終業まで「まだ1時間もある」と「もう1時間しかない」では人生がまったく違う
プレジデントオンライン / 2021年5月18日 11時15分
※本稿は、外山美樹『勉強する気はなぜ起こらないのか』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。
■無気力状態になりがちな人の特徴
友だちにあなたが傷つくようなことを言われた時、あなたはどう考えるかを想像してみてください。
ここでは、次の二つの選択肢のなかから選んでください。
B 友だちは虫の居所が悪くて、たまたま私に当たったのだ。
選択肢Aのように、起こってしまった悪い出来事を、「いつも」とか「決して」という言葉で考え、いつまでも続くと思っている人は、「永続的な」説明スタイルをとっていることになります。
一方、選択肢Bのように、「たまたま」とか「時々」という言葉で考え、状況を限定し、悪い出来事は一過性のものであると考える人は、「一時的な」説明スタイルをとっていることになります。
このように、なにかの出来事の理由を説明しようとする際の態度を「説明スタイル」というのです。この質問では、説明スタイルのうち出来事の「永続性」について尋ねたものになります。
すぐにあきらめて無気力状態になりやすい人は、自分に起こった不幸は長く続くもので、いつまでも自分の人生に影響を与えるだろうと考えてしまいがちです。「説明スタイル」でいうと、永続的であるといえます。
逆に、無気力状態になりにくい人は、不幸の原因は一時的なもので、長くは続かないと信じています。このように考える人は、一時的な説明スタイルの持ち主になります。
■普遍的な説明スタイルと、限定的な説明スタイル
ではもう一つ、「ある人に告白したがフラれてしまった」という出来事を想像してみましょう。あなたは次の二つの理由のうち、どちらのせいだと考えますか?
B 私には魅力を感じるものが全くないので、フラれたのであろう。
この質問は、説明スタイルの「普遍性」の側面について、尋ねたものです。普遍性の側面は、「限定的」な理由によるものか、それとも「全般的」な理由によるものか、にわけられます。
選択肢Aのように、限定的な(特定の)説明をする人は、ある分野では無気力になるかもしれませんが、他の分野ではしっかりと歩み続けることができます。
たとえば、自分には身体的な魅力はないかもしれないけれど、その他の面では良いところがある、と捉えているのです。身体的な魅力について落ち込むことはあっても、それ以外の分野で無気力になることはありません。
一方、選択肢Bのように、自分の失敗に普遍的な説明をしてしまう人は、ある一つの分野で挫折するとすべてをあきらめてしまい、無気力が一般化してしまいます。
私たちが不幸な出来事を経験しても無気力状態にならず、希望を持って生きていけるかどうかは、説明スタイルの二つの側面、つまり、永続性と普遍性にかかっているのです。
■無気力状態になる人は限定的な考え方ができない
それでは、先ほど紹介した人間を対象にした学習性無力感の実験と説明スタイルがどのような関係にあるのかみていきましょう。
再度確認すると、「逃避不可能群」の実験参加者は、どんな組み合わせでボタンを押しても、騒音を止めることができませんでした。そして、こうした状況に置かれたときに、無気力状態になる人と無気力状態にならない人がいました。
その違いは、その人の説明スタイルの違いに基づいています。無気力状態にならなかった人は、どんな組み合わせでボタンを押しても騒音がなり響くという状況を、「この嫌な状況は、すぐに終わるだろう」と考えていた、つまり、一時的な説明スタイルをとっていたのです。
また、「複雑なボタンを正しい組み合わせで押すといった、このような課題は苦手なんだよな~」といったように、限定的な説明スタイルをとっているのです。これは、この課題(のみ)が苦手なだけであって、他の課題は苦手としていないことを意味します。
そのため、限定的な説明スタイルをとっている人は、別の課題を出された時には、無気力状態におちいることなく取り組むことができます。
一方、どんな組み合わせでボタンを押しても騒音がなり響くという嫌な状況に対して、無気力状態になった人は、「この嫌な状況は、いつまでも続くだろう」といったように、永続的な説明スタイルをとっていました。そのため、二つ目の実験でもずっと続くと考えて、騒音を止めようとはしなかったのです。
あるいは、この人たちは「このような課題だけでなく、他の課題も自分にはできない。自分は何もできない」といったように、普遍的な説明スタイルをとり、無気力状態におちいるのです。
嫌な出来事を同じように経験したとしても、無気力状態になる人とそうならない人がいるのは、ある出来事をどのようにとらえる傾向にあるのかといった説明スタイルの違いによるのです。
■自分の説明スタイルに自覚的になることが重要
さて、みなさんは、先ほどの二つの質問において、どのような説明スタイルをとっていましたか?
悪い出来事をどのように捉える傾向にあるのかといった説明スタイルは、みなさんがこれまで身につけた長年の習慣(くせ)によるものなので、すぐに変えるのは難しいかもしれません。でも、無気力になりにくい説明スタイルをとるような習慣を意図的につけることは、できるのではないでしょうか。
そのためにまず大事なことは、自分がどのような説明スタイルをとっているのかに気づくことです。説明スタイルは、知らず知らずのうちに身についてしまうものなので、意識しないと、自分がどのような説明スタイルをとっているのか、なかなか気づくことができません。
自分が常日頃、無気力になりやすい説明スタイルをとっていることに気づいたのならば、それとは違った理由を考える習慣をつけるように、心がけてみるとよいですね。
考え方次第で人生のあらゆる出来事の捉え方は変わってきます。
■大きな失敗をしたときにどう考えればいいか
たとえば、「テストが一週間後にある」という、おそらく多くの人にとって嫌な出来事に対して、みなさんはどのように考えますか?
「あ~あ、テストか。勉強をしなくてはいけない。嫌だな……」と考えてしまった時点で、不安や憂うつな感情におそわれ、胸がしめつけられるような身体的反応を経験するかもしれません。そうなると、嫌々ながらテスト勉強に取り組むことになります。
しかし、「テストが一週間後にある」という同じ出来事に対して、「テストは知識を得るチャンスだ!」と考えてみたらどうでしょうか(これは、第二章で紹介した「勉強って大事だと思う作戦」になります)。何だか、やる気がわいてきませんか?
続いて、「大きな失敗をした」という時には、みなさんはどのように考えるでしょうか。
「恥ずかしい……。もう何もかも終わりだ」と考えてしまったら、本当に終わってしまうかもしれません。一方で「失敗は成功の第一歩だ。失敗から学ぶこともたくさんある。
それに一度失敗したからといって、すべてが終わるわけではない」と考えてみたら、どうでしょうか?
■無気力になりにくい説明スタイルを身につけるべき
私たちの周りの景色は、考え方次第で違って見えてきます。同じ一時間であっても、「もう一時間しかない」と考えるよりも「まだ一時間もある」と考えるほうが、その一時間の使い道は変わってくるでしょう。ただし、人によっては、「もう一時間しかない」と考えたほうが、やる気が出るかもしれません。たとえば、第五章で紹介した防衛的悲観主義者のように。
あなたが抱えるやる気の問題も、出来事や事象をどう捉えているのか、といった考え方に起因しているのかもしれません。
無気力になりにくい説明スタイルを身につければ、人生によくある挫折に対してもっと肯定的に対処できるようになりますし、大きな失敗からも以前よりはずっと早く立ち直れるようになります。勉強でもスポーツでも仕事(バイト)でも、もっと良い成績を上げられるようになり、長い目で見れば健康状態も良くなるのです。
やる気がわいてくるのも、無気力状態におちいってしまうのも、それはあなたの考え方次第なのかもしれません。
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筑波大学大学院人間総合科学研究科准教授
1973年生まれ。筑波大学大学院博士課程心理学研究科中退。博士(心理学)。専門は、教育心理学。著書に『行動を起こし、持続する力―モチベーションの心理学』(新曜社)、『実力発揮メソッド―パフォーマンスの心理学』(講談社選書メチエ)、共著に『やさしい発達と学習』(有斐閣アルマ)、『ワードマップ ポジティブマインド』(新曜社)などがある。
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(筑波大学大学院人間総合科学研究科准教授 外山 美樹)
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