「フジテレビ女子アナのステマ疑惑は氷山の一角」元テレ朝局員が明かす業界のホンネ
プレジデントオンライン / 2021年5月20日 11時15分
■「ステマ」に無自覚だった女子アナたち
4月15日発売の『週刊文春』がフジテレビの女性アナウンサーの「ステマ疑惑」を特報した。同誌によると、女性アナウンサーらが美容室からカットやパーマ、まつげエクステ、ネイルなどのサービスを無料で受けたという。見返りに、自らのインスタグラムに写真を投稿。広告塔の役割を果たし、それがステマにあたるのではないかと問題視する内容だ。
フジテレビは「ステルスマーケティングに該当する行為はない。法的には問題ない」と見解を示しているが、無料でサービスの提供を受け、そのことを隠してインスタグラムに写真を掲載する行為はまさに世間でいうところの「ステマ」ド本線だと言っていいだろう。
ステマは、特にモデルやタレントといったインフルエンサーが、自身のブログやインスタグラムを通して企業の商品を宣伝する手法だ。その広告効果は高く、企業はこぞって力を入れている。
この問題は今に始まったものではないが、一番の問題は、テレビ業界はステマに対する意識が非常に緩く、これまで表立って問題視されてこなかった点だ。実際に放送業界に30年近くいる筆者も、これまでに似たような話を何度も耳にしてきた。今回の「女子アナのステマ疑惑」は氷山の一角、起こるべくして起こったと言うことができる。
では、テレビの世界がどれほどステマに対して緩いものなのか。女性アナウンサーの「ステマ疑惑」の背景となる業界人たちの認識をみなさんにご紹介したい。
■「なぜ問題となるのかさっぱり分からない」
最初に話を聞いたのは、ベテランのスタイリスト・Aさん。実はAさんに「フジテレビの女性アナウンサーのステマ疑惑に関係して、話を聞きたい」と伝えた時、Aさんはこの問題の存在自体を知らなかった。
そこで筆者が報道内容を説明すると、Aさんはしばらく考えたのちに、こう話し始めた。
「えーと、すみません。それが問題になっているのですね? 何がいけないのか私にはさっぱり分からないのですけれど。そういうことはぶっちゃけどこの局のアナウンサーさんもやっていらっしゃると思うのですが」
そして、Aさんはこう続けた。
「私たちスタイリストは『プレスルーム』という、ファッションブランドなどの報道やPRを担当する場所に行って、番組で使用する衣装を借りることが多いのですが、こうした『プレスルーム』は、新商品などの発売時に『プレゼント枠』を設定します。例えばブランド物のバッグとか靴とかでも、『影響のある人5人にプレゼントする』ということで、その枠の中に女性アナウンサーの方が入ることは多いんです。イメージが良いですから」
■プレゼントの対価はSNS投稿
また、企業側がインフルエンサーとしての宣伝効果を狙って新製品をアナウンサーなどの出演者に無料でプレゼントし、受け取った側がその対価としてSNSに写真などをアップすることは日常的に行われている。先述のベテランスタイリストはこう話す。
「そして『プレスルーム』から私たちに『タレントさんやアナウンサーさんにつないでほしい』と声がかかります。ですから私たちが仲介して『こういうバッグをプレゼントしたいみたいですよ』と声をおかけすると、だいたいの皆さんは『あ、SNSにアップすればいいんですよね』とお答えになりますよ」
![スマートフォンにインスタグラムを表示](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/8/670/img_98ec9c58d60e5300cd0b014c194789a4242978.jpg)
そしてそうしたプレゼントは「それがなぜ問題となるのか、さっぱり分からない」というくらいの頻度で日常的にあるということである。
さらにAさんに「商品をタレントが使うことで、謝礼としてお金が支払われることはあるのか」について聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「通常出演者のみなさんは、あまり気に入らないようなものはプレゼントされても受け取りませんが、たまに現場などで『この人のセンスとは全然違うな』というようなものを身につけられている出演者さんに出くわすことがあります。明らかに違和感があるんです。この間も、クールな格好をしていることが多い若手のお笑い芸人さんが、かわいいキャラクターものの靴を履いていて、思わず笑ってしまいました。そういう時には、『この人はお金をもらったんだな』と思わざるを得ないですよね」
こうしたプレゼントを仲介することで、スタイリストにも何かの見返りがあるのか。
Aさん「私たちスタイリストには何もありませんよ。『Aさんにもいつもよくしてもらっているから』と商品をくださる場合も、たまーにありますけどね。『有名な人は、何万円もするものをいつもタダでもらえて羨ましいなあ』と思いながら、横で指をくわえて見ているだけですよ」と話す。
■あの手この手でメディア露出を狙う企業の広告活動
こうした「プレゼント」の対価として求められるのは、SNSへの掲載だけではない。情報番組などのディレクター経験が長いBさんは、こんなケースを経験したという。
「『とある情報番組のリポーターをしている女性に、時計をプレゼントできないか』という話が来たことがあります。リポーターさんはいつもマイクを持っているので、自然と時計が画面に映り込み、宣伝効果として高いそうなんです。ブランド物の時計だったのですが、そのメーカーの知り合いから私にオファーが来ました」
![ジュエリーをプレゼントされる女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/2/670/img_32adcc9fd98b38b31c286b1d94c9b64f317801.jpg)
「また、某局のアナウンサーさんなのですが、とあるアクセサリーの収集で有名な人がいます。毎日違うアクセサリーを身につけて番組に出演しているので『よくあんなにたくさんアクセサリーを持っているものだな』と思っていたら、その局の人から『彼女はあるアクセサリーショップがパトロンになっていて、そこのアクセサリーをつけて出演しているんだよ』と聞きました。局のアナウンサーなのに、そんなことがあるんだと驚きました」
さらに、制作会社のプロデューサー・Cさんはこう明かしてくれた。
「最近は、読者モデルなどの女の子が出演する番組も多いですよね。彼女たちは私服で出演するのがほとんどなのですが、そもそも『そのブランドの服を着る』という契約をメーカーとしてお金をもらっている場合が多いので、私服出演イコール『ステマ』になってしまうことが大半のはずなのですが、われわれ制作サイドには確認しようがないんです」
「私の担当する番組でも、出演者の『読モ』たちがいつもキャッキャしながら『あ、ヤバい! インスタに写真を上げなきゃ!』とか言って楽屋で写真をアップしているのを見かけましたよ。普通のタレントさんでも、専属スタイリストがついているような人だと、着ている衣装でリベートをもらっているかどうかは、確認する方法がありませんからね」
■報道・情報番組もステマに加担してきた
こうした「ステマ」が行われているのは、出演者の衣装だけではない。もっと深刻な問題があると指摘するのは、ドキュメンタリー系の制作を得意とするプロデューサー・Dさんだ。
「最近でこそ、だんだん厳しくなってきましたが、かつてはニュースの特集や情報番組の取材先から制作会社がこっそりPR会社などからお金をもらってその会社の商品を取り上げることが結構ありました。局に企画書を出す時に自然にその商品を潜り込ませれば、バレることはほぼありませんからね」
「ちゃんと『タイアップ』ということで局側に話を通していれば問題にはならないんですけど、報道・情報系の番組ではなかなか認めてくれないんです。だからコッソリやる訳です。でも制作会社が不当に儲けようと思ってやっているわけではありません。番組制作費があまりにも安いから、赤字にならないようにということで仕方なくやっていたんです」
報道・情報番組などの取材が「裏金」によって歪められてしまうのは大問題だ。さすがにそうした事態は、今は改善されつつあるようだが、相変わらずテレビ関係者の「ステマ」への認識は甘いと言えるのではないだろうか。
■無料で得たものの代償は大きすぎる
ステマの一番の問題点は、一般の人が気づかないところに、分からないように宣伝を紛れ込ませることによって、人々が自由な選択をすることを阻害している点にある。
企業側の広告活動の一環で、メディア露出を狙い、テレビに出演する芸能人に商品を身につけてもらったり、プレゼントする場合が日常的に行われている。ただ、これらをすべて「ステマだからけしからん」と批判できない難しさはある。とはいえ、情報を扱う女性アナウンサーや番組制作者は別だ。特に敏感にならなければならない。
かつてテレビ業界は「ステマ」的なお金で足りない制作費を補ってきた。しかし、インターネットメディアに触れることの多い現在の視聴者にとってそれは「とんでもない情報操作」と捉えられかねない。こうした「ステマ疑惑」が報じられることで、テレビはメディアとしての信頼性を一層失いかねない。明らかに得るものより失うものが大きすぎる。
局も出演者も、まひしてしまった感覚を改め、姿勢を正さなければテレビに未来はないのだ。ぜひ、今回の女性アナウンサーの「ステマ疑惑」をうやむやにせず、再発を防ぐ手を講じることでより良い番組制作環境をつくっていってほしいと思うのだ。
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テレビプロデューサー・ライター
92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。 Officialwebsite:https://shizume.themedia.jp/ Twitter:@shizumehiro
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(テレビプロデューサー・ライター 鎮目 博道)
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