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「イタリアのワクチン予約は超サクサク」ミラノ在住日本人の接種体験レポート

プレジデントオンライン / 2021年5月13日 15時15分

ミラノの最先端エリアに設けられたワクチンセンター。羽根帽子をかぶった山岳部隊OBが案内してくれる。 - 写真=新津隆夫

海外では新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでいる。すでに国民の半数近くが接種しているイタリア在住のジャーナリスト新津隆夫さんも、妻子とともに現地でワクチン接種を済ませた。予約や接種には何の混乱もなかったという。現地からの報告をお届けする――。

■予定より3週間遅れ、でも予約はスムーズ

昨年末に発表されたスケジュールに遅れること約3週間。イタリアでは4月22日から、60歳から69歳までの新型コロナウイルスワクチンの予約受付が開始された。

日本のようにワクチン接種券が送られてくるわけではなく、こういった情報は政府広報やニュースを注視し続けて得るしかない。必要な社会サービスを受けるためには自ら動かなければならない、いわゆる「申請主義」のイタリアと、必要なものはなんでも口元までスプーンで運んでくれる日本との大きな違いを感じる。

一方で、ワクチンの予約そのものはとてもスムーズだった。イタリアではオンラインや電話のほか、郵便、さらにはICカード化された健康保険証で郵便局の端末から行うという、4通りの方法が選べる。日本では電話予約をしようとしてもなかなかつながらず、システムの不備が指摘されていたが、イタリアではそのような声はあまり聞かれない。筆者はオンラインでもっとも近い5月10日を1回目の接種日に選び、確認メールを受け取った。

予約方法は簡単で、個人納税者番号(codice fiscale)と健康保険証番号を入力するだけ。接種場所はミラノ郊外の居住地の市役所近くに作られた、臨時のワクチン・センターだった。「これで一安心だね」と家族に伝えた翌日、妻の元に電話があった。

妻は安倍晋三元首相の持病としても知られる難病「潰瘍性大腸炎」を患っている。電話の主はその担当医だった。いわく、「ワクチン接種の優先リストに名前を入れておいたから、なるべく早く接種するように」とのこと。妻は一昨年乳がんの手術をしたし、潰瘍性大腸炎は20歳の頃からずっと治療を続けている。そのため、優先かどうかはさておき、ワクチンそのものを接種していいのかどうか医師に相談しようと考えていたところだった。

■持病を持つ人とその家族も一度に優先予約可能

筆者の住むロンバルディア州の予約受付サイトには、接種対象年齢(5月10日より50歳~59歳の人にも拡大、1971年生まれも含む)にあたる人、国が指定する疾患(肝臓病や糖尿病、呼吸器疾患、心臓病、腫瘍など)の患者、重度障がい者、16歳から59歳までで医師に接種が必要と判断された人という4つのカテゴリーが設けられている。妻は最後のカテゴリーにあたるので、該当のリンクから予約手続きに入る。

ロンバルディア州のワクチン接種オンライン申込みサイト
ロンバルディア州のワクチン接種オンライン申込みサイト

筆者のときと同様に健康保険証番号と個人納税者番号を入力すると、4月30日に1回目の接種が可能だという。指定された接種場所は筆者が予約できた場所とは異なり、ミラノ市内にあるワクチン・センターだ(イタリアではHUB(ハブ)と呼んでいる)。ちなみに現在、イタリアには全国で約2200カ所のワクチン・センターが作られている。

さらに持病のある人や障がい者、医師に必要と判断された人が接種を受ける場合、同居する者も3人まで一緒に接種できる仕組みになっていた。本人のケアをする人の負担を減らそうという目的であり、とても合理的だと感じた。筆者も自分の予約をキャンセルして妻と同時接種に替え、17歳の娘も一緒に申し込んだ(イタリアのワクチン接種は16才以上)。

同居人を含む形での優先接種の起源は、約40年前にさかのぼる。精神障がい者を施設に閉じ込めず地域社会の中で支援していくという1978年の「バザーリア法」、それを踏まえた1992年の法律104号(障害者の援助、社会的統合および諸権利に関する基本法)によって、イタリアではハンディのある本人に加え、その世話をする家族にもさまざまな支援を与えることが法的に定められている。今回の新型コロナ(欧州ではCovidと呼ぶのが一般的)のワクチン接種では、この法律が指定疾患などの患者とその家族にも適用された形だ。

■ミラノの最先端地区に設けられたワクチン・センター

ミラノ市内のワクチン・センターは3カ所あるが(病院を除く)、中でもロンバルディア州が威信をかけて作ったシンティッレ(Palazzo delle Scintille)のセンターは、1923年に建てられた旧見本市会場を利用したもの。美しいクーポラ(ドーム状の屋根)が特徴的な建物で、第2次大戦中には空爆で被害を受けたスカラ座に代わって、ここでオペラが開催されたこともある。

シンティッレ周辺の一帯は、「シティ・ライフ(City Life)」と名付けられた再開発地区だ。日本の磯崎新が設計した棟を含む3つの超高層ビルや、イタリアの人気ミュージシャン、フェデッツも住む高級マンションが立ち並び、オシャレなカフェやショップが軒を連ねる、ミラノの最先端エリアである。

■羽根帽子姿の山岳部隊OBが笑顔で案内

シンティッレ内部はすべてパーテションで区切られていて、とても導線のしっかりした構造になっている。入り口から中まで案内してくれたのは、特徴的な羽根帽子をかぶったアルピーニ(山岳部隊)OBのおじいさんたちだ。「自分たちが社会に役立てるときが来た」とばかりに、なにを聞いてもはきはきと笑顔で対応してくれる。この「作戦」には、ロンバルディア州だけで約3000人のアルピーニがボランティアとして参加しているという。

入場からワクチン接種までは、ものの20分ほどだった。まずは書類のチェック。待ち時間は10分ほどで、かつ十分な数の椅子が用意されていた。小さな机にプラスチックのパーティションを付けただけのブースにパソコンが置かれ、予約の確認書と保険証をチェック。ブースの上には液晶画面に受付番号が表示されていて、空港の発着案内のようにパタパタと数字がめくられる音がする。本来、デジタルなのだから音はしないと思うのだけど、自分の順番が来たことを知らせるために、待機している人の注意を引く効果はありそうだ。ちょっとしたことだが、ピンポン音よりは気持ちが和む。

■問診を受けて接種ブースへ

予約のチェックをしたら医師の問診へ。次の誘導を待っているのは2人だけ。すぐに呼ばれて指示された番号のブースへと進む。事前に記入した問診票に従って体調や持病のあるなしを確認する。筆者の場合は気管支拡張症があるので、その症状(今、咳(せき)があるかどうかなど)を問われた。

シンティッレのワクチンセンターの問診ブース。通路の奥の突き当りを右にいくと接種ブースがある。
写真=新津隆夫
シンティッレのワクチンセンターの問診ブース。通路の奥の突き当りを右にいくと接種ブースがある。 - 写真=新津隆夫

筆者の問診をしてくれた医師は見るからに定年後の紳士だったが、妻と娘はインターンが終わったばかりとおぼしき若い女医だった。おばあちゃん先生もいるし、若い男性もいる。州の公報によると地域社会医療機構(公立病院の組織)に所属する医師たちだ。

問診のあとはワクチン接種のブースに進む。ブースには医療用の棚と、小さな革張りの一人がけソファ。この場に何時間も滞在するわけでもないから、機能性を考えれば折りたたみ椅子でもいいはずだが、こういう小道具に手を抜かないのはイタリアらしい。

目の前の棚にはあらかじめシリンダにワクチンの溶剤を注入された3本の注射器が並んでいた。バイアルは見られなかったが、問診の医師の説明によると、その日センターにあったのはファイザー社製のワクチンだけ。そうでない場合は接種者の年齢(例えばモデルナは18歳以上、ファイザーは16歳以上)によって使い分けているという。数日後、友人が同じ場所で接種した時にはアストラゼネカ製だけだったとのこと。

■注射そのものは一秒で終わった

注射自体はたった1秒で終わった。去年、肺炎球菌ワクチンを打った時にはぎゅうっと肩に液体を注入する時間が感じられたものだけど、今回はあまりにあっさりで、注射した場所を脱脂綿で押さえるということすらなかった。接種後にアナフィラキシー反応が出る場合に備え、「15分待つように」と指示を受けて、中央の待合エリアに移動する。

接種後のアナフィラキシーに備え、指示された時間待機する部屋。筆者は15分待ったが何も起きなかった。
写真=新津隆夫
接種後のアナフィラキシーに備え、指示された時間待機する部屋。筆者は15分待ったが何も起きなかった。 - 写真=新津隆夫

待機エリア内を見回して気が付いたのは、思いのほか若い人が多いこと。ニュースサイト「Milano Today」によると、ロンバルディアには指定疾患の患者が36万6000人、障がい者は28万3000人いるという。幸い妻と娘を含め、とくにアナフィキラシー反応は出ず、そのまま家に帰った。

5月7日現在、人口約1000万人のロンバルディア州で約400万人がワクチン接種を終えた。イタリア全体では約2300万人(イタリアの人口は約6000万人)。5月半ばにはほぼすべての州で50代の予約も開始される(ワクチン対象外の15歳以下は人口の約13%)。目下のイタリアでは「もうワクチン打った?」が挨拶代わりの言葉となり、国全体に前向きな空気が漂っている。

1年前、未知のウイルスのために街が完全に封鎖され、自宅から最大200メートルまでのエリアしか出ることが許されなかった時とは大違いだ。10万人を超す死者を出している国としては、もはやワクチンにすがるしか道はないという悲壮感もあるはずだが、それをも明るく陽気な空気に変えてしまうのはイタリア人の才能としかいいようがない。

■テキトーな国と見られがちだが……

電車が遅れても気にしない。店の計算が合わなくても大目に見る。時間厳守よりはマイペースが尊重される。ステレオタイプに見られるイタリアは悪く言えばテキトーな国である。しかし、長年イタリアに住む日本人を魅了するものは、この国の「やればできる子」感だ。

1990年代末、携帯電話が一般に普及し始めると、欧州でもっとも早く携帯電話の回線数が固定電話を超えたのはイタリアだった。2000年当時、まだ貴族の遊びにすぎなかったゴルフの世界でジュニア育成に力を入れ始めると、たちまち全米アマを兄弟で制覇したエドアルド・モリナリとフランチェスコ・モリナリや、2010年に16歳11カ月という当時の最年少記録でマスターズに出場したマッテオ・マナセロなどを輩出した。

今回のワクチンでも「やるときはやる」、そんなイタリアの一面を再確認する思いがした。

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新津 隆夫(にいつ・たかお)
ジャーナリスト、コラムニスト
1959年、東京・浅草生まれ。1993年「激安主義」(徳間書店)にてバブル後の激安ブームを牽引。1997年からイタリア在住。テーマはスポーツ、車、グルメ、政治、歴史、教育などイタリアのカルチャーすべて。主な著書に「丙午女」(小学館)、「会社ウーマン」(朝日新聞社)など。福岡RKBラジオ「桜井浩二 インサイト」に不定期出演。

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(ジャーナリスト、コラムニスト 新津 隆夫)

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