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「8期連続で最高益」テレワークが普及しても住友不動産のビルが満室御礼であるワケ

プレジデントオンライン / 2021年5月28日 11時15分

テレビ東京本社などが入居する六本木グランドタワー(東京都港区) - 写真=時事通信フォト

住友不動産は直近の決算で、8期連続で最高益を更新した。経済評論家の加谷珪一さんは「住友不動産の主力はオフィス事業。テレワークの普及でオフィス需要そのものは減ったが、住友不動産の所有するような立地のいい物件の需要は減っていない」という――。

■好業績を牽引したのは意外にもオフィス事業

コロナ危機によって日本経済が大打撃を受ける中、住友不動産の業績が好調だ。

2021年3月期決算ではライバル2社が減益となったが、同社は8期連続の最高益更新(親会社に帰属する当期純利益)を達成した。同社の好業績を牽引したのは意外にも逆風が吹くオフィス事業だが、これはどういうことだろうか。

住友不動産の2021年3月期決算は、売上高は前年比9.5%減の9174億円、営業利益は前年比6.4%減の2192億円、当期利益は0.3%増の1413億円となった。

売上高は減っているものの利益が増えているので減収増益ということになる。もっとも、本業のもうけを示す営業利益は前年比マイナスであり、最終損益がプラスとなったのは中国のマンション開発案件の売却という特殊要因があったからである。

■テレワークへの移行でオフィス需要は減っている

しかしながら、三井不動産、三菱地所というライバル2社と比較しても同社の利益率は高く、営業減益幅も少なく済んでいるので、やはり好業績と言って良いだろう。

コロナ危機によって、不動産市場には大きな逆風が吹いている。全国的にマンション開発が滞っており、販売戸数は大幅に減少した。

不動産経済研究所の調査によると2020年の首都圏における新築マンション販売戸数は2万7228戸と前年比で12.8%の減少となっている。販売戸数が減れば、その分だけデベロッパーの売上高も減少することになる。

緊急事態宣言に伴う外出自粛などで商業施設の収益が激減していることに加え、多くの企業がテレワークに移行したことからオフィス需要も減っている。

一部ではオフィスを解約する動きが出ており、当然のことながら一連の動きは賃貸事業にとってマイナス要因となる。結果的に大手3社は減収となったわけだが、住友不動産への影響が軽微だったのは、意外にもオフィス賃貸事業が好調だったからである。

■不動産市場の二極化が進んでいる

同社の不動産賃貸部門は、ホテルやイベント施設でコロナ危機の影響を受けたものの、主力のオフィスビルは空室率が低く推移したことから増収増益となった。

2019年に竣工した住友不動産新宿セントラルパークタワーや、住友不動産秋葉原ファーストビルが本格稼働したことで通期の売上高が増えた。今年に入って竣工した住友不動産御茶ノ水ビルも満室稼働になるなど、オフィス事業は好調に推移している。

同社はライバル2社と比較して、オフィス賃貸事業の比率が高いことが功を奏した形だ。

テレワークへのシフトによってオフィス需要は減少しているはずなのに、なぜオフィス賃貸事業は好調に推移したのだろうか。実はオフィス賃貸部門は同社に限らずライバル2社もそれなりの業績となっており、総崩れという状況ではない。

ある種の矛盾が発生しているのは、コロナ危機によって不動産市場の二極化が進んだことが原因である。

■大規模なテナント退去はあったようだが…

コロナ危機によってテレワークが普及し、オフィス需要は確実に減っている。

実際、富士通のようにコロナ終息後もテレワークを継続し、オフィス面積を半減させる方針を示す企業も出てきた。だが、こうしたオフィス需要の減少は大手3社にとってはそれほど大きな影響を与えない。

自宅からビデオ会議に参加する男性
写真=iStock.com/chee gin tan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chee gin tan

大手が所有するオフィスビルは、基本的に高スペックであり、賃料も相応に高額である。こうした高スペックのビルには多くの企業が入居を希望するが、賃料の関係から入居を諦める企業も多かった。

ところがコロナ危機でオフィスビル需要が減少したことから、一部の大型ビルではテナント退去が相次いだ。ご多分にもれず、住友不動産でも大規模なテナント退去があったようだ。

■大手が保有する「高スペックビル」は満室が続いている

だが、スペックの高いビルは少し賃料を下げれば(あるいはフリーレント期間を長くすることで事実上の賃料引き下げを実施すれば)、あっという間に次のテナントが決まる。賃料の関係で入居を逡巡していた企業にとっては、コロナ危機は一流ビルに入れるチャンスと映る。

テナントを奪われたスペックの低いビルのオーナーは、やはり賃料を引き下げて、さらにスペックの低いビルからテナントを奪う。

こうした動きが各所で発生することで、オフィスビル市場ではテナントの玉突きが発生するが、高スペックのビルは引き続き、満室稼働が続くという図式になる。あらたに竣工するビルがあった場合には売上高の絶対値も増えるので、業績はプラスになるという仕組みだ。

新宿の高層ビル群と青い空
写真=iStock.com/segawa7
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/segawa7

コロナ危機は経済全体に大きな影響を与えているが、状況は均一ではない。

有利な事業者とそうでない事業者の格差が拡大しており、不動産業界もそれは同じである。コロナ危機が終息すれば商業施設の収益も改善するので、少なくとも大手3社の業績はすぐに回復する可能性が高い。

ワクチン接種が進んでいる米国では、不動産市況はすでにプラスに転じており、遅れているとはいえ日本でも同じ状況が到来するだろう。

■コロナ禍でも「上京する」という構図は変わっていない

ではマンションの販売事業はどうだろうか。このところテレワークが定着してきたことから、東京など都市部から田舎に転居するケースが増えているという記事をよく目にする。

だが、こうした記事の一部は、事実(ファクト)ではなく、単なる願望をベースに執筆されていることも多いので注意が必要だ。

確かにコロナ危機後、東京都からの転出超過が目立った時期があったが、それは失業などによって生活の維持が難しくなり、実家に戻るといったケースがほとんどであり、積極的な転居とは言い難い。

2020年全体では東京は転入超過であり、例年と比較して絶対数は減っているものの、やはり就職や入学などで多くの人が上京しており、3月は大幅な転入超過となった。

加えて言うと、東京都は転出超過が目立ったが、一方で埼玉など近隣県では転入超過となっており、首都圏内の移動が多かったことが推察される。仮に転居という動きがあったとしても、それはあくまで近い範囲での動きということになる。

つまり首都圏全体では人口が増えているにもかかわらず、コロナ危機で工事が滞り、新築マンションの供給は減っている。結果として少ない案件の争奪戦となっており、2020年における首都圏のマンション販売平均価格は6000万円を突破した(ちなみに2021年4月の平均販売価格は何と7764万円に達している)。

■一生涯、テレワークだけで済ませられる人は少ない

住友不動産のマンション販売戸数も大幅に減少したので、関連部門は減収となっているが、価格の上昇や広告宣伝費の減少(コロナ危機で十分な物件案内ができない)によってむしろ営業利益は拡大している。

コロナ危機によって売上高は減少しているものの、住友不動産をはじめとする不動産会社は、むしろ収益体質に転換したと見なすこともできる。今回の決算は、不動産市場において二極化が進み、市場全体は縮小するものの、有力企業はむしろ高収益化が進む可能性を示唆しているのかもしれない。

日本は人口減少が進んでいると言われているが、2010年代前半は人口は微増となっており、高齢化を除くと大きな変化はなかった。だが、これからの十年は本格的に人口減少が進み、地方の過疎化が急加速する。

テレワークが進展するといっても、生涯労働時代において、一生涯、テレワークだけで済ませられる人は少なく(再雇用などにおいては現場への出勤を命じられる可能性は高い)、住宅購入者の多くはやはり利便性のよい場所を強く求めている。

今後は立地条件の良い不動産市場は引き続き堅調に推移するとともに、立地条件の悪い不動産の市況は絶対的な需要の減少で大きな影響を受けてしまう。

■日本社会で進行している大手とそれ以外の「二極化」

収益性の高い物件の争奪戦が始まるので、不動産業界は体力勝負が予想される。縮小市場の中で大手3社はむしろシェアを拡大し、逆に規模の小さいデベロッパーは売上高の減少に悩まされるだろう。

二極化時代においては、条件のよい物件を手がけられたデベロッパーは、黙っていても物件を販売することができる。コロナ危機で定着したシンプルな販売方法が定着し、モデルルームに多額の費用を投じる必要もなくなるので、利益率は向上する可能性が高い。

実は建設業界でも似たような図式となっており、このところ中堅以下のゼネコンがハウスメーカーに買収されるケースが目立っている。

不動産業界で物件の選別が進むのであれば、建設市場にも同じメカニズムが働く。コロナ後は、市場規模の縮小と二極分化が激しくなり、大手とそれ以外の格差が拡大するというのは、多くの業界に共通した動きとなるだろう。

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加谷 珪一(かや・けいいち)
経済評論家
1969年宮城県生まれ。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後独立。中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。

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(経済評論家 加谷 珪一)

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