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「兄弟で大騒ぎ」どうしても朝日と毎日にケチをつけたい安倍前首相と岸防衛相のレベル

プレジデントオンライン / 2021年5月27日 18時15分

自衛隊が運営する大規模接種センターの視察を終え、記者の質問に答える菅義偉首相(手前)。奥左は岸信夫防衛相、同右は中山泰秀防衛副大臣=2021年5月24日、東京都千代田区の大手町合同庁舎3号館 - 写真=時事通信フォト

■防衛省が「ワクチンを無駄にしかねない悪質な行為」と抗議

防衛省が5月18日、自衛隊による東京都と大阪府での新型コロナワクチンの大規模接種を巡って毎日新聞社と朝日新聞出版社がそれぞれ虚偽の予約をしたとして両社に抗議文を送った。

これに先立ち、岸信夫防衛相は午前中の記者会見で「不正な手段によって予約することは、貴重なワクチンを無駄にしかねない悪質な行為だ」と強く訴えていた。

17日から始まった大規模接種会場の予約では、サイトに接種券番号や生年月日を入力する必要がある。しかし、防衛省は接種券を配る自治体の市区町村と番号を突き合わせておらず、架空の番号や生年月日でも予約ができてしまう。

毎日新聞と朝日新聞出版の記者は、この不備を確認するために実際に予約を行い、そのうえで「公益性が高い」と判断して毎日新聞やニュースサイトのAERA dot.に検証内容を掲載した。これに岸防衛相が噛みついたのだ。

■「無理に急ぐと混乱する」との声に耳を貸さず

国家権力とマスメディア、報道される側と報道する側、この両者の対立はよくあることだ。

だが、今回の岸防衛相の「悪質な行為」との批判には驚かされる。そもそも政府が突貫工事のように大規模ワクチン接種を急いだ結果、こうした不備を招いたのである。本来なら早急に改善すべき問題だ。それを棚に上げて毎日新聞や朝日新聞出版を攻撃するのはお門違いで筋が通らない。

なぜ、政府はこれほどまでにワクチン接種を急ぐのか。これから菅義偉政権にとって東京五輪、自民党総裁選、衆院総選挙という大きなイベントが控えているからだ。菅首相は周囲の「無理に急ぐと混乱する」との声に耳を貸すことなく、ワクチン接種に突っ走っている。ワクチンによって東京五輪などを政治的に成功させ、首相の座を維持したいのだろう。

■安倍晋三前首相「朝日、毎日は極めて悪質な妨害愉快犯」

実際にシステム上にエラーやミスが生じるかどうかを確認して記事で問題点を指摘することは、メディアの役目である。記事には裏付け取材が必要だ。毎日新聞と朝日新聞出版の記者はすぐに予約を取り消している。一般の人の予約の妨害には当たらないはずだ。それを「悪質な行為」と一方的に批判するのは異常だ。

岸防衛相だけではない。18日には安倍晋三前首相が「朝日、毎日は極めて悪質な妨害愉快犯と言える」とツイッターに投稿している。首相経験者とはとても思えない軽薄な発言だ。

岸防衛相は安倍前首相の実弟である。母親の実家である岸家の養子となったために姓は違うが2人は血がつながっている。人相もよく似ている。2人ともアメリカとの安全保障を強硬に推し進め、安保闘争の標的となったあの岸信介元首相の孫である。

安倍、岸兄弟は、毎日新聞や朝日新聞など、いわゆる「リベラル」と呼ばれる媒体をたびたび批判している。自身の政治信条と相容れないのだろう。それは理解するが、だからといって気に入らないメディアの発信を封じ込もうとする態度は稚拙だ。権力者がそんな態度を続ければ、民主主義はあっという間に滅んでしまう。為政者は、多様な意見に耳を傾ける度量の広さを見せてほしい。

衆院本会議場で自民党の岸信夫氏(右)と話す安倍晋三首相(当時)
写真=時事通信フォト
衆院本会議場で自民党の岸信夫氏(右)と話す安倍晋三首相(当時)=2015年4月21日午後、東京・国会内 - 写真=時事通信フォト

■「十分な準備期間がないままの見切り発車となった」と毎日社説

5月18日付の毎日新聞の社説は「大規模接種の予約開始 見切り発車の不備が露呈」との見出しを掲げ、冒頭部分でこう指摘する。

「自治体での接種が進まない中、菅義偉首相が先月末に防衛省に設置を指示した。十分な準備期間がないままの見切り発車となった」
「その結果、初日からシステムの不備が露呈した。自治体が送付した接種券に記載されていない架空の番号を入力しても予約ができてしまうという問題だ」

毎日社説が指摘するように、今回の不備の原因は菅首相の見切り発車にある。菅政権がワクチン接種を急いだ結果、不備が生じたのである。政府は責任を持って不備を解消しなければならない。

毎日社説は指摘する。

「接種の際には、接種券や本人確認書類と照合するため、架空の申込者は接種を受けられないと防衛省は説明している」
「しかし、架空の予約が殺到すれば、対象の高齢者にしわ寄せが及びかねない。大量の予約がキャンセルされ、円滑に接種が進まなくなる恐れもある」

「架空の申込者は接種を受けられない」。これは防衛省の言い訳に過ぎない。防衛省は「架空予約の殺到」や「大量の予約キャンセル」の危険性をどう考えているのか。

さらに毎日社説は「首相は高齢者接種を7月に終えるため『1日100万回接種』との目標を示している。ただ、センターで接種できるのは合計で1日最大1万5000人にすぎない」と指摘し、こう主張する。

「接種の主体はあくまで自治体だ。思うように進まない背景には、予診や接種、副反応への対応にあたる医療従事者を確保する難しさがある。政府は実態を把握し、きめ細かく支援すべきだ」

その通りだ。ワクチン接種の障害を見極めて改善することが肝要である。

■「記事には公益性があり、抗議は筋違いだ」と朝日社説

5月25日付の朝日新聞の社説は、その後半で「架空の接種券番号でも予約できてしまう問題については、それを確かめたうえで報じた朝日新聞出版などが、防衛省から『悪質な行為』などと抗議を受けた」と書き、「しかし、取材過程における予約は真偽を確認するためで、その後キャンセルしたことから、希望者の機会を奪うようなものでもなかった」と指摘したうえで、こう主張する。

「誰でも予約できるシステムの問題点を指摘した記事には公益性があり、抗議は筋違いだ」

これもその通りだ。記事には公益性があるし、防衛省の抗議は道理に合わない。

朝日社説は前半で菅政権の思惑を次のように指摘している。

「自衛隊の医官、看護官を活用する構想は4週間前、事前の十分な調整のないまま、菅首相が打ち上げた。7月末までの高齢者接種の完了、1日100万回接種という目標を矢継ぎ早に打ち出し、自治体へのてこ入れを強める背景には、東京五輪開催に向けた環境を整えたいという思惑がうかがえる」

■東京五輪を成功させ、自民党総裁選と衆院選に打ち勝ちたい

前述した毎日社説も書いていたが、菅首相は見切り発車をしたのである。私たち国民のことなど頭にはない。あるのは東京五輪を成功させ、その勢いに乗って自民党総裁選と衆院選に打ち勝ちたいという思いだけである。

朝日社説はこうも指摘する。

「この間、準備不足の影響は随所にみられた。システム上、自治体の接種との二重予約を防ぐことはできず、接種券番号の入力が必要なことから、順番に発送している自治体には苦情が寄せられた。送付の前倒しや番号を個別に知らせるなどの対応に追われたところもある」

国の大規模接種は始まったばかりで、まだ間に合う。自治体との調整をきちんと行い、私たち国民の命と健康をしっかり守れる政策を推し進めてもらいたい。

■「報道や取材の自由の範囲を逸脱している」と産経社説

朝日新聞や毎日新聞の主張に異を唱え、防衛省の肩を持つのが5月20日付の産経新聞の社説(主張)である。見出しからして「『報道の自由』に値しない」と挑発的だ。

書き出しはこうである。

「結論からいえば、これは認められない。憲法が『公共の福祉に反しない限り』と定めた報道や取材の自由の範囲を明らかに逸脱している」

産経社説が言うように、本当に報道の自由の範囲を越えているのか。事実かどうかを確認し、問題があれば読者や視聴者に伝えるのが報道機関の使命である。この産経社説を書いた論説委員は取材という確認作業の重要性をどこまで理解しているのか。防衛省や岸防衛相の発表や発言など政府側の主張を鵜呑みにするだけで、疑うことはしないのか。それでは記者失格である。

産経社説は指摘する。

「防衛省はシステム改修を行うことを決めたが、報道時点では不正アクセスができるままだった。歯止めがないままの架空入力の手口の実例の指摘は、悪質行為の教唆、奨励と読むことも可能で極めて重大な事態を招きかねない」

「悪質行為の教唆、奨励」。この批判は防衛省の主張そのものだ。防衛省の主張を公共性が高く、社会の公器といわれる新聞の社説が代弁するのは問題である。産経社説は取材対象である防衛省と一体になってしまっている。

■「逆張り」の代償は高くつくはず

産経社説はこうも書く。

「自治体との二重予約が防げないなど、システムの不備はある程度織り込み済みで、広範、迅速性を優先させたと解すべきである」

これも政府の代弁に過ぎない。産経社説は自らが政府そのものだと言わんばかりだ。政府の代弁をするだけなら、新聞を読む価値はない。自身の価値を貶めていることを理解しているのだろうか。

産経社説は最後に「新型コロナの克服は、時間との戦いだ。遺漏のないシステム構築に時間がかかるなら、これを犠牲にしてでも接種を急ぐことは緊急時の判断として妥当である。悪意の助長はこれを妨げるものだ」とも書くが、なぜ菅政権が接種を急ぐのかについて言及せず、その正当性ばかりを強調するのは異様である。

批判精神を失ったメディアは、読者も失うことになる。産経社説は毎日新聞や朝日新聞出版の「逆張り」を試みたのだろうが、その代償は高くつくはずだ。残念である。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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