「ドラゴン桜」を小バカにする人は、絶対に東大には合格できない
プレジデントオンライン / 2021年5月11日 12時15分
■「ドラゴン桜」の見方でバレる「伸びしろ」のある人ない人
ドラマ『ドラゴン桜』(TBS系、日曜夜9時)が始まり高視聴率で推移しているという。放映開始にあたり、私を受験テクニック本のパイオニアと位置づけたメディアから取材依頼が数件あった。
私の長年の受験指導の経験からすると、同番組には納得しかねる受験テクニックも一部含まれているが、このような番組が人気を博することは喜ばしいことだ。
一過性のものかもしれないが、子供や親の勉強意欲が上がるだろうし、東京大学などの難関大学受験を自分と無関係の世界のものと思っていた人が関心を持つことで一定数の子供たちの人生を変えることにもなるからだ。
それ以上に、勉強の成績が思わしくない子供たちが、やり方を変えれば成功できるかもしれないと思い、使えそうなテクニックを試そうとすることに大きな意味があると考えている。「ドラゴン桜」を荒唐無稽な架空の話(ドラマ)だと小バカにする人はそこまでの人だが、逆に、触発されて今とは違うことを試したりチャレンジしたりするきっかけにできる視聴者は伸びしろがある人ではないか。
■自分に合った勉強法を模索し「試す」ことが重要
残念ながら、学校や塾で課される宿題には、大学受験の合格のためには役に立たないと思えるものが多く、真面目にやればやるほど非効率極まりない勉強につながる。そもそも、勉強のやり方そのものを教えてくれる学校や塾はほとんどない。
そうした状況が続く中、私が必要だと感じるのは、子供を見守る親の意識改革だ。親自身が、小手先ではない本質的な受験や勉強のテクニックを学ぶ意義を知るとともに、学校や塾に合せるよう子供に強いるのではなく、もっと子供に合った勉強をさせるほうが将来のためになると知ってほしいと思うようになった。
子供の発達には個人差がある。例えば「9歳の壁」があるが、これを超えないと抽象的な思考がうまくできない。それを8歳で超える子もいれば中学生くらいにならないと超えられない子供がいるのは確かだ。
有名中高一貫校に入らないと子供の将来はかなりネガティブなものになると信じている親がいるとしよう。その場合、小4くらいから有名進学塾に通わせるわけだが、その子が「9歳の壁」を超えていないと、算数の文章題も、国語の読解問題もチンプンカンプンになってしまう。その子に無理をさせても発達が追い付かない限りできるようにならないから、無用な劣等感をもったり、勉強嫌いの原因を作ったりしかねない。
ここで親が、わが子に抽象思考の発達が追い付いていないことを素直に認めることができれば(わが子は中学受験には不向きと認識する)、いろいろな対策を試すことができる。
■集団授業の学校や塾では、その子に合わせた指導をしてくれない
通常、「9歳の壁」を超えるまでは記憶力がとてもいいことが知られている。それを用いて漢字や英単語を覚えさせることは可能だ。
あるいは、中学受験の問題集と比べて、中学範囲の英語や数学は抽象思考の必要性が比較的低い。ならば中学受験より大学受験を見据えて、小学校の4年生くらいから中学英語や中学数学をスタートするという手もある。
私の見るところ、できない子供の大多数は発達段階と学校や塾のカリキュラムとのミスマッチからきている。あるいは、勉強のやり方がその子にあっていないということだ。
ところが集団授業の学校や塾では、その子に合わせた指導をしてくれない。だから、親が子供にあった勉強法を探す必要がある。
勉強のやり方が今ひとつでも成績がまあまあなら特に問題ないのではないか。という向きもいるだろう。だが、それだと、損をしてしまうことがある。
大学入学共通テストでそれなりの高得点を取り、地方の国公立大学に合格するレベルの生徒の場合、その生徒に最適の勉強法にすることでもっと上の大学に合格できる可能性がある。例えば、東大の2次入試問題で合格者の最低点を目標とするような、東大に特化した対策をすれば東大合格も夢ではない。
要するに、現状に満足せず、勉強法を試せばさらなるチャンスが広がる可能性があるのだ。
■私が3つの地方紙に新規教育事業の全面広告を掲載したワケ
そのためにも、まず親への教育の大切さを痛感し、私は新規でオンラインの教育事業を立ち上げた。40年にわたる受験指導経験と、35年以上となった精神科医としての経験から、親を教育することで子供の自尊心やメンタルヘルスを守り、わが子がより高いレベルの最終学歴が得られるようにすることを目標にしている。
「和田秀樹の『親塾』」がそれだが、私の残りの人生をかけて臨んでいる。とくに地方の親御さんにニーズがあるはずと信じて、今春、私が教育コラムを連載している中日新聞と四国新聞、そして私の主宰する通信教育「緑鐵受験指導ゼミナール」からかつて東大理Ⅲトップ合格者を出した富山県の北日本新聞に全面広告を出した。
しかし、結果は悲惨なものだった。全面広告に対する問い合わせ(お試し受講希望者)数は、中日新聞のエリアで30件強、香川県で3件、富山県では0件だった。
親教育を始めるにあたり、2回の無料講義を聞いて、それで賛同できるなら入会というハードルの低いシステムにしたのだが、入会どころか、タダで講義を聞いてみようという親の数が想定を大きく下回ったことに愕然とした。
子育てというものは、予想通りにいかないものだ。発達段階もまちまちなので、少なくとも子供の成績が思わしくないとか、発達障害が疑われるようなときには、あれこれと子供時代に試してあげないと、大人になってから苦しむことが多い。
ミスマッチな勉強法しか知らないまま育った子供は自分に自信をもつことができず、ひどい場合は自分で自分にバカのレッテルを張ることになってしまう。それによりメンタルヘルスを悪化させ、引きこもりの一因にもなることがある。
■「試す態度の欠如」は政府のコロナ対策にも言える
本稿で、私がテーマにしている「試す態度の欠如」は、教育に限った話ではない。
コロナ騒ぎにしても、バカのひとつ覚えのように自粛という話になり、酒類の提供禁止も含めて、それをさらに厳しくしようという動きが強い。
しかし、最近になって、過度な自粛が高齢者のフレイル状態(虚弱状態といって要介護状態の一歩手前のような筋力低下や知的機能の低下が起こること)を引き起こすリスクが高いことが問題視されるようになった。
コロナの致死率は第1波、第2波、第3波になるにつれ、致死率が低下していて、医療が多少なりと治療法を進歩させていることがわかる。ならば、医療関係者のワクチン接種を急ぐことで受け皿である病床を増やすとか、そのための規制緩和をやるということだって試せるだろう。あるいは、自粛自粛と声高に叫ぶのではなく、国民の免疫機能を高める手立てをする政策を実施するほうが最終的に死亡者を減らすことができるのではないか。試す価値がある施策はたくさんある。
アベノミクスでも結果的に経済が改善したと言えない段階で、コロナ襲来でダブルパンチになっているわけだが、経済対策として、相続税を大幅に増税して、高齢者に金を使わせるとか、直接税をむしろ増税してその代わり経費を認めるというような景気刺激策だって、試す価値はある。
このような話をすると、コロナの場合と同じように「専門家」と称する学者が試す前から旧来の理論と違うということで言下に否定されることが多いが、試す前から答えが出ていることなど世の中にほとんどないと考えるのがむしろ「科学的」なはずだ。
■高学歴な人や、成功体験のある人ほど新規なことを試すことに否定的
せっかくの全面広告が功を奏さず、スタートダッシュとはいかなかった私の新親教育ビジネスだが、試す態度の欠如した親がまだまだ多いことがわかり、さらなる啓もうが必要だと頑張る気にもなった。
子供の成績が振るわないときでも、景気がよくないときでも、ビジネスがうまくいかないときでも、あるいは人間関係がうまくいかないときでも、何かを試さないと局面は打開しないだろう。
高学歴な人や、これまでに成功体験のある人のほうがかえって知識や経験に縛られて、新規なことを試すことに否定的な人が多いという印象がぬぐえない。
根は、頭がいいのだから、これはもったいないことだ。
以前、私がアメリカに留学した際に、精神分析を学びに行ったのに、認知療法や臨床催眠、短期精神療法、集団精神療法、家族療法、さらに当時最先端だった無痙攣電撃療法までさまざまな治療法を学んだ。ひとつの治療でうまくいかないときに、別の治療が試せるのがよい精神科医と考えられているからだ。
知識があるほどいろいろなことが試せるというアメリカのプラグマティズム(実用・実際主義)を垣間見た気がした。
教育であれ、健康法であれ、投資であれ、ダメージを受けない程度に試すことで人生が開けてくるかもしれない。ドラマ『ドラゴン桜』をみて、いろいろと勉強法を試した子供が、将来、試すことに抵抗のない大人になってくれることを心から期待している。
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国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。
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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)
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