「スキマ時間にできる副業」に飛びつく人がハマる"中堅会社員の沼"
プレジデントオンライン / 2021年5月23日 11時15分
※本稿は、高橋浩一『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。
■選ぶ自由を得るための条件
書店に足を向ければ、自己啓発書のコーナーにたくさんの本が並んでいます。
「好きなことで生きていく」「ストレスのない人生」「不安や悩みから解放される人生」「やりたいことをやりなさい」……。
人生の自由を獲得することについて、心惹かれるキャッチコピーやいろいろなメッセージが飛び交っています。
しかし、働き方が多様になったメリットを享受するためには、一つの大きな前提があります。それは、「選択の自由度は、人から必要とされる(声がかかる)度合いに比例する」ということです。
選択肢が広がったのはいいことですが、仕事を依頼する側から「ぜひあなたに」という声がかからなくては、望む選択はできません。目の前の仕事で声がかかるようになって初めて、「選べる」人生が見えてくるのです。
「ぜひあなたに」という声がかかる人にとっては、働き方が多様になる動きは追い風です。一方で、すべての人が「選べる自由」を手に入れられるわけではありません。
選択肢を前にして、誰もが最初にぶつかる葛藤は、「生活のための収入を得る仕事と、未来に向けた種まきの活動とのバランスをどうとるか」ということです。
ここでは、面倒くさいからと思考停止して判断を放置したり、感情に流されたりするのではなく、戦略的に考える必要があります。
■柱の持ち方の3タイプ
ここで、「働き方における柱の持ち方」について、大まかな3つのタイプをあげてみましょう。
①本業に集中:目の前の仕事に集中して成果を出したい
世の中ではいろいろ言われていても、やっぱり組織の中で働くことが好きだし、今の仕事が自分に合っているという人がいます。本業で成果をあげることを通じて会社に貢献していると考え、満ち足りている状態です。
他の柱が見えていても、目の前の本業に集中することが、将来の選択肢を増やすことにつながると思えていればこのタイプです。
②副業に挑戦:収入を少しでも増やしたい/新しいチャレンジをしてみたい
副業によって、収入のマイナス分を補填できることもあるでしょう。あるいは、副業が「新しい世界を覗く」きっかけになることもあります。
副業をやる時間的な負荷をおってでも、先々の人生の幅が広がると信じられるなら、副業に挑戦する価値は十分にあります。
③複業:いろいろやりたいが、どれも本業
一つの仕事や会社に縛られたくないという人がいます。好奇心旺盛で人付き合いの幅が広く、いろいろやっていることはどれも本業、と思っている人です。このタイプは、自分の興味関心に応じて、さまざまなことを経験し、活動の幅を広げていきます。
さて、今のあなたはどれにピンときますか。
■働き方を選ぶときにぶつかる壁
変化が激しい時代では、「働き方」に関する情報が溢れていて、選ぶのが難しくなっています。ここで掲げた3つの類型は、どれが正解というものではありません。人によって合う・合わないがありますし、人生のステージによって柱の形が変わることもありえます。
ただ、大事なのは、「人から必要とされるからこそ、働き方を選べるようになる」ということです。
「本業に集中」か「副業に挑戦」、あるいは「複業」なのか。自分にとってはどれがピッタリくるのだろう……など想像されたことと思います。
先ほど「選択の自由度は、人から必要とされる度合いに比例する」というお話をしました。では、働き方を選ぶ上でどういう壁にぶつかりやすいのでしょうか。
私は、これまで人材育成の仕事で、5万人以上と接してきました。そこで、中堅以上のビジネスパーソンが働き方を選ぶ際に「よくあるお悩み」をざっと整理してみました。
②思うように評価されない
③セルフブランディングができていないことに焦る
④今の会社にやりがいを見いだせない
⑤予定を埋めすぎて時間の余裕がない
⑥SNSで他人と比較してしまう
これらについて、よく陥りがちな落とし穴とともに解説していきます。
①そもそも、どんな選択肢があるかわからない
現状を変えたいと思ったら、まずはいろいろと調べてみようと思うのは自然な流れです。ただ、そこでの注意点は、情報収集と勉強自体が楽しいために、それにハマってしまうことです。
情報収集と勉強だけを続けていても、目の前の世界は変わりません。行動しなければ現実にインパクトは起こせないのです。
手元に情報が増えるほど、頭でっかちになり、一歩が踏み出せないままに時間ばかりが経ってしまいがちです。
②思うように評価されない
ウェブの記事で「スキマ時間にできるお小遣い稼ぎの副業」は、人気ジャンルの一つです。また、キャリアアップのために、本業へ注ぐエネルギーを抑えて、自己研鑽に力を入れる人もいます。
副業や自己研鑽については、いきすぎて本業がおろそかにならないよう、注意が必要です。目の前の仕事で評価されない原因がわからないまま、他で頑張るだけではなかなか光が見えません。
③セルフブランディングができていないことに焦る
インフルエンサーの情報発信を見て、そっくり真似て実行する人がいます。ただ、誰かの情報発信をそのまま同じようにやったからといって、うまくいくとは限りません。情報発信は、あくまでも手段の一つです。SNS上での影響力を発揮することばかりにエネルギーがいくと、中身を磨くのがおろそかになりがちです。
④今の会社にやりがいを見いだせない
勤務先に不満があるからと、準備が不十分なままに退職してしまう人がいます。働きながらだと、転職活動や独立の準備に時間をかけられないという理由からです。しかし、「声がかかる」状態になっていないと、会社を辞めたことで退路がなくなるケースがあります。次の収入のあてや貯金が十分になければ、心の余裕も失われてしまいます。
⑤予定を埋めすぎて時間の余裕がない
いくつものことを同時にこなす「多動力」という言葉は、高城剛氏や堀江貴文氏による提唱から広まりました。人生をできるだけたくさん楽しむために、予定を埋めすぎる人がいますが、卓越したタイムマネジメント力がないと、身動きがとれなくなります。また、大事なことをじっくり考えられず、「本当に自分のエネルギーが向くこと」が見つからないと、忙しさに疲れてしまいます。
⑥SNSで他人と比較してしまう
今の仕事に不満はないし、お金や人間関係でも深刻な問題は抱えていない。このご時世に、そんな状態であれば、かなり幸せかもしれません。しかし、SNSを見れば、「成功しました!」という投稿が溢れています。そういった情報を見て、思わず人と比べて凹んでしまう人もいます。
■「悩みの沼」に沈み込まない
私は、『なぜか声がかかる人の習慣』執筆にあたり、中堅以上のビジネスパーソン300人に対して、1年かけて「働き方を選ぶ」をテーマにヒアリングしました。働き方を「選べない側にいる人」と「選べる側にいる人」とは何が違うのかに興味があったのです。
多くの方と話しているうちに、うまくいっている人が押さえているポイントが見えてきました。
先ほど並べた「よくある悩み」は、気をつけないと深くハマってしまいます。いわば「悩みの沼」です。しかし、沼に沈み込まず、うまくいっている人もいます。「働き方を選べる側にいる人」は、自分なりの「型」を持っているのです。
■自分の「型」を持っているか
例えば、「そもそも、どんな選択肢があるかわからない」「思うように評価されない」という悩みに対してはどうでしょうか。
うまくいっている人は、自分のメリットをいったん横に置いておき、目の前の人に喜んでもらう小さな行動を積み重ねる「スモールステップ」を踏んでいます。
貢献することで相手が喜んでくれるのは、わかりやすい成功体験になります。それが積み重なると、「あなたが必要だ」と声がかかることが増えていきます。人から声がかかってくれば、自信もつきます。この状態になると、ある程度の「選べる自由」が手に入ります。
また、「セルフブランディングできていないことに焦る」「今の会社にやりがいを見いだせない」といったケースについて考えてみます。
先ほど、インフルエンサーのやり方をそのまま真似ても成果は出にくいという話をしました。だったら、全面的に真似るのではなく、取り入れられるところを選択的に取り入れてみるのはいかがでしょうか。
■与えられた答えに身を委ねない
一時、話題になった論調として「学校に行く必要はない。今どき、何でもインターネットで学べるから」というものがありました。確かに、学校に行かずとも、自分で必要なことを学べる人は存在するでしょう。しかし、すべての人が、必要なことを自ら選んで学習するスキルを備えているわけではありません。
であれば、アドバイスのうちの一部、「何でもインターネットで学べる」は参考にした上で、学校へ通うかどうかは別の問題として検討すればよいのです。うまくいっている人は、一人のロールモデルや一つのアドバイスを決定的な「柱」として身を委ねることはしません。
同様に、働き方を選ぶ上でも、一つの仕事ですべての要素を満たそうとするのではなく、いくつか試してみるなかで、それぞれの活動を位置づけながら、複数の柱を組み合わせています。「キャリアアップの実績を積むのはこの仕事」「人と交わる楽しさを得るのは趣味の活動」「成長体験はプロボノで」といった具合です。
「予定を埋めすぎて時間の余裕がない」「SNSで他人と比較してしまう」はどうでしょう。情報過多の現代では、振り回されないように、自分なりの軸を持つことが必要です。自分は、何が好きで何が得意なのか。どうすれば人の役に立て、必要とされるのか。何をしているときが楽しいのか。こういったことに、すっと答えが出てこないときは要注意です。
うまくいっている人は、定期的に振り返りをすることで、望む方向に進んでいるかを確かめています。ノートに書いたり、人と話したりと、手段はいろいろありますが、自分が振り回されないように心を整えるルーチンを持っているのです。
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TORiX株式会社 代表取締役
東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社へ創業参画(取締役副社長)。1日100件のテレアポ新規開拓や数十人の営業組織をゼロから作るなど、同社上場に向けた足がかりを作る。2011年にTORiX株式会社を設立し、代表に就任(現職)。上場企業を中心に50業種3万人以上の営業強化を支援。行動変容を促す構造的アプローチに基づき、年間200本の研修、800件のコンサルティングを実施。8年間、自らがプレゼンしたコンペの勝率は100%を誇る。主な著書に『無敗営業「3つの質問」と「4つの力」』『無敗営業 チーム戦略』(ともに日経BP)、『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)など。
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(TORiX株式会社 代表取締役 高橋 浩一)
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