「夫が家にいることで家事負担が増える」コロナがあぶり出した家庭内ジェンダーギャップの深刻さ
プレジデントオンライン / 2021年5月16日 8時15分
■婚姻数、出生数ともに大幅ダウン
1回目の緊急事態宣言から1年以上が経ちましたが、新型コロナウイルスの感染拡大はいまだ収束の気配を見せません。長引くコロナ禍は経済や生活全般に大きな影響を与えているほか、最近では結婚や出産への影響も明らかになってきました。
2020年1~10月の婚姻数は前年より約13%もダウン。これはコロナ禍の影響で結婚式を開けず、中止や延期にした人が多かったのだろうと推測されています。また今年1月の出生数は、前年の同じ月と比べて14.6%も落ち込みました。こちらも、コロナ禍によって妊娠や出産を控える人が多かったためだと思われます。
結婚と出産の減少は少子化に直結するため、国も大きな危機感を抱いているようです。この傾向がコロナ下における限定的なものなのか、収束後も続くのかはまだわかりません。ただ、コロナ禍が女性の生活や働き方にどんな影響を与えているか、これを知ることがヒントのひとつになるように思います。
■家事育児時間が増加した女性が3割
コロナ禍が女性にもたらした影響としては、まず家事育児時間の増加が挙げられます。私も参加している「内閣府 コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」の調査では、緊急事態宣言中に家事育児時間が増えたという女性は3割以上にのぼりました。
これに比べ、男性で「増えた」と答えた人は2割強ほど。ここからは、テレワークや外出自粛などで家族の在宅時間が長くなった結果、妻の負担がより増している様子が見てとれます。
■夫が家にいることで家事の手間がより増えている
そもそも日本では女性のエッセンシャルワーカーが多く、在宅勤務が可能な仕事に就いているのは男性のほう。ところが家事育児時間が伸びたのはなぜか女性のほうなのです。男性は家にいてもあまり分担できていない、あるいは家にいることで妻の家事の手間がより増えているのではないでしょうか。
育児の面では、休園や休校も大きな負担になりました。子どもが日中に家にいるということは、誰かが面倒を見なければなりません。近くに祖父母など頼れる人がいればいいのですが、そうでない場合は夫婦のどちらかが仕事を休むか、または在宅勤務をしながら面倒を見ることになります。
ある調査では、保育園や幼稚園の休園時、日中に誰が子どもの面倒を見たかという問いに対して「妻」という回答が約8割でした。この調査は働いている男女を対象に行われたものですが、それでも休園の影響を受けたのは圧倒的に女性のほうだったのです。
■進む女性の非労働力化
こうした状況は、女性の働き方にもマイナスの影響を与え始めています。コロナ禍によって女性の失業者数は増え、生活苦を訴える切実な声も上がっていますが、それに加えて自ら退職する女性や就業しない女性が増えているのです。
働ける能力があるのに働く意思がなく職探しもしていない──。今、このような「女性の非労働力化」が進行しています。前述の研究会では、東京大学の山口慎太郎先生のチームが労働力調査のデータを分析し、配偶者がいる子育て中の女性の就業率が、コロナ禍の影響で低下していることがわかりました。
なかでも低下が顕著なのは、小学生の子どもを持つ母親です。これは、全国一斉休校によって日中に子どもの面倒を見なければならなくなり、仕事との両立が難しくなったためだと考えられます。
■こんなのやってられない!
原因としてはもうひとつ、コロナ禍による心理的負担も考えられます。女性には、不特定多数と接触せざるを得ない仕事に就いている人も多くいます。特に医療や介護、保育などのいわゆるエッセンシャルワーカーでは、感染への不安や家事育児負担があってもなかなか休めない状況にあり、大きなストレスを抱えながら働いている人が少なくありません。
同じように女性の多い小売業においても、感染への不安が大きい上に休業要請などで仕事や給与が減り、ストレスを感じる人が増えています。これでは、働くことに対する意欲が下がっても不思議ではないと思います。
仕事には感染や減収の不安がつきまとい、家事育児負担はテレワークや休校の影響で増加。こうした状況が長引くに連れ、「こんなに大変な思いをするならいっそ辞めて家庭に専念したい」「夫のほうが収入が多いから夫に稼いでもらえばいい」と考える女性が増えてきているのではないでしょうか。コロナが改めて突きつけたのは、女性にとって「こんなのやってられない」と叫びたくなるほどの両立のしんどさです。
■コロナ後に「働く意欲」は復活するか
問題は、働く気を失ってしまった女性たちが、コロナ後に再び労働力として復帰するのかどうかです。もし復帰しなければ、せっかく拡大してきた女性の職場参加が縮小に転じることになりかねず、私は大きな懸念を感じています。
国や企業は非労働力化した女性たちに対して、コロナ収束後に職場に戻ってもらう工夫をする必要があるでしょう。その際は失業対策のようにただ雇用を増やすのではなく、まず本人たちに働く意欲を取り戻してもらうことが重要になります。失業している人は「働く気はあるのに就職先が見つからない」という状態ですが、非労働力化している人はそもそも就業の意思がないからです。
コロナ禍は、家事育児負担が今なお女性にかたよりがちであること、子どものために仕事を休んだり辞めたりするのは圧倒的に妻のほうであることをあぶり出しました。この結果として表れ始めた女性の非労働力化は、コロナ後の社会にとって大きな課題になると思います。
■コロナ対策においては女性・女の子に配慮を
ここまでコロナ禍が女性にもたらした影響について考えてきましたが、これは少子化に対してはどのように働くのでしょうか。働く女性が減れば世帯収入も減るため「家計が苦しくなるから子どもも生まれにくくなる」という人もいるでしょう。また、家事育児負担の増加によって、女性が第2子以降の出産を控える可能性も大きいと言われています。
一方で、テレワークや家庭に専念する女性の増加で「在宅時間が増えると子どもも増える」という人もいるでしょう。現時点ではプラスとマイナスどちらに働く可能性もあり、確実なところは事後にならないとわかりません。今はただ、女性の非労働力化や少子化に歯止めをかけるため、コロナ禍の影響がこれ以上深刻化しないように取り組んでいくしかないように思います。
女性への悪影響では、前述した事柄のほかにも、家族以外の人との接触が制限されることによるDV被害の増加が懸念されています。シングルマザーや、女性が多くを占めるエッセンシャルワーカーは厳しい状況に置かれており、女性の自殺者も急増しています。
当初は、コロナ禍が女性にこれほど悪影響をおよぼすとは予想できていませんでした。これは世界的な課題にもなっており、国連は2020年4月、コロナ対策において女性・女の子の置かれた苦境に配慮するよう声明を出しています。日本でも、女性への影響を注視しながら、必要な対策を着実に実施していくことが大事だと思います。
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立命館大学教授
1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。
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(立命館大学教授 筒井 淳也 構成=辻村洋子)
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