「品性下劣とはこのこと」ワクチン接種に平然と割り込む首長たちのあさましさ
プレジデントオンライン / 2021年5月19日 11時15分
■内閣支持率は政権発足以降、最悪に
日本中から悲鳴が聞こえてくる。
新型コロナウイルス対策が場当たり的だ、ワクチン接種が遅いという批判の声である。
共同通信社が5月15日、16日に行った電話調査では、コロナ対応策を評価しないというのが71.5%、ワクチン接種が遅いというのが85%にもなった。当然ながら菅内閣への不支持率は47.3%と、政権発足以降最多となった。
同じ日に行われた朝日新聞社の世論調査でも、不支持率は47%だから、国民の半分近くが菅内閣を支持していないということになる。
内閣支持率は共同が41.1%、朝日は33%と、まだ3人に1人ぐらい支持者がいるというのが、私には理解できないが、それはひとまず置いておく。
各メディアの世論調査の数字に一喜一憂する菅義偉首相は、支持率浮揚の最後の頼みは、ワクチン接種と東京五輪開催だったが、まず、ワクチン接種で大きく躓(つまず)いてしまった。
さらに、五輪開催についても、アスリートたちから開催への疑問が噴出してきている。
テニス界からは、大坂なおみが「オリンピックは開催してほしいと思っている」としながらも、「オリンピックが人々を危険にさらすのであれば、(中略)私たちは今すぐに議論すべき」だといった。
錦織圭は自身もコロナ感染した経験を持つため、「オリンピックは死者を出してまで行われることではない」といい切った。
■運動会はできないのに五輪はやる不条理
経済界からは、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長が米CNNのインタビューで、「日本が今夏に東京五輪を開催するのは自殺行為だ」と語った。先の世論調査でも、五輪中止が共同は59.7%、朝日は「中止」と「再延期」を合わせて83%にもなった。
もはや「東京五輪中止」は大勢になりつつある。だが菅首相や、五輪招致のために「福島第一原発から出ている汚染水はアンダーコントロールされている」と嘘をついてまで開催にこぎつけた安倍晋三前首相も、開催を強行する構えだ。
菅首相の本心は分からないが、答弁で「国民の命と健康を守って」と十何回も繰り返しながら、心ここにあらずという表情や自信のない姿を見ていると、何もかも投げ出してここから逃げ出してしまいたいと考えているように思える。
西日本新聞(5月14日付)が、緊急事態宣言下の福岡で、運動会の中止や延期が相次いでいると報じている。
福岡市内の小学校で、校長が「楽しみにしていた運動会は中止することにしました」と校内放送で告げると、生徒から悲鳴が上がり、「寂しすぎる」と泣きだす児童もいたという。40代の女性教諭は、「なぜ東京五輪はできて運動会はできないのか」と憤ったそうだ。
菅首相はこの教諭や子どもたちに、その違いを分かりやすく明確に説明できるのか。
■早くワクチンを打ちたい一方で…
さて、私が住んでいる東京・中野区でも、ワクチン接種が始まった。かつては革新区政だったこともあり、そのかすかな名残だろうか、昨年の一律10万円の特別定額給付金配布も「アベノマスク」も比較的早く届いた。今回のワクチン接種も他の区より少し早いようである。
しかし、古い町だけに高齢化の進み具合も早く、5人に1人が高齢者である。総人口は約34万人だから、7万2000人ほどいる。後期高齢者のワクチン接種の申し込みは5月10日から始まり、すぐにいっぱいになった。
バス停で会う90近い元気な老婦人は、かかりつけ医に15分間、何度も電話してようやく予約が取れたと憤慨していたが、保健所などに応募者が殺到して、区の係員が慌てて中止したという騒ぎは、この区では聞かないようだ。
といっても、スムーズに予約が取れるわけではない。私はネットで申し込んだが、根がのろまということもあるのだろう、クーポン券番号を入力している時に締め切られてしまった。
次回は21日からだから、首尾よく予約できたとしても接種を受けられるのは6月になるだろう。
接種を急いでいないわけではないが、私は75歳で、長年、高血圧と糖尿病があり、薬を欠かせない。接種後に亡くなった人が39人もいると聞くと、もう少し遅くして、どれくらい副反応が出るのか、様子を見たほうがいいかもしれないとも思っている。
厚生労働省によれば、有識者検討会は、このうちの9人を「評価できない」、11人を「評価中」としていると発表しているが、個々の死亡理由は分からない。
■接種した翌日、突然意識を失った
週刊現代(5/22・29日号)は、亡くなった人たちのケースを取材している。
北海道旭川市に住む木下隆弘(仮名・享年46)は、3月19日にワクチン接種を受け、その翌日に亡くなってしまった。彼は旭川市にある旭川赤十字病院で事務職員として働いていたため、医療従事者として接種を受けた。
当日に腕の痛みを感じたという。翌日、朝から「背中が痛い」と妻に訴えたため、近所の整形外科に行ったが、別の病院で診てもらうようにいわれた。
だが帰宅後、木下は突然意識を失い、いびきをかき始めた。救急車で勤務先の旭川赤十字病院に運ばれたが、搬送された時点で心肺停止状態だった。
死因は、身体の中で一番太い血管である大動脈が裂ける急性の大動脈解離で、70代以上に発症することが多いが、40代、しかも身長が180cmもあるがっしりした体格で、特に持病はなかった彼がなぜ?
福岡県で3月23日に亡くなったのは太田彩(仮名・享年26)。県内の公立病院で看護師として働いていた。元々小児科病棟で働いていたが、病院がコロナ患者を受け入れることになり、彼女もその担当になった。
■ご飯とみそ汁が残った状態で…
彼女がワクチン接種を受けたのは3月19日。ワクチン接種によって血栓ができて亡くなった人がいるというニュースを見て、本人は「怖い、打ちたくない」といっていたそうだ。
接種後4日目、出勤してこない彼女を心配して、病院から両親のほうに連絡があり、父親が彼女のアパートへ見に行くと、朝食を食べている時に異変が起きたようで、テーブルにはご飯とみそ汁がそのままになっていたという。
病院でCTスキャンした結果、脳出血とくも膜下出血を起こしていた。女性では60~70代に多いといわれる。なにも健康上のリスクを抱えていない20代の女性が発症するのは極めて珍しいという。
中には基礎疾患を抱えていた人もいる。4月1日にワクチン接種を受け、翌日に亡くなった62歳の男性は、高脂血症や糖尿病などの血液がドロドロになる基礎疾患があったため、抗血栓薬を服用していたという。88歳の男性が接種当日に亡くなったケースもある。
現代によると、39人のうち、脳出血・くも膜下出血が8人、大動脈解離で2人が亡くなっているそうだ。
■この人数は氷山の一角だろう
コロナワクチンの治験に関わっているニューヨーク大学医学部臨床医のパーヴィ・パリークは、日本のケースを見ると、全国で約440万回の接種が行われ39例の死亡が確認されているということは、100万回接種当たりの死者が約8.9人となり、これはインフルエンザワクチンの110倍という数字だと驚きを隠さない。
無視していい数字ではないというが、現代もいっているように、39人という数字は氷山の一角であろう。なぜなら、北海道のケースでは、病院はワクチン接種による死亡例だと厚労省に報告していなかったのだ。
遺族側から病院に働きかけて、厚労省に報告してもらったという。報告するかどうかは医師の裁量が大きいため、報告しないケースがかなりの数あると考えてもいいはずだ。
太田彩の父親がいうように、政府はワクチン接種と死因の因果関係は本当にないのか、きちんと調査して国民に説明すべきである。
私のような下層階級の高齢者は、少ない数のワクチンを打ってもらおうと役所に押しかけ、PCの前で慣れないネットに日がな取り組み、1日でも早くと神に祈るような気持ちで順番待ちをしているのに、既得権を使ったり、カネの力にものをいわせて役所に圧力をかけたりして、優先的にワクチン接種をしてもらう輩が全国で次々に発覚している。
品性下劣とはこういう人間たちのことをいうのである。
■首長の“抜け駆け接種”が相次ぐ
「自治体の首長らへの新型コロナウイルスワクチンの先行接種が14日、少なくとも北海道、栃木、群馬、茨城、埼玉、神奈川、静岡、三重、岐阜、兵庫、和歌山、佐賀の12道県計20市町村以上で新たに判明した。中には職員を含む100人規模で受けた町も」(スポーツニッポン5月15日付)
「埼玉県寄居町の花輪利一郎町長(76)は自身や副町長のほか町職員約100人が『医療従事者等』として一般高齢者に先行して接種したと記者会見で明らかにした。『接種会場で介助している。接種業務の従事者として、町を挙げての一大事業に率先して取り組む必要』と説明した。
また、茨城県大洗町の国井豊町長(55)は、医療従事者向けに届いたワクチンを4月30日に接種した。大洗町によると、国井町長は町消防本部消防長を兼務。消防職員も優先接種の対象とする、町の規定に沿って接種したとしている。
ほかにも、北海道小樽市や礼文町、積丹町、栃木県大田原市、岐阜県山県市、同県北方町、兵庫県高砂市の首長らが医療従事者用や高齢者用の余ったワクチンを接種。静岡県伊豆市や三重県の亀山市と明和町では『危機管理上の判断』としている」(同)
■会場を設営したら「医療従事者」?
茨城県城里町の上遠野修町長(42)は会見で、接種したのは4月28日だったと明かした。
26、28日に、町内の医療従事者162人に集団接種するつもりだったが、12人分がキャンセルになり、接種会場の受付などを担当する町職員9人と幹部ら3人に接種したと話した。
上遠野町長のいい分は、「自身が接種会場となる診療所の設置者で医療従事者に準ずる」と主張している。
「兵庫県神河町の山名宗悟町長(62)は集団接種初日に受けていた。山名町長は、朝日新聞の取材に『危機管理を担う立場から接種した。町民に事前に伝えておらず信頼を裏切ったことをおわび申し上げる』と陳謝した。山名町長は、毎週会議などで訪れる病院内での感染リスクを考え、キャンセル分の接種を受けたと説明した」(朝日新聞デジタル5月13日付)
兵庫県三田市の森哲男市長(69)は、一般高齢者を対象にした集団接種が始まる前の13日に接種を受けていた。
「市秘書広報課によると、森市長は13日午前、医療従事者向けのワクチンに余りが出たという連絡があり、急きょ接種を受けた。感染で市政運営に支障が出ないようにする危機管理のためだったという。同市では一般高齢者への集団接種は17日からを予定しており、森市長は『時期が早かった点については、慎重に対応するべきだった』」と話しているという」(朝日新聞デジタル5月13日)
■「余った先」を想定しないのは首長の責任だ
5月14日の『めざまし8』(フジテレビ系)で、MCの谷原章介がこの問題を取り上げていた。視聴者からネットでアンケートをとった結果、優先接種してもいいという意見が59%で、よくないという41%を上回った。
谷原や一部のコメンテーターは意外そうだったが、私は、この結果を予想していた。小なりといえども市町村の首長は、責任の重大さから鑑みても、優先接種を受ける資格があるし、そうすべきだと思う。
だが、それには前提条件が付く。
コロナ感染拡大を防ぐために最前線に立ち、陣頭指揮をして、コロナに感染している患者たちを直接見舞い、勇気づける行動をするというのなら、ワクチンを優先的に打ってもらうことに何ら恥じることなどない。
市町村の住民たちも納得してこころよく受け入れてくれるはずである。
だが、わが身可愛さから優先接種していた首長が続々出てくるのを見ると、ふざけるなと、怒りで体が震えてくる。
ワクチンが余ったから打ったといった町長がいた。余ったら順番を待っている高齢者に連絡するのが当然ではないのか。
前もってそういう想定をしておかなかったのは、首長の責任である。
それだけではない。愛知県西尾市の近藤芳英副市長が、スギ薬局を展開する「スギホールディングス」の創業者で西尾市に住んでいる杉浦広一会長(70)と妻の昭子(67)の予約枠を優先的に確保するよう担当部署に指示していたことも判明した。
近藤副市長は、「スギ」側がしつこくいってくるので仕方なく、集団接種が始まる5月10日の接種予約を仮押さえするよう便宜を図ったと、会見で話した。
■甘い汁を吸う連中は五輪関係者にも
こうした“唾棄すべき”輩はまだまだ出てくる。週刊ポスト(5/28日号)は、大阪府の大阪維新の会の中谷恭典府議が、感染した患者が入院できる確率は10人に1人といわれるのに、「優先入院」できたことに、府民の間から疑問の声が上がっていると報じている。
既得権益という甘い汁を吸う連中は、東京五輪関係者の中にも山ほどいると、やはり週刊ポストが報じている。
万が一東京五輪が開催されれば、バッハIOC会長や各競技団体の幹部たちのために、「The Okura Tokyo」など4つの超高級ホテルを全室リザーブしてあるそうだが、1泊300万円のスイートに泊まっても、IOC側の負担は1泊400ドル(4万3000円程度)までで、後は組織委が負担することになっているという。
また感染防止のために、選手たちは当然だが、大会関係者の移動まで、「新幹線一車両貸し切り」「航空機はチャーター便」だそうだ。
日本の組織委の幹部たちの待遇も破格だという。常勤役員の報酬は月額200万円にプラス交通費、通勤費、旅費宿泊費などの経費が支給されているそうだ。これでは「五輪中止」などといい出すわけはない。
■日本でも刑事罰を作るべきではないか
私は、国会議員の中にも密かにワクチン接種をしている人間がいるのではないかと疑っている。
すでに海外ではそのような事例がいくらでも起きている。
南米ペルーでは2月、ビスカラ元大統領(58)が在任中だった昨年10月、臨床試験段階だった中国シノファーム製ワクチンを接種していたことが発覚している。ビスカラは「治験に協力した」と弁明したが、妻や兄にも接種させていたことも明らかになった。
アルゼンチンでも2月に保健相が知人たちに優先接種させていたことが判明し、VIP向け予防接種だと批判を浴びて辞任に追い込まれた。エクアドルでも大統領らが優先接種して保健相が辞任している。
ブラジルでは、優先接種対象でない市長や保健担当者の割り込み接種が各地で発覚したため、国会は予防接種の優先順位を無視した場合は犯罪とするという法案を可決したそうである。1~3年の拘置や罰金刑が科され、公職に就く者は刑がより重くなるという。
日本では、事が起きないうちに、このような法律を作っておくべきではないか。
緊急事態宣言下で、国民に自粛を強いながら、自分たちは銀座のクラブで遅くまで飲み歩いていた国会議員がいた。感染拡大を阻止して医療崩壊を防げと警鐘を鳴らしていた日本医師会の中川俊男会長が、政治家の政治資金集めの会の発起人を務め、挨拶して恥じないお国柄である。
■最後にやるべきは「強行開催」ではない
新型コロナウイルス感染拡大をここまで阻止できないでいる要因の最たるものは、安倍前首相や菅首相が有効な対策を打ってこなかったことである。
思いつきのような緊急事態宣言の発令を3回も繰り返し、3回目は17日間では短すぎるという専門家たちの意見を無視してやったが、案の定、途中で期間も地域も拡大せざるを得なくなってしまった。
菅首相よ、今すぐに東京五輪の中止または再延期を発表して、コロナ感染拡大阻止一本に取り組むと宣言すべきだ。
これ以上この国の民の尊い命を失わないために、残りの任期を、コロナ対策に全力で打ち込め。雪深い秋田から東京に出てきて、なりふり構わず出世の階段を上ってきたあなたが、最後にやるべきは汚れちまった東京五輪開催強行ではない。
感染拡大が一段落したら、あなたの好物のパンケーキを肴に、紅茶と日本酒で乾杯しようではないか。(文中敬称略)
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ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)
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