「私たちは普通じゃない」昼の仕事で心を病んだ"中卒キャバ嬢"の末路
プレジデントオンライン / 2021年5月24日 15時15分
■来客予定がないまま出勤を続けている
コロナ禍で女性の自殺が増えていると報道されている。警察庁によると、2020年に自殺した女性は7026人で、前年より15.4%増加した。動機別でみると、鬱病などの健康問題が前年比で1割増えたという。
今回は、筆者の住む沖縄県で増えているキャバクラ嬢の鬱病と、キャバクラを辞めた女性の状況について書いていきたい。
初めに、キャバクラで働く女性たち(キャスト)の現状を説明すると、キャストが待機している時間の時給はコロナ禍をきっかけにカットされ、1年がたった3月でも続いている。お店を存続させるためには仕方のないことだと言えるが、お客を呼べない(来客予定がない)キャバクラ嬢にとっては、コロナ感染のリスクだけを背負いながら出勤することになる。
ある日、1人のキャバクラ嬢から相談の連絡がきた。名前をさやさん(25歳、仮名)とする。彼女はひとり暮らしで、沖縄最大の繁華街・松山のキャバクラ店に勤めている。
■感染を恐れたら「怠けている」と言われ…
「軽度の鬱病という診断を受けました。でも、親と喧嘩ばかりしているから症状を話せなくて、精神的にキツいです」という話だった。松山ではクラスターが発生したこともあり、さやさんはコロナ感染を恐れて1カ月ほど出勤していなかった。貯金を切り崩して生活していたが、それを「怠けている」と判断した親と衝突する日々が続いた。
1カ月間の出勤自粛が原因で軽度の鬱病を招いてしまった。とはいえ、いつまでも貯金を切り崩しながら生活をするわけにはいかない。そうしてさやさんは出勤するようになったが、出勤しても待機時間中は時給カットの対象になる。5時間働いても、3時間分の時給しか保証されていない。
さやさんのコロナ前の時給は2400~2600円で、月収は多い月で30万円ほどあった。だが、時給1600円までカットされたことで、最高日給は8000円である。さやさんは「最近は、客入りが悪くて5時間出勤しても1卓しかつけてくれなくて、接客時間は10分くらいなんですよ」と話す。
さらに、さやさんを追い込むような出来事があった。
■客を呼べと言われても来るわけがない
「上の人に呼び出されて、客を呼ぶように言われたんですけど、緊急事態宣言を繰り返している現状で呼べるわけがないじゃないですか。ナイチャー(県外)のお客さんも減ってるし、新規のお客さんに10分しかつけないんですよ? どうやって呼べば? と思いましたね」
その後、さやさんは、精神的に追い詰められ鬱病が悪化してしまった。昼間の仕事をしようにもやりたいことがないし、そもそも自分に何ができるのか分からない。簡単にできそうな仕事は、すでに人材がオーバーしている状態だ。
途方に暮れたさやさんは、出勤が少しずつ減ってしまい、現在では週末しか出勤していない。10万円程度の収入で貯金も少なくなっている。困窮する前に実家に戻る手もあるが、その場合は鬱病を患ったことを家族にカミングアウトしないといけない。
果たして鬱病を親が理解してくれるのか、また家族関係が良好になるのかも分からない。さやさんは不安に頭を抱え、眠れない日々を送っている。
■困窮して昼間のアルバイトを始めたが…
別の日、筆者の元同僚であるえりなさん(22歳、仮名)から連絡があった。決して売れっ子とは呼べないえりなさんはコロナ禍で出勤を削られ、金銭的に窮地に立たされた結果、昼間のアルバイトとしてコールセンターに務めるようになった。
沖縄県の最低賃金は時給792円だが、コールセンターは時給1000円以上が多く、非常に魅力的な職業だ。とはいえ、勤務時間中はずっと誰かの話を聞いたり、対応を覚えたりしなければならず、実際は非常にハードな仕事である。自由におしゃべりができるキャバクラと比べて「こうしてはいけない」ずくめの仕事に、えりなさんは困惑していた。
「最近、バイトに行くのがしんどくて心療内科に行ってみたんですよ。そしたら、適応障害って言われてしまって……。やっぱり、昼間の仕事はできないんでしょうか」と、不安げに話す。
沖縄の地場系キャバクラ店は、覚えることが非常に少なく、個人の資質と裁量で何とかなってしまう。本土系列のように欠勤、遅刻などによる罰金制度などもない。だからこそ、制度化された一般の職場に移ると、ギャップに戸惑うことになる。
■「新陳代謝でいいと思っている」
えりなさんは、高校中退後、18歳から22歳まで、最低限の緩いルールしかない地場系キャバクラ店で働いてきた。勤務経験はキャバクラしかないえりなさんが、急に昼の仕事に移るのは非常に困難だ。
それにもかかわらず、時給の高いコールセンターを選んだことで、慣れないマニュアルと電話対応に疲弊し、適応障害となってしまった。
こうした事例はさやさんやえりなさんだけなのだろうか。キャバクラ経営者にも聞いてみた。
1店舗目の経営者は「戻りたいって言ってくる子はいるよ。でも、あまり出勤させられないって正直に伝えると迷ってしまうみたい。しかも、時給カットが続いている状態だから、現状で戻っても、前みたいな感覚とは違うんだよね。それに混乱してしまうかもしれないから、こっちも少し、対応を変えていかないといけないかも。女の子が働きやすいようにしないといけない」とキャストを気遣っていた。
正確な店舗数は把握できないが、コロナ禍で潰れたり、買収されたりしたキャバクラ店は増えているという。
もう一つは、老舗の部類に入る実績あるキャバクラだ。
「うちはある意味、新陳代謝でいいと思っている。女の子も新しくしないとお客さんが飽きてしまうからね。コロナ禍の経済的ダメージはかなり大きいよ。女の子にもすごく負担をかけている。でも、これを乗り越えないとどうにもならない」。キャストの女性にとってはつらい現実だが、経営者は淡々と話す。
「うちの女の子は掛け持ちも多いし、学生もいるから昼間の仕事を探しても困らない。問題は、夜一本でやっている女の子への対応をどうするかだよね。これは考えさせられている」
■県独自の対応が必要だ
さやさん、えりなさん、そして経営陣の話をまとめると、「夜職から昼の仕事への移行」の難しさが浮かび上がってくる。コロナ禍が長引けば長引くほど、夜の繁華街で働く人材は不景気のあおりを食らい、流動的になる。加えて、本土よりも客によるボディータッチやセクハラに甘い沖縄の店舗では、精神的なダメージを受ける女性キャストも少なくはない。
キャバクラや風俗店の仕事を失い困窮する女性たちに対し、行政や支援団体が手を差し伸べるべきだという指摘もある。だがさやさんのように、家族にすら鬱病を打ち明けられない人が公的機関に相談するハードルは高い。「何をしたらいいのか分からない」「自信がない」にも関わらず、無理やり行政や支援団体が介入したら精神疾患が悪化する可能性もある。
沖縄の行政がやるべきは、彼女たちの状況を正確に理解し、職業訓練を2回受けられるような仕組みを作るなどの、独自の対応だ。これまで支援団体と行政がバラバラに行ってきた対策を連携させ、ダブルアプローチを視野に入れた取り組みをしない限り、彼女たちが望む支援を受けられることはないだろう。
■年齢制限を迎える彼女たちの末路
支援団体や行政が支援介入に手をこまねいてきた一方で、キャバクラ嬢には「普通の仕事をしていないから」という劣等感がある。どんなに売り上げがあるキャバクラ嬢でも「普通の人とは違う」と認識しているためだ。恥ずかしさ、後ろめたさ、劣等感で自ら行政に足を運ぶハードルは非常に高い。
取材に応じた彼女たちが気にしているのは、支援団体にも行政にもありがちな彼女たちへの眼差しだった。同情的だったり、非情的だったり、時には差別的な視線を向けられることがある。これは彼女たちを一般社会から遠ざけてしまい、より孤立させる結果につながってしまう。
キャバクラには“年齢制限”という暗黙の了解がある。夜の世界へ入るハードルが他の都道府県と比べて低い沖縄県は、今の現状を放置しておくと、彼女たちが働けなくなる年齢に差し掛かったときに一気に貧困率が上がることが予想される。それを予測した何らかの動きが必要だ。
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フリーライター
1988年沖縄県生まれ。高校中退後、キャッチのアルバイトをきっかけに、沖縄県内のキャバクラやクラブで働く。2015年高校卒業後、現在は佛教大学社会学部現代社会学科(通信制課程)に在籍。社会学を勉強するかたわら、キャバクラ時代に知り合った人脈を生かし、取材・執筆活動を行っている。
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(フリーライター 上原 由佳子)
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