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「トヨタとホンダで正反対」日本の自動車会社はもうエンジンを諦めたほうがいいのか

プレジデントオンライン / 2021年5月26日 11時15分

記者会見するホンダの三部敏宏社長=2021年4月23日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

■「エンジン屋」としてのDNAがホンダの成長力だった

「エンジン屋」がエンジンを捨てる――。ホンダが2040年までに世界で販売する四輪車のすべてを電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)に切り替えると発表したのは、4月23日のことだった。

戦後生まれのホンダが、後発ながら世界的な四輪車メーカーに上り詰めた原動力は、創業の原点であるエンジンにあった。

二輪車メーカーから四輪車への進出。参戦・撤退を繰り返した世界最高峰の自動車レース「F1」に対するこだわり。1970年代に世界で最も厳しい排出ガス規制とされた米国の「マスキー法」(大気浄化法)をクリアした低公害エンジン「CVCC」の開発……。

そのどれをとっても、時代を先取りした創業者、本田宗一郎氏のフロンティアスピリットが息づいている。いわばエンジン屋としてのDNAがホンダの成長力だった。それをかなぐり捨てる「脱エンジン」の宣言は半端なことではない。

■脱エンジン宣言はトヨタ自動車に対する先制攻撃か

ホンダの発表した方針には、エンジンで発電しモーターで駆動するハイブリッド車(HV)は含まれていない。額面通りの「脱エンジン宣言」である。二酸化炭素(CO2)を少しでも出す新車の販売を一切やめる戦略を打ち出したのは、日本の自動車メーカーでは初めてであり、HV車にはまだこだわりがあるトヨタなど同業他社には桁違いのインパクトだったに違いない。

もちろんホンダの決断は、失敗すればすべてを失う「オール・オア・ナッシング」になるかもしれない。しかし、現在、世界の自動車大手は脱炭素を突き付けられている。ホンダはいち早く、そうしたディスラプション(創造的破壊)への挑戦を明らかにしたともいえる。

ホンダが「脱エンジン」を発表した4月23日は、4月1日に就任した三部敏弘新社長の就任会見であり、マスコミ・デビュー戦だった。三部社長はマツダのお膝元である広島大学で内燃機関の研究に明け暮れた根っからの「エンジン屋」だ。

その三部社長が会見で「2050年にホンダのかかわるすべての製品と企業活動を通じて、カーボンニュートラルを目指す」と表明した。これは菅義偉首相が昨年10月の臨時国会で表明した「2050年にカーボンニュートラルを目指す」という宣言への、ホンダとしての覚悟を示したと同時に、HVで電動車市場を切り開いてきたトヨタ自動車に対する先制攻撃にも映る。

■ホンダの「脱エンジン」は、ほぼゼロからのスタート

ホンダは、先進国全体でEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年には80%を目指し、2040年に100%達成というシナリオを描く。

地域別の目標も示し、ホンダにとっての最大市場である北米ではアライアンスを結んだ米最大手のゼネラル・モーターズ(GM)と共同開発した大型EV2車種を2024年モデルとして投入するなどにより、先進国全体と同じ販売ペースでの電動化に取り組む。

北米に次ぐ重要市場に位置づける中国も今後5年以内に10車種の「ホンダ」ブランドのEVを投入し、同様に2030年=40%、2035年=80%、2040年=100%を目指す。

ホンダの2020年の世界販売台数は445万台で、EVとFCVの販売比率は1%にも満たない。それだけにホンダの「脱エンジン」は、ほぼゼロからのスタートであり、目標実現のハードルは極めて高い。

ただ、2020年10月に2021年シーズン限りでF1からの完全撤退を発表した際、当時の八郷隆弘社長(現取締役)は撤退の理由を「カーボンフリー技術の投入をさらに加速するため」と語り、「再参戦はない」と断言した。

■トヨタも電動車販売を「2030年に800万台」に引き上げ

ホンダの「脱エンジン」に挑む本気度は三部社長も受け継ぎ、今後6年間で5兆円の研究開発費を投入し、EV専用工場も検討するなど、経営資源を「脱エンジン」に全集中する姿勢を今回の電動化計画で鮮明にした。

一方、ホンダの先制攻撃を受けた格好のトヨタは黙ってはいない。

カナダ・ノヴァスコシアに並ぶ、トヨタの新車
写真=iStock.com/tomeng
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tomeng

5月12日の2021年3月期連結決算の発表に合わせて、2030年を目標に据えた電動化計画を公表した。

トヨタは2017年末、2019年に電動化計画を発表しており、今回は「トヨタは2050年までにカーボンニュートラルを達成するという世界的な目標に100%コミットしている」(ジェームス・カフナー取締役)として計画を見直し、EV、FCVにHVを含めて日本、北米、欧州、中国と4つの地域別にそれぞれの販売比率を初めて公表した。

その内容は、ホンダの計画と比べ、具体的に販売台数目標を提示するなどより詳細だ。目標に据えた2030年のHVを含む電動車販売は世界で800万台と、2019年の「2025年時点で550万台」から引き上げた。EVとFCVだけに絞っても200万台とし、従来目標の100万台から倍増した。

■2030年時点の日本の「脱エンジン車」は10%を予想

トヨタは2022年3月期の世界販売目標を1055万台としており、このまま年間1000万台ペースで推移すれば、2030年には2割程度がEV、FCVの「脱エンジン車」となる。

トヨタが今回公表した電動化計画でひと際目を引いたのは、地域別に示した目標値だろう。世界に先駆けてHV「プリウス」を量産して電動車市場を牽引してきたトヨタだけに、2030年時点(中国だけは2035年時点)での地域ごとの電動車の販売目標比率はHVを含めた場合で、北米の70%を最低ラインに日本が95%、欧州、中国が100%と極めて高い目標を設定している。

これに対し、HVを除くEV、FCVだけに絞った販売目標比率は中国の50%を最高に欧州で40%に設定したものの、北米は15%、お膝元の日本に至っては10%という低い水準にとどまる。

この圧倒的な地域差こそが日本車メーカーが電動化を巡って翻弄されるジレンマを象徴している。つまり現実にはまだHV頼みなのだ。

2019年12月10日、デュッセルドルフのビジネス街に駐車された赤いテスラモデルSは、青い電源コードで充電ステーションに接続されている
写真=iStock.com/acilo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/acilo

■「ガソリン車禁止の政策は、日本の強みを失わせる」

ホンダが「脱エンジン」を宣言した前日の4月22日、日本自動車工業会の記者会見で会長を務めるトヨタの豊田章男社長は「ガソリン車を禁止するような政策は技術の選択肢を狭め、日本の強みを失うことになりかねない」と述べ、「脱エンジン」に大きく傾く流れにくぎを刺し、HVを含めた多様な電動化を進める重要性を強調した。

その背景には日本固有のエネルギー事情が絡む。日本勢がすべてホンダ同様に「脱エンジン」に切り替えれば、それだけ発電量を増やさなければならない。化石燃料に多くを依存する日本のエネルギー構造を考えれば、電動車が消費する電力を化石燃料由来の電力で賄うとなれば、むしろカーボンニュートラルへの道は遠のいてしまう。製造過程で費やされる電力を加味すれば、環境負荷の高い日本車の輸出もままならなくなる。

欧州は、風力、太陽光といった再生可能エネルギーがベースロード(基幹)電源として確立しているため、一気呵成(かせい)にEVシフトを進め、HV不要論に傾く。

しかし、日本のエネルギー構造の現状は「脱エンジン」を掲げるには心もとない。

■自動車メーカーを惑わす「エネルギー基本計画」の改定

バイデン米大統領が主催して4月下旬にオンラインで開催された気候変動に関する首脳会議(サミット)で、菅首相は日本が温暖化ガスを2030年度に2013年比で46%削減する目標を表明した。従来の26%削減から大幅に引き上げ、「50%の高みを目指す」とも宣言した。

しかし、福島第一原子力発電所の事故以降10年を経ても政府のエネルギー政策は一向に軸足が定まらない。再生エネで本命視されつつある洋上風力発電は商業化にやっと動き出す段階を迎えたばかりで、CO2を出さない「純国産」エネルギーと政府が標榜する原発がベースロード電源に行き着くまでの道のりは険しい。

政府は今夏、エネルギー基本計画を改定する予定だ。菅首相が温暖化ガスを2030年度に2013年比で46%削減する目標を表明したことを踏まえて現在、改定作業が進められている。

基本的には2030年度の電源構成目標は2019年度実績で約18%にとどまる再生エネの比率を30%台に引き上げ、20%程度に据え置く原発と合わせて「脱炭素」を加速する方向だ。

しかし、計画通り順調に進むかは見通せない。そこが日本の自動車メーカーを惑わす大きな要因となっている。

■世界の自動車メーカーに加わる「脱エンジン」への圧力

グローバル市場で事業展開する日本勢にとって、巨大IT企業が本格参入をもくろむEVシフトの状況下で、日本のエネルギー事情だけを見据えているのでは生き残れない。

さらに、国際エネルギー機関(IEA)は5月18日、2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロとする工程表を公表した。その中で輸送部門に対しては2035年にガソリンエンジン車など内燃機関搭載の新車販売の停止を求めた。世界の自動車メーカーには「脱エンジン」への圧力が高まっている。

日本勢でいち早く「脱エンジン」を打ち出したホンダの選択肢は一つの解でもある。

一方で、トヨタが取り組む全方位で多様化した電動化に取り組むのも一つの方向性だ。

トヨタは、スマートフォンをはじめ電子機器で常態化した「水平分業」がEV市場を支配しかねない現状で、あくまで完成車メーカーとして「垂直分業」での完成度の高い電動車の提供を維持する「トヨタウェイ」で臨む。それもこれも、この先の電動車の覇者を容易に予測できないディスラプション時代の姿なのかもしれない。

(経済ジャーナリスト 水月 仁史)

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