「インデックス投資」だけを続ける人は、高収入を得られる機会を逃している
プレジデントオンライン / 2021年5月20日 9時15分
■株式投資のリターンは「経済的リターン」だけではない
前回、長期投資で利益を得るためには、投資先企業個々の利益増大という「裏付け」が必要であると述べました。
私たちは、投資先企業について、世界中を飛び回り、経営者と面談したり、工場見学をしたり、競合企業にも話を聞きに行ったりしながら、一つひとつその裏付けを確認しています。現在はコロナ禍のためZoomや電話会議での情報収集になっていますが、絶え間なくこのプロセスを回すことで、投資先企業が将来も儲かり続けるという「仮説」を、一本一本ネジを締めるかのように地道に検証しています。
私は、30年近いマーケット経験、十数年に渡る長期厳選投資の経験から、このやり方で合理的なリスクを取りながら長期的に十分な経済的リターンを上げていくことに自信を持っています。そして、この投資手法には、経済的リターン以外にも確実に得られるリターンがあります。
それはビジネスパーソンとしての「学び」です。投資先を厳選するアクティブ投資を通じて学びを得ることで、あなたはビジネスパーソンとして、一段も二段も飛躍できることでしょう。
■「労働者1.0から脱却せよ」
皆さんは、何を考えながら日々の仕事をしていますか?
上司からの指示や顧客から受けた注文に対して、「どうすれば上司や顧客が気に入るのか」という「正解」を求めて、こなしているだけになっていませんか?
私に言わせれば、このような働き方は自分の頭で考えることなく「他人に働かされている」だけの状態です。私はこのような働き方を「労働者1.0」と呼んでいます。
単に上からの指示に従うのみで主体的に考える思考特性の無い人は、どんなに真面目に働いたとしても、ある程度のレベル以上に出世することはありません。プライベートを削って残業を増やすことで多少収入は増えるかもしれませんが、やがて頭打ちになります。身に付くものと言えば、その会社でしか通用しない社内調整のノウハウや蛸壺的な事務処理方法くらいのものです。おかしな上司に当たって心を病んでしまったり、意図せぬ部署に異動になったとしても、社外に活躍の場を求めることもままなりません。
そもそも、現代のビジネスの世界において「正解」などというものはありません。
かつてのモノが不足していた時代であれば、顧客は車や家電、住宅などの具体的に欲しいモノがあり、それをより効率的に提供することが「正解」でした。そのために均質な労働力、すなわち上司の指示通りに一定水準のアウトプットを出す能力が求められました。
しかし、現代は「モノ余りの時代」です。顧客のニーズはより抽象的に、見えにくくなっています。このような「正解のない」世界で勝つのは、上司の言いつけどおりにモノを作る人ではありません。
■ビジネスパーソンに必須の「学び」
現代のビジネスの世界で成功する秘訣は「問題解決のためのアイデア」です。つまり、顧客自身もまだ気づいていないような課題や、上司が最適と考えている業務プロセス上の問題を発見し、それを解決することで「価値」を提供することです。そのためには、顧客や上司の言うことを聞いているだけではなく、より広い視野を持たなければなりません。
その第一歩は、自分が携わるビジネス領域において、企業戦略や産業構造、市場動向を深く知ることが不可欠です。そのためには財務三表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)を読みこなし、それに紐付けて発想、思考をすることです。
いずれも、企業の経営者なら当たり前のように行っていることです。ゆえにその思考を身に付けることは、経営者の目線で物事を見ることに繋がります。日々の業務への問題意識の持ち方も変わってくるのです。
ただ、それらを身に付けるのは実際の業務のみではなかなか難しく、どこから手を付けていいのかわからないというのが現実でしょう。そのような人は、まず株式を購入してみて、投資先企業の財務分析してみればいいのです。自身のお金がかかっているわけですから、その企業の経営状況が気になるはずです。
■インデックス投資にはない「アクティブ」の学び
先のコロナ・ショックのように短期間で株価が20~30%下落することも起こり得ます。投資先企業の事業環境や財務基盤が安全かどうかをハラハラしながら勉強するでしょう。
成果が自分に返ってくるから必死で勉強する。必死で勉強するから学びが多い。こうして、自身がビジネスを生き抜く上で必要な学びを、株式投資を通じて得ることができるのです。
一般的に投資対象とされる(私に言わせればほとんどが投機ですが)ものは、国債、不動産、金、外国為替、仮想通貨など、株式以外にも数多くあります。これらは、成功すれば生活防衛にはつながるかもしれませんが、自身の本業に活かせるような「学び」を得ることはないでしょう。
また、以前述べたように、構成企業の取捨選択による新陳代謝が確保されてさえいれば、株式インデックスは非常に有効な資産運用ツールですが、数百社に及ぶその構成企業の一つひとつのビジネスに思いを馳せることは難しいでしょう。
せっかくの学びの機会が存在するのに、これではもったいないと思いませんか。だから私は、たとえ運用資金の一部でも、株式への「アクティブな」投資に回すべきだと思うのです。
■「投資家の思想」が自分の仕事に役立つ
株式投資を通じて、ビジネスへの問題意識が変わっていくと「自社が解決している課題とは何か」「自社が社会に向けて発揮している価値とは何か」に思いを巡らせられるようになります。
例えば、あなたが衣料用洗剤の営業担当者だとします。このとき、上から「売れ」と言われた洗剤を売っているだけでは、ビジネスとは言えません。
顧客が抱える問題の根本にあるものは何かを考え、その解決を図るのがビジネスです。ゆえに商品を売る際にも、「お客様が本質的に望んでいることは何か」「お客様の真の問題解決とは何か」を考えねばなりません。
ここで、お客様が望んでいるものは、本当に洗剤なのでしょうか? おそらく違います。真に望んでいるものは、きれいな服であり、洗剤はそれを実現するための手段にすぎません。
そう考えると、仮に洗剤なしで十分に汚れを落とせる洗濯機や、そもそも汚れが付かない繊維といったものが生み出されたら、洗剤など必要なくなってしまいます。洗剤メーカーのあなたとしては、競合メーカーの洗剤の価格を気にするだけでなく、そのような技術革新が起こらないかの分析が必要になるし、場合によっては、洗濯機や繊維の開発を上司に進言しなければいけません。
顧客の背後にどのようなニーズがあるのかを紐解いていかなければ、真の問題解決にはならないのです。
■投資先企業から問題解決の手法が学べる
私自身、こういった発想を投資先企業から学んでいます。
例えば、ラショナルという、ドイツの業務用厨房機器メーカーがあります。ラショナルが提供している「コンビスチーマー」という製品は、蒸気と熱風を自動制御する特殊なオーブンで、焼く、蒸すといった加熱調理工程を代わりにこなしてくれます。ユーザーであるレストランやホテルのシェフは、タッチパネルの操作一つで、様々な料理を同時に全自動で作ることができます。
ラショナルのオーブンは「キッチンのベンツ」と呼ばれており、1台100万円以上もする高価なものです。競合企業の製品は2~3割安く売られているケースもありますが、ラショナルは実に世界シェア50%以上を獲得しています。それにはどんな秘密があるのでしょうか?
実は、食材の仕入れから盛り付けに至る調理工程の中で、加熱工程は特に時間と手間がかかる割に、最終的に料理を食べる人には違いが分かりにくい工程です(もちろん、シェフに一定以上の技術水準があることが前提です)。つまり、レストランにとっては、かかる「コスト」と提供する「価値」が見合っていない工程なのです。
ラショナルはコンビスチーマーのパイオニアとして、蒸気と熱風をち密に制御する技術や自動洗浄など顧客の手間を減らす機能の開発、世界中の様々なレシピへの対応などを蓄積してきました。
顧客はラショナルのオーブンを1台入れるだけで、一定の技術を持つシェフを一人雇うのと同等の効果を得られます。加えて、エネルギーを効率的に使うことによる水光熱費の削減、調理の失敗による食材ロスの削減にもつながります。
■「労働者2.0」を目指そう
要は、ラショナルは、オーブンを売るのではなく、顧客の「問題解決」を売っているのです。これを「バリュー・プロポジション」と言います。顧客はオーブンに支払う価格以上のリターンを得られるため、世界中で飛ぶように売れるのです。
「自分は○○業界だから、オーブンの話をされても関係ない」と思った方は、「労働者1.0」的発想から抜けられていません。
私が言いたのは、ビジネスにおいて顧客の抱える問題を真に解決するためには、顧客のビジネスモデルや収益構造を熟知しなければいけないということです。これは全てのビジネスに当てはまる話で、業界は関係ありません。それを考える際に、世界中の強い企業へ投資をすることで素晴らしいヒントを得ることができるのです。
このように、自らのビジネスマインドを高め、組織に所属していたとしても主体的・能動的に働く人々のことを、私は「労働者2.0」と呼んでいます。
■一歩踏み出してみよう
株式投資をするといっても、まとまった金額を用意する必要はありません。日本株では数十万円必要になるケースが多いですが、米国株であれば数千円から始められます。毎月の給料から1万円だけでも積み立て投資を始めてみてはどうでしょうか。
個別企業を選ぶのは難しいという人は投資信託を活用する手もあります。
入り口はどのような形であれ、投資先企業のビジネスに関心を持ち、自分で考えてみることが重要です。
そうすれば本業においても、「社内でこんな提案をしたら面白いのではないか」「お客様にこんな提案ができるのではないか」といった意識や姿勢となって現れます。日々の仕事の仕方、顧客や上司からの評価が変わり、収入向上にもつながるでしょう。
株式投資はビジネスの最高の教科書なのです。
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農林中金バリューインベストメンツ常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
1992年京大法学部卒。ロンドンビジネススクール、ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS 証券を経て 2003 年に農林中央金庫入庫。2014年から現職。バフェットの投資哲学に通ずる「長期厳選投資」を実戦。機関投資家向けファンドの運用総額は3000億以上を突破し、その運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『教養としての投資』(ダイヤモンド社)がある。
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(農林中金バリューインベストメンツ常務取締役兼最高投資責任者(CIO) 奥野 一成)
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