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「どんな国も容赦しない」異常なほど欧米に牙を剥くプーチン大統領の"次の標的"

プレジデントオンライン / 2021年5月26日 9時15分

ロシアのモスクワ郊外にあるノボオガリョボで、ポベダ(勝利)組織委員会の会議をビデオ会議で行うプーチン大統領=2021年5月20日 - 写真=SPUTNIK/時事通信フォト

■「クリミア奪還」の動きに大軍で対抗

ロシアとウクライナの関係が、2014年のクリミア半島併合以来最も緊張している。今年1月のバイデン米政権誕生後、ウクライナのゼレンスキー大統領が「クリミア奪還」への支援を国際社会に呼び掛けるや、ロシアは国境地帯に10万人の大軍配置で威嚇した。国境地帯での戦火が憂慮されている。

そんな中、6月16日にスイスのジュネーブで行われる米露首脳会談に注目が集まっている。ここでの話し合いが決裂した場合、ロシアの不気味な挑発行動も予想されるからだ。ロシアは新たな標的として、クリミアに隣接するウクライナ南東部のヘルソン州を狙っているとの情報もある。

ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州の親露派勢力が2014年に独立を宣言して始まった内戦は、これまでに民間人を含め1万4000人の犠牲者を出したが、ここ数年は小康状態だった。バイデン政権の誕生と、コメディアン出身のゼレンスキー大統領の支持率低下が、ウクライナ政府の強硬路線の触媒となった可能性がある。

バイデン大統領は副大統領時代、ウクライナを6回訪問し、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を支持した後ろ盾だ。

そのバイデン大統領は4月初め、ゼレンスキー大統領との電話会談で、「ロシアの侵略に直面するウクライナを強く支持する」と強調。新たな武器援助や経済支援を約束した。5月にはブリンケン国務長官がキエフを訪問し、ウクライナの領土保全、主権を擁護した。

一方、ロシアの全面支援を受ける東部の親露派は、今年に入って武力挑発を強化しており、双方の戦闘が再燃、犠牲者も増加していた。

■「殺し屋」呼ばわりにプーチン氏の報復は…

バイデン大統領が3月中旬のテレビ会見で、プーチン大統領を「殺し屋」呼ばわりすると、ロシアはクリミアと東部国境地域に兵力を増強し、大規模な軍事演習を実施。メルケル独首相は「かつてなく緊張が高まっている」と警告した。

米側がロシアを牽制するため、海軍艦船2隻の黒海派遣を発表したのに対して、ロシアは即座に反応し、カスピ海艦隊の15隻を、両海を結ぶ運河経由で黒海に投入。米側は、慌てて艦船派遣計画を停止した。

緊張拡大の中で、バイデン大統領は4月中旬、プーチン大統領に電話し、欧州の第三国で首脳会談を行うよう提案した。ロシア側はこれを評価し、ウクライナとの国境に駐留する部隊の撤収を発表したが、今なお推定8万人の部隊が国境付近に展開している模様だ。

ジュネーブでの両首脳の初会談は、今後の米露戦略関係を占う重要な会談となり、ウクライナ情勢にも大きな影響を与えそうだ。

■ゴッドファーザーが激怒した“大物”の逮捕

プーチン大統領をさらに激怒させたのは、ウクライナ検察当局が5月、ウクライナ親露派政党の幹部で大富豪のビクトル・メドベチュク氏を国家反逆容疑で拘束し、裁判所が自宅軟禁に置いたことだ。プーチン大統領は同氏と親交が深く、同氏の娘の名付け親になっており、ウクライナ親露派の「ゴッドファーザー」だ。

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写真=iStock.com/cyano66
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/cyano66

両国関係が敵対した後も、メドベチュク氏はクレムリンとのパイプ役を務めていたが、ゼレンスキー大統領は「ウクライナの安全保障に破滅的損害を与えた」と攻撃した。同氏が経営する3つの親露派テレビ局も閉鎖処分となった。

これに対し、プーチン大統領は安全保障会議で同氏の訴追に触れ、「ロシアへの脅威が生じており、適当な時期に適切に対応せねばならない」と述べた。発言はソフトながら、マーロン・ブランド演じる映画の「ゴッドファーザー」さながら、報復を示唆する凄みを感じさせる。

米露首脳会談が不調に終わった場合、最悪のシナリオは、ロシアと親露派が軍事攻勢に出て、ロシアが「ドネツク人民共和国」の独立を承認することだ。親露派の支配地区はウクライナ全土のほぼ3%だが、ロシアは「ウクライナ軍の挑発」を口実に軍事介入し、支配地区を広げる可能性も指摘されている。

ロシアは2014年のクリミア併合でも、まず「クリミア自治共和国」の独立を承認し、その後併合に踏み切った。「独立承認」は併合の前段階となり得る。

■次に仕掛けるのは「水戦争」?

クリミアとドネツク、ルガンスク両州に続くロシアの「第3の標的」といわれるのが、南東部のヘルソン州だ。

米紙ニューヨーク・タイムズ(5月8日付)は現地ルポで、ロシアがクリミアとドニエプル川を結ぶ北クリミア運河のあるヘルソン州に介入するとの憶測が強まっていると報じた。同州住民は、「ロシアは戦争の準備を終え、ヘルソンを支配する用意を整えているようだ」と述べている。

ロシアは親露派支配地区に強力なテレビ電波送信機を設置し、ヘルソン州一帯にロシアの宣伝放送を流している。一方で、ウクライナ側も運河の防衛体制を強化した。

ヘルソン州はクリミアと隣接し、クリミアの水源になっていた。人口200万人のクリミアは慢性的な水不足に直面するが、ロシアの併合後、ウクライナは水の供給を停止している。今回は両国の「水戦争」の様相なのだ。

ニューヨーク・タイムズによれば、ヘルソン州の住民の多くはロシア語を話し、ロシアへの親近感が強いものの、ロシアの支配には反対する者が多いという。

ある男性は「プーチンはいつここに軍隊を送り込むか分からない。逃亡の準備をしている」と述べた。2014年のクリミア併合時にも、ロシア軍の一部が同州に展開した経緯がある。

ロシアの工作員がすでに現地入りしている模様で、正規戦に加え、政治、経済、外交、プロパガンダなど非正規戦を混在させたロシア得意の「ハイブリッド戦争」の舞台になりかねない。

■欧米の介入に対し「歯をへし折ってやる」

それにしても、ロシアはこのところ、異常ともいえる対欧米強硬姿勢を強めている。

モスクワ
写真=iStock.com/Mordolff
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mordolff

5月には、米国の石油パイプライン企業がロシアに拠点を置く犯罪組織のサイバー攻撃を受け、一時操業中止に追い込まれた。2016年以降、米国の外交官130人がキューバなどでマイクロ波攻撃を浴び、神経性の脳障害を発病した謎の事件でも、米国のメディアはロシアの犯行説を伝えた。

チェコ政府は4月、ロシア軍の工作員2人が2014年に起きた軍武器庫爆破事件に関与したとしてロシア外交官18人を追放。ポーランドやバルト3国も同調し、外交官追放合戦が起きた。

これに対してロシアは、米国とチェコを「非友好国」に指定し、国内の外交活動を制限させた。まさにプーチン流の攻撃的、好戦的な「戦狼外交」を展開している。

プーチン大統領は4月21日の議会演説で、他国のいかなる挑発行為にも迅速かつ厳しく対応するとし、ロシアの「レッドライン(越えてはならない一線)」を超えないよう西側諸国に警告した。5月20日には、欧米諸国の介入を念頭に、「われわれから何かを噛みちぎろうとするなら、歯をへし折ってやる」と息巻いた。

■「戦火か緊張緩和か」の分水嶺になる

プーチン政権は国内でも保守強硬路線を強めており、反政府活動家、ナワリヌイ氏を投獄、同氏の組織を「過激派」に指定して完全排除する方針だ。評論家のセルゲイ・ラドチェンコ氏は、「プーチン政権は欧米の侵略からロシアを守ることを誓っており、市民の自由の抑圧を、より大きな国家の自由を守るために正当化している」と指摘した。

こうして、ロシアの「戦狼外交」は、欧州では中国の「戦狼外交」以上に脅威となりつつある。

こうした中で、バイデン政権は5月下旬、ロシアへの追加制裁を断念したり、軍縮や気候変動といった利害が重なる分野での対話を打ち出したりするなど、やや柔軟姿勢を見せ始めた。ロシアの「戦狼外交」に、まともに付き合っていられないということだろう。

6月の米露首脳会談が、欧州の戦火か緊張緩和かを占う分水嶺になりそうだ。

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名越 健郎(なごし・けんろう)
拓殖大学海外事情研究所教授
1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒。時事通信社に入社。バンコク、モスクワ、ワシントン各支局、外信部長、仙台支社長などを経て退社。2012年から拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『北方領土はなぜ還ってこないのか』、『北方領土の謎』(以上、海竜社)、『独裁者プーチン』(文春新書)などがある。

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(拓殖大学海外事情研究所教授 名越 健郎)

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