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「世界一のろまな日本」ワクチンの失策が景気に及ぼす取り返しのつかない悪影響

プレジデントオンライン / 2021年5月12日 11時15分

ほぼ集団免疫状態となった米英では2021年に入り、株価や景気が急回復している。一方、ワクチン接種率がわずか2.2%の日本は2月に3万円の大台に乗せた日経平均株価も現在はやや低迷。経営コンサルタントの小宮一慶氏は「米英では外出の制限も緩和され、イベントや外食などが通常に戻ってGDPを支える個人消費も増えていますが、ワクチン調達の遅れが響き接種率が低い日本の景気回復の先行きは暗いです」という――。

■2021年に入っての株価の伸びは米英10%前後、日本2%

東京や大阪などでは3回目の緊急事態宣言が5月末まで延長され、東京オリンピック・パラリンピックの開催にも疑問の声が多く寄せられています。一方、米国ではNYダウが最高値を更新し続けています。日本でも、日経平均が一時は3万円を超える状況でしたが、このところはNYダウほどの勢いはなくなりました。

まず、そのあたりから見てみましょう。

図表1は、2020年1月からの日米英の主要株価指数である日経平均株価、NYダウ、FT100の推移を表しています。3カ国ともに同年3月にコロナの影響で安値をつけ、その後、回復しています。

2020年3月と2021年4月の数字を比べた場合に、実は日経平均の上昇率が最も高く、55%強上昇しています。次いで、NYダウの52%、英国のFT100は25%程度の上昇にとどまっています。英国が低いのは、やはりコロナの影響が深刻だったことに加え、EU離脱交渉が難航したことも影響しています。

一方、2021年1月と4月を比べた場合には、日経平均はわずか4%程度の上昇にとどまっているのに対し、FT100はその倍の8%強、NYダウにいたっては13%以上の上昇となっており、2021年に入ってからの上昇スピードに大きな違いが出ているのが分かります。

各国ともに、金融は大幅に緩和しており、金融緩和の影響というよりは、経済回復のスピードの違いが株価に影響を及ぼしていると思われます。株価はある意味、経済の体温計ですから、経済成長や回復の差も、株価に表れていると考えられます。そして、その差を生んでいる大きな要因は現状ではワクチンの接種率であると私は考えます。

■ワクチンの接種状況の違いが景気回復にモロに影響

図表2は、ワクチンの接種率の状況です。英オックスフォード大学の研究者らが集計する「アワー・ワールド・イン・データ」による5月5日現在の数字です。

ワクチンの接種率の状況

この図表から明らかなように、日本の接種率は米国や英国に比べて大きく後れをとっています。英国では51.5%、米国でも44.4%の人が少なくとも1回以上のワクチンの接種を受けているのに対し、日本ではわずか2.2%といった状態です。

さらには、これはあまり褒められた数字ではありませんが、米国では、人口の約10%弱の約3200万人強が、英国では7%弱の440万人ほどがコロナにすでに感染しており、それらの人たちも免疫を持っていると考えられます。

一方、日本では、感染者が増加していますが、それでも累計感染者数は65万人程度で、人口の0.5%程度といった状況です。米国、英国では60%近くの人が何らかの免疫を持っていると考えられます。集団免疫ができるのは人口の70%程度と言われていますが、それに近い数字です。

免疫を持った人が増えると、外出の制限も緩和され、事実、米国や英国では、経済活動、とくにイベントや外食などが通常に戻りつつあり、そうした映像がテレビなどで放映されているのを目にする機会も少なくありません。

米国や英国では、このところ個人消費の回復が顕著です。これには、バイデン政権が1人当たり最大で1400ドルの現金給付をしたことも追い風となっています。ワクチンにより外出機会が増えるとともに、使えるお金も増えているということです。

米国ではGDP(国内総生産)の約7割を個人消費が支えています。個人消費が堅調になれば景気に勢いが増します。一方の日本ではGDPの6割弱を個人消費が支えますが、緊急事態宣言などの影響もあり、なかなか本調子にはなっていません。

■1日100万人目標…全然加速しない日本の接種状況

一方、日本では、菅首相が1日100万人の接種をめざすと発表しています。日本の人口は1億2540万人程度と推計されていますが、打たない人も含めて、おおよそあと1億人分を打つ必要があります。

現状は1日100万人の接種には程遠い状況ですが、仮にこの1日100万人の接種体制が整ったとしても、1億人に1回打つのに100日、つまりこれから先3カ月以上かかります。医療関係者(480万人)への接種もまだ十分でなく、7月末までにようやく高齢者(3600万人)向けの接種が完了するかどうかと言われている現状、集団免疫ができる程度の多くの人に接種がいきわたるのはいつのこととなるか、とても心配なのは私だけではないでしょう。

そして、高い免疫が得られるひとり2回接種となると、楽観的に1日100万回の接種が可能となったとしても、7カ月近く、つまり、来年にならなければ接種が完了しないということです。そして、1日100万回ペースでの接種は、現状ではとてもハードルが高いように思われ、すべての進行状況は後ろ倒しになる公算が大きい。

米国では、予約なしに薬局などでの接種が可能となっているとのことですが、日本でもワクチンの確保とともに、思い切った接種計画を立てない限り、接種率の向上と、それに大きく関係する経済の回復は望めないのではないかととても心配になります。

■回復著しい中国に比べ、のろのろ日本の景気回復は遅れるばかり

図表3はここ1年間ほどの日米英中4カ国の四半期ごとの実質GDP成長率です。日米英は、「前四半期比」の年率換算、中国だけは「前年同期比」の年率換算です。

実質GDP成長率

驚くべきことは、中国の成長率です。2020年1~3月期こそ、中国武漢発のコロナウイルスのせいでマイナス成長でしたが、その後はプラスに転じています。先に説明したように、中国だけは、従来GDP成長率の発表を「前年同期比」で行っていますが、ウイルスの感染爆発が起こった直後の、2020年4~6月期から、すでに前年の同時期を上回る成長を回復したということです。

それに対し、日本をはじめとして、米国や英国は、コロナが本格的に拡大し始めた2020年4~6月期には大きくマイナスとなり、次の同年7~9月期には、前四半期比で計算するため、大きく戻すという状況でした。

10~12月期には、日本ではその前の四半期の戻りが鈍かったことと、10月から東京発着のGoToトラベルが解禁されたことなどで成長率が高くなっていますが、米国や英国はその前の四半期の伸び率がかなり高かったこともあり、伸びが鈍化しています。また、米国、英国ではこの時期感染が大きく拡大していたのに対し、日本の感染が米英に比べ、比較的抑え込めていたことも影響しています。

注目は、2021年の1~3月期の数字です。米国はワクチン接種が進んだこともあり、景気回復が顕著となり、年率で6.4%まで成長を戻しました。そして、中国は、なんと18.3%の伸びです。何度も言うように中国は前年同期比で前年の同時期がマイナス6.8%だったということもありますが、それでも、自国発のウイルスでありながら、対応が早く進んだことなどもあり、大きく成長したのです。

日本は、5月18日に1~3月期のGDP(速報値)が発表になる予定ですが、どのような数字が出るか注目されます。1月には一部地域に緊急事態宣言が出されましたが、景気指標を見ると3月は少し成長を回復しています。そして、今の4~6月は、コロナウイルスの感染が急拡大したこともあり、再度緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出されたので、成長は鈍化していると考えられます。

いずれにしても、ワクチン接種率がスピードを伴って上昇しない限り、経済の本格的な正常化や復調は望めないと考えたほうがよさそうです。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。

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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)

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