「コロナで損した分を全部補償すればいい」京大教授が超大胆なバラマキを訴えるワケ
プレジデントオンライン / 2021年6月28日 11時15分
※本稿は、田原総一朗・藤井聡『こうすれば絶対よくなる!日本経済』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■自粛に応じた国民に補償を出すのは当たり前
【田原】まず藤井さんが提言している企業に対する「粗利補償」について議論したい。
【藤井】新型コロナ感染で最初の「緊急事態宣言」が出てから1カ月ほどたった2020年5月上旬、僕はKBS京都のラジオ番組で人びとへの補償の問題について話しました。タイトルは「『自粛しろ、でも補償はしない』は政府の虐待だ!」です。
【田原】補償しないことが、政府の国民に対する虐待? これは穏やかではない。
【藤井】過激です。僕の内閣官房参与としてのアドバイスを6年間も聞いてくださった安倍首相が率いる政府に対して、そこまで批判するのは裏切り行為だ、という人もいるかもしれません。
しかし、日本国民がふだんからまじめに高い税金を、いやいやながらでも支払っているのは、国や政府や自治体というものは、いざというとき自分たちを助けてくれる存在に違いない、と信頼しているから。その政府や自治体が、外出自粛だ、ステイホームだ、テレワークだ、とにかく家にいてくれ、という。
【田原】新型コロナの感染を封じ込めるにはそれしかない、と。
【藤井】そうかな、仕方ないな、と思ってみんな家にいる。欧米では若者などが中心になって冗談じゃないと、イベントを強行したり街で暴れたりするけど、日本人の多くは政府や都道府県のいうことを素直に聞きました。
【藤井】しかし、役所や大企業勤めではなく年金暮らしでもない人、とくに飲食店、旅館やホテル、旅行業やタクシー、興行やエンタテインメントなど、お客さんに足を運んでもらってなんぼの商売は、自粛が長引いて人びとが家に引きこもり続ければ、つぶれてしまう。これに対して補償を出すべきだというのは当たり前。諸外国がふつうにやっていることです。
■「国民に対する裏切りではないか」
【田原】日本では、そんなことはできない。1200兆円も借金がある。さらに100兆円200兆円なんてカネを出せるはずがない──と、みんな反対した。
【藤井】MMTが教える財政出動でカネは出せるのだ、という提案を検討もせずに、財務省が出せないといっているから出さないとは、何事か。それこそまじめに働いて納税し、家にいろという要請も従順に受け入れている国民に対する裏切りではないか。国民いじめ、虐待ともいうべき大問題ではないか──これが僕の主張です。
【田原】そのラジオ番組で、粗利補償をすべきといったんですか?
【藤井】そのときは粗利補償という言葉は使わなかったと思います。補償の具体的な手法以前に、国民よ覚醒してくれ、もっと怒れ、怒っていいんだ、と訴えたかった。
【田原】そもそも日本経済がデフレの深い底に沈んでしまったのは、別に国民が怠けていたせいなんかじゃない。政府がデフレ下の増税という誤った経済政策を繰り返したからだ、というのが藤井さんの考え。だから、余計に頭にきたわけね。
■遅れた緊急事態宣言、曖昧な自粛要請、少ない補償、たれ流しのメディア…
【藤井】一つ強調しておきたいことがあります。最初の緊急事態宣言は2020年4月7日に東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪・兵庫・福岡の7都府県に出て、16日に対象を全国に拡大。5月14日に39県で解除。21日に大阪・京都・兵庫で解除。25日、1カ月半ぶりに残る首都圏1都3県と北海道で解除、という流れでした。
でも、「報告された感染者数」のピークは2020年4月11日です(全国の新規感染者720人)。そうなる「現実の感染」のピークは3月25日ころです。
【田原】ある人が新型コロナに感染してから、発症・受診・PCR検査・検査結果判明・報告・全国で報告をとりまとめて発表までに、2週間か、それ以上のタイムラグが生じる。だからそうなる。
【藤井】はい。今日わかった感染者数は、2週間前に感染した数である、と。死亡はさらに遅れて感染の3~4週間後くらい。日本のように高度な医療機器で手厚い治療をする国では、重症者が長く持ちこたえますから、死亡はなお先になる。
【藤井】いずれにせよ、緊急事態宣言の4日後が感染者数のピークで、5日後から減り始めたということは、その2週間のタイムラグを考えれば、宣言による自粛効果とは関係なしに減ったのが明白です。これは2回目の緊急事態宣言でも同じです。
2021年1月7日に東京・神奈川・埼玉・千葉の首都圏1都3県に出て、13日に栃木・愛知・岐阜・京都・大阪・兵庫・福岡に拡大。「報告された感染者数」のピークは2021年1月8日です(全国の新規感染者7949人)。そうなる「現実の感染」のピークは2020年12月25日のクリスマス前後です。
■「自粛要請して、補償が手薄いのでは話にならない」
【田原】2回目は緊急事態宣言を出した翌日が感染者数のピーク。最初より3日早いタイミングで出したんだね。3日だけ進歩したの。
【藤井】いずれにせよ、2回目の緊急事態宣言も、感染者数のピークアウトに何ら貢献していないんです。新型コロナについてはさまざまな細かい議論が必要となりますので、このあたりでやめますが、緊急事態宣言の発出や解除に明確な基準がなく、成り行きで場当たり的な対応をしたことが大問題でした。
【藤井】宣言は期間や地域にもっとメリハリをつけ、自粛要請も何人以上の飲み会不可、複数人同室のカラオケ不可、イベントはマスク着用で飛沫対策を基本とするというように、明確に打ち出さなければ。なんとなく危なそうだから全国に出しておくか、みたいな宣言で国民を脅かし、自粛要請して、補償が手薄いのでは話にならない。
【田原】メディアによる検証も全然足りない。“発表ジャーナリズム”だから、政府や自治体発表を右から左へとたれ流して、ろくに検証しないんだ。
【藤井】まったく同感です。
■「コロナで損した分を全部出す」粗利補償が最善の方法だ
【田原】東京の居酒屋は夜7時で酒類の提供終了、夜8時で閉店。協力してくれる店にはおカネを出しますと小池百合子都知事はいったんだけど、これもわかったようでわからない。
客同士の距離が必ず2メートル離れていてガンガン強制換気する店なら、夜10時まで営業しても感染は起こらないだろうし。それに夜7時にボトルを出せば、8時まで酒を飲んでいていいんだよね。あまり意味がないんじゃないか。
【藤井】そうそう。しかも、居酒屋に酒を卸す業者、氷を納入する業者、毎日おしぼりを届ける業者など、補償すべき対象は飲食店だけじゃない。
だから自粛要請にともなう政府からの「補償」は、幅広く、あらゆる産業をカバーし、国民全員に行き届くものでなければダメなんです。この点でも粗利補償はよい方法です。従業員の賃金補償を含むから、仕事を失うパートやアルバイト対策を別立てでやらずに済むし、家賃など経費の支払いにも対応できますから。
■このままでは、コロナ後にやり直しがきかなくなる
【田原】支援制度があれこれあるが、どれも申請が面倒なうえ金額が少ない。無利子で返済は3年後からといった融資制度は使えそうだけど、結局、借金は残る、しかもこの自粛騒ぎがいつまで続くかわからない。
ならば、夫婦そろってそろそろ高齢者(65歳以上)だから、思い切って店や旅館を閉めるか、というケースが増えるんじゃないか。後を継ぐ子どももいないし、処分すれば老後資金になり、年金と合わせてなんとかやっていけそうだ、と。
【藤井】そう。それで廃業してしまうと、コロナ禍が終わったとき、やり直しがきかない。さあ、やっとお客さんが前のように来てくれるぞと思ったら、ある観光地で旅館やホテルや土産物屋がこんなに減っていたというのでは、地域を再生できません。
日本政府は、ただちに粗利補償の制度設計をして、スタートさせるべきです。年100兆円を2年続けても問題ありません。
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ジャーナリスト
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所へ入社。テレビ東京を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。著書に『起業家のように考える。』ほか。
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京都大学大学院工学研究科教授 元内閣官房参与
京都大学大学院工学研究科(都市社会工学)教授、京都大学レジリエンス実践ユニット長。1968年、奈良県生まれ。京都大学卒業、同大学院修了後、同大学助教授、東京工業大学教授等を経て現職。2012年より2018年まで安倍内閣・内閣官房参与にて防災減災ニューディール政策を担当。専門は経済財政政策・インフラ政策等の公共政策論。文部科学大臣表彰・若手科学者賞、日本学術振興会賞等受賞多数。著書に『MMTによる令和「新」経済論』(晶文社)、『令和日本・再生計画』(小学館新書)など多数。「正義のミカタ」(朝日放送)、「東京ホンマもん教室」(東京MXテレビ)等のレギュラー解説者。2018年より「表現者クライテリオン」編集長。
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(ジャーナリスト 田原 総一朗、京都大学大学院工学研究科教授 元内閣官房参与 藤井 聡)
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