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「カギは"よそもの"と"わかもの"」価値観のミックスがこれからのビジネスに必要な理由

プレジデントオンライン / 2021年5月20日 11時15分

青森駅に隣接するシードル工房「A-FACTORY」の外観。 - Interior Design=Wonderwall Photo=KOZO TAKAYAMA

これから私たちはどのように働き方を変えていけばいいのか。JR東日本に入社後、『ecute』プロジェクトを立ち上げ、「エキナカ」の文化を定着させた鎌田由美子さんは「よそものとして地方や異業種などのアウェイに飛び込み、新しい知見は積極的にわかものから学びとることが重要になる」という――。

■「見た目が悪い」という理由で二束三文にされるリンゴを活用

JR時代の地域活性化事業の中でも、特に青森の「A-FACTORY」事業からは多くの学びを得ました。

「A-FACTORY」は、青森の名産品であるリンゴからできるシードル(発泡酒)の工房です。シードルの試飲もでき、カフェ、地元の加工品や野菜、果物を取り扱うマルシェも併設しており、観光客だけでなく地元の方も訪れるスポットになっています。

もともと東北新幹線新青森駅開業に合わせ地元貢献できる「何か」を考えて企画しました。地域の資産を活用して、観光に貢献でき、さらに拡大の可能性を秘めたもの、という視点で考えた時、思い浮かんだのがシードルでした。規格に合わない、見た目が悪いという理由で二束三文になってしまうリンゴを活用し、フランスノルマンディーにあるようなシードルを中心にした観光地ができたら楽しいなと考え、シードルやアップルブランデーの工房を企画しました。

これまでディベロッパーや販売の経験が長かった私がなぜ加工に興味を持ったか。それは、現場で見た光景や聞いた話との価値観の違いに驚いたからでした。見た目の美しさや規格が全てで、その基準に合わないリンゴは二束三文の値段にしかならず「つぶしてジュースにする」という話を訪れる先々で聞きました。そして、加工をすること自体「めぐせえ(みっともない)」。そんな言葉に驚きました。

■「自分たちの仕事の8割は捨てる仕事だ」

大きく見た目の良いりんごを作るために、花が10咲けば、そのうちの8摘み取り、さらに実を付けたうちの10から、また8をピンポン玉くらいの大きさの時に摘み取る。「もったいない」と思うのは「よそもの」の発想で、農家の人たちにとってはすこしでも大きく見た目のよいりんごを育てるための当たり前の作業。袋をかけたり全体にまんべんなく光が当たって赤くなるように調整したり、かける手間は多大なもので、「自分たちの仕事の8割は捨てる仕事だ」という言葉も聞きました。

青森駅に隣接するシードル工房「A-FACTORY」。シードルからアップルブランデーまでを作る工程がガラス越しに見える。
青森駅に隣接するシードル工房「A-FACTORY」。シードルからアップルブランデーまでを作る工程がガラス越しに見える。(Interior Design=Wonderwall Photo=KOZO TAKAYAMA)

農家の方々は、リンゴを規格の上位の形に育て上げ、高い価格で出荷しようと努力しています。しかし「よそもの」から見ると、「全部のりんごで大きさや見た目を追求しなくてもいいのでは」「小さかったり、傷がついてしまったリンゴであっても、付加価値のつく加工での使い道はあるのでは」と感じたのです。

産地の常識では「大きく育てて高く売る」ことがりんご農家のやるべき仕事。その中でできてしまう小さいものは「二束三文で売るか、価格が合わなければ捨てるしかない」。そして、きれいで大きく育てるための重労働から廃業も増えているという状況。ここからおもしろいことができるのではないか、という思いがシードル工房の発想につながりました。

建築デザインとインテリアデザインは世界的に有名なワンダーウォール片山正通さん。個性的な建物も青い海の背景に溶け込み、おしゃれな空間でシードルの製造を見ながら飲み比べができるコーナーも人気です。今では青森県内だけで30近いシードル工房ができ、新規のいずれもが小規模で個性ある味を造りだしています。今ではシードルは地元の名産品に育ち、観光客だけでなく地元の若い人たちにも人気の定番商品に育っています。

■「もったいない」ものがたくさんある

青森のリンゴに限らず日本には、素材への少しの工夫で、新たな顧客接点の可能性があると感じます。地域にはそんな価値と魅力に溢れた素材や文化がたくさんあります。

鎌田由美子さん
鎌田由美子さん(撮影=市来朋久)

そういった、日本のこれまで培ってきたものの本質は、SDGsやエシカルといった、これから世界的にますます重要になる価値感にもぴったりです。「もったいない」という言葉が一時、日本が世界に打ち出すべき伝統的価値観である、として注目を浴びました。しかし、日本でも食料廃棄問題は大きく、家庭だけでなく、産地での、味にも品質にも何も問題がないのに「規格外」だからという理由で見向きもされない「もったいない」ものがたくさんあります。

このSDGs、日本でもファッション誌の表紙を飾るようになり、すこしブーム的なきらいも指摘されています。賛否はありますが、日常の中でこういった言葉が当たり前になることに、個人的にはいいことだと感じています。しかし、フェアトレードやアニマルウェルフェアなどの倫理的視点に基づいた商品が、価格面でも日常になるのにはまだ少し時間がかかりそうな感じがします。

■モノだけでなく人もサイクルに組み込まれていく

日本がこれから、世界を舞台に戦えるそんな素材が各地に山とあります。エシカルな観点からも、地産品はビジネス面でも大きなポテンシャルを秘めていると思います。ただ、そうした製品を手掛けている生産者の人たちにとっては、あまりに身近過ぎてその生産品や商品が持つ価値に気づいていない、ということも多いのです。そこでダイバーシティでもある「よそもの」の視点が必要になるのです。

青森駅に隣接するシードル工房「A-FACTORY」。シードルからアップルブランデーまでを作る工程がガラス越しに見える。
Interior Design=Wonderwall Photo=KOZO TAKAYAMA
青森駅に隣接するシードル工房「A-FACTORY」の様子。 - Interior Design=Wonderwall Photo=KOZO TAKAYAMA

素材そのものが持つ価値を生かしながら、生活者が求めている形に近づけるだけで、手に取ってもらえるようになる。生産者や地元が気づかない価値と、お客様である生活者のニッチなニーズをつなぐ、そんな橋渡しをしたいということからONE・GLOCALを立ち上げ、ものづくりにも自ら参画し、地元との共創事業に取り組んでいます。コロナ禍で働き方や生き方の価値観も大きく変わった方も多くいます。地域に根ざす一次産業を身近に感じてもらえるチャンスでもあり、そんな人達が関われる場にもしていきたいと願っています。

サーキュラーエコノミーはこれからの消費のベースだと思います。自然や地球環境に良い循環は、別の良い循環を生み出しもします。例えば先のシードル工場。「リンゴ農家を継ぐのは嫌だ」と一度は出ていってしまった若い人たちが、「シードルも作れるなら携わりたい」と実家に戻り、農家を継いだという話を何軒も聞きました。

素材のりんごと、加工品のシードルを両方作るという広がりは、農業から離れがちだった若い世代を再び農業に引き込むことができ、さらに新事業を軸に農家同士の横の連帯が生まれてくれば、より大きな、地域の新しい事業に挑戦することもできます。りんごというモノだけでなく人もそのサイクルに組み込まれていくのです。

■誰もが「よそもの」を受け入れる側にもなりうる

「よそもの」の視点が必要だ、といった際に多くの方が危惧される通り、それまで縁のなかった人があるコミュニティに入っていく際には、最初は誰しも警戒されるものです。お互いの相性もあり、スムーズに入って行けるケースもあれば、一年経ってもなじめないというケースもあります。しかし、それは勇気を出して、入っていってみなければ分からないことです。

そもそも、誰もが自分の村を出て隣町に行けば「よそもの」。自社を出て他社に行けば「よそもの」です。と同時に、誰もが「よそもの」を受け入れる側にもなりうる。常に外側からの視点や価値観をミックスし、あるいは自分が外側からものを見ることによって、新しい視点や価値が生まれる――。私自身、その効果をこれまでのビジネスを通じて実感してきました。

■デジタル時代において重要な「リバースメンタリング」

今はコロナ禍で「よそもの」としての行動がしづらい状況にありますが、デジタル化、ダイバーシティの推進、環境への意識の高まり、この3つはこれまで以上に急速に進むはずです。どれも新しいことではなく、ずいぶん前からこんな時代がくるといわれていて、後回しにしてきたものばかりです。

デジタル時代においてはリバースメンタリングもより重要になります。世代によって持っている知見は異なります。若い世代から上の世代が学ぶことで、会社がやりたい施策に新しいアイディアや手法を得られることが多くあります。環境への意識の高まりはグリーンエネルギーという大きな流れだけでなく、実は身近なところにできることやビジネスチャンスが多く眠っています。

ダイバーシティは企業でも管理食や役員の男女比率が相変わらず議論になりますが、そこはそもそも論。さらに視点を広げて、様々な経験を持つあらゆる世代の人たちの視点や価値観をビジネスの現場に取り入れることがより重要になってくるのはいうまでもありません。「よそもの」として都市から地方へ人が動くこともそれぞれの視点を交差させることにつながり化学反応が起きやすくなります。

■海外に出る機会の減少は、将来の日本にとってマイナス

今、心配なのはコロナによって、若い人たちが人と会ったり、海外に出る機会が減少していることです。そして日本経済の体力低下のしわ寄せが若者に行ってしまうと、資金力のない若者が海外に行く意欲も失い、成長の機会も減ってしまう。これは将来の日本の国力にとってもマイナスだと感じます。

鎌田由美子『「よそもの」が日本を変える 地域のものづくりにチャンスあり』(日経BP)
鎌田由美子『「よそもの」が日本を変える 地域のものづくりにチャンスあり』(日経BP)

そのような思いも込めて、2021年3月に『「よそもの」が日本を変える 地域のものづくりにチャンスあり』(日経BP)という本を上梓しました。「アフターコロナの経済のヒントが詰まっている」「よそものとして飛び込む勇気と元気が出てきた」などの声をいただいていますが、驚いたのは、HPに読後の感想が何通も送られてきたことでした。

「今の働き方でいいのか」や「人生100年時代に退職後のことを真剣に考え現在の仕事と平行して行動を起こそうとおもった」などの声はまさに私自身が悩みながら言葉にしたかったことでもあります。私はこれからも「よそもの」として、私自身楽しみながら、一次産業を元気にする仕事に飛び込んでいきたいと考えています。

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鎌田 由美子(かまだ・ゆみこ)
ONE・GLOCAL代表
1989年JR東日本入社。2001年エキナカ事業を手がけ、「ecute」を運営するJR東日本ステーションリテイリング代表取締役社長。その後、本社事業創造本部で地域再発見PTを立ち上げ、青森「A-FACTORY」や地産品ショップ「のもの」など地産品の販路拡大や農産品の加工に取り組む。15年カルビー上級執行役員。19年、魅力ある素材の発掘や加工を通じ、地域デザインの視点から地元との共創事業に取り組むべく、ONE・GLOCALをスタート。20年4月までロンドンのRCA(Royal College of Art)に留学。社外取締役や国、行政、NHKなど各種委員、茨城大使など地域にも深く関わる。

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(ONE・GLOCAL代表 鎌田 由美子 構成= 梶原麻衣子)

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