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「ダルビッシュを見習え」部下に苦言小言ばかりの"マウンティング上司"が絶対できない思考法

プレジデントオンライン / 2021年5月27日 11時15分

ジャイアンツ戦で力投するパドレス先発のダルビッシュ有投手=2021年4月30日、アメリカ・サンディエゴ - 写真=時事通信フォト

ドラフト1位でプロ野球のロッテに入った佐々木朗希投手(19歳)が5月16日にプロ初先発した投球内容について評論家らから苦言が相次いだ。これに対して、米メジャーで活躍するダルビッシュ有投手はブログで「ネガティブな言葉は無視して、ネガティブさは自分自身で持ちながら成長して」とメッセージ。スポーツライターの酒井政人さんは「今、コーチや上司に求められるのは、上から目線の物言いではなくダルビッシュのように寄り添ってくれるタイプです」という――。

■「ダルビッシュ有の教え」上司や先輩のネガティブ意見への対処法

どんな世界でも“先輩風”を吹かせてくる者がいる。特に注目を浴びる有能な人材に対してマウントを取りにいくような行動をとる年配者は少なくない。

2019年高卒ドラフト1位でロッテに入団した佐々木朗希投手(19歳)。5月16日の対西武戦でプロ初先発したことについてもスポーツニュースなどでプロ野球経験者からさまざまな指摘があった。

佐々木は5回を投げて被安打6の4失点(自責点2)。5つの三振を奪い、勝ち投手の権利を持ってマウンドをおりた(試合は引き分け)。そんな佐々木のデビューについてMLBで活躍するダルビッシュ有(パドレス・34歳)が自身のブログで言及したことが話題になっている。

〈バッターのレベルも上がっている今の時代に高卒2年目でいきなり5回を投げて、勝ち投手の権利を持って降板とはロッテの吉井投手コーチも頼もしく、楽しみに感じているのではないでしょうか〉

■「何人の人が19歳時点で佐々木投手より上だったんだろう、えー?」

このように高く佐々木を評価した上でこう続ける。

〈試合後は色々な人が『ここが課題だ』『もっとこうするべきだ』なんて言ってるのを見かけましたが、そういう人の中で一体何人の人が19歳時点で佐々木投手より上だったんだろうえー? って思ってしまいました!〉

ちなみにダルビッシュのNPBデビュー戦(当時の所属は日本ハム)は1年目の2005年6月15日。札幌ドームでの広島戦に先発して、8回まで被安打3で無失点という圧巻の内容だった。9回に、2本の本塁打を打たれて降板したが、松坂大輔以来の高卒初登板・初先発勝利を飾っている。

150キロ超えの速球をバンバン投げる佐々木に対してダルビッシュは大きな期待を抱いているようで、前出のブログで〈これからも他人のネガティブな言葉は基本無視して、ネガティブさは自分自身で持ちながら成長していってほしいなぁと思います〉と結んだ。

NPB、MLBの両リーグで素晴らしいキャリアを残している偉大な先輩の言葉は佐々木の心に響いたことだろう。

■スポーツ心理学的にも「アドバイスは少ない」ほうがいい

振り返れば1995年、野茂英雄がMLB(ドジャース)に挑戦したとき、日本のプロOBや野球解説者は「メジャーでは通用しない」という意見が圧倒的だった。現在、投打の二刀流で全米を驚愕させている大谷翔平(エンゼルス・26歳)が高卒後に日本ハムに入団したときも「投手か野手、どちらかに絞るべき」という声が強かった。しかし、彼らは周囲の意見に流されることなく、自らを貫き、海の向こうで華々しい活躍を見せている。ダルビッシュの言うように、ネガティブな意見には耳をふさぐのがいいかもしれない。

ジャイアンツ戦で力投するパドレス先発のダルビッシュ有投手=2021年4月30日、アメリカ・サンディエゴ(写真=時事通信フォト)
ジャイアンツ戦で力投するパドレス先発のダルビッシュ有投手=2021年4月30日、アメリカ・サンディエゴ(写真=時事通信フォト)

すべての助言をシャットアウトするのはよくないが、ダルビッシュのアドバイスはスポーツ心理学的にも“正解”といえる。

とりわけ熱心なコーチの場合、選手に対して細かい指示を多く出す傾向がある。しかし、それが選手にとって好結果をもたらすとは限らない。旧知のメンタルトレーナーによると、選手はネガティブな意見を含む大量の情報を一度に処理しきれず、かえって混乱する場合があるという。さまざまな情報が咀嚼されないまま頭の中で渦巻いていると、最も注意すべき動きを妨げてしまう恐れがある。その結果、中途半端なかたちに終わってしまうことがある。

こうした失敗事例は、取材現場ではしばしば耳にすることだ。

アドバイスを受ける頻度についても注意したい。心理学者・教育学者として著名なエドワード・ソーンダイクの運動技能学習の実験によると、「すべての試行でアドバイスを受ける場合」と「試行回数の半数だけアドバイスを受ける場合」では、学習期間中は前者のパフォーマンスがわずかに良かったが、翌日以降は後者のほうがパフォーマンスは優れていた。要は、アドバイスが多すぎないほうが、スキルは定着しやすいといえる。

佐々木のように将来有望な選手の場合、専属コーチ以外からも意見やアドバイスが飛んでくる。そのすべてを受け入れると気持ちの面で大きな“迷い”が生じてしまう。技術的な問題は一度確認したほうがいいかもしれないが、根拠不明な単なるネガティブな意見は聞き逃せばいい。もしろ、余計な情報はサッサと忘れてしまうべきなのだ。

■「ネガティブさは自分自身で持ちながら成長してほしい」の意味

一方で、前出のメンタルトレーナーは、コーチに依存してしまうのも良くないという。何かしらの事情でコーチからのアドバイスが受けられない状況になると不安な気持ちになり、本来の実力を発揮できなくなるからだ。また進学、チームの移籍など環境が変わった途端に、力を発揮できなくなることも少なくない。そうならないために、アスリートとして自立したうえで、選手自身が動作を自分でジャッジして、どのように修正すればよいかを考えることも大切になる。プロ選手は個人事業主だから、当たり前の話だが、案外、上下関係・師弟関係の中で思考停止してしまい伸び悩むケースは多い。

もし、ビジネスパーソンが佐々木投手のような立場だったらどう対処すればいいだろうか。

馬耳東風よろしく人の意見をスルーし、割り切って他者と接するのは難しいだろう。だから、上司や先輩が何か言ってきた場合は、真剣に話を聞いたうえで、「アドバイスありがとうございます。参考にさせていただきます」と笑顔で答えるのが無難な形となる。そして、頭のなかで整理して、自分に必要のない助言は“ゴミ箱”に移動。すぐに忘れてしまうのがいいだろう。

筆者が、コーチに指導を仰ぐ多くのアスリートや、管理職の下で働くビジネスパーソンにとって重要だと考えるのがダルビッシュの最後の発言だ。

「ネガティブさは自分自身で持ちながら成長してほしい」

言い換えると「謙虚な気持ちになる」ということだ。調子がいいときほど、冷静に自分を見つめて、調子がいい理由を理解しておく。そうすれば不調に陥ったときも、立て直すキッカケを作ることができるはずだ。自分はまだまだ成長できるはず、という気持ちも大切になる。

ダルビッシュのように多彩な球種をマスターするなど、年々進化を重ねることで、偉大なプレーヤーに成長することもできる。

■アドバイスする側「上から目線」「苦言小言」「丁寧すぎ」はNG

今度はアドバイスを送る側の視点で考えてみたい。先述した通り、「上から目線の苦言小言ばかり」「話が長く、丁寧すぎる」アドバイスはむしろ弊害をもたらすことがある。

コーチや上司は、選手や部下に対して、「伝え方」を工夫するべきだろう。多くのことを一気に注意するのではなく、要点を絞って伝えたほうがいい。具体的に言うと、その場では特に重要なポイントのみをアドバイス。後日、その他の修正すべきことを簡単にまとめて伝えて、選手自身でフィードバックできるような状態を作ってあげることが大切だ。

あれこれ言いたくなるときもあるだろうが、そこはグッとこらえよう。選手や部下が成長することを最優先できるように気をつけたい。

ただし、選手任せ、部下任せも良くない。コーチや上司の言葉は選手や部下の“やる気”を引き出すからだ。取材で箱根駅伝などに出場する大学の監督を見ていると、ほどよい頻度で、シンプルな言葉を用いて選手に短くアドバイスしている。名伯楽と呼ばれる監督ほど、その傾向が強い。バランスのとれた“指導”ができると、教える側は無駄なエネルギーを使うことなく、教わる側も新たなスキルを習得しやすい。両者にとってウィンウィンな関係になるだろう。

アドバイスする側の一方通行では意味がない。教える技術を向上させることで、個々はもちろん、チームのレベルも高まっていくはずだ。

■若い世代が「ダルビッシュが理想の上司」という理由

明治安田生命が今春入社した新卒学生や社会人に聞いた「理想の上司」調査(2021年2月発表)の「スポーツ部門」で、ダルビッシュは10位に入った。1位は、現役を引退してもなお、高校野球の指導など野球界に貢献するイチローさん(3年連続)。

ベスト10内の現役選手は、2位の長谷部誠(フランクフルト・37歳)、4位の長友佑都(マルセイユ・34歳)7位の本田圭祐(ネフチ・バクー・34歳)、9位の坂本勇人(巨人・32歳)、10位タイのリーチマイケル(東芝・32歳)、そしてダルビッシュの6人だ(調査対象を男性に限れば、スポーツ部門でダルビッシュは6位、現役選手内では3位)。

理想とする上司 トップ10(敬称略)(男性)
明治安田生命「理想の上司」アンケート調査より

ダルビッシュは、アメリカでプレーしながら、日本球界レベルアップのために常に目配せしている。それは前出の佐々木投手だけでない。例えば、2017年にドラフト1位指名を受けた最速150km超の投手はなかなか芽が出ず、昨オフ、球団から支配下契約を結ばない旨を通告された。それを報道で知ったダルビッシュは面識がないにもかかわらず、わざわざつてを頼って、半ば引退を決めていた選手に直接電話を入れ、「もったいないんじゃないか?」との文面も送ったという。

自分に寄り添い、温かい言葉をもらったその選手は、「背番号139の育成選手」として球団と契約する決断をする。選手が今後成功するかどうかはわからない。だが、スポーツの現場でも、仕事の現場でも、今求められているコーチ・上司とは、こうした選手の心に火をつけ、前向きになれるように支える人ではないだろうか。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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