できる広報担当者は、なぜあえて「ライバル企業の広報」と仲良くするのか
プレジデントオンライン / 2021年6月3日 8時15分
※本稿は、栗田朋一『新しい広報の教科書』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■私が異業種や競合の広報と仲良くする理由
「あそこの広報担当者、顔が広いよね」と聞くと、何となく「マスコミ関係に人脈があるのかな」と思うのではないでしょうか。
確かに、かつての「広い人脈を持つ広報」は、そういう人たちでした。
しかし、これからの時代は、ちょっと違います。これからの広報はマスコミ関係者との人脈だけでなく、異業種や競合他社の広報担当者とも広くつながっていくのが主流になるでしょう。いろいろな企業の広報担当者とつながっていると、自社だけではできなかったような広報活動ができます。
たとえば、たまたま建築会社の広報から話を聞いていた、ぐるなび広報時代の私が、知り合いの記者と雑談をする中で「そういえば、あそこの建築会社、こんなおもしろいことやり始めましたよ」と言ったら、どうなると思いますか? その企業や業界と利害関係のない人からふいに聞かされると、記者たちも「へぇー、そうなんですか」と妙に構えることなく耳を傾け、「確かにそれはおもしろい。ちょっと、取材してみようかな」という気持ちになりやすいようです。
■異業種からの“口コミ”が効く
アパレル会社の広報が、いくら自社製品のメリットをアピールしても、記者からしたら「それって自分の会社がつくっているものだからでしょ」という気持ちになります。でも、そのアパレル会社のジャケットを着たレストランオーナーが記者と会った際に「このジャケット、涼しいし小さくたたんで鞄に入れられるし、デザインもよくて気に入っているんですよ。最近の経営者は高いブランド品より自分の好みに合った機能性のよいものを身につける人が多いんです」と言ったら、きっとその記者は「最近の経営者の人たちには、そういう傾向があるのだろうか。おもしろい」と感じてくれるかもしれません。
逆に、そのオーナーのレストランで販売しているテイクアウトの高級ガトーショコラも本人が宣伝したのではありがたみがなくなってしまいます。むしろ先ほどのアパレル会社では、社長がいつも手土産として買い求めているのがそのお店のガトーショコラだと、さまざまな場面で話していれば、それが記者の耳にも入り、そんなセレブ御用達のものなら今度取材してみたいということになるかもしれません。そう考えると、お互いの商品をPRし合ったほうが興味を持ってもらいやすいとも言えます。
「誰が伝えるか」によって、受け取る側の関心度も変わってくるものなのです。
■業界の垣根を越えた広報のつながりが“ネタ”になる
また、広報同士がつながっていると、思いがけないコラボレーションネタができることもあります。
以前、ある企業がオフィスビルから東京・代々木の一戸建てに移転したと聞きました。これだけだったら「おもしろいことをする会社もあるね」くらいの話で、メディアも取り上げません。ところが、なぜか同時期に、その企業とはまったく関係のない2社からも、「都心の一戸建てに移転しました」という連絡をもらったのです。
1社だけでなく、同時期に3社となれば、これは単なる偶然ではないのでは? と、隠れた関係性を想像するでしょう。
記者たちも、そういった「あれ、なぜだろう?」という疑問から、日々ニュースのネタを発掘しています。
「震災の影響で、高層ビルへの不安や、社員同士の絆を強くするためなのでは?」
「高齢化で空き物件が増え、それをオフィス向けに売り出したのでは?」
「裏で同じブローカーが動いているのでは?」
などと、その背景にあるものや人の心の変化を読み取ろうとするのです。1社の事例ではネタにならなくても、3社集まるとおもしろいネタになるのです。
これまでは業界や企業の枠を越えて広報同士がつながることは考えられてきませんでしたが、これからはそれが当たり前になると思います。
特に、若手の広報担当者は、学生時代からSNSに触れてきた世代なので、業界や企業に関係なくつながっていくのに抵抗感がないでしょう。これからの広報は、協力し合う広報なのです。
■トラブルが起きた時の“横”の連携
私は競合他社の広報の方々と、たくさんつながりを持っていましたが、そこはやはり競合です。
ある競合企業の広報室長さんとは、とても親しくさせてもらっていたのですが、「ま、最終的にどっちかが消滅するまで、つぶし合いだよね」と、お互い笑顔で語り合うこともありました。
そんな火花の散ることすらある競合企業の広報同士が、時に連携することもあります。
あるお取り寄せグルメの商品遅配が各サイトで発生し、問題になったことがあります。そのとき、マスコミの方々から「ぐるなび食市場では、何件くらい発生していますか?」「どのように対応されるのですか? 返金には応じるんですか?」などの質問や問い合わせが、次々と入りました。
実はこのときのマスコミ対応のタイミングや発表内容は、普段はライバルとして争う企業の広報担当者と話し合い、お互いの情報発信の度合いをそろえるようにしていました。
メディアの取材は、同じ質問を複数の相手にして、その違いや差を切り口に、さらに深い質問をしてくることがあります。「A社ではここまでやっているのに、なぜおたくはできないのですか?」という具合に突っ込まれてしまうこともしばしばです。
■業界全体の信用を失わないための連携
こういう場合、自分の会社が先手を打って発表さえできれば、競合他社はどうでもいいというわけにはいきません。
競合が追及を受け、世間からの批判を集めれば、業界全体に悪影響を与えることもあり得ます。業界全体にネガティブな印象を持たれれば、同じ業界にいる企業はどこも同じ穴の狢だと思われ、自社もダメージを受けかねません。各社が真摯(しんし)に取り組んでいても、マスコミへの対応の仕方を誤れば、消費者に誤解を与えてしまう可能性があるのです。
ですから、このときは競合他社の広報の方と連絡を取り合い、お互いの調査や対応方針を情報交換し、足並みをそろえて、メディアに対応しました。
そのおかげで、私の回答に対してメディアの方から「他社さんも同じようなことをおっしゃっていましたよ。どこも、そんなものなんですかね」と納得していただき、思いもよらない追及を受ける事態を回避できました。騒動自体も徐々に沈静化し、影響を最小限でとどめられたと思います。
■イザというときのための人脈
業界を守るために、各社が裏で不正な情報操作を行ったり、消費者の不利益になるような情報開示の遅延をさせたり、隠蔽(いんぺい)工作をしたりしてはいけないのは、言うまでもありません。
ですが、広報としての対応を誤って、業界全体が信用を失うことも避けなくてはなりません。そのためには、業界としての連携も必要です。こういう緊急時に協力できるのも、普段から広報同士のつながりを持っていたからこそ。
信頼関係がなかったり、相手の立場がわからなければ、すぐに連携して難しい問題に取り組むことはできません。
競合企業だと、何となくつながりを持つことをためらう気持ちもあるかもしれませんが、競合だからこそつながりが大事なときもあるのです。
■「創る広報」は、あえて他社を推薦する
「1社でニュースにならないなら、3社で一緒に売り込んだらいかがですか?」
私は最近、みなさんにこのようにお勧めしています。今までの広報の考え方では、他社のことを自社の企画書の中で取り上げるなんてことはあり得ませんし、こんなやり方を推奨する人もいなかったでしょう。複数の会社でネタを持ち寄り、ストーリーを用意して、一緒にニュースをメディアに売り込む方法は、今までにない新しい創る広報です。
前述したように、マスコミはストレートニュースでない限り、一つの会社の事例だけで記事や番組をつくることは、あまりありません。もし記者がその事例を取り上げようと思った場合、同じ切り口で他社が似たようなことをしていないかを調べ、三つくらいの事例をセットにして記事や番組にしています。
ですから、もし複数社で一緒にニュースを売り込めば、記者としてはほかの事例を調べる手間が省けます。そうなれば、メディアに取り上げられる可能性はグッと高くなるのです。
たとえば、私は以前、席からサクラの名所が見えたり、店内にサクラを植樹したり、中庭にあるサクラを店内から愛でられる、屋内で食事をしながらお花見が楽しめる飲食店をPRしたいと考えていました。しかし、「屋内でお花見が楽しめる飲食店」というだけでは、ニュースとしてはいまいちインパクトに欠け、メディアが取り上げるとは思えません。
そこで、サクラの開花が早まり、花粉症とお花見の時期が重なってしまったニュースをヒントに、「今年は、花粉症の人でも快適にお花見が楽しめる商品・サービスに注目」という企画を考えました。
体の外で花粉症を防ぐためのグッズとして、新型の花粉症対策眼鏡を発売したメーカーや、反対に体の中から花粉症を防ぐ、新しい飲み薬や食品を売り出した製薬会社や食品メーカーを探し、そういった企業の商品と一緒にしてニュースを売り込んだのです。
■今後の主流は「ネタを共有する」広報スタイル
このように他社を一緒に紹介してしまうと、自分たちが損をすると思う方もいるかもしれません。
私はあくまでも、飲食店を取り上げてもらうのを目標にニュースを売り込んでいます。きちんと自分のPRしたいものにも脚光が当たるストーリーをつくっておけば、必ず自社に取材が来ます。それもメインで取り上げてもらえるかもしれません。万が一扱いが小さくても、取り上げてもらえただけで効果は十分あるでしょう。
カーシェアリングやルームシェアのように、これからはみなでシェアするのが当たり前になってくるのではないでしょうか。広報担当者も、PRネタをシェアして、複数の会社が一緒にニュースを売り込む手法が、今後の主流になるのではないかと考えています。
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PRacademy代表取締役
1971年、埼玉県浦和市(現・さいたま市)生まれ。明治学院大学社会学部卒。歴史テーマパーク「日光江戸村」を運営する大新東で広報を担当し、江戸村及びグループ会社全体のコーポレートPRを手がける。2003年に電通パブリックリレーションズに入社。その後、07年にぐるなびに転職し、広報グループ長を務める。現在は、自身で立ち上げたPRacademyの代表取締役を務める。著書に、『現場の担当者2500人からナマで聞いた 広報のお悩み相談室』(朝日新聞出版)がある。
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(PRacademy代表取締役 栗田 朋一)
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