「チョコの漬物として誕生した」明治ガルボがしぶとく生き残れたワケ
プレジデントオンライン / 2021年5月28日 11時15分
■漬物からヒントを得た「含浸製法」
明治の「ガルボ」はビスケットにチョコレートを染み込ませた独特の食感が特徴のチョコレート。オフィスで働く女性を主なターゲットとして展開してきた。
ガルボ誕生の背景について、明治マーケティング本部カカオマーケティング部の東奈央さんはこう話す。
「『たけのこの里』や『きのこの山』といった商品に代表されるように、1990年代のチョコレート菓子はチョコレートとクッキーが分かれているのが一般的でした。それに対して、菓子開発を行う研究所の当時の社員が『チョコレートと焼き菓子が一体化した新しいお菓子を作りたい』と考えたのです」
ビスケットにチョコレートを染み込ませるアイデアは「漬物」から得たとカカオ開発部の宮崎翔太さんは説明する。
「漬物などで用いられる圧力操作で液体を染み込ませる製法をヒントにして、液状のチョコレートに圧力をかけ、ビスケットに浸すことを考えました。そして、ビスケットにチョコレートを染み込ませる含浸(がんしん)製法を編み出すことに成功し、1996年9月にガルボを発売するに至ったのです」
■発売当初は「会社の休憩時間」に食べられていた
1996年の発売後は、ガルボの認知度向上を図るために女優・広末涼子を起用したテレビCMを大々的に放映した。
その時に、ガルボの支持層となったのが、コンビニを利用する女性たちだった。
「発売当時、コンビニはトレンドの商品がいち早く並ぶ『情報発信基地』として知られていました。そんな中でガルボが陳列棚に並ぶと、『新食感ミステリー』というパッケージコピーや手軽に買える大きさなどが相まって、出勤時にコンビニを利用する女性を中心に支持されたんです。当時は、会社での休憩時間に『お茶と一緒にガルボを食べる』という食べ方をされていました」(東さん)
■「手につかない」ガルボは、ワークスタイルの変化で生まれた
2000年代に入ると、インターネットの普及に伴い、パソコンでのデスクワークが主流になっていった。このようなワークスタイルの変化に合わせて2005年に発売したのが、「ガルボ ミニ」(※記事冒頭の画像参照)だ。
サイズを従来の「ガルボ」の半分程度にするだけでなく、チョコレートを手につきにくくするコーティング加工を施し、デスクワークの際に食べやすいように工夫を凝らしたのだ。
「2000年代になると、お茶の時間を設けて仕事の手を休めるのではなく、デスクワークをしながら自分の好きなときに休憩を挟み、お菓子を食べるスタイルに変わりました。そこで、デスクワーク時に食べやすく、かつ手を汚しにくい商品を出そうと考えたんです。今ではガルボの特徴として『手につかないこと』が挙げられますが、1996年の開発当初は、そのような機能的価値を入れる予定はありませんでした。デスクワークの合間に、どんな商品なら食べてもらいやすいかを考えた結果として、『コーティング加工を施して、手にチョコをつきにくくする』というアイデアにたどり着いたのです」(東さん)
■シリーズ商品を続々発売したものの、多くは終売に
「ガルボ ミニ」の発売を皮切りに、ラインアップはさらに拡大されていった。
ガルボならではの含浸製法から生まれる独特の味や食感を生かして、より多様な食ニーズに応えるために、コンセプトを変えたガルボシリーズを展開していったのだ。
2008年に「ガルボチップス」、2010年に「ガルボボール」、2011年に「ガルボキューブ」、2012年に「ガルボツイスト」、2014年に「ガルボプレミアム」と「か~るいガルボ」を次々発売した。
「ただ、2015年時点で残ったのは『ガルボ ミニ』と『ガルボプレミアム』だけだったんです。軽い食感の、チョコスナック系のアイテムはすべて終売していました。それを踏まえて、『ブランドとして、これからどうあるべきか』を次第に考えるようになりました」(東さん)
ターニングポイントとなったのは2016年。明治の創業から100周年という節目の年だ。
ガルボもブランド20周年を迎えるにあたり、新たにブランド価値の再構築をするべくプロジェクトチームを発足した。
「会社全体として、ブランドごとの商品価値やアイデンティティーを見直すタイミングでした。そんな状況下で、ガルボも『この先どのようなブランドにしていくか』を決めるべく、チョコレートの市場環境の変化や、強豪他社の商品がある中でのポジショニングなどを社内で議論したんです」(東さん)
■「箱タイプ」をやめて「パウチパック」を追加
2017年には「ガルボ ミニ」を「ガルボ」として、ブランドリニューアルを敢行した。
この時点で、ガルボはコンビニを中心に販売するポケットパックとスーパーを中心に販売する箱タイプの2種類のパッケージで展開していた。だが、箱タイプの売れ行きが好ましくなかったことから販売を終了。ポケットパックとパウチタイプの2種類へと切り替えた。その理由を東さんはこう振り返る。
「ライフスタイルやオフィスでの過ごし方の変化により、今度は仕事の合間に『小腹満たし』をするためにお菓子を食べるシーンが出てきました。そこで、好きな時に好きな量だけ食べて保存ができるパウチ包装を検討したのです。そのような食べ方とガルボは相性がいいと考えたからです。お客様を主軸に据えて商品開発していくのは、今も昔も変わりません」
■ようやく実現した「ホワイトチョコレート」の含浸
現在ガルボは「ガルボ チョコ」「ガルボ つぶ練り苺」「ガルボ ほろにがブラック」「ガルボ 香りとコクのホワイト」の4種類が定番のラインアップで、シーズナルの限定商品は年に3~4品出している。
これまで発売したフレーバーの中で、何が一番ヒットしたのだろうか。東さんは、「2016年に発売した、ホワイトチョコを含浸させた『コク旨キャラメル』が非常に好評でした」と答える。
「これまでのガルボはミルクチョコレートを含浸させていましたが、『コク旨キャラメル』はホワイトチョコレートを染み込ませた焼き菓子をキャラメルチョコでコーティングしています。市場へ出したところ、『今までにない斬新な味を楽しめる』という評判が立ち、人気を呼びました。現在はシーズナル商品として販売していますが、レギュラー商品でも、ホワイトチョコレートを含浸させた商品として『ガルボ 香りとコクのホワイト』があります」
ミルクチョコレートもホワイトチョコレートも、チョコレートだから染み込ませる製法は同じではないかと思うかもしれない。しかし、実際には「ホワイトチョコレートを含浸させて商品化するまでに何度も試行錯誤を繰り返した」と宮崎氏は語る。
「ホワイトチョコレートはミルクチョコレートと同じように含浸させることはできません。カカオ由来の油分が中心であるミルクチョコレートに比べ、ホワイトチョコレートは牛乳由来の油分が多いため、染み込ませ方が異なります。この技術開発に多くの時間を費やしたのです。2016年に開発できたことで、『コク旨キャラメル』の発売にこぎつけられました」
■「オフィスで食べる」を減らしたコロナ禍
コロナ禍でオフィスへの出社機会が減っている。消費者志向が変化し、巣ごもり需要が増える中、オフィスシーンをターゲットにしていたガルボは、どのような訴求を意識してブランドコミュニケーションをしているのだろうか。
「コロナ禍でテレワーク中心になり、オフィスへの出社機会が減りました。それに伴い、ガルボを食べてほしいシーンも、会社のデスクから在宅ワーク中へと変化しました。テレワークを実践する人の悩みとして『オン・オフの切り替えができない』という声をよく耳にします。そこに対してガルボが持つ独特の食感や濃厚なチョコレートの味わいなどが“仕事と休憩のスイッチ”を切り替える役割になれたらと考えています。すきま時間の気分転換や仕事の息抜きのお供として、ガルボを手に取ってもらいたいです」(東さん)
■ガルボは「消費者のライフスタイル」と一緒に変化してきた
4月2日から放映されたガルボのテレビCMでは、女優・小松菜奈を新CMキャラクターに起用した。働く女性をターゲットに「気持ち切りかえチョコレート」と銘打ち、仕事の息抜きやリフレッシュの場面で手に取りたくなるイメージを打ち出している。
「ガルボは時代の変遷に合わせ、消費者のライフスタイルに寄り添ってきた商品なので、これからも『ガルボらしさ』を生かしたラインアップを増やしていきたいと考えています。小腹満たしや気分転換といった食シーン以外にも、場所を選ばずガルボを想起してもらい、食べてもらいたいですね。『こんな時にガルボを食べればいい』という食べ方の提案をSNS中心に発信していくなど、お客様と新しい接点を創出できればと思っています」(東さん)
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フリーライター
1986年生まれ。ビジネス、ライフスタイル、エンタメ、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。
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(フリーライター 古田島 大介)
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