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工業高校から大企業に進み年収500万超だった27歳が「半グレ」に墜ちるまで

プレジデントオンライン / 2021年6月2日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlexLinch

人は何をきっかけに「半グレ」になるのか。龍谷大学嘱託研究員の廣末登さんは「普通の人生を歩んでいても、無知ゆえにプロの犯罪者から利用されて半グレに転落するケースがある」という――。

■たった一度の過ちで人生を棒に振る可能性がある

(前編から続く)

前回の記事では、半グレの実態をタイプ別に整理した。後編となる本稿では、筆者が出会った半グレ青少年の背景をリアルに概観し、半グレ対策の現状と課題に言及したい。

筆者が最も危惧するのは、闇バイトなどを通じて、若者が半グレに加わることである。しかし、そこには「おいしい儲け話」などはなく、その末路は往々にして悲惨な結果に終わる。現在の日本社会は、たった一度の過ちで人生を棒に振る可能性があることを知っていただきたい。

以下、紹介する元半グレは、いずれも逮捕・補導され、刑事・矯正施設を経験しており、銀行口座が持てないなど、社会権が制約されるに至った人たちだ。彼らの半生を通して、普通の人生の横に口を開ける落とし穴の深さ、暗さ、恐ろしさを、読み取ってほしい。

半グレ青年Aのケース

Aは個人でネットサイト出店から業者とつながり、人生を棒に振ってしまった青年だ。ネットというバーチャルな空間を通して人とつながることが、いかに恐ろしいか、考えさせられる事例である。彼は、筆者と初対面の時、「親玉は中国人だった。怖かった。警察に捕まった時は心底ホッとした」と語った。

■工業高校から大手企業に就職して年収は500万円越え

身長は165センチほどで痩せており、知能指数は一般的なレベル。入れ墨などもなく、反社のイメージはない。筆者との面談時点で31歳であったから、犯行時の年齢は27歳くらいだ。特徴的だったこととして10近い資格を所持しており、その中には、難易度の高い国家資格も複数含まれていた。

調査票における性格特性としては、「明るく社交的で、活動性も高いが、軽率で調子に乗りやすい」との所見が得られている。実際、自身がインターネットの個人出店で、月に30万円程度もうけていたことから、インターネットに潜む犯罪および危険性に対する警戒心は低く、取り調べ面接時にも「こんなこともあるのですね」等と発言していた。

青年Aは両親の元、長男として地方の都市に生まれた。5歳の頃に両親が離婚し、母親に養育されている。7歳の時に母親が再婚し、8歳の時、異父弟が誕生したが、障がいがあり介助が必要だった。

18歳の時に工業高校を卒業後、大手企業に就職しており、年収は500万円を越えていた。21歳で結婚しており、一般的なサラリーマンとして順風満帆な社会人スタートを切ったといえる。

24歳の時、知人の紹介でネットワークビジネスを始めた。この年子どもが生まれている。27歳の時、ネットワークビジネスと並行して、インターネットビジネス(ネットオークション)を開始。月収は、これらの副業だけで20万~30万円を稼いでいたという。しかし、ある日、会社から帰ると突然、妻から離婚届に署名するように言われたが、理由は不明だった。

暗がりでスマホを見つめる男性のシルエット
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

■グループの背後には中国マフィアが…

同年、会社を辞め、インターネットサイトの個人事業を開始。ネットの世界で成功するには、人的ネットワークが必要と考え、ネット上で積極的に同業者や異業者と交流を持つように努めた。その中の1人から「お金を運ぶ仕事」の依頼を受けた。

依頼された仕事の詳細を聞いた時、すぐに犯罪行為と気づいたものの、その時点で、グループの背後に中国マフィアが存在すると聞かされ、仕事を断ると家族にも危害が及ぶと脅されて断れなかったと回想する。大手の会社を辞職して、2カ月後に逮捕されるまで、4件の事件に巻き込まれている。28歳で詐欺、窃盗、詐欺未遂の罪で有罪判決を受け、懲役刑に服すことになった。

この青年Aの事例は、一般社会に生活する大人が簡単に犯罪に巻き込まれる可能性を示唆するケースといえる。筆者が驚いたのは、半グレの背後に中国マフィアが存在し、日本国内で特殊詐欺をシノギとしていることである。Aが住んでいたところは地方都市であり、そこをシマ(縄張り)とする暴力団がいるものの、暴排の影響で、シマの管理・統制が十分にできていない現状を垣間見た気がした。

■少年非行の延長上にある半グレ

▼半グレ少年Bのケース

身長180センチ程度でやせ型。慢性肝炎の疑いがあるが、比較的健康体、知的に問題は見られない少年である。

性格特性としては、気弱で自分の能力や発言、行動に自信が持てずにおり、他者からの評価に敏感で、自分の考えよりも、その場の雰囲気に流されがちであり、主体的な行動が苦手な傾向がある。

この少年は2000年生まれで、面談時点で19歳。8歳の時に両親が別居し、12歳の時に離婚している。少年は、この頃から問題行動が増え、夜遊びや学校の遅刻が指摘されている。14歳の時にはスーパーでの万引きやバイクの無免許運転で道路交通法違反を起こして補導された。

15歳で中学校を卒業。私立高校に進学したものの高校1年の夏休みに高校を中退。その少し前から働き出した飲食店のアルバイトも辞めている。

高校中退とともに、ガテン系の仕事に就くが、1年間に3つの事業所を転々とし、とにかく仕事が続かない。16歳の夏、財布の置引で補導され、短期の保護観察処分を受けている。

17歳の時、実母が再婚し、処分から半年後には保護観察良好とされ、観察解除となる。同じ頃、テキ屋で働き始め、賭け事で数十万円の借金を背負い、家出に至り、暴力団の事務所に出入りを始めた。その2カ月後、暴力団員と共謀して、キャッシュカード詐欺で逮捕されている。前後1カ月以内に、8件の特殊詐欺と窃盗に関与。12月には、少年鑑別所に入所し、第一種少年院送致となった。

■「周りも万引きしているから、自分もやらないとダサい」

▼半グレ少年Cのケース

身長は170センチほどで、中肉の体形。健康上は特に問題はなく、知能指数も一般的なレベルである。

性格特性としては、不快な状況から安易に逃避しようとする構えが強く、自分の行動がどのようになるかという見通し、行動を制御する力が不足している。また、法的措置を受けても、自らの問題点を振り返って内省を深めることはせず、非行を繰り返しており、少年の規範意識は乏しいといわざるを得ず、その問題性は相当根深いものであると診断されている。

この少年は、2001年生まれで、面談時点で17歳。実母と義父の家庭にて生育しているが、家族関係の詳細は不明。小学校の頃、近所にあるショッピング・センターを遊び場としていた。そこに遊びに行くと、校区外の小学生も遊びにきており、そこで交友関係を広げたとのこと。こうした交友が、後の不良交友につながっていると考えられる。

非行をするようになったのは、中学1年の頃からであり「周りもやっているから、自分もやらないとダサいと思い、万引きをするようになった」とのこと。

■飲み屋街や山中でマリファナの密売を始める

中学2年の時、先輩のバイクを運転させてもらい、中学3年からは暴走行為をするようになった。暴走の回数は「数え切れないほど」であるという。この少年は車が好きなようで、15歳の時に先輩の名義でレクサスを購入。後述するマリファナ(大麻)の売買には、車が欠かせなかったと述べている。

中学を卒業後、「高校には進学せずに仕事をした方がカッコいいと思い」建築作業員として就労するが、最初の職場を皮切りに頻回転職している。

自身は薬物をやったことはないものの、ツイッターで時給がいい仕事を探していて、先輩から紹介されてマリファナの密売に手を染める。この密売は、都市の飲み屋街や山中で行われていた。少年は、いわゆるマリファナの「出し子」のような役割を担っていたという。シノギとしては、一日で数万の稼ぎになったとのこと。もっとも、この薬物の供給元は暴力団であった。

その後、16歳の時に、窃盗、住居侵入、道路交通法違反で逮捕され、保護観察処分を受けている。保護観察期間中、無免許による道路交通法違反で逮捕され、少年院に送致された。

■非行を卒業しない子どもたち

半グレB、Cの話を聴きながら、筆者は自分の少年時代と比べ、非行内容の違いに驚いた。1970年生まれの筆者の時代は、けんかや万引き、バイク窃盗が主な非行で、薬物といえば、ボンドやシンナー位のものだった。

しかし、半グレB、Cは大人の犯罪者と組んでおり、犯罪色がより強い活動を行っている。なお、B、C両名とも10代にもかかわらず広範囲に入れ墨を入れている。

暴力団が、彼らのような少年を巻き込んでシノギをしなくてはならないということに、少なからずショックを受けた。少子化で組員確保が難しいということもあるのだろうが、筆者の時代には考えられないことである。

筆者の時代には、暴走族にも「卒業」があり、いい年をして非行を繰り返していることが格好悪いという「不良の文化」が存在していた。不良を極めたい者は暴力団に入門したが、それは一部の者にすぎない。

現在の半グレの青少年は、成人後もズルズルと犯罪を繰り返しており、卒業という概念がないように見受けられる。そのあたりは、アメリカのハリウッド映画に出てくるようなユース・クリミナル・ギャングに似てきた感がある。

■加害者であり被害者でもある「つまようじ要員」

こうした「犯罪の低年齢化」「犯罪のボーダレス化」という現象は、少子化の影響、暴排条例による締め付けで暴力団のシノギが苦しくなったというような事情があるのかもしれない。暴力団や暴力団離脱者のアングラ化を視野に入れて、闇バイトの実態や特殊詐欺実行犯が低年齢化した背景を解明し、早急に対策を講じる必要がある。

先述した青年A、少年BとCは、いずれも刑事・矯正施設に収容され、青春の貴重な時間を奪われ、社会的信用を失い、「犯罪者」「反社」というラベルを貼られている。

犯罪は許されることではない。しかし、彼らは「無知ゆえに」「脇が甘かったゆえに」プロの犯罪者から利用された被害者とも見ることができないだろうか。これが「つまようじ」と評される前回の記事で指摘した「カテゴリー②」に分類される半グレの実態である。

筆者は繰り返し次のことを強調したい。「どこにでもいる不良が半グレになる」「半グレは普通の子(人)を巻き込む」ということを。

■特殊詐欺対策の現状と課題

2019年6月25日、政府は犯罪対策閣僚会議において「オレオレ詐欺等対策プラン」を策定している。

プランでは「これまでにも官民一体となった各種対策が講じられてきたが、これに対抗した犯行手口の巧妙化・多様化も進んでおり……被害状況は高水準で推移している」点を確認し、「最近では、高齢者から電話で資産状況を聞き出した上で犯行に及ぶ手口の強盗事件が相次ぎ……特殊詐欺の被害者は、65歳以上の高齢者が約8割を占める犯罪の巧妙化、多様化」につき警鐘を鳴らす。

さらに「特殊詐欺事件の背後にいるとみられる暴力団、準暴力団、不良外国人、暴走族、少年の不良グループ等の犯罪者グループ等を弱体化し、特殊詐欺の抑止を図るため、各部門において多角的な取り締まりを推進する」と述べ、具体的に半グレ等の取り締まりに言及している。

オレオレ詐欺等対策プランを見ると、病理集団=暴力団と見る旧来の傾向は改められつつある。暴力団以外の病理集団による犯罪が増えるなか、ようやく政府は半グレ等の対策に本腰を入れ始めた。

■更生支援は「官」やボランティアの保護司任せでよいのか

しかし、この政府の対策は遅きに失した感が否めない。多様化した病理集団は、裏社会にカオスを生じさせている。その犠牲になるのは、オレオレ詐欺等対策プランが指摘する通り、犯罪に取り込まれる未成年者や、高齢者に代表される社会的弱者、われわれ一般人なのである。

廣末登『だからヤクザを辞められない 裏社会メルトダウン』(新潮新書)
廣末登『だからヤクザを辞められない 裏社会メルトダウン』(新潮新書)

現在、特殊詐欺は厳罰化が進み、銀行口座の売買や特殊詐欺に関与すると、少年でも銀行口座が作れなくなる厳しい現実ある。

加害者であっても、一方で被害者でもある少年を日本社会はどのように更生させてゆくのか。その更生支援は「官」任せでよいのか。ボランティアの保護司任せでよいのか。社会は、彼らにどのようなやり直しの機会を与えられるのか――われわれは真剣に考える時期にきている。

ワンストライクでアウトになる社会では、負の回転ドアは回り続け、犯罪者の再生産が止まらない。それは、再犯という形で、早晩、われわれに厳罰化の無意味さを突き付けるだろう。

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廣末 登(ひろすえ・のぼる)
龍谷大学嘱託研究員、久留米大学非常勤講師(社会病理学)
博士(学術)。1970年福岡市生まれ。北九州市立大学社会システム研究科博士後期課程修了。専門は犯罪社会学。青少年の健全な社会化をサポートする家族社会や地域社会の整備が中心テーマ。現在、大学非常勤講師、日本キャリア開発協会のキャリアカウンセラーなどを務める傍ら、「人々の経験を書き残す者」として執筆活動を続けている。著書に『若者はなぜヤクザになったのか』(ハーベスト社)、『ヤクザになる理由』(新潮新書)、『組長の娘 ヤクザの家に生まれて』(新潮文庫)『ヤクザと介護――暴力団離脱者たちの研究』(角川新書)など。

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(龍谷大学嘱託研究員、久留米大学非常勤講師(社会病理学) 廣末 登)

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