仕事が速い人は「自力でドーパミンを出す方法」を知っている
プレジデントオンライン / 2021年5月30日 9時15分
※本稿は、上岡正明『自分のやりたいことを全部最速でかなえるメソッド 高速仕事術』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■AD時代の「アウトプット」の思い出
私自身が初めて高速仕事術をしたときのエピソードを紹介します。
そのとき私は19歳でした。私は幼い頃から「作家になりたい」という漠然とした夢を抱き続けていました。当時、憧れの作家の経歴をみると、秋元(あきもと)康(やすし)氏をはじめ「放送作家」をしている人が少なくなく、作家への足掛かりとして放送作家になることに決めました。放送作家へとフォーカスしたのです。
何もわからないまま、私は大学に通いながら、テレビ番組の制作会社に出入りするようになりました。何の実績もコネもない私がいきなり放送作家になれるわけもなく、初めのうちは当時一世を風靡(ふうび)していた「天才・たけしの元気が出るテレビ‼」のAD(アシスタントディレクター)としてハードな毎日を送っていました。
テレビ業界に入って数カ月後、私は放送作家になるためのアウトプットを何も起こせていない自分に焦りを感じていました。行動を起こさなければならない、そのことだけはわかっていました。
そこで、ある日の番組終了後の深夜。いつもなら疲れ切って、制作室で仮眠をとるのが常でしたが、私は誰に習うこともなく台本を書き始めました。ついにアウトプットを始めたのです。しかし、書き方を教えてくれる人などどこにもおらず、どうやって書けばいいのかわからず、すぐに壁にぶつかってしまいました。
そのとき、私はテレビ局のゴミ箱に捨てられているたくさんの台本を片っ端から読みあさりました。「なるほど、こう書けばいいのか!」と、乾いたスポンジが水をどんどん吸うようにノウハウを次々と吸収(インプット)していきました。
■「IOK高速サイクル」の魔法
徹夜明けの翌日、ついに完成した台本をディレクターに頼み込んで見てもらうと、「番組にできるような代物(しろもの)じゃない」と一蹴されました。しかし、アウトプットを続ける姿勢が評価されて、どこがどう悪いのか丁寧にレクチャーしてもらえました。そのインプットを参考に、企画書や台本の作成に改善を重ねていきました。当時はまだ珍しかったIBMのパソコンを購入し、デザイン性の優れた企画書を作るなど、人がやっていない工夫も加えていきました。
そして、初めて台本を書いた日から3カ月後、ついに企画が通ったのです! そのときの高揚感は忘れることができません。
今思い出すと、当時の私はお手本のように、「IOK(インプット×アウトプット×改善)高速サイクル」を回す働き方をしていました。放送作家になるというひとつの目標だけにフォーカスし、まずは行動を始めました。そして、台本を書き始めるというアウトプットを始め、課題や問題が起こるたびにインプットによって改善していき、ついに成果を上げて放送作家の仲間入りをすることができたのです。
その後、それまでのキャリアを生かして経営者となった私は、高速仕事術があらゆる仕事にも汎用(はんよう)性があることに気づき、まず、自分の会社の社員教育や実際のコンサルティング現場でも使えるよう改善を重ねていきました。今では、経営でも、投資でも、ユーチューブでも、日々の作家の仕事でも、常に「IOK高速サイクル」を回すことを心がけています。
■「カラーバス効果」を利用する
何か新しいことを始めるとき、明確な目的があると、人はそれに向かってフォーカスしていくことができます。
カラーバスという心理効果をご存じでしょうか? ふだんはまったく気にならないのに、例えば朝のニュース番組でラッキーカラーが赤色だと言われたら、途端にポストや落ち葉など赤いものが目についてくる心理効果のことです。街中の赤いものに無意識に目が行ってしまいます。
私は当時、手帳に「放送作家になる!」「ベストセラー作家になる」と書き記し、毎日のように目に入れていました。その結果、カラーバス効果が発揮されて、普通の人は気にも留めないゴミ箱の中から、参考となる台本を見つけることができたのです。
このようにあらかじめ目的を設定しておくと、自然とそのための情報を見つけることができます。だから、まず、何をするにも明確な目的を意識することが大切なのです。
■フォーカスした一点に、全エネルギーを集中させる
ただ、読者の皆さんからはこんな声が聞こえてきそうですね。
「大事なことは何か? すべきことは何か? 目的は何か? そこにフォーカスはできている。だけど、成果が上げられないんです」
「集中しろと言われても、ほかにもたくさんやらなきゃいけない仕事があって、フォーカスなんてできないよ」
たしかに日常の仕事の中では、重要なことが何か判断がついているのに、それでもスピードが遅く、集中できず、成果を上げられない人は少なくありません。なぜでしょうか? それは、フォーカス力がまだまだ弱すぎるからです。
仕事のスピードを高速にするには、フォーカス力をより強固なものにしていかなければなりません。太陽光を虫眼鏡を介して一点に集めると、目には見えない赤外線が集中して火をつけることができます。それと一緒です。フォーカスした一点に、全エネルギーを集中させなければなりません。
では、どうすれば集中できるのか? ここで初めて「ノウハウ」が必要になるのです。
■集中力のカギはドーパミンにあり
古今東西、集中力を高めるための脳科学に基づいた研究がさかんに行われています。その結果、「どうすれば集中力が上がるのか」の答えはほぼ出尽くしています。高速仕事術のノウハウは、脳科学の学会などで発表された最新の研究成果に基づき、私が実際に経営や教育などの現場で実学として試して、効果を実感できたものを厳選しています。つまり、あなたはわざわざどれが効果があるか、と迷う必要がありません。
ポイントは、いかに脳の神経伝達物質「ドーパミン」を大量に分泌させるかです。ドーパミンは楽しいことをしたり、ワクワクしたり、時間が制限されてテンションが上がっていたり、成功体験をしたときなどにたくさん分泌されます。
思考力をつかさどる脳の前頭前野にドーパミンが作用すると集中力や、やる気が高まることがわかっており、これが継続するといわゆる「フロー状態」になることができます。究極の集中状態です。また、ドーパミンは海馬や扁桃(へんとう)体など脳のさまざまな部位に作用するため、記憶力を高めるのにも役立つといわれています。
高速仕事術のノウハウは、いずれもこのドーパミンがドバドバ分泌される手法です。フォーカス力を高めるために、ぜひ実践しましょう。
■失敗体験こそドーパミン分泌のカギ
アウトプットの大切さを繰り返し述べてきましたが、ドーパミンの分泌という意味でも、アウトプットを継続していくことは非常に大切です。
「IOK高速サイクル」によって、アウトプットを繰り返していくと、必ずどこかで壁にぶつかります。そのことを「失敗した」とネガティブに捉えることは一番よくありません。特に初めての仕事や難易度の高い仕事に取り組むときは、失敗を恐れるあまり、行動を起こせない人が多いと思います。
でも、失敗こそ、あなたが脳内の成功物質であるドーパミンを味方につけて、スキルアップしていくための鍵なのです。「失敗は成功のもと」とはよくいいますが、これは脳科学的な観点からも正しいといえます。その理由を解説しましょう。
脳科学の世界では、成功体験を積み重ねると、ドーパミンの分泌が増え、ますますやる気になり、集中力もアップすることがよく知られています。これは冒頭でも話した通りです。しかし意外と知られていないのは、実は「失敗の貯金」が多ければ多いほど、成功したときのドーパミン放出量が多くなる点です。
ある脳科学の実験で、平穏無事な生活を続けていると、脳内のドーパミン量が減ってくることがわかっています。ドーパミンは不思議な性質をしていて、目的を達成するために苦労すればするほど、達成したときに分泌されるドーパミン量が増えるのです。振り子をイメージしてみてください。失敗の回数が多ければ多いほど、そのぶん振り子の振れ幅が大きくなって、達成時のドーパミン量が増えていくイメージです。
このことは、自分の体験からも実感しています。起業したときは、それこそ失敗の連続でした。コネも金も人脈も経験もない状態でスタートしましたから、とにかく営業電話をかけまくってはむげにされる毎日。仕事は一向に決まらず、初めの頃は失敗を積み重ねるのが日常と化していました。
そのため、最初のお客さまが発注してくれたときは、もう飛び上がるほどの喜びでした。後にも先にも、このとき以上にドーパミンが分泌された経験はありません。「失敗の貯金」がたまりまくっていたからです。
■壁にぶつかったら「ドーパミンゲット!」と思え
つまり、「IOK高速サイクル」を取りあえず回してみて、アウトプットの回数を増やし、そのたびに適度な壁に当たって、IOKサイクルを回しながら、「失敗の貯金」をためておけば、むしろ目的へのフォーカスが高まり、目的にたどり着きたいとの欲求が高まり、結果ドーパミンの分泌が増えるわけです。
するとまた、集中力が飛躍的に伸び、さらなるアウトプットをしたいと脳が欲します。経営者の中には信じられないくらい行動力に長(た)けている人がいますが、彼らは皆、ドーパミンドバドバ状態がデフォルトになっているんですね。
あまり表には出てこないですが、そんなフロー状態になるためには、数え切れないほどの失敗体験を重ねなければなりません。
高速仕事術を始める際は、「失敗を失敗と思わない」ようにしましょう。むしろ、失敗なんて言葉をあなたの辞書から排除してしまってください。失敗は成功物質のドーパミンの元(発生源)と自分の脳を書き換えることができれば、しめたものです。壁にぶつかったら、「ドーパミンゲット!」くらいに気楽な気持ちで臨むのがいいでしょう。
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フロンティアコンサルティング代表
1975年生まれ。放送作家を経て、27歳で戦略PR、ブランド構築、マーケティングのコンサルティング会社を設立し、独立。これまでに大手上場企業など200社以上の広報支援、スウェーデン大使館やドバイ政府観光局などの国際観光誘致イベントなどを行う。多摩大学大学院経営情報学研究科修了(MBA)。著書に『現場のプロが教える 即戦力をつくる広報PRの教科書』(すばる舎)、『死ぬほど読めて忘れない 高速読書』(アスコム)など著書多数。
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(フロンティアコンサルティング代表 上岡 正明)
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