「37度くらいなら身体は動くよね」発熱中の夫にゴミ出しを命じた妻の理屈
プレジデントオンライン / 2021年5月19日 9時15分
※本稿は、東野純彦『知っておくべき産後の妻のこと』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
■「病気って、ただの微熱でしょ?」
【事例】風邪を引いたら心配されるどころか激怒された
「あなたのことが大好き。死ぬまでずっと一緒にいたい」
そんな奈々子さんからの熱烈なアプローチを受けて結婚を決めた悟さん。
妻の奈々子さんはフリーランスのデザイナーで、子どもを保育園に預けられるようになってからは在宅で仕事をしています。悟さんが帰ってくるまでに家の掃除と子どもの迎え、食事の用意までをきっちりこなさないと気が済まない奈々子さんは、完璧主義な女性です。悟さんはそんなきっちりした奈々子さんとは正反対で、マイペースにできることだけやる性格。必要以上の無理はしません。
そんな悟さんが風邪をひいたとき、問題が起きました。
夜、職場から帰ってきた悟さんは、帰るなりソファに倒れ込み「ああ、やばい。頭が割れそうだ」と言っています。奈々子さんは心配し、体温計を持ってきました。
熱を測ってみると37度3分。微熱があるようです。
「やっぱりなあ。朝から身体がだるかったんだよ。ああ、しんどい。今日はもうこのまま寝ようかな」
と弱気な発言をしています。しかし奈々子さんは少し驚いたように言いました。
「え、でも37度くらいなら身体は動くよね。今日ゴミ出しの日なんだけど」
■「私が休んだらこの子の面倒は誰が見るの?」
「ああ、ゴミ出しね」
「うん、ゴミ出しはあなたの当番でしょう。遅くなったら間に合わないから今のうちに出してきて」
「ああ~」
しかし、悟さんは返事をしたきりソファに寝転がったまま。
「ちょっと!」
「ああ、うん」
「ああ、うんじゃなくて、ゴミを出してきてよ」
奈々子さんの声色は明らかに怒っています。それでも悟さんは大げさにため息をつき、
「分かってるよ。今ちょっと休んでるんだ。病気のときくらいもっと優しくしてくれよ」
と、ふてくされてしまいました。
「病気って、ただの微熱でしょ? 私なんてちょっとくらいの熱じゃそんなの顔にも出さずに、仕事も家事もしてるんだから!」
「いや、俺、おまえに『体調が悪くても働け』なんて言ったことある? きつかったら休んだら良いじゃん」
「私が休んだらこの子の面倒は誰が見るの? 家の片付けは誰がするの? あなたの洗濯物は?」
次第に奈々子さんの声は大きくなります。悟さんは頭をかきむしりながら叫びました。
「ああ、もう分かったから! そんなにキイキイ怒鳴らないでくれ! 頭に響くんだって!」
「なんでそんな言い方しかできないの? 信じられない! あなたは良いよね。子どもが産まれても今までどおり好きな仕事ができて、家に帰ればご飯があって、洗濯物はきれいに畳まれていて、子どもと好きなときだけ触れ合ってれば良いんだから」
■「私はいつも我慢しているのに」不満が爆発
何か言い返すたびに奈々子さんのボルテージは高まっているようです。悟さんは頭が痛くて休んでいるだけなのに、なぜここまで責められているのかが理解できません。
たまたま虫の居所が悪く八つ当たりされただけのような気がして、不愉快な気分です。
(体調が優れないときくらい優しくしてくれたって良いじゃないか。付き合っていたころや、新婚当初はあんなに大事にしてくれたのに……)
ところが、奈々子さんは八つ当たりしているわけではありませんでした。努力家で責任感の強い彼女は、多少体調が悪かったとしても、そんなそぶりをいっさい見せまいと努めてきたのです。微熱くらいで寝込んでしまっては家庭を切り盛りすることはできない。ましてや、一人ではまだ何もできない赤ん坊が目の前にいるのだから、泣き言をこぼすわけにはいきません。だから、きつくても疲れていても頑張り続けていたのに、夫は微熱で大騒ぎをしている。「私はいつも我慢しているのに」と不公平な状態にあることに、不満が爆発してしまったのです。
![台所](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/1/670/img_71c271672e11e9e186892e67d919fbe7730327.jpg)
■妻も本当は、夫に優しくしたいと思っている
「きついならきついと言ってくれれば手伝うのに」と思うのが男性です。しかし、母親になった女性たちは「自分がしっかりしなくちゃ」と常に気を張っています。
自分から「きつい」と言えない妻に対して、必要なのは「観察」です。無理をしていないか、平気なふりをしていないか、普段と違う様子はないか。観察をして気づくことができれば、優しい声をかけられます。妻が求めているのは励ましの言葉や応援する言葉ではなく、「いつもありがとうね」「つらくない?」という労いの声かけなのです。
それだけで「私のことを見てくれている」「大切にしてくれている」と感じ、優しい気持ちになります。
妻も本当は、夫に優しくしたいと思っています。しかし、それだけの余裕がないのです。夫としてできることは、妻の心に余裕がないと思ったら、手を差し伸べてあげること。それだけで二人の関係はぐっと改善されるでしょう。
■「今日はこのまま外で食べて帰る?」の真意
【事例】家事は妻がするもの?
山本さん夫妻には2歳になる子どもがいます。ある週末、買い物に出かけた日のことです。そのまま食材を買って帰宅し、ごはんを食べる予定でしたが、妻の可奈子さんは「今日はこのまま外で食べて帰る?」と夫の大吾さんに提案しました。
大吾さんは、2歳の子どもと一緒だとレストランに入ってもゆっくりできないので「いや、今日は家で食べよう」と返事をします。
可奈子さんはどこか浮かない表情をしていましたが、そのままスーパーに寄ることに。可奈子さんは惣菜コーナーを見ています。
「あれ? なんか出来合いのもの買って帰る? それなら近くの惣菜店に寄ればよかったね。俺、あそこのから揚げ好きなんだよなぁ。あ~なんかから揚げ食べたくなってきた」
![からあげ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/7/670/img_e70ce77102e4ff70e4c963b2b658c9291446176.jpg)
「……」
可奈子さんは何も言わずに精肉コーナーへとカートを押していきました。今度は鶏肉を選んでいます。
「お! 今日はから揚げ? ラッキー!」
そのまま可奈子さんは無言で買い物を続け、レジへと進みます。大吾さんは「疲れているのかな」と思い、そのままそっとしておくことにしました。
■妻が送っていた無言のメッセージ
家に帰ると可奈子さんは眠ってしまった子どもを布団に寝かせ、から揚げの準備を始めます。その間も、終始無言です。大吾さんはこのとき、異変に気づくべきでした。
実は可奈子さんは「今日は料理をする気力がない」とメッセージを送っていたのです。
「外食をしようか」と提案した裏側には「帰ってごはんを作りたくない」という思いが隠れていたのでした。それに対して「家で食べようよ」という大吾さんの返事を聞いたときに、可奈子さんの心のなかでは「作るのは私なんだけど!」という不満が渦巻いていたのです。
さらには、できれば惣菜と簡単な料理で済ませたいと考えていた可奈子さんの隣で、大吾さんが「から揚げが食べたい」と言ったことで、疲れている身体にムチを打って料理をする羽目になってしまいました。
カラリと揚がったから揚げを前に、可奈子さんの表情は険しいまま。食卓について、ようやく大吾さんは異変に気がつきました。
「ねえ、なんか怒ってる?」
勇気を出して尋ねます。
「……別に」
冷たく返す可奈子さん。
「じゃあ、なんで何もしゃべらないの?」
山本さん夫妻は、ご飯を食べるときにはテレビを消して、夫婦の会話を大切にしようと二人の間で約束していたのです。
「……」
■「から揚げが食べたい」の何がダメだったか
可奈子さんは、すぐに自分が怒っている理由を分かってくれない大吾さんに対して「この人に言っても無駄」と諦めモード。こうして、コミュニケーションの遮断が起きてしまうのです。夫からすると、「助けてほしい」「こうやって手伝ってほしい」と言ってもらえればそうするのに、言ってくれないから分かるはずがありません。
![東野純彦『知っておくべき産後の妻のこと』(幻冬舎)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/8/200/img_487989c6d5aea4fcd6d9df4356d1fc0b279090.jpg)
しかし可奈子さんは「外食しよう」と伝え、「惣菜コーナーを見ている」ことで「今日はごはんを作りたくない」というメッセージを発していたつもりなのです。にもかかわらず「から揚げが食べたい」と言われた。つまり「自分がから揚げを作るしかない」と受け取ったのです。
もちろん大吾さんはそこまで完璧を求めてはいませんでしたが、母親になり、家事に対して責任感を持っている可奈子さんは「自分がやらなきゃ」と思ってしまった。
さらにいえば、妻は夫に、父親として母親と同じレベルの意識改革を期待しています。それなのに、妻の様子や家庭の状況と関係なく「自分がやりたいこと、食べたいもの」を言ってしまう夫に対して「協力する気がない」とがっかりしてしまうのです。
■夫婦喧嘩を確実に減らせる「たった一つの解決法」
このような男女の間によく起きるミスコミュニケーションは、たった一つの方法で解決できます。それはお互いの状況を共有し、「どうしてほしいか」をはっきりと言葉で伝えること。すごくシンプルですが、男女の違いを理解していないと「それが必要である」ことに互いに気づけません。でも、気がつきさえすれば、誰でも実行できます。
もしも妻から「食事を作りたくないときもあるから、そのときは外食しよう」とか「愚痴や弱音を聞いてほしいときがあるから、そんなときは異論を唱えず、ただただ受け止めてほしい」という気持ちが聞けていたら、おそらく夫の反応は違っていたはずでしょう。
しかし、女性がそのように振る舞えないのは、産後、心も身体も疲弊していてそれだけの余裕がないからです。男性に求められているのはその状況を理解し、大変さやつらさを察してあげられるように努めることです。
それでも、男女は違う生き物ですから、完璧に相手のことを察することなど不可能です。だからこそ夫は、妻に対して「大変なときやつらいときには気がつけるよう最大限努力する。でも、気がついていないときは言葉にして教えてね」と伝えてほしいのです。
気恥ずかしい面があるかもしれませんが、このシンプルなコミュニケーションを意識するだけで、夫婦喧嘩の回数は格段に減るはずです。
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産婦人科医
1983年久留米大学医学部卒業後、九州大学産婦人科教室入局。1990年国立福岡中央病院に勤務後、東野産婦人科副院長に就任。その後、麻酔科新生児科研修を行う。1995年東野産婦人科院長に就任。著書に『知っておくべき産後の妻のこと』(幻冬舎)がある。
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(産婦人科医 東野 純彦)
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