「夫が家事をしないのは当然だ」妻が夫より稼ぐようになって気づいた事実
プレジデントオンライン / 2021年5月30日 11時15分
■「養ってもらうことは女の特権」と思い込んでいた
——新刊『大黒柱妻の日常 共働きワンオペ妻が、夫と役割交替してみたら?』の主人公は、7年間のワンオペ育児生活を経て、「生活費の7割を負担する妻」のふさ子です。仕事に熱中し、帰りが遅くなるふさ子は、家事育児をどんどん夫任せにしていきますね。
【田房永子さん】作品はフィクションですが、2人の子育て中である自分の体験がベースにあります。もともと私は「結婚したら、女は仕事をセーブして夫の世話をするものだ。なるべく夫に家事・育児をさせてはいけない」と思い込んでいました。その代わり、100%養ってもらわないと損、みたいな感覚もあったんです。
1人目を出産した頃は、「夫に家事育児を半分やってもらって、自分の仕事時間を確保すること」にすごく罪悪感を感じていました。それ以上に、生活費を負担するという行為が怖かったです。
いま思えば、私には「養ってもらうことは女の特権」という思い込みがあったと思います。それを手放したら、夫だけ得して自分は損するんじゃないか、という恐怖を感じていたんです。
■家事をする夫の横でソファに座れる衝撃
【田房永子さん】一方で、バリバリ仕事がしたいとも思っていました。それで紆余曲折あって、私も生活費を負担するようになったんです。
そのときから急に、掃除機をかけている夫の横でソファに座ってリラックスできるようになったので、本当に驚きました。それまでは、夫が家事をしているときは自分もたとえやってるフリでも立って動いていないと落ち着かなくて、気が休まらなかったんです。
配偶者が家事をしているとき、ソファでのんびりくつろげる。それを肌身で体験したとき、男性にとってはこれが「結婚」なんだ、と大きな衝撃を受けました。私が女として育ってきた上で言い聞かされてきた「結婚」とは真逆の光景だったから。
■夫が家事をしないのは、ある意味当然
——共働きで、妻にも稼ぎのある世帯でも、家事育児の担い手は妻で、夫はほとんど戦力にならないというケースも多いです。それはなぜでしょうか。
【田房永子さん】それは、「家事・育児」を積極的にやらなくていいのは男性の特権だからだと思います。
主人公のふさ子の母も専業主婦ですが、私たち(1978年生)の母親世代は、結婚したら女性は仕事を辞めて家庭に入るのが一般的でした。
私たち世代も「男性は一生働いて家族を養う代わりに、家事育児は大幅に免除される」「女性は家庭に入って家事育児をちゃんとすることが一番の仕事」という空気感の中で育ってきた人が多いと思います。先生とか大人からハッキリ言われたり、10年くらい前まではその男女観を前提に作られたテレビ番組が多かったです。
私は「どうして男は父親になっても、妻から尻を叩かれないと他人事な人が多いんだ」と立腹していました。だけどソファでくつろげる体験をしたときから、「こりゃあ、自分からやるはずないわ」と思うようになりました。そんな特権をそうそう手放すわけがないですよね。
■仕事ってそんなに大変じゃないって言いたい
——男性は生まれながらにして特権を持っているということですね。それでは、女性と男性の特権を両方体験してみてどう思いますか?
【田房永子さん】私は仕事と家事育児の両方を経験し、時間が極端に拘束される特殊な職業を除いては、仕事よりワンオペ家事・育児の方が絶対に大変だと実感しました。一概に言うな、って怒られるかもしれないけど、赤ちゃんや幼児の育児をしながらの家事はどんな仕事より大変だと思うんです。理由はいろいろあるけど、何より時間ですよね。
保育園などのお迎え担当は絶対に時間に遅れられないし、子どもを寝かしつけているうちに一緒に寝てしまったら、自分の時間はゼロです。いっぽう、仕事だけしている方は、出勤したらその後は帰宅時間をちょろまかして寄り道もできる。今はコロナ禍で在宅勤務が増えて、状況が変わってきていますが。
■専業主婦に「もっと堂々としていいんだよ」と言いたい
【田房永子さん】2人目の出産後、近所でママ友が欲しいと思って、地域の集まりに参加したことがあります。そこにいたのはたまたま全員私と同年代で、2人目を生んだばかりのママ。私以外は専業主婦の人たちでした。彼女たちの話を聞いていて、日常的に夫に対してすごく遠慮している様子がわかりました。
夫はオムツも替えられないし、冷凍した母乳をあげることもしてくれないから、美容院に行っても2時間以内に帰らなければいけない。毎日帰りは遅いから、育児が身につかないということでしたが、夫たちの職業を聞いてみると、比較的自由に時間が作れる職種でした。
彼女たちは「もうちょっとできるようになってくれたらいいのに」と嘆きつつ、自分の稼ぎがないことで「私が社会的にできることは何もない」と思い込んで、夫に感謝しなければいけないと恐縮していました。
そのママたちと話したとき、あなたたちのほうが夫よりよっぽど労働量多いし大変だよ! もっと堂々としていいんだよってすごく思ったんです。そのときは初対面だから言えなかったけど、彼女たちにこの漫画を読んでほしい、と思いながら描きました。
■男性よ、あなたは何も悪くない
——頭で家事育児をしないといけないとわかっていても、なかなか行動に移せない男性は多くて、そんな夫に腹を立てる妻も多いです。いったい彼らを動かすにはどうしたらいいのでしょうか?
【田房永子さん】いまや「イクメン」が死語になったくらい、男性も家事育児しなきゃいけないって空気になりましたよね。でもたった数年前までは、「男は結婚したら家事育児は最低限でいい」という雰囲気がまだありました。なのに急にアップデートしなきゃいけないんだから、男性も大変だろうなって思います。でも実際、まわりの家事育児するパパたちを見ていると、嫌々やっている人ってほとんどいない気がします。みんな普通にやっています。
そのパパたちはもともとそういう人だったのかもしれないけど、特権を手放す覚悟をした瞬間があった人もいたんじゃないかなと思います。私自身、「女の特権」と思い込んでいたものを「これは実は不都合だ」と気づいて、手放す瞬間がありました。
■妊娠や育児でグイグイ助けてくれる男性は一生愛される
【田房永子さん】漫画の中で、「妻が怒っているときに必要なのは高いアイスじゃない」という話を描きました。ワンオペ疲れで不満の妻を助けるのは、モノで機嫌をとることじゃなくて、夫自身が家事育児してくれることなんです。
今、韓国ドラマが女性に大人気ですが、韓国のラブストーリーを見ていると、必ずと言っていいほど、女性がピンチのときに男性が助けてくれるんですよね。先回りして助けてくれたり、面と向かって助けてくれたり、ひっそり助けてくれていたことにあとで気づいたり。女性の代わりに嫌なヤツを言い負かしたり、悪酔いしたら介抱してくれるし、とにかく手とり足とり助けてくれるんです。やっぱり、現実でもピンチのときに助けてもらうと女性は相手に惚れちゃうと思います。それは男性も同じかもしれないけど。
女性にとって妊娠やワンオペ育児が、人生最大級のピンチだとしたら、そこでグイグイ助けにきてくれる男性はやっぱり一生愛されると思います。私のおばあちゃんは、おじいちゃんが亡くなったあとも何十年も、おじいちゃんがいかに自分のことを助けてくれたかを話していたのですが、何より聞いている孫の私が幸せな気持ちになりました。
■男性が家事育児をするのは、長い目でいろいろお得
【田房永子さん】よく、産後に手伝ってくれなかった夫が一生恨まれたり、子育てが終わったら離婚を切り出されるという話がありますけど、当然のことだと思います。
男性が家事育児をするのは、長い目でいろいろお得ってことです。コロナ禍で家にいることが多くなった今こそ変革のチャンス。なんにもやってないパパ、どんどん家事育児してください。今更恥ずかしいとかまったくないです。それは妻や子のためだけではなく、自分の幸せのためだと思ってほしいです。
女性も萎縮しないで、夫の幸せのためと思ってガンガン家事育児をしてもらいましょう! 変革のときは少々の衝突はあっても、あとは普通のことになっちゃうものです!
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漫画家
1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞(青林工藝舎)。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。ほかの主な著書に『キレる私をやめたい』(竹書房)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)、『しんどい母から逃げる!!』(小学館)などがある。
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(漫画家 田房 永子)
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