「少女に淫行」箱根10区で「男だろ!」と檄を飛ばされた21歳の"悶々"とした寮生活
プレジデントオンライン / 2021年5月30日 9時15分
■箱根駅伝で劇的な逆転優勝した駒大アンカー21歳の「日常」
ヒーローから一転、容疑者に……。
今年の正月の箱根駅伝10区で大逆転を演じた駒澤大学・石川拓慎(4年・21歳)の逮捕にスポーツ界が揺れている。
各社報道によると、石川は2020年12月20日と2021年1月17日、神奈川県相模原市の女子生徒が18歳未満と知りながら、ホテルでみだらな行為をした疑いが持たれている。
2人は20年10月下旬、マッチングアプリで知り合ったという。石川は調べに対し、「少女が高校に通っていることは知っていたが18歳だと聞いていた」と供述。さらに「交際をしていた」とも話している。2人の主張は食い違っているが、神奈川県の青少年保護育成条例違反での逮捕だった。
20年以上陸上競技を取材してきた筆者としては、石川が警察官に連行されるニュース映像はショッキングだった。いったい箱根駅伝のヒーローに何があったのか。
■箱根駅伝を取り巻く環境に原因があった可能性もある
あらかじめ断っておくが、石川を擁護するつもりはない。その上で言いたいのは、今回の事件は箱根駅伝を取り巻く環境にも原因があった可能性が否定できないということだ。
これまで多くの大学を取材してきた中で、駒大陸上競技部の比重は大きい部類に入る。同部の「道環寮」にも何度も行ったことがある。2017年に完成した新寮は最寄り駅から少し離れているとはいえ、緑も多い世田谷区の閑静な住宅街にある。ケアルームやサウナも完備されており、他大学と比べても非常に恵まれた環境だ。
箱根駅伝を目指す選手たちは、朝6時頃からの練習で12kmほど走り、昼間は授業に出席。夕方から本練習(多い日は30kmほど走る)を行う。平日はスケジュールが詰まっており、土日も練習の疲労で遊びに行く余裕はあまりない。ほとんどのチームには門限があり、駒大は大八木弘明監督夫人である京子さんが栄養バランスのとれた食事を提供している。
寮生活は慣れてしまうとまずまず快適で競技にも集中できる。しかし、どの大学も相部屋(主に2人部屋)が基本。ひとりで部屋を占領できる時間はさほどない。当然、ストレスはたまってくる。21歳の健全な青年が欲求不満にならないほうがおかしいだろう。
■選手たちが女性と親しくなれる機会はほぼない
箱根駅伝で活躍する選手は女性ファンも少なくないが、選手たちが日々の生活で女性と親しくなれる機会はほぼない。食事や門限があると、女性と食事に行く機会はほとんどなく、合コンを行うのも簡単ではないからだ。最近はSNSを通じて、女性と交流する選手もいるようだが、駒大は選手のSNSを禁じている。しかも、コロナ禍で外出する機会は大幅に減った。彼女がほしいと思っている選手がネットで出会いを求めるのは、ある意味、自然な流れといえるかもしれない。
石川が17歳の少女に出会ってしまったのは不運な面もある。マッチングアプリは18歳未満禁止となっており、石川が少女を「18歳以上」だと思い込んでいたのは仕方ない部分だからだ。年齢を偽って登録できるマッチングアプリ側に問題があるという見方もできる。事実、ネット上では石川への同情の声も少なくない。
■「箱根前の密会」はチームメイトを裏切る行為
21歳と17歳の交際に不自然な感じはあまりしないが、成人男性としては社会のルールを守らないといけない。どんな理由があれ、石川の行為は社会的に許されるものではないだろう。そして筆者が一番気になっているのは、コロナ禍に見舞われた箱根駅伝前の大切な時期にこのような不祥事を起こしたことだ。
石川は本番直前の20年12月20日に少女と会っている。箱根駅伝を主催する関東学連は出場チームに徹底した感染防止対策を施していた。箱根駅伝は12月10日にチームエントリーがあり、各校登録される選手16人が決まる。関東学連のガイドラインでは、12月12日以降に「陽性」反応があった選手と、12月19日以降に「濃厚接触者」と認められた選手は大会に出場できない。各校は部外者以外と接触することに細心の注意を払っていたはずだ。しかし、石川は自身の欲求に打ち勝つことができなかった。
もし少女がコロナ感染者だったら、石川に感染する恐れがあった。そうなると同じ寮で生活する選手の大半が「濃厚接触者」になっていた可能性がある。最悪の場合、駒大は大会に出場できなかったかもしれない。
箱根駅伝が近づいてくるとチーム内はピリピリした雰囲気になってくる。特に強いチームほどレギュラー争いは熾烈だ。そのなかで、同大の大八木弘明監督は優勝争いがもつれることを想定して石川の10区起用を決めた。
「12月30日に(実際に走る10人の)メンバーを発表するまで誰が外れるかわからなかった。チーム内で競争心が沸いていたなかで、最後の1カ月くらいは石川に男気があったんです。前(2019)年は競り合いに負けましたが、今回はリベンジしてくれるんじゃないかなと思っていました」(大八木監督)
前年も同じ10区を担った石川は東洋大をかわして8位でゴールしているが、早大に1秒差で競り負けている。石川も筆者の取材にこう答えていた。
「もう一度10区を走らせていただいたので、絶対に前回の悔しさを晴らしてやろうという思いでした。区間賞を目指して走ったんですけど、15km地点の給水をもらったとき、いつも以上に身体が動いていたんです。これなら逆転の可能性があるかなと思っていました。20kmくらいですかね。監督の『男だろ!』という声が届いて、自分のなかでスイッチが入ったんです。監督の檄が飛んできた瞬間に動きが変わりました」
石川は狙い通りに区間賞を獲得。さらに創価大との3分19秒差をひっくり返して、駒大に13年ぶりの総合優勝をもたらした。世紀の大逆転を演じる直前に少女とホテルで密会して、チームメイトたちを裏切っていたことになる。これは箱根駅伝を目指す者にとって、「わいせつ行為」以上に“重い罪”ではないだろうか。
■駅伝王者・駒大は「部員の逮捕」を乗り越え、勇敢に戦い続けている
今回の逮捕はチームメイトにどのような影響を及ぼすだろうか。
駒大は20年の全日本大学駅伝と21年正月の箱根駅伝を制した駅伝王者だ。その勢いのまま、今季はトラック種目でも快進撃を見せている。5月3日の日本選手権10000mでは田澤廉(3年)が27分39秒21で2位、鈴木芽吹(2年)が27分41秒68で3位に入る大健闘。ともに自己ベストを大幅に更新して、日本人学生歴代で2位と3位の記録を叩き出した。
石川逮捕後の5月20~23日には関東インカレが行われた。10000mにエントリーされていた石川は欠場したが、他の選手については、大学側と関東学連が確認し、出場が許可された。しかし、大八木弘明監督は関東学連の了承を得て、大会の帯同を自粛している。大会当日は藤田敦史ヘッドコーチが指揮した。
駒大は2部だが、創価大、青学大、帝京大、國學院大、東京国際大などの強豪校がひしめいており、長距離種目のレベルは1部とそん色はない。そのなかで初日のハーフマラソンでは花尾恭輔(2年)が2位、佃康平(4年)が7位、山野力(3年)が9位と箱根Vメンバーがしっかりと結果を残した。
トラック種目では昨季の学生駅伝に出場することができなかった唐澤拓海(2年)が10000mと5000mで日本人トップの3位。5000mでは鈴木が4位に入っている。エース田澤を温存したかたちになったが、駒大は2部の長距離3種目でダントツの強さを見せつけた。
■「熾烈な“椅子取りゲーム”」不祥事を好機に変える逞しさがある
今大会、目覚ましい活躍を見せた唐澤は、「ハーフで先輩方が良い流れを作ってくださったので、レースに集中することができました。箱根王者として最低でも日本人トップはとらないといけないと思ったので素直にうれしいです」と10000mのレース後に話していた。今季は5000m(13分40秒90)と10000m(28分02秒52)で自己ベストを大幅に更新しており、箱根駅伝に出場できなかった悔しさを力に変えている。
学生駅伝の出走数は出雲が6人、全日本が8人、箱根が10人。駒大の長距離部員は選手だけで約50人(マネージャーは除く)。大会の度に熾烈な“椅子取りゲーム”が繰り広げられている。
もし石川が不在となれば、メンバー入りを目指す選手にとっては貴重な1枠が空く。関東インカレの戦いを見ている限り、駒大の選手たちは4年生の不祥事を好機に変えるような“たくましさ”があるように感じた。今後、チームは厳しい言葉が浴びせられる可能性もあるが、駅伝王者・駒大には“真の強さ”を見せ続けてくれることを期待したい。
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スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)
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(スポーツライター 酒井 政人)
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