェゼル」、マツダ「CX-5」などに共通するのは、都市型SUVともいえるスマートで、上質な装備をもつことだ。
分かりやすく日本で人気があるSUVの多くはオンロード(舗装路)での走りに重点を置き、快適な車内で目的地までの移動空間を楽しむ、そんなユーザー層に向けたモデルが多いのだ。
そうしたなかJeepである。「レネゲード」、「コンパス」、「ラングラー」、「チェロキー」、「グランドチェロキー」と日本市場でラインアップするモデルはいずれもタフなイメージが先にくる。実際、末っ子のレネゲードであっても兄貴分の各モデルに負けない優れた走破性能を持つ。
つまりJeepは、日本におけるSUV人気とひと味違う方向性を持っているわけだが、これこそJeepが日本で(も)売れ続ける大きな理由のひとつだ。
■走行条件が悪いほど、安心感を与えてくれる
筆者はこれまでJeep各モデルでオンロード/オフロード(不整地路)/スノーロード(雪道)を走行する機会が各所であった。かつてチェロキーのオーナーでもあったので、どんな路面状況でも安心して走れることは身をもって体験していたが、取材の場で用意されていた各シチュエーションは別格だった。
とうてい歩けそうもない泥濘(ぬかるみ)や、登山靴を履いていても足首を捻ってしまいそうなゴロゴロとした岩場、豪雨で滑りやすくなった山道、大人の背丈ほど草が伸びた夏場のスキー場など、元オーナーとしても躊躇してしまう走行環境ばかりだったが、いずれもじんわり、丁寧な運転操作を心掛けるだけで難なく走り切った。
そればかりか走行条件が悪くなればなるほど、Jeepは高い安心感を与えてくれる。冒頭に“包まれるような”と述べたのはこうした状況で抱いたものだ。
■「極」が付くほどの悪路でも、Jeepにとっては想定内
ところでJeepには独自規格である「Trail Rated」の称号がある。Trail Ratedとは、とくに悪路での走破性能が高められたモデルのことで、この称号を得るには①駆動力、②渡河性能、③機動性、④接地性、⑤地上高の5つの項目でJeepの基準をクリアすることが求められる。つまりTrail RatedとはJeepが認めた本格的なオフロード走行ができる特別なモデルのことだ。
5つの性能テストは、アメリカの「ルビコントレイル」(米国ネバダ州からカリフォルニア州へ続く悪路)で季節を問わず行われている。
「険しい自然環境での性能テストは商品開発を継続する上で重要だ」と、以前、本国から来日したJeepの技術者から伺ったことがあるが、筆者にしてみれば極が付くほどの悪路であったとしても、Jeepからすればそれらはすべて想定内。むしろ最適なフィールドであったわけだ。
見た目は四角くゴツいが、乗込んでみるとそれらが功を奏しボディ四隅の感覚は暗がりでも掴みやすい。売れ筋のラングラー(5ドア)ともなればボディサイズや死角も大きく、最小回転半径も6.2mと大きいから手を焼く場面もある。
しかし、目標物を見失いやすい自然を相手にしたオフロードでは、水平基調の車内デザインと、高めにとられた運転席の着座位置が強みとなり、瞬間的な状況把握がやりやすい。悪路になればなるほど想像以上に乗りやすくなる、これがJeep全モデルに共通する強みだ。
■購入者は30~40代が多く、キャンプを楽しむ人も
とはいえ、それだけでは昨今のJeep人気は説明しきれない。
「Jeepのお客様は30~40歳代が多く、ご家族持ちも相当数いらっしゃいます。また、キャンプを楽しまれるなどアウトドアフィールドで余暇を過ごされる方も多いようです」(FCAジャパン広報部)。
Jeepの魅力とは何か改めて考えてみると、ルビコントレイルを筆頭に、過酷な条件で開発された本格的なSUVが、現実的な価格帯(ラングラーで518万円~)で手に入ることではないか。これを伴侶に自然を相手にしたカーライフが身近なものになる、これも魅力だ。
また、登録から3年後の残存価格も高く、ここ数年、安定している。ラングラーで67~83%、レネゲードで60~79%と、高い残存価格で知られるトヨタ「ランドクルーザー(200系)」の77~94%に次ぐ値だ。
もっともJeepオーナーといえども、毎日オフロードを走る向きは少ないだろう。それよりも、潜在的な走行性能が心のゆとりにつながり、同時に資産価値が保てるとするならば、ハイパワーなスポーツカーを手に入れたいユーザーが世界中にいるように、十分に納得できる。少なくともチェロキーが愛車だった筆者はそう感じていた。
■月額2万円台からの個人向けカーリースも始めた
加えてJeepの魅力はオーナー向けサポートプログラムや、販売方法にもありそうだ。据置価格設定型ローン(いわゆる残価設定ローン)をベースにした「Jeepスキップローン」のほかに、2020年7月からは、Jeep初のカーリースプログラム「Jeep Flat Ride」をスタートさせた。
Jeep Flat Rideはサブスクリプションに敏感な若者世代に向けた商品で、モデルによって異なるが月額2万円台から5年間、利用できる個人向けカーリースだ。
また同年10月にはグローバルオーナープログラム「Jeep Wave」を導入した。従来からの点検パック「メンテナンスフォー・ユー」に、オーナー向け特別イベントへの招待や、オーナー向け特別マーチャンダイジングの提供など付加価値を加えた、ユーザーとメーカー間の絆を強めるプログラムだ。ちなみにJeep Waveは、Jeep初のプラグインハイブリッドモデル「レネゲード4xe(フォーバイイー)」の場合、販売価格に含まれている。
■都市部で乗るには慣れが必要
ここまで、Jeepの魅力について筆者なりの意見を述べてきた。万能に思えるJeepだが次のようなウィークポイントも……。
売れ筋のラングラーの場合、日本の道路環境で扱ってみるとボディや最小回転半径の大きさから取り回しに苦労することもある。ショッピングセンターなど余裕の少ない駐車場ではそれが顕著に感じられた。
また、アクセル&ブレーキ操作はオフロードでの使いやすさを主体に設計されていて、ペダル配置も独特。よって、都市部で乗るには慣れが必要だ。燃費性能にしても、2.0lターボエンジン搭載車は高速道路での巡航燃費は12km/l以上を記録するものの、市街地走行では半分程度にまで落ち込む。
いずれも本格的な走行性能とのトレードオフの関係にある部分だが、Jeepを購入候補とするならばディーラー試乗でこの点を確認頂きたい。
クルマ本来の魅力に加え、メーカー発のコミュニティ強化策、ディーラーでのユーザー目線を大切にした新しい買い方など、Jeepが快進撃を続ける理由はここにあったのだ。
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交通コメンテーター
1972年1月東京生まれ。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつために「WRカー」や「F1」、二輪界のF1と言われる「MotoGPマシン」でのサーキット走行をこなしつつ、四&二輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行い、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。著書には『2020年、人工知能は車を運転するのか』(インプレス刊)などがある。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事、2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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(交通コメンテーター 西村 直人)
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