「マグロだけじゃない」近大が年間500本のリリースを出してもネタが尽きないワケ
プレジデントオンライン / 2021年6月3日 11時15分
※本稿は、栗田朋一『新しい広報の教科書』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■年1500件の取材を受ける近畿大学
大学のブランド力を向上させ、固定化された大学の序列や偏差値にとらわれた大学選びの風潮を打破する。それが私たち広報室の使命です。2013年に広報室(旧・広報部)が新設されて以来、「全教職員が広報員」という考え方のもと、教職員が一丸となって、広報活動に携わっています。
その成果もあってか、2020年の日経BP社「大学ブランド・イメージ調査(2020‐2021)」近畿編で初めて3位になりました。
イメージアップの要因は、なんといってもメディアの露出数が多いことだと思います。最近は毎年1500件以上の取材を受けています。
メディア露出が多い理由の一つは、「近大マグロ」のような、メディアに注目されるネタがたくさんあることですが、それだけに頼っていません。
■年間リリース本数500本以上
まず実践しているのは、プレスリリースを積極的に出すことです。リリースの本数は、平成30(2018)年度は559本、新型コロナウイルスの影響を受けた令和2(2020)年度も2月時点で477本出しました。
それだけの数のプレスリリースを出せるのは、広報の兼任担当者が140人いるからです。広報室の職員は14人ですが、各キャンパスや各附属校にも置いている広報担当者たちが、ネタを掘り起こし、リリースの素案をつくっているのです。
なかには、「これは記事になりにくい」という小ネタもありますが、ハードルを上げずに、なるべくリリースを出すようにしています。全国紙には載らなくても、全国紙の地方版や業界紙のウェブ版に載る可能性は十分にあるからです。実際に、そこから、他のメディアに広がっていくことも珍しくありません。
■透明の「近大マスク」リリース秘話
いくらリリースを出しても、単に概要を記すだけでは、メディアは興味を持ってくれません。そこで、リリースの素案を見て、広報担当者に書き方をアドバイスしています。それだけでなく、広報室のスタッフが協力して、ネタづくりをすることもあります。
その一例が、「近大マスク」です。2020年に理工学部で開発された透明のマスクで、大阪・ミナミの商店街に寄贈する予定でしたが、これだけではメディアに取り上げてもらえないと感じました。
![2021年3月に発売された近大マスク。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/f/300/img_ff5da9293f8a9261ea5b2337a0ab1d2691774.jpg)
そこで、広報室のスタッフが、商店街の担当者との打ち合わせに同行して、「寄贈するイベントのときに、飲食店の店員さんが装着している写真が撮れるようにしたい」「飲食店は大阪人なら誰でも知っているお好み焼きのお店がいい」と交渉したのです。そうして話をつけた上で、寄贈イベントのリリースを打ったところ、全国紙やテレビなど多様なメディアで紹介されました。
ネタづくりということで言えば、2014年には、広報室のスタッフが新商品のアイデアを考え、実現にこぎつけたこともありました。これまで余っていた近大マグロの中骨を活用する方法を水産研究所と相談して考え、エースコックさんに、中骨を使ったカップラーメンの開発を持ちかけたのです。商品の販売は好調で、第3弾まで発売されるビッグプロジェクトとなりました。広報の枠にとらわれず、さまざまなことに挑戦しています。
■全て読まなくても概要がわかるリリース
プレスリリースの素案の質を上げるために、リリースのフォーマットを決めています。それに沿って作成すれば最低限必要な内容が載せられます。
また、定期的にそのフォーマットをブラッシュアップしています。他社のリリースも参考にしながら、記者の目に留まるように工夫しています。具体的には「内容のポイントを3つにまとめる」「写真を大きめに載せる」などによって、すべて読まなくても概要がわかるようにしました。また、リリースに関連する写真を自由にダウンロードできるサイトを設けて、QRコードでアクセスできるようにしました。記者に好評です。こうして作成したプレスリリースを、さまざまな記者クラブを使って配っているのも、私たちの広報活動の特徴です。
大阪科学・大学記者クラブをはじめ、官公庁や市役所などの複数の記者クラブを利用していて、PRするテーマに合わせて、リリースを配信しています。たとえば近大マグロのような水産系のネタなら、水産庁の記者クラブを利用しています。クラブによってルールが違うのですが、記者と直接話せるクラブでは、リリースをまくだけでなく、きちんと説明しています。
記者クラブを使う会社は少なくなっているようですが、うまく活用すると、自分たちが露出したいメディアでの記事掲載につながりやすくなります。発行部数の少ない業界紙も多いですが、今はその記事がウェブ上で広がり、他紙への掲載にもつながるので、十分にメリットがあります。
■メディア露出を増加させる「全教職員が広報員」の意識
「取材に応じてくれる教授を紹介してほしい」。大学の広報は、メディア側からそんな相談をされることもあります。気軽に相談してもらえるようになれば、それだけメディア露出のチャンスが増えます。
![栗田朋一『新しい広報の教科書』(朝日新聞出版)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/4/200/img_34c183329220a0bf0d85c26d590a40ea117315.jpg)
そこで2013年に作成したのが「コメンテーターガイド」です。教員の専門分野やコメント可能なことなどが一目でわかるガイドブックで、記者の皆さんに配っています。ウェブ版もつくっていて、誰でも検索できるようにしています。
このガイドによって、関西圏のメディアには「近大に頼めば、誰か手配してくれるだろう」ということが浸透したようで、かなり問い合わせがあります。「こんな人、いませんか」と漠然とした相談を受けることが多いので、広報室でもこのガイドを使って、検索しています。
相談を受けたときは、スピード対応も心がけています。特にテレビは「今日取材したい」という急な依頼が少なくありません。可能な範囲内ですが、休日や夜間でも対応するようにしています。
近大の教員は取材に協力的な人が多く、助かっています。その要因としては、「全教職員が広報員」という方針があること。学内のさまざまな会議の場で、学長が「広報に協力してほしい」と一言加えてくれることも大きいと思います。私たちも会議に参加して、メディア露出状況の報告をこまめにしています。
【法人概要・業務内容】
「実学教育」と「人格の陶冶(とうや)」を建学の精神に、1925年設立。医学から芸術まで14学部48学科を擁し、総合大学として日本最大級。2021年度一般入試ののべ志願者数が8年連続日本一。世界で初めて完全養殖に成功した「近大マグロ」をはじめとした先端研究でも知られる。2021年3月現在、附属幼稚園から大学院まで約5万2000人が在籍。
【広報体制】
広報室は14人(派遣職員含む)。さらに奈良や広島などのキャンパスや附属中高などに、広報の兼任担当者が約140人いる。
加藤公代さん
学校法人近畿大学入職後、学部事務部、人事部、入学センター等を経て、2013年から広報部課長。2017年4月から21年3月まで広報室長。現在は東京センター事務部長。
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PRacademy代表取締役
1971年、埼玉県浦和市(現・さいたま市)生まれ。明治学院大学社会学部卒。歴史テーマパーク「日光江戸村」を運営する大新東で広報を担当し、江戸村及びグループ会社全体のコーポレートPRを手がける。2003年に電通パブリックリレーションズに入社。その後、07年にぐるなびに転職し、広報グループ長を務める。現在は、自身で立ち上げたPRacademyの代表取締役を務める。著書に、『現場の担当者2500人からナマで聞いた 広報のお悩み相談室』(朝日新聞出版)がある。
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(PRacademy代表取締役 栗田 朋一)
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