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「チームワークを重視しすぎる」日本人がサッカーでもビジネスでも欧米に勝てない根本原因

プレジデントオンライン / 2021年5月19日 9時15分

写真=iStock.com/SetsukoN

結果を出せる働き方とは、どんなものか。ドイツの金融機関で20年勤務した隅田貫さんは「日本人はチームワークを重視するが、行き過ぎると“忖度”になって生産性を下げる。同調圧力に抵抗することも必要だ」という――。

※本稿は、隅田貫『ドイツではそんなに働かない』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■なぜ日本人サッカー選手はゴール直前でもシュートしないか

スポーツ、ビジネスを問わず、欧米人は個人プレーが得意、日本はチームプレーが得意と一般に言われます。

ドイツはワールドカップで優勝するぐらいサッカーは強い国ですが、彼らは勝つことでチームワークをつくっていく部分があります。一方で、日本はまずチームワークをつくってから戦いに挑みます。これは面白い違いです。

海外のチームは反則すれすれのプレーをしてでも勝ちに行きます。卑怯な勝ち方がいいとは決して思いませんが、勝つことを最優先に考え、徹底的にこだわります。それを理解しておかないと、スポーツにおいてもビジネスにおいても、海外には対抗できないのではないでしょうか。

日本ではチームプレーを大切にするあまりなのか、ゴール前の、自分でリスクを負ってシュートできる場面でも、大事をとって味方にパスをしてしまうようなことがあります。「シュートを打ってしまえばいいのに」とファンが思ってしまう場面です。

もちろんピッチ上の選手は必死です。弱気にプレーをしている選手など1人もいません。それでも、果敢にゴールを狙うばかりでなく、時にパスを重んじ過ぎると思える場面があるのです。

■自分の仕事の本来の“目的”は何か

ドイツのプロのサッカーチームでプレーする日本人選手から、次のような話を聞いたことがあります。

隅田貫『ドイツではそんなに働かない』(KADOKAWA)
隅田貫『ドイツではそんなに働かない』(KADOKAWA)

「日本にいたときは、味方のことを考えてパスを出すことに重点が置かれていましたが、ドイツではパスはとにかく、相手(敵)の意表をついて、速く、そして『前へ!』ということを重視します。パスが出たあとは、担当ポジションの選手の仕事です」

私にも、「なるほど」と思い当たることがありました。

私は高校生時代に野球をやっていました。練習の最初は、キャッチボールです。その際に、「相手の胸をめがけて、相手が取りやすいところを狙ってボールを投げろ」と習いました。

もちろん野球の基本はキャッチボールであると今でも信じています。ただ、キャッチボール練習の目的が、「正しいフォームで狙ったところに投げるコントロールを養成すること」であるということをあまり深く認識せず、「相手の取りやすいところに投げること」に集中しがちであったように思います。

本来であれば、こうして基礎を養ったら、実戦においては「相手の取りやすいところに投げること」は決して優先順位の高いことではなくなります。

言ってみれば、ショートポジションの選手は打者のゴロを素早く、1塁手に投げることが目的であり、彼の取りやすいところに投げることが目的ではありません。乱暴に言ってしまえば、よほどの悪送球でもないかぎり、どんなことをしてでも捕球するのが1塁手の仕事です。

■“忖度”は生産性に影響する

相手のことを慮ることはとても素晴らしいことです。特に日本人の美徳と言っても過言ではありません。ただ、昨今の“忖度”ではありませんが、行き過ぎた慮りは、往々にして目的を取り違え、行き過ぎた同調圧力につながり、個々人の士気やチームの生産性にも影響を与えてしまいます。そしてこれは、スポーツに限らず、ビジネスの世界でも同様のことが言えると思います。

私は、日本人は「協調」と「同調」を取り違えているのではないかと感じるときがあります。

『大辞林』(第三版)によると、「協調」とは「力を合わせて事をなすこと、利害の対立するものが、力を合わせて事にあたること」。「同調」とは「調子が同じであること、ある人の意見や態度に賛成し、同じ行動をとること」という意味です。

■「同調」が不正やチャレンジしない姿勢を生む

協調は大事ですが、同調はデメリットが大きくなります。

若い社員が企画を提案しても、「うちの会社には向いてないから」といった理由で拒んでばかりいたら、結局新しいチャレンジなどできません。みんなが無難で似通ったアイデアばかりを出すようになるでしょう。

さらに同調が強まれば、不正があっても見て見ぬふりをするリスクも出てきます。内部告発で不祥事が発覚する企業がありますが、同調圧力が強いために、不正会計や偽装を行っていても社内では誰も何も言えなくなっていたのかもしれません。

■「自分は自分、人は人」というスタンス

確かに昔に比べて日本の労働市場はかなり流動化しています。転職は日常茶飯事。中途採用から役員まで上りつめる方も出ています。とはいっても、一斉採用、入社年次の重みは容易に変わりようがありません。

内部昇格が大半を占める中では、どうしても同調圧力に染まりやすいのではないでしょうか。

別の企業で実績を上げてから会社のトップに起用され、会社を立て直すようなケースは日本ではまだまだ少数派です。外部から来た人が管理職になると長年勤めてきた人たちは反感を抱き、社内の雰囲気が最悪になるという話は珍しくありません。

ドイツに限らず、多くの国では最初に入った会社でキャリアを積んでいくというより、転職を重ねながらステップアップしていくのが普通です。出世欲は当然ありますが、今いる会社での内部昇格を目指すのではなく、自分をいち早く好条件で迎え入れてくれる会社を探す中で、昇格のステップを踏みたいと考えています。

だから同調せずに「自分は自分、人は人」というスタンスでいられるのです。

日本では出る杭は打たれますが、ドイツでは出ない杭は評価されません。日本以外の国では後者が普通でしょう。

みんなが出る杭になる必要はないので、出ない杭でいる生き方を選ぶのもありだと思います。ただ、自分を抑えて一生出ない杭でいて、本当に幸せになれるのでしょうか?

孔子は論語で「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」という言葉を残しています。この言葉は、「すぐれた人は協調はするが、むやみに同調したりしない。つまらない人物はやたらと同調するが協調はしない」という意味です。つまり、すぐれた人は他人の意見に耳を傾けても簡単には流されない、ということです。

皆さんは、君子と小人のどちらを目指しますか?

■旅行から帰宅後にすぐ芝刈りをした理由

同調と協調について、もう少しお話しします。

家族と一緒に1週間ぐらい休暇に出て、家に帰って来た時のことです。

1階の窓に何かが貼ってあるのに気付きました。見ると、「芝を刈りなさい」と付箋紙に書いて貼ってあったのです。隣人からのメッセージであることは明らかでした。私は荷ほどきするのもそこそこに、庭の芝を刈りました。

ドイツには中世の建物が多く残っており、街の雰囲気を保つために景観に関してはかなり細かい規制があります。住宅地でも、芝刈りと雪かきについては厳格です。庭には明確な垣根がなく、隣家とつながっていたので、一軒だけ手入れしていないと余計に目立つという事情もありました。そういう時は容赦なく、「芝を刈りなさい」と周囲から言われるのです。

ドイツの冬は大雪が降るので、あっという間に雪が積もります。

正月休みを日本で家族と共に過ごし、戻ってきたら、我が家だけ庭にもガレージにも雪がこんもりと積もっていました。車をガレージに入れるには、まず雪かきをしなければなりません。3~4時間かけて、汗だくになりながら雪かきをしました。

雪かき
写真=iStock.com/FotoDuets
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FotoDuets

■きっちり自分の敷地だけきれいにする

どこの家も毎日のように雪かきをしているので、朝5時に外から雪かきをする音が聞こえてくると、私も飛び起きて雪かきをし、塩をまきました。いえ、正直に言いますと、大半は妻が汗をかいてくれたのですが……。ドイツには植物を枯らさずに雪を溶かすための塩があり、それをまいておくと雪が固く凍るのを防げるのです。

ここまでドイツ人が雪かきに懸命になる理由は、景観の問題だけではありません。もし歩行者が自分の家の前で雪や氷で滑ってケガをしてしまったら、その家に住む人の責任になるからです。賠償請求されると困るので、みなせっせと早朝から雪かきに励みます。

日本だったら、気を利かせて隣人の家の前も掃き掃除をしますが、きっちりと自分の敷地しかきれいにしないのは、合理的なドイツ人らしいな、と感じました。そこでもアサインメント(割り当てられた仕事)以外はしないという意識が働くのでしょう。

また、自宅で車を洗うときに洗剤を使うのは、土壌が汚染されるので禁止されています。これも環境を大事にするドイツならではのルールです。

■それぞれが目的を理解してルールに従う「協調」

こういう話を聞くと、ドイツで暮らすのは窮屈なように感じるかもしれません。

ただ、ドイツ人は同調圧力があるからルールに従っているのではなく、環境保護や街の景観を保つという目的があるから従っているのです。どちらかというと、常識に近い協調だと感じています。

同調圧力から抜け出すには、暗黙のルールに対して、「なぜ、それをするのか」とまわりに聞いてみるしかありません。たとえば、始業1時間前に全員そろって掃除をしなければならないというルールがあるなら、それが本当に必要なのかどうかを問うてみればいいのです。

「仕事だから当たり前」という理不尽な答えが返ってくるかもしれませんし、何も改善されないかもしれません。

それでも、何も疑問を持たずに闇雲に従うのは危険なことです。

「本当に必要か」「他に方法はないか」と常に疑問を持つことで、同調圧力に心まで飲みこまれずに済みます。

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隅田 貫(すみた・かん)
メッツラー・アセットマネジメント シニアアドバイザー、日独産業協会特別顧問
1959年、京都生まれ。82年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、MUFG(旧東京銀行)に入行。3回にわたるドイツ・フランクフルト勤務を経て2005年よりドイツ地場老舗プライベートバンクであるメッツラー・グループフランクフルト本社で日系機関投資家を対象とした投資顧問業務を担当。著書に『ドイツではそんなに働かない』(KADOKAWA)ほか。

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(メッツラー・アセットマネジメント シニアアドバイザー、日独産業協会特別顧問 隅田 貫)

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