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「グランプリ1位が乱立」外食チェーンの唐揚げ専門店に共通する強みと課題

プレジデントオンライン / 2021年5月22日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jonathan Austin Daniels

唐揚げ専門店が増えている。専門店の市場規模は前年比120%超えとなる勢いだ。なぜ人気が加熱しているのか。経営コンサルタントの大久保一彦氏は「唐揚げブームの前はとんかつ専門店ブームだった。価格が安く、味のバリエーションの多いことから、取って代わられた」という――。

■唐揚げマーケットは前年比23.1%増見込み

今、「唐揚げ店」が急成長している。2020年6月に発表された富士経済のレポートによれば、唐揚げをメインとして提供するイートイン、テイクアウト両方の店舗を対象としたマーケットは2019年853億円から2020年には1050億円の見込みであると発表された。2019年比で23.1%増となる勢いで、コロナ禍でありながら際立って好調だと言えるだろう。

同レポートによれば、「2019年は『から好し』を中心に、アークランドの『からやま』『からあげ縁』『「鶏笑」なども店舗数を増加させ、市場規模は2018年比41.0%増となった。2020年も上位チェーンの新規出店が続いている」とのことだ。

このレポートではハンバーガーや回転寿司などその他の日常的な業態も取り上げられているが、唐揚げは市場規模の前年比伸び率が最も大きく、非常に注目すべき存在になっていることがわかる。

■唐揚げブームの前はとんかつブームだった

テイクアウトの唐揚げ専門店は大分県中津市をはじめとする九州の一部地域で以前から展開されていた。それが2010年ごろから全国に出店するようになり、その流れが東日本大震災以後の経済不況によって加速。外食チェーンも次々と参入した。

外食企業の新業態というと、2017年~2019年ごろはとんかつ専門店がトレンドだった。コロワイドグループの「とんかつ 神楽坂 さくら」(2016年)、ロイヤルホールディングスグループの「とんかつおりべ」(2018年)、リンガーハットの「とんかつ大學」(同)、ハイデイ日高の新業態「とんかつ日高」(2019年)などがこれに当たる。

2019年にオープンしたとんかつ神楽坂さくら五反田店
画像=レインズインターナショナル プレスリリースより
2019年にオープンしたとんかつ神楽坂さくら五反田店 - 画像=レインズインターナショナル プレスリリースより

それがコロナ禍以降、よりプライスゾーンが低めで日常性が高い唐揚げ業態に移行した。自宅での食事機会の増加、飲食店の営業時間短縮や酒類の提供自粛要請などがあり、短時間での食事や持ち帰りの需要が激増し、各チェーンの出店に勢いが増している。

■ご馳走ではないが嫌いな人が少ない優秀メニュー

なぜ唐揚げ専門店が躍進するのか。理由は大きく分けて5つある。

(1)日々の食生活での喫食頻度が高い

簡単に言えば「毎日の生活の中でよく食べられるメニュー」ということだ。唐揚げは決してご馳走という位置づけではないが、人気のおかずであり、嫌いな人が少ない。

単体でもおかずになるし、脇役的な位置づけもこなすことができる。唐揚げ弁当のようにメインを張ることもあれば、ラーメンやおにぎり、サンドイッチとのセット、カレーのトッピング、お酒のつまみなどいろいろな利用シーンで活躍する。

この背景には、日本において鳥肉は丸鳥でなく若鶏(ブロイラー)の切り身で流通していることが挙げられる。唐揚げでよく使用されるブロイラーは肥育期間が短く、比較的安い食材として流通している。ブラジルなどからの輸入となると他の肉類にはない価格で仕入れることができる。

ブロイラーは肉自体に味わいはない。だが、柔らかく、唐揚げのようにしっかり味をつければおいしくいただける。

ブロイラーの導入が始まったのは戦後からだ。大戦後の食糧難を経験した日本の家庭の食卓においては、たいへんありがたい存在であり、唐揚げはカレーなどとともに食卓のおかずに定着して、喫食頻度が高くなった。

■仕込みから提供までアルバイトでも運営できる

(2)唐揚げ専門店は運営しやすい

唐揚げ専門店という業態は、絞り込んだアイテムで運営できる。新規開店から1週間程度でオペレーションを軌道にのせられるため、大量出店が可能となる。

また、アイテムが少ない強みを活かして、自動フライヤーを導入して中心加熱温度を考慮した調理設定をすれば、安定した商品提供ができる。そのため、仕込みから提供までのオペレーションがパート・アルバイトで運営しやすい。

この点において、アークランドサービスホールディングが唐揚げに目をつけたのは、母体の「かつや」に通じるところがある。

(3)家庭の食の外部化による後押し

女性の社会進出や高齢者を含む単身世帯の増加で、食の外部化が進み、家庭内で揚げ物がされなくなった。高齢者にとって揚げ物は火災のリスクなどがあり、油の処理も大変だ。年々日本の家庭では揚げ物をしなくなっている。これは揚げ物全体のマーケットの拡大に寄与していると考えられる。

(4)味付けのバリエーションが可能

唐揚げより前にブームだったとんかつ屋は、とんかつソースやおろしぽん酢などのソースで食べさせるものであり、単体ではどうしても味の差別化がしにくい。しかし、唐揚げは香辛料を含めた味付けのバリエーションに消費者が寛容だし、それ自体を店の特色にすることができる。

(5)低いプライシングが可能

(1)で述べた通り、輸入ブロイラーは安い。月々の食費やお小遣いの総額は総菜店・弁当店・外食店利用の大きな制約要因である。低い値付けができるということは利用頻度が高くでき、他の業種に比べて有利に働く。

■「かつや」のアークランドは唐揚げ店2ブランドを運営

こうした背景から、唐揚げ業態に進出する飲食チェーン企業は後を絶たない。

そもそも唐揚げブームが加熱したきっかけは、2014年12月19日にアークランドサービスホールディングス株式会社が、浅草の名店「からあげ縁‐YUKARI‐」とコラボレーションして、神奈川県相模原市にからあげ専門店「からやま相模原店」を開店し、店舗展開を始めたことにある。

ちなみに、同社は本格的な展開に備え、2015年9月1日にアークランドサービスホールディングス株式会社から会社分割して、子会社のエバーアクション株式会社を設立。同年10月には「からあげ縁‐YUKARI‐」を運営するBAN FAMILY株式会社を子会社化し、からあげ専門店を2ブランド抱えることとなった。

2017年にはすかいらーくグループが「から好し」を新業態としてスタート。同年末は首都圏4店舗だったところから2018年6月末には33店まで急成長している。

独立タイプの「から好し」店舗
画像=すかいらーくホールディングス プレスリリースより
独立タイプの「から好し」店舗 - 画像=すかいらーくホールディングス プレスリリースより

すかいらーくにしてみれば、メニューバリエーションやアイテム数が大幅に削減されたわけで、運営してみて「これはすごい」と思ったことだろう。現在は同グループのガストにおいても「から好し」の唐揚げを販売している。

■急拡大するワタミ×テリー伊藤の「から揚げの天才」

ただし、唐揚げは専門店の形態で販売したほうが格段に売れる。売れない会社は品ぞろえがとにかく多い。高い売価で売るならまだしも、低価格では製造から提供までのオペレーションが複雑になり、売れなくなるのだ。

ワタミも、同社創業者の渡邊美樹氏と、タレントのテリー伊藤氏が出演するラジオ番組内の企画から誕生した唐揚げと卵焼きの店「から揚げの天才」を展開している(2018年〜)。

「から揚げの天才」三軒茶屋店
画像=ワタミ プレスリリースより
「から揚げの天才」三軒茶屋店 - 画像=ワタミ プレスリリースより

しっかり味をつけた3種類のバリエーションがあって60グラムと大きめな唐揚げに加え、テリー伊藤氏の実家が営む卵焼き専門店のノウハウで、おかずの王道をふたつ押さえての営業である。ふたつの核があるとはいえ、うまく効率化されている。FCも大々的に募集して全国展開している。

■どの店で買うか? 肉のこだわり

これほど店舗が乱立する中で、消費者は何を頼りに店を選べばいいのか。

唐揚げは、使用する原材料により販売価格が大きく異なる。低価格の商品を販売する場合は主にブラジル産のブロイラーが原料となる。低価格でなくてもそうなることのほうが多いだろう。

輸入のブロイラーを使えば鶏のボリュームも出せるし、売価も低くできる。ブロイラーは前述の通り、肉質は柔らかいが味がない。しかし、唐揚げは比較的下味をしっかりつけるので、その弱みは解消できる。

たとえば福岡近郊で展開している「博多とよ唐亭」はかなり低い値付けで、人気を博している。筆者も食べたことがあるが、安価でおいしい。全国的には知られていないだろうが、地元で約40店舗ほど出店している。こうしたローカルチェーンの安さとおいしさを楽しむのもアリだ。

■高い唐揚げは仕入れルートと技術に裏打ちされている

一方、肉にこだわるなら、国産の若鶏、さらに品質にこだわるならシャモ、名古屋コーチンなどの地鶏を使うことになる。販売価格は高くなるが、調理がしっかりできればおいしい唐揚げができる。

ただし、地鶏は、肥育日数が管理された農場を選ばないと固い肉を提供することになる。例えば、名古屋コーチンには“かたい”イメージがあると思う。それが良さだと言う人もいるが、本当の良さはもちっとした食感にある。そういう名古屋コーチンを提供するには120~130日の安定した肥育日数で出荷をしなければならない。

多くの場合、出荷のタイミングが合わないため、出荷待ちとなる。すると、“かたい食感”になるわけだ。逆に、短くても味がのらない。微妙なのである。売価が高い地鶏の唐揚げは仕入ルートと調理技術が必要になる。

さらにこだわる店は油もこだわる。米油は加熱に強く、胸焼けしないので、新興の唐揚げ店でも用いることが多くなった。

■「グランプリ1位」をうたう危険性

最後にもうひとつ、重要なポイントがある。最近、各地で唐揚げのコンテストやコンクールがさかんに行われるようになった。

2018年に開催された「からあげフェスティバルNo.1決定戦」会場の様子
画像=オヤマ プレスリリースより
2018年に開催された「からあげフェスティバルNo.1決定戦」会場の様子 - 画像=オヤマ プレスリリースより

消費者が初めての店や商品を選ぶとき、深層心理に「失敗したくない」という気持ちがある。グランプリやコンテストで優勝したなどの「タイトル」があれば、失敗しないだろうという安心感をもたらし、訴求力がある。だから、PRによく利用される。

ただし、繰り返しの購買につなげたい場合には逆効果になることが多い。「金賞受賞!」と大きくうたわれれば買う側の期待が自然と高まり、結果として食べたときに「そこまででもない」という評価を生みやすくなってしまうからだ。

■いかに期待させない店構えをつくるか

繰り返し購買をさせ、長期的に繁栄するためには、いかに期待させず食べてもらい、事後評価を上げるかが重要になる。グランプリうんぬんにこだわりすぎない店作りをすることは唐揚げ店の課題になってくる。無名な店であるほど、ださいくらいの店構えで自画自賛しすぎず、期待させない店作りが大切なのだ。

基本的に消費者はおいしい店や唐揚げを食べたいのではなく、いろいろな店や唐揚げを食べ歩きたい。いわゆるイノベーターやアーリーアダプターと言われるような目が早い人たちに「このお店は自分が見つけた」という感覚を持ってもらえれば、情報発信にもつながりやすくなる。

使用している鶏肉の銘柄や油へのこだわりををうたっているかどうか、どんな店構えにしているか、ぜひいろいろな店を調べたうえで、食べ比べてみてほしい。

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大久保 一彦(おおくぼ・かずひこ)
経営コンサルタント
1965年神奈川県生まれ。飲食店チェーン数社を経て株式会社グリーンハウスフーズ(現グリーンハウス)に入社。「とんかつ新宿さぼてん」の低コストオペレーションの仕組みをつくり上げ、多店舗化を成功させる。1997年にコンサルタントとして独立。著書に『いつも予約でいっぱいの「評価の高い飲食店」は何をしているのか』(ぱる出版)、『行列ができる店はどこが違うのか 飲食店の心理学』(ちくま新書)などがある。

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(経営コンサルタント 大久保 一彦)

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