「MBAを武器に年収アップしたい」面接で落とされる人の意外な特徴
プレジデントオンライン / 2021年5月21日 11時15分
証券会社の人事戦略部門でマネジャーを務めています。将来は海外取引や戦略企画にも関わりたく、年収も現在の700万円からもっとアップさせたいと思っています。そのためにはより専門的な知識が必要と考え、社会人大学院に通ってMBAを取得しました。
ただ、今の会社で働き続けてもキャリアアップや年収アップには時間がかかりそうなので、もっと活躍できる企業への転職を考えています。MBAを強みに、年収1000万円を条件に探すつもりです。転職を成功させるため、また年収交渉のためのアドバイスがありましたらお願いします。(43歳・証券会社勤務)
■「高年収希望のMBA取得者」にどんな需要があるか
勉強熱心で成長意欲が高く、仕事内容や収入に対しても明確な目標をお持ちの女性のようです。40代前半でマネジャーとしての実務経験も積んでいるため、転職市場では人事や経営企画の即戦力スペシャリストとして評価される可能性は高いのではないでしょうか。
ただ、いきなり年収1000万円へのジャンプアップを目指すのは難度が高いかもしれません。社会人大学院でお金をかけて勉強したわけですから、それに値する収入を望む気持ちもわかりますが、現在の転職市場で「年収1000万円を希望するMBA取得者」の需要がどんな業界やポジションでありそうか、まずはそれをリサーチしてみてはどうでしょうか。
確かにMBAは難関資格のひとつです。その過程で鍛えた戦略的思考やケーススタディーは実戦で役立つことも多いと思います。ただ、会計士資格や外国語のスキルなどとは違い、MBAを持っていないと実務ができないという種類の仕事はそう多くはありません。転職先に対して学習意欲や継続的努力ができることを証明することはできても、成果とリニアに連動することを証明するのは難しいと思われます。
採用側が選考で重視するのは「入社後にどれだけ活躍してくれるか」です。これが最優先条件であり、それを推し測るために経験に注目するのです。資格がなければできない仕事以外では、資格の有無は、経験を超えて評価されることは少ないと言えます。
そう考えると、MBA取得を武器にして年収を交渉しようとしても、スムーズに転職活動が進む保証はありません。相手の真のニーズをつかまず、こちら側のアピールが空回りしてしまうと、会話が噛み合わずに不採用という結果になってしまう可能性もあるでしょう。
■資格という「手段」に依存し過ぎない
資格や学位は、あくまで仕事をするための手段であり、道具です。道具は、それを使ってどんな成果を出すかが重要で、それ自体が評価の対象にはなるものではありません。野球選手で例えると、どれだけ名人が作ったバットを持っていても、肝心の打撃成績がついてこないと年俸が上がらないのと同じです。
同じように、採用側にとっても、資格を持っていることと、それで何ができるかはまったくの別物。選考で確認したいのは「何ができるか」のほうで、資格も過去の実績も、それを確認するための参考資料でしかありません。
書類選考や面接の際、転職者はまず、自分の過去の実績や、持っている資格などを伝えると思います。しかし、それらは決して主役ではないということを忘れないでください。
いくら熱心にアピールしても、それが入社後の貢献に直結すると思われない限り、採用側には「そこはあまり関係ないんだけどな……」と思われてしまいかねません。「過去の実績や資格は、その人の可能性を探るための参考資料」。選考には、それを理解した上で臨んでほしいと思います。
■転職は“買い手”がいてこそ成り立つ
実績や資格は自己紹介の一環として淡々と伝え、入社後にそれを活用して、どんな貢献をしていきたいのかを具体的にアピールすることをおすすめします。
MBAを持っている場合も、資格そのものをアピールするのではなく、「私はこういうことを目指してこういう勉強をしてきました。それを貴社でこんな風に活用して成果を生み出していきたいです」と伝える姿勢が大事。「自分は努力を怠らない人間で、成果を出すために必要な道具も備えているから貢献できる」と伝えるのです。
今回ご相談いただいた方は、身近にMBA取得で高年収のポジションに転職できた方がおられたのかもしれません。そうしたロールモデルから刺激をもらって、自分もキャリアアップを目指したいと考えたのだとしたら、それ自体はとてもすばらしいことだと思います。
ただ、そのロールモデルになった方が満足度の高い転職ができた理由を、もう少し深掘りしてみてもいいのではないでしょうか?
転職を希望する人は、ともすると「自分をどう売るか」にばかり目が向いてしまいがちですが、実際は「買う側」があってこそ成り立つもの。買い手の望みを知らないまま自分の理想だけ追い求めても、それではただの夢で終わってしまいます。
■まずは「需要」を精査する
繰り返しになりますが、転職活動で最初に重要なことは、自分の経験やスキルにどんな需要があるかを精査することです。冒頭で言った通り、ご相談いただいた方は、経験してこられた分野の即戦力スペシャリストと見なされるでしょうから、需要は必ずあるはずです。
そうして需要のありそうな企業が見つかったら、「ここだけは譲れない」という部分だけを条件にして検討し、その後に年収や職場環境などで優先順位をつけていってください。初めから「資格×仕事内容×年収」を抱き合わせの条件にして探すと、応募したい会社が1社も見つからず、転職そのものをあきらめざるを得ないということにもなりかねません。
ご相談いただいた方が希望するような、海外取引や戦略企画の業務がある企業は実際に存在しています。もし、選ぶ条件を仕事内容だけに絞ってもいいのなら、そうした企業の需要を調べ、そこに対してアピールできるよう準備するといいでしょう。
調べた結果、MBAよりTOEICのスコアのほうが重要だとわかって、「せっかく勉強したのに」とがっかりするかもしれません。でも、その仕事で必要とされるスキルが事前に把握できれば、準備すべきこともおのずと決まってくるでしょう。
■条件が多いほど転職先が見つかりにくい
目指す転職先があるのなら、そこに雇われるために必要なものを身につければいいのです。この方は学習意欲も高いようなので、こうしたハードルも乗り越えられるのではないでしょうか。
大事なのは、需要の有無を無視して条件を設定しないこと。自分の中での条件が多ければ多いほど、転職先が見つかる可能性は小さくなっていきます。最近は「仕事内容×休みの多さ」など、働き方を条件にする人も少なくありませんが、労働条件にこだわり過ぎて応募する先がないという方もおられます。
転職を思い立ったら、実際の活動を始める前にまず需要の確認を。そして候補となる企業が見つかったら、自分をその企業の需要に合わせていく努力と、入社後に何ができるかを伝える努力を怠らないよう心がけてほしいと思います。
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転職コンサルタント、ルーセントドアーズ代表取締役
1988年、リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。2014年ルーセントドアーズを設立、成長企業のための「社長の右腕」次世代リーダー採用支援サービスを開始。35歳からの転職支援サービス「Career Release 40」、ミドル・シニア世代のためのキャリア相談特化型サービス「CanWill」を運営している。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』『35歳からの後悔しない転職ノート』『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』など。
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(転職コンサルタント、ルーセントドアーズ代表取締役 黒田 真行 構成=辻村洋子)
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