「前回は大成功だったのに…」このまま東京モーターショーを消滅させてはいけない
プレジデントオンライン / 2021年5月21日 9時15分
■4月22日、開催中止が発表された
自動車業界の国内最大のイベントは「東京モーターショー」だ。1954年からこれまで46回が実施されている。近年は2年に一度の奇数年開催であり、今年は10月に開催予定だった。しかし、4月22日、主催者の日本自動車工業会(自工会)は、会長会見で今年の東京モーターショーの開催中止を発表した。
その理由は「今回、オンラインも使ったより魅力ある企画を検討してまいりましたが、多くのお客様に、安全・安心な環境で、モビリティの魅力を体感いただけるメインプログラムのご提供が難しいと判断し、開催中止を決定いたしました。」とのこと。端的に言えば、「コロナ禍」で開催できないというわけだ。まさに100年に一度の厄災とも言えるコロナ禍に襲われた東京モーターショー。この先どうなってしまうのだろうか。
■コロナ前から「来場者数の減少」が深刻だった
実のところ東京モーターショーの危機は、今に始まったことではない。コロナ禍よりも前に、すでに危機的な状況であったのだ。振り返ってみれば、前回の「東京モーターショー2019」では、輸入車ブランドの大多数が参加を見送った。参加した海外の自動車メーカーは、メルセデス・ベンツとルノー、アルピナだけ。フォルクスワーゲンやBMW、アウディなど、日本での販売上位となるブランドはいなかった。
それ以前から、東京モーターショーは来場者の減少に見舞われていた。そもそも東京モーターショーは、1960年代から2000年代後半まで、毎回100~150万人を集める人気イベントだった。ところが、リーマンショック後の2009年に、来場者が約61万4400人に激減。以降、来場者数は60~90万人で推移しており、前々回の2017年は約77万1200人だった。
■2019年は「テーマパーク」のような展示内容になった
がけっぷちにあった前回の東京モーターショーは展示内容が大きく変わった。ひとことでいえば「テーマパーク」のような展示になったのだ。「OPEN FUTURE」をテーマに、自動車だけでなく未来の暮らしや街にまで領域を広げ、体験型プログラムを充実させた。たとえばトヨタのブースには、量産モデルは1台も置かれなかった。60年以上続いた“新車のお披露目”という方針からの大転換だ。
この結果、2019年の東京モーターショーの総来場者数は130万900人で、前々回の77万1200人を大きく上回った。数字から言えば大成功だったといえる。
■欧米のモーターショーも苦戦中
モーターショーが苦しいのは日本だけではない。欧米での名だたるモーターショーも、同じように苦戦中だ。昭和から平成にかけて、「世界5大モーターショー」と呼ばれてもてはやされたのが、東京、デトロイト、ジュネーブ、フランクフルト、パリの5都市のモーターショーであった。
この中で、フランクフルトとパリのモーターショーは2018年ごろから、ドイツ・メーカーとフランス・メーカーが相手国への参加を見送るようになる。そのためフランクフルトもパリも、自国ブランド中心の国内イベントのような雰囲気に。その結果、フランクフルトでのモーターショー開催は2019年で終了した。開催地をミュンヘンに変え、2021年より再スタートが切られることになったのだ。
一方、北米で100年以上の歴史を誇るのがデトロイトのモーターショーだ。ところが、近年になって同時期(1月)にラスベガスで開催されるIT系展示会のCESの人気が高まるにつれ、存在感は低下することに。2020年よりデトロイトは開催時期を6月にずらすことになってしまった。クルマからITへ。時代の移り変わりを感じさせるトピックとなったのだ。
ちなみに、2020年に開催予定であったデトロイトとパリのショーは、コロナ禍により開催中止になった。2020年のジュネーブは、直前にリアルでの開催を中止にして、急遽、オンライン開催に変更した。コロナ禍収束の先行きが不透明な現状では、2021年のミュンヘンのモーターショーの開催も楽観視はできない。落ち目になったところでコロナ禍に襲われたモーターショー。まさに泣き面にハチという状態だ。
■新興国のモーターショーはコロナ禍に負けない人気
日本や欧米のモーターショーの多くが苦戦する一方で、まだまだ元気いっぱいなモーターショーもある。それが中国をはじめとする新興国のモーターショーだ。自動車マーケットとして、アメリカを抜いて世界一になった中国では、今もモーターショーに対する注目度は高い。そのため中国のモーターショーには中国の国内メーカーだけでなく、世界中の自動車メーカーが顔を揃える。日欧米のモーターショーとは対照的だ。
同じように、タイ、インドネシア、インドでもモーターショーの人気は高い。特に、アセアンなどの新興国のモーターショーは「新型車を見る」だけではなく、「新車を買うイベント」という側面もある。モーターショーでクルマを見比べて、その場(各メーカーのブース)にて商談を行う。各メーカーのブースの横には、ローンのための銀行の出張手続きコーナーまで用意されているのだ。「見る」だけでなく、「クルマを買う!」という熱気もアセアンのモーターショーにはプラスされているのだ。
そんな気合もあってか、中国はコロナ禍中の2020年9月に北京でのモーターショーを開催。2021年も4月に上海でモーターショーが開催されている。もちろん日系メーカーも参加しており、いくつもの新型車を発表している。また、タイでも2020年7月と12月にモーターショーを開催。インドも2020年2月に開催している。中止となったのは、インドネシアのモーターショーくらいであろう。新興国でのモーターショーは、コロナ禍に負けないほどの人気があるのだ。
■マーケットごとに求められるクルマが変わっている
日本や欧米のモーターショーは、開催国以外の国のメーカーが参加を見送っていることが特徴だ。世界のブランドが並ぶのではなく、国内ブランドが中心のイベントに変わりつつあるのだ。
これまで「世界5大ショー」ともてはやされた、過去の日欧米のモーターショーには2つの機能があった。ひとつは国内市場に向けてのプロモーション・イベントであり、もうひとつが海外へ向けての発信の場だ。モーターショーで発表したコンセプトカーが数年後には量産車として世界中に販売される。そのお披露目の場がモーターショーであったのだ。ところがインターネットの普及やリーマンショック後の景気後退、中国など新興国の市場拡大などにより、世界5大ショーの存在感は、どんどん小さなものとなった。
また、「グローバルモデル」という1種類のクルマで世界各地の市場に対応する手法も、かつてほど重要視されなくなってきた。今では、多くのメーカーはグローバルモデルも用意するけれど、各市場にマッチする特別な製品をしっかりと準備するようになっている。アメリカで売れたクルマが中国で売れるわけではない。アメリカ、中国、欧州、日本、アセアンでは、それぞれ求められる製品が異なるのだ。
マーケットごとに求められる製品が違うのだから、本国で1回発表すれば良いのではなく、売れる市場で、それぞれに発表する必要がある。ドイツやフランス、アメリカのメーカーは、重要な中国市場に注力したい。おのずと、お互いのライバル国である日本やドイツ、フランスのモーターショーからは足が遠ざかるというものだろう。そうした変化が2018年ごろから一気に加速していたのだ。
■国内のニーズに合わせて変化すれば生き残れる
では、この先はどうなるのであろうか。筆者として思うのは、世間は変化するものであり、決して元には戻らないということだ。モーターショーが世界へ発信する場という役割は、もう終わってしまうだろう。モーターショーがインターナショナルな存在ではなくなるのだ。東京をはじめ、デトロイトやパリなどの世界5大ショーが、世界中から注目されるような、かつての世界的な存在感を取り戻すことはもうない。5大ショーに世界中から記者が集まることもなく、当然、東京モーターショーでも、海外からの記者の姿は消え失せるだろう。
ただし、東京モーターショーが消えてなくなることはないはずだ。海外への発信という役割は終えたとしても、国内向けの販促プロモーションという機能は残る。東京モーターショーほど、人を集めるクルマ関連イベントはないのだ。とりわけ内容を「テーマパーク風」に変更して成功した前回「東京モーターショー2019」の成功は特筆すべきだろう。やり方次第で人を集めることは可能なのだ。
■東京モーターショーは、日本の自動車産業のバロメーター
日本車は、いまだに世界と戦える第一線級の商品力を持つ数少ないメイド・イン・ジャパン製品だ。中国でもアメリカでも、欧州やアセアンでもライバルと互角以上に戦っている。その日本車の競争力が落ちることは、そのまま日本の国力低下、つまりは私たちの生活が貧しくなることにつながる。
東京モーターショーの浮沈は、そのまま日本の自動車産業の力を見るバロメーターになるのではないだろうか。筆者からすれば、東京モーターショーが元気であれば、まだまだ日本の自動車産業も、そして日本も見込みがあると思えるのだ。だからこそ、コロナ禍が沈静化した後には、東京モーターショーが盛り上がってほしいと切に思うばかりだ。
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モータージャーナリスト
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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(モータージャーナリスト 鈴木 ケンイチ)
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