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無印良品のカレーが異常にマニアックな品揃えになった本当の理由

プレジデントオンライン / 2021年5月28日 15時15分

素材を生かしたカレー プーパッポン(蟹と卵のカレー) - 写真提供=良品計画

無印良品のレトルトカレーは、専門店にもないようなマニアックなカレーがある。なぜそこまでこだわっているのか。ライターのトイアンナさんは「無印良品のレトルトカレーを製造するにしき食品の戦略が影響している。同社は小ロット生産に強みがあり、その特徴がマニアックな品ぞろえを生むことになった」という――。

■本格的な味で種類も豊富な無印のレトルトカレー

無印良品のカレーはおいしい。

これは、レトルトカレー好きには、かなり知られていることだ。ラインナップは40種類以上。「プーパッポン」「マサレマ」といった、聞き慣れないマニアックなラインナップも並ぶ。そして、どれも一度、食べれば忘れられない本格的な味なのだ。

これまで日本人には受け入れられないと考えられてきたカレーを、人気商品に育ててることができたのはなぜか。それはひとえに無印良品のブランドの強さにある。

■無印良品のカレーを支えてきた「NISHIKIYA KITCHEN」

無印良品は長らく「本当に良質なものを、手の届く価格で届ける」というブランディングを続けてきた。

衣料品、家電、インテリアなど、生活周りのあらゆるカテゴリへ、ブランド名を記載しなくても無印良品だと伝わる上質で洗練されたデザインを広めることに成功している。

さらに、無印良品はリーズナブルな価格帯であるにもかかわらず、持つことで「デザインにこだわっている人」「良質なものを選んでいる人」と思わせることにも成功した。

無印良品を持つ人に「洗練されている」という印象がつけば、今度は「洗練されているように見せたい人」が無印良品を選ぶようになる。この良質なサイクルが、無印良品のユーザーを増やしてきた。

だが、いくら無印ブランドがあろうが、食品の場合、おいしくなければヒットしはない。どんなにマーケティングがうまくても、質が悪い製品はリピートされないからだ。なぜ無印良品のカレーは、種類が豊富なのに、どれも質が高いのか。その裏には、カレーを生産している「NISHIKIYA KITCHEN」というブランドの下支えがある。

■「レモンクリームチキンカレー」は100万食を突破

「NISHIKIYA KITCHEN」ブランドの母体であるにしき食品は、宮城県岩沼市に本社を置くレトルト専門の食品メーカーだ。

レモンクリームチキンカレー(写真提供=にしき食品)
レモンクリームチキンカレー(写真提供=にしき食品)

一般的にレトルトには「間に合わせのメニュー」というイメージがあるが、NISHIKIYA KITCHENは「ごちそうレトルト」をテーマに、一流店などとコラボレーションした本格派の料理をレトルトで生産している。

筆者も今回、あらためて「NISHIKIYA KITCHEN」のカレーを10種類ほど食べてみたが、とにかくおいしい。自分でカレーを作るのがばからしくなるくらい、レトルトでもおいしいのだ。

特に人気の「レモンクリームチキンカレー」は100万食を突破している。その品質の高さから伊勢丹新宿店にも配荷されるなど、NISHIKIYA KITCHENブランドだけでも成功を納めている。さらに、直営店が宮城と東京にあり、レトルト食品専門店としては異例の人気を誇る。

■売上の8割を占める業務用を捨て、小売りレトルトに方針転換

もともと、NISHIKIYA KITCHENの母体であるにしき食品はカレーのレトルトを中心に、無印を含めた小売店へ「原料としてのカレー」を提供するメーカーだった。

カレーは、小売店へ提供するよりも、大手弁当チェーンやコンビニエンスストアへ提供するほうが、トン単位の出荷が可能であり、売り上げも大きい。いっぽう、にしき食品の強みは300kg単位の小ロット生産だった。当時のにしき食品は自社ブランドも持っていたが、全体の2割にすぎなかったのである。

そこで、にしき食品は決断する。売り上げの8割に及ぶ業務用レトルトの生産を停止し、代わりに小売りのレトルト生産へ舵をきったのである。現在までにNISHIKIYA KITCHENのPB商品も広く展開し、小ロット生産を活かしたバラエティあふれるレトルトを提供している。

とはいえ、にしき食品単体では店舗展開に限界がある。そこで、無印良品とのタッグが売り上げ拡大への道を拓いた。無印良品のカレーの製造元になることで、数多くの店舗にNISHIKIYA KITCHENのレトルトカレーを置くことに成功したのだ。

簡単に言ってのけるようだが、相手は国内外含めて1000店舗以上を構えるグローバルブランドである。にしき食品が無印良品のパートナーに選ばれたのは、インドから国内の名店まで、カレー店を巡っては究極の味を追求するひたむきさが評価されたのだろう。

■顧客層の拡大に有効な「コア&モア戦略」

「NISHIKIYA KITCHEN」ブランドを拡大して高級店を中心に販路を拡大しつつ、全国の無印良品へB to B営業を通して売り上げを伸ばす。このやり方は、マーケティングの「コア&モア戦略」と合致する。

コア&モアとは、ブランドの核となる「コア」となる顧客の心はつかみながら、コアを逸脱しない範囲で販路を広げ、さらなる顧客「モア」をつかむ戦略である。

著名な事例では、吉野家が既存顧客を維持したままで、クリーンで広い店舗を用意し、女性や家族連れのファンを増やした直近の戦略がある。

このコア&モア、できれば理想的だが、実行するのは極めて難しい。コア、つまり既存顧客はブランドの変化に敏感だ。「これは私向けではなくなってしまった」と思えば、すぐに他のブランドへ移動してしまう。消費者は元来、浮気性なのだ。

そこで、この「コア」層のイメージを崩さないよう、慎重に他の顧客を開拓せねばならない。NISHIKIYA KITCHENの場合は、無印良品というヴェールをかぶることで、NISHIKIYA KITCHENファンには透けない形で販路を拡大した。

そして、たとえ無印良品のカレーがNISHIKIYA KITCHEN製だと分かっても、NISHIKIYA KITCHENの「ごちそうレトルト」と、無印良品の「本当に良質なものを、手に届く価格で届ける」ブランドイメージは、そこまで相反しない。

だからこそNISHIKIYA KITCHENは、自社ブランドと無印良品のカレー、両方のビジネスを成長させられたのである。

■安易なブランド方針の転換によって失敗するケースも

「いまの顧客も維持しつつ、さらに新しい顧客を得たい」というのは、どの企業も願うことだろう。とはいえ、実際には安易なブランド方針の転換によって、既存顧客も失い、さらに新規も得られず閑古鳥となったブランドの屍が並ぶ。

たとえば、現在絶好調のマクドナルドも、2007年からの数年間、コーヒーメニューやパンなどのデリを中心とした新型店「マックカフェ」を展開し、失敗している。

商品の単価を引き上げて、スターバックスなどのコーヒーチェーンに対抗しようとしたが、本来の中心顧客であるファミリー層の支持を失い、経営上の課題を抱えることになった。その後のマクドナルドはファミリー層に回帰することで、復調している。

コア&モアは、慎重で計画的なプランニングによって初めて成功する難易度の高い戦略だ。

安易に模倣すれば、会社の経営ごと傾くリスクすらある。その中でもにしき食品と無印良品のブランドによる販売戦略は「法人向けにブランド名を出さない販売と、一般消費者向けのブランドを別名義で展開する」という、コア&モアを成功させる優れた手法の例と言えるだろう。

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トイアンナ ライター
1987年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。P&Gジャパン、LVMHグループで合わせて約4年間マーケティングを担当。その後は独立し、主にキャリアや恋愛に関するライターや、マーケターとして活動。著書に『就職活動が面白いほどうまくいく 確実内定』や『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』などがある。

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(ライター トイアンナ)

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