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アマゾンで買う人が増えるほど、かっぱ橋の料理道具店が繁盛するワケ

プレジデントオンライン / 2021年5月30日 11時15分

「飯田屋」6代目店主の飯田結太さん - 撮影=小林久井

ネット通販の隆盛で、実店舗は苦戦しているといわれる。だが東京・かっぱ橋の老舗料理道具専門店「飯田屋」は好調だ。飯田屋6代目の飯田結太さんは「ネット通販で不満や不便を感じる人は増えている。だからネット通販が増えるほど、専門店にも人がやってくる」という――。

※本稿は、飯田結太『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■ネット通販隆盛の陰で膨らんでいく不満

「アマゾンへの対抗策は大丈夫?」

実店舗を営んでいると、よく聞かれる質問の一つです。

はっきり言いますが、まるで影響はありません。逆に、ネット通販のお客様が増えるほどに、飯田屋への来店客数は年々大幅に増えています。

嘘みたいな話でしょうが、本当です。なぜなら、ネット通販購入者の母数が増えた結果、不満、不便、不快、不都合といった潜在的な「不」を抱えたお客様が増えていくからです。

料理道具の場合、大きさや重さで失敗したというお客様の声をよく聞きます。たとえば、フライパンをネットで購入した人がいるとします。

もちろん、ネット通販のサイト上にはサイズや重さがしっかりと記載されています。サイズは24cm、重さは950g。価格も手頃だし、買ってみたとします。

しかし、商品が届いてみると、「こんなに小さかったのか!」とか「こんなに重かったのか!」と驚いた経験はありませんか。正しく商品仕様が書かれていても、それが自分に合った道具であるかどうかを判断するのは容易ではありません。

24cmは少食の人の1人前、26cmは2人前、28cmは3人前、30cmは4人前と、たった2cmサイズが変わるだけで、料理ができる量がこれほど変わってきてしまうのです。950gと書いてある重さが自分にとってどれほどの重さなのか、実際にフライパンを持ってみれば一目瞭然なことが、文字だけで理解するのは難しいのです。

そして、ネット通販では簡単に膨大な種類の選択肢にアクセスできてしまいます。一人で何も知識なく道具を選ぶには、ネット通販は便利なようでかなり難易度が高いのです。だから買った人が感想などを書き込むレビューが大切になっていくのですが、最近では偽レビューというのも大きな問題となっていて、どこまで信じられるかは疑問です。

もちろん、ネット通販に満足感をおぼえる人も多いでしょう。しかし、それと同時に思ったものが買えなかったという不満も同じくらい増えているのです。

■ネット通販で不満を覚えた人は専門店に来る

人間は本能的に不満、失敗を避ける生き物です。

フライパンをネット通販で買って不満をおぼえた人は、次は絶対に失敗したくないと思います。そこで次は専門店で道具のプロに相談して買うという選択をします。こういう人は今後はもっと増えていくことでしょう。

ネット通販には、自宅にいながらに買物できる圧倒的な便利さがあります。一方、それに比べたら飯田屋には圧倒的な不便さがあります。それでも、わざわざ足を運んでやってきてくださるお客様はたいへんありがたい存在です。

ですから、買物そのものが一つのエンターテインメントとなるよう心掛けています。実店舗で勝負をするなら、毎日一つの「ショー」を興行するくらいの熱意で挑まなければ生き残りは難しいでしょう。

■通販で買えるのに、わざわざ飛行機に乗って来店

アマゾンの企業理念は「地球上で最もお客様を大切にする」だそうです。アマゾンは世界に数億人規模の顧客を持つ巨大企業です。

それでも、33坪しかない小さな飯田屋には、アマゾンを超えられる強みがあります。飯田屋では、「地球上で最も目の前にいるお客様を大切にする」と誓っていることです。

また、料理道具に関してはアマゾン以上にお客様を喜ばせられると自負しています。

アマゾンで購入したほうが早くて安いことを知っていながら、わざわざ飛行機に乗って飯田屋にご来店くださるお客様もいます。その方々は、飯田屋でしか味わえないお買い物体験を求めていらっしゃいます。

実店舗で勝負をする僕たちが、アマゾンのサービスに対抗する必要はありません。アマゾンには決して真似できない飯田屋の強みは、目の前のお客様に寄り添える人間味のある接客です。お客様のお名前をおぼえることや、会話を楽しむこと、手紙を書くことなど、それぞれの店に合った人間味のある接客をとことん磨いていけばいいのです。

多種多様なレードルが並ぶ飯田屋の店内
撮影=小林久井
多種多様なレードルが並ぶ飯田屋の店内 - 撮影=小林久井

■ランキング1~100位のビールグラスを比べてみた

アマゾンのカスタマーレビュー機能はとても便利と評判です。たしかにアマゾンランキングのトップ商品には、思わず購買意欲をそそられます。ですから、評判が高くなるほどに、その評価を信用して次の購買行動へとつながるため、売上も伸びる傾向にあります。しかし、専門店である僕たちがカスタマーレビューの評価をそのまま鵜呑みにして商品を販売するわけにはいきません。そこには必ずずれがあるからです。

あるとき、アマゾン売れ筋ランキング1位から100位までのビールグラスを買い集め、どれがいちばんビールをおいしく飲めるかを基準に、独自に評価してみました。すると驚くことに、1位のグラスが断トツの最下位となったのです。

そこで従業員にも、僕が評価した1位のグラスとアマゾン売れ筋ランキング1位のグラスを含む10種類をブラインドチェックで評価してもらいました。すると、好みによって多少のばらつきはあったものの、誰一人としてアマゾン売れ筋ランキング1位のグラスをおいしいとは評価しませんでした。なぜ、このようなずれが起きるのでしょうか?

■一人ひとりのニーズに合った「おすすめの一品」を伝えたい

売れ筋ランキングは、扱いやすさ、購入しやすい価格などさまざまな評価で成り立っています。また、広告による好印象も大きな要因かもしれません。構造的な特長などをうたった広告商品はリーチされやすく、ランキングが上がる傾向にあります。

カスタマーレビューはあくまで、その一品を気に入ったかという絶対的な評価でしかありません。僕たちのように何十種類もグラスごとに飲み比べて、相対的な評価をしている人はいないでしょう。カスタマーレビューを参考にするのはいいことです。しかし、すべてを鵜呑みにしていては、あなたが探し求める一品には出合えないかもしれません。

飯田結太『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)
飯田結太『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)

飯田屋では、カスタマーレビューには書かれることのない情報や知識、相対的な評価を伝えます。だから、お客様は感動してくださいます。どれだけの多くの人の情報よりも、たった一人の情報により大きな価値を持たせることも可能だと信じています。

僕たちは一人の専門家として、一人ひとりの異なるニーズに合った「あなたにおすすめの一品」を、自信を持って伝えていきたいのです。それこそが実店舗が生き残る道です。

それは難しいことではありません。大切にしているお客様にただ喜んでいただきたいという一心で、いろいろと商品を勉強して販売するだけのこと。それは、昔から多くの店で普通に行われていた営みにすぎません。

最近、どの店もやたらと近道を求めすぎる風潮があります。それが「実店舗はネット通販に負けてなくなる」という話につながっているような気がしてならないのです。

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飯田 結太(いいだ・ゆうた)
飯田屋6代目
大正元年(1912年)に東京・かっぱ橋で創業の老舗料理道具専門店「飯田屋」6代目。料理道具をこよなく愛する料理道具の申し子。TBS「マツコの知らない世界」やNHK「あさイチ」、日本テレビ「ヒルナンデス! 」など多数のメディアで道具を伝える料理道具の伝道師としても活躍。自身が仕入れを行う道具は必ず前もって使ってみるという絶対的なポリシーを持ち、日々世界中の料理人を喜ばせるために活動している。監修書に『人生が変わる料理道具』(枻出版社)。2018年、東京商工会議所「第16回 勇気ある経営大賞」優秀賞受賞。

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(飯田屋6代目 飯田 結太)

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