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「便秘のときに下剤を使ってはいけない」腸の専門医がそう忠告するワケ

プレジデントオンライン / 2021年5月13日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dr_Microbe

腸の不調は病気の引き金になる。国民病ともいえる便秘もその1つだ。鳥取大学医学部附属病院消化器内科の菓(くるみ)裕貴助教は「便秘を解消するために安易に下剤を使ってはいけない。まずは腸内環境の乱れを疑うべきだ」という——。

※本稿は、鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 7杯目』の一部を再編集したものです。

■なぜ、小腸ではなく大腸が注目されるのか

近年、「大腸」の周辺が騒がしい――。

肥満の人間と痩身の人間とでは腸内細菌が違う、あるいは、活発なネズミと臆病なネズミの腸内細菌を取り替えると性格が変わってしまった、といった突拍子もない話が実際に報告されている。

長らく、大腸の機能は水分吸収のみ、とされていた。ところが、大腸は体質、性格にまで影響を及ぼすという研究結果が出てきたのだ。「腸活」という言葉を耳にすることも多い。大腸は現在、最も注目されている内臓であるのだ。

そもそも大腸とは何か――。

我々が口に入れた食べ物は咀嚼(そしゃく)されて、食道を通ってまず胃へ、その後、十二指腸、小腸、そして大腸に到達する。大腸の長さは1.5メートルから2メートル。右下腹部から右上腹部、そして左上腹部から左下腹部に位置し、肛門につながっている。

「基本的に栄養の吸収は、小腸の役割なんですよ。そのため小腸は、沢山の機能がある。一方、大腸の機能ではっきりと分かっているのは水分を吸収することだけ。ただ、腸内細菌という観点で言うと、その数は小腸とは比較にならない。この腸内細菌が色んなことに関係することが分かってきたんです」(鳥取大学医学部附属病院の河口剛一郎消化器科講師)

■腸内細菌のバランスが崩れるとがんや神経疾患を誘引する

大腸には1000種類、100兆個の細菌が生息していると言われている。

腸内細菌は大きく「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3つに分類、それらの構成は「善玉菌」が2割、「悪玉菌」が1割、「日和見菌」が7割だ。

「健康な時は善玉菌の働きが活発で、日和見菌もおとなしく、悪玉菌の増殖を防いでくれています。けれども、悪玉菌が通常の比率より上がると、日和見菌も悪玉菌と同じように悪い働きをしてしまうんです」

こう説明するのは、やはりとりだい病院消化器内科の菓(くるみ)裕貴助教である。

ただ、腸内細菌についてはまだ不明な部分が多い。また、善玉菌、悪玉菌、日和見菌のもっとも良い割合は個人差があるとされている。分かっているのは、それぞれ個人にとって最良のバランスを保つことである。このバランスを崩すこと――「ディスバイオーシス」に陥らないことが大切であるのだ。

「ディスバイオーシスを引き起こす要因は、食事、環境、ストレス、睡眠、薬剤などです。ディスバイオーシスになると、身近な症状としては下痢や便秘になります。また近年の研究によってディスバイオーシスが、炎症や免疫機能の異常を介して、がんや神経疾患など様々な病気に関連することが分かってきました」(菓)

さらに、“国民病”ともいえる、便秘も腸内環境の乱れが原因とされている。

診察する医師
撮影=中村治

■「便秘立派な病気」安易に下剤を使ってはいけない理由

便秘はエビデンスに基づいて治療しなければならない。だから患者からの相談は必要なのだ。

実は便秘には確固たる定義がなく、学会などでそれぞれの基準が存在する。

排便回数が週に3回未満と定義するところもあれば、便が出にくい、硬い、残便感があるなど、排便にともなう不快な症状も含めて全部便秘と規定することもある。年齢とともに増える傾向で、若年から中高年層までは女性が多く、高齢になると男性が増える。

便秘は大きく3つの種類に分けられる。

まずは病気に続発する症候性便秘だ。例えば糖尿病の人が便秘になりやすいのは、腸を動かす神経が鈍くなるからである。

2つめは薬剤性便秘。これは薬の服用の副作用として起こる便秘を指す。

そして一般的に多いのが3番目の習慣性便秘。大腸の蠕動(ぜんどう)運動が低下すると、便が大腸にとどまる時間が長くなる。そこで水分がさらに吸収され、硬くなってしまった便が排泄されにくくなるのだ。

便秘で悩む人の多くは、薬局で購入できる便秘薬を服用しているはずだ。そのほとんどは便を柔らかくする緩下剤、あるいは腸の粘膜などを刺激して排便を起こさせる刺激性下剤である。ところが特に刺激性下剤の連続服用は腸の力を弱めてしまう。

「みんな、便秘を病気だと思っていないんですよね。安易に刺激性の下剤を使われますが、本当はファーストチョイスで使っちゃいけない薬なんです」(河口)

2017年、便秘治療のガイドラインが更新され、新しい仕組みの便秘薬が次々と出された。これらは医師による処方箋が必要だ。

「便秘は立派な病気! 困っていることがあれば消化器内科医にどんどん相談していいと思います。お医者さんでちゃんと治療をしないと逆に大変なことになりかねない」(河口)

便秘についての相談は、消化器内科を専門とする病院であれば対応してくれる。

■腸を整えるための2つの方法

ではがんや便秘に繋がる「ディスバイオーシス」とならないため、どのように腸のバランスを保つ、つまり腸を整えればいいのか。

現在、『プロバイオティクス』と『プレバイオティクス』という2つの手法が存在する。

プロバイオティクスとは、生きた良質な菌を直接摂取することを意味する。ヨーグルトや納豆、麹のように乳酸菌やビフィズス菌を含む食物の摂取がこれに当たる。しかし、これらの菌をただ摂取すればいいのではない。

「基本的には生きた菌を口から取ったとしても、多くは胃酸で死んでしまい、腸内には定着せずに流れて便として出るんです」(菓)

口から摂取した菌が腸で増えるわけではないので一度の摂取では意味がなく、生きて腸まで届く菌を、一定量、定期的に摂取することでその効果が実感できるという。

一方、プレバイオティクスは、腸内にいる善玉菌の餌となる成分を摂取するという考えだ。“餌”とは具体的には野菜類や果物、海藻や豆類、穀物などに多く含まれる食物繊維やオリゴ糖のことだ。

食物繊維やオリゴ糖は、小腸で吸収されず大腸まで届き、善玉菌の餌となり分解されて短鎖脂肪酸になる。短鎖脂肪酸が腸内を弱酸性に保つことで、善玉菌が活発になるという。

■「下痢や便秘を繰り返す」脳と腸の密接な関係

腸内環境は食物だけでなく、精神的な影響を受けることも分かってきている。

「最近、私が診ている患者さんの便秘は、仕事やストレスが原因と思われる」

八島一夫准教授は、ストレスが原因の便通異常が増えていると指摘する。

「お腹が痛い、調子が悪いと言って来られる患者さんのお腹を内視鏡やエコーなどで調べても何の異常も見られない……これは『過敏性腸症候群』というものです」

『過敏性腸症候群』は、大腸に炎症や潰瘍などがないにも関わらず、下痢や便秘などの症状が数カ月以上にわたって続く病気。原因ははっきりとは分かっていないが、ストレスが症状を悪化させる要因の一つと考えられている。

脳がストレスや不安を感じると自律神経が乱れ、それにともない腸の動きも変化する。すなわち腸が刺激に対して敏感に反応してしまう『知覚過敏』の状態になり、下痢や便秘を繰り返すのだ。

そしてまた、お腹の不調が心配、不安を生むと、脳が信号をキャッチし腸は知覚過敏状態が続くという悪循環に陥る。症状がひどくなると鬱(うつ)病を併発することもあり、治療は腸と心の両方からのアプローチが必要だ。

鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 7杯目』
鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 7杯目』

「緊張すると、お腹が痛くなることがありますよね。過敏性腸症候群っていうのは、多かれ少なかれ誰もが経験しているはず」(八島)

このように脳と腸のそれぞれが信号を出し合っている関係を『脳腸相関』と呼んでいる。『過敏性腸症候群』は近年増加傾向だ。ストレス社会が腸に大きな負担をかけているのは間違いない。

「腸活」が騒がれるようになった背景に、日本人のライフスタイルの欧米化がある。古来、日本人は、発酵食品を多く摂取し、穀物や野菜中心の食事を続けてきた。ところが、近年は肉や脂を含む食事が多くなり、発酵食品や食物繊維の摂取が不足するようになった。

「食事や運動、睡眠、ストレス発散に目を向けて、生活改善で腸が整うならば、それはそれでいいことです。でも困った症状のある時は、早めに専門家に相談して欲しい」(八島)

今や子どもから高齢者まで、腸に悩みを抱える人は多い。早めの対処と専門家を味方につけることが大事である。健やかな大腸は、健やかな人生をもたらすはずだ。

(カニジル編集部 中原 由依子)

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