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「ビットコイン大暴落は止まらない」コロナ終息で暴かれる暗号資産の"本当の値段"

プレジデントオンライン / 2021年5月25日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM

ビットコインが4月の史上最高値から一時半値以下に大暴落した。みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔さんは「米国を中心にコロナ終息が視野に入りつつあり、昨年来の株高の終わりがみえてきた。暗号資産の暴落は、コロナ相場の終わりの始まりにすぎない」という――。

■コロナ相場の終焉……失速を始めた金融市場

金融市場は株、金利、為替(ドル)のいずれも勢いを失っている。理由は様々考えられるが、やはり「金融市場にとって最大のリスクはコロナの終息」だったということなのだろう。

年初からの動きを見た場合、ピークアウトこそしているものの、やはり米金利は高いままである。米経済の経済正常化が先進国で最速になりそうなのだから、その期待から市中金利が上がるのは自然である。

しかし、悲惨な実体経済を脇に置いて株価が上がってきたのは、回復期待が高い割に名目金利が低かった(要するに実質金利はさらに低かった)からであり、名目金利が上昇し、高止まりすれば話は変わってくる。

もちろん、米実質10年金利は未だにマイナス圏だが、恒常的に▲1.0%台にあった昨年からは上昇している。徐々に、しかし確実に現実が期待に追いついているのは明らかである。

目下、金融市場の関心は供給制約に起因する「悪いインフレ」であり、そのために中央銀行の政策運営も正常化へ振れるのではないかとの疑念が根深い。必然、名目金利は高止まりする。

筆者は持続的なインフレ高進があるとは思っていないが、当面の市場テーマがそこで貼り付きそうなことは頷ける。

■投げ売りで一時半値になったビットコイン

名目金利高止まりは株価を筆頭とするリスク資産価格の調整を招きやすい。

ビットコインが4月につけた史上最高値(6万4801ドル)から一時半値以下に落ち込んだように、5月中旬以降、市場心理を悪化させている暗号資産価格の大暴落はその象徴と言える(※筆者は「通貨」の価値を満たしているとは思わないので暗号通貨ないし仮想通貨とは呼ばない)。

現実に企業収益から一応の公正価値(フェアバリュー)が算出できる株価と異なり、暗号資産価格の公正価値はその算出過程に確たるコンセンサスがあるわけではない。株式の配当や債券の利子のような定期的なインカムを生まないという点では「商品(コモディティ)」に近い資産クラスと言えるかもしれない。

実際、ビットコインは「デジタルゴールド」と呼ばれることがある。しかし、金や銀は工業的・宝飾的な利用価値があり、鉄や銅そして石油の利用価値については改めて説明する必要もない。

それらは公正価値を算出するのが難しくとも、十分な利用価値があると周知されている。「利用価値があれば、それに付随した公正価値も存在するはず」という発想には繋がる。実際、それらの貴金属・非貴金属・資源はそれがなければ実体経済の活動に支障が出るのだから、それに見合う対価は当然存在すると考えられる。

■暗号資産は利用価値すら定かではない

しかし、暗号資産はつい最近まで存在しなかった代物である。もちろん、利用価値があるならば別だが、それも今のところ定かはない。敢えて言えば、既存の金融システムに比較して極めて低コストで国際送金が可能になることは指摘される。

ビットコイン
写真=iStock.com/Jirapong Manustrong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jirapong Manustrong

フェイスブック社の暗号資産リブラ(現在はディエムに改名)が話題になった時は、そうした送金コストの低下に加え、「銀行口座を持てない層にもサービスを提供する金融包摂(フィナンシャルインクルージョン)としての社会的意義が大きい」という声もあった(※リブラへの批判的な議論に関しては2019年刊行の共著『リブラの正体』(日本経済新聞社)をお読み頂ければ幸いである)。

暗号資産を使えば、金融システムが脆弱な国々と取引する際、法定通貨よりも安定性を発揮できるとの主張もある。こうした国境をまたいだ資本移動が迅速かつ安価になるというメリットは暗号資産が法定通貨に対して持つ利点として頻繁に持ち出されるものだ。

そうした事情もあってなのか、筆者のように銀行や証券会社など、伝統的な金融機関に所属する立場から暗号資産に批判的な議論を展開するとポジショントークとの疑義を抱かれやすい風潮を感じる。

しかし、そもそも1カ月単位で価格が倍になったり半分になったりする資産が決済手段として使えるはずがないし、使いたいという気持ちにもならないし、現実に使われていない。

■「通貨」と名乗るのは根本的に無理だ

足許で見られている暗号資産暴落の直接的な契機は5月21日、中国の規制当局が金融機関や決済企業が暗号資産関連の業務を行うことを禁止することを発表したからであったが、むしろ現実の危うさに規制が後から付いてきただけだろう(元々中国は暗号資産関連の規制はあって、今回はそれを強化した格好)。「リスクが社会に拡散するのを阻止する」という中国規制当局のコメントが全てを物語っている。

「決済手段としての暗号資産」と言えば、3月には米電気自動車大手テスラが同社製品の購入代金をビットコインで受付可能にし、イーロンマスクCEO自らが「テスラに支払われたビットコインはビットコインとして持ち続け、不換通貨に換金しない」と宣言し、ビットコインが急騰したことも耳目を集めた。

イーロンマスク氏(出典:ウィキメディア・コモンズ)
イーロンマスク氏(写真=Steve Jurvetson/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

しかし、5月に入り、ビットコインを生み出すマイニング作業の過程で膨大な電力消費が環境負荷として好ましくないと述べ、ビットコイン決済の可能性を翻した。これに応じてビットコインは急落している。その後、マスク氏は法定通貨よりも暗号資産を支持すると述べ、またビットコインは上昇している。

ここで同CEOの言動について道義的是非を問うつもりはないが、いち企業(いち経営者)の言動で価値がこれほど変動するものが「通貨」と名乗るのは根本的に無理である。

 

■暗号資産は「貨幣3機能」を満たしていない

なお、暗号資産が法定通貨に勝ると思われていた決済機能は貨幣に想定される3機能の1つに過ぎない。3機能は①価値尺度、②決済手段、③価値貯蔵である。

国際通貨
写真=iStock.com/baona
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

②として使えない(使われていない)という議論は上述の通りだが、①も③も満たしていないというのが実情だろう。

決済手段として使われない以上、通貨としての実需(≒利用価値)がないということである。実需が拡がっていかなければ企業部門や家計部門で日常利用されるには至らない。だから通貨に慣れないし、金利も付かないのである。

これだけでも議論は尽きるが、①の機能ならばどうだろうか。

例えば原油や金の値段がビットコインで表示される未来が想像できるかを考えれば良い。ドル建てで表示されるのはドルの価値が最も安定しているからという暗黙の前提がある。1カ月で価値が半減するような単位で財やサービスの普遍的な価値を表現するのは無理である。価値尺度にもならない。

次に③の価値貯蔵機能はどうだろうか。敢えて言えば、この点は最も暗号資産の魅力が見出されやすい機能なのかもしれない。月単位で倍になる可能性があれば、そこに十分な期待値を認め、投資対象とする投資家もいるだろう。

■存続するなら“資産運用先の一つ”という程度

暗号資産が今後も存続するとすれば、それはやはり「資産運用先の一つ」として選ばれるコースが濃厚だと筆者も思う。

だが、暗号資産の異様に高いボラティリティは投資家からすればリターンを蝕むリスクであり、株・債券・為替といった伝統的な資産クラスはおろか、これに次ぐオルタナティブ資産の中でも商品や不動産には及ばない位置づけだろう。ボラティリティが高いという事実は価値貯蔵に最も向いていない特徴と見なすこともできる。

なお、価値貯蔵機能に着目した場合、例えばビットコインはその産出量(発行量)に上限があり希少性が高いという点で金に類似し、だからこそ希少価値があり価格も上がるという解説をよく目にする。それは暗号資産がビットコインだけならば有効な理由かもしれない。

しかし、有象無象の暗号資産が乱立している今、その希少性をどこまで評価すべきなのかは相当に注意が必要である。

もちろん、ビットコインが有象無象の暗号資産とは違って、決済機能(や価値尺度機能)にも優れているなど通貨の基本的機能を強みとして備えているならば差別化もされるだろうが、上述したように結局、そうした事実は今のところ認められない。

そもそも金の持つ価値貯蔵機能は長い人類の歴史の中で、あらゆる国・地域で認知・形成されてきたものだ。急に出てきた暗号資産が同じ位置づけになるのは難しい。

■暗号資産急騰は運用難がもたらした「時代のあだ花」

最近まで暗号資産の騰勢が続いてきたのは伝統的な資産クラスの投資妙味が限界まで押しつぶされた結果、相対的な投資妙味が改善して見えたからという側面があるのだろう。

コロナ禍に対応するための形振り構わないマクロ経済政策の結果、過剰流動性が生み出され、株も債券も全くアップサイドが見込めない水準まで買われてしまった。そこで行き場を失った運用資金の置き場所が必要になり、暗号資産が選ばれたという実情もあったのではないか。

しかし、冒頭述べた通り、米国を中心にコロナ終息が視野に入る中、昨年来続いてきた金融相場が終焉に近づいている感は強い。ワクチンを無効化する変異種の登場などがない限り、遅かれ早かれ金融相場は終わるしかない。

暗号資産急騰はコロナ禍における運用難がもたらした「時代のあだ花」として散っていくことになると筆者は思っている。

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唐鎌 大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、JETRO入構、貿易投資白書の執筆などを務める。2006年からは日本経済研究センターへ出向し、日本経済の短期予測などを担当。その後、2007年からは欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、年2回公表されるEU経済見通しの作成などに携わった。2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『欧州リスク:日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、14年7月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、17年11月)、『リブラの正体 GAFAは通貨を支配するのか?』(共著、日本経済新聞社出版、19年11月)。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』、日経CNBC『夜エクスプレス』など。連載:ロイター、東洋経済オンライン、ダイヤモンドオンライン、Business Insider、現代ビジネス(講談社)など

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(みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌 大輔)

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