世帯年収300万円、勉強嫌いな息子を「東大に逆転合格」させた両親の"ある習慣"
プレジデントオンライン / 2021年6月1日 8時45分
※本稿は、ドラゴン桜「一発逆転」プロジェクト&東大カルペ・ディエム『ドラゴン桜「一発逆転」の育て方』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■受験の年に度重なる試練「母はがん、父の仕事は軌道に乗らず…」
「勉強が間に合わない。さすがにやばいかもしれない」
2016年秋、当時高校3年生の布施川天馬さんの東大受験まであと3カ月足らずの頃。受験勉強は当初の予定より確実に遅れて、彼は焦っていた。
「東大対策講座のような予備校の授業を受けたいと思いましたが、そんな金銭的な余裕がないことはわかっていました。独学でどうにかするしかなかった」
そんなとき追い打ちをかけるような出来事が起きた。母親の美由起さんが乳がんにかかっていることがわかったのだ。11月のがん発覚から、入院・手術、リンパへの転移発覚、再入院・再手術、抗がん剤治療……とちょうど大学受験シーズンに重なる時期に母は病と闘うことになった。
最愛の母に、もしものことがあったら……。不安と焦り。それまでの生活から一転、心が張り裂けそうなつらい日々が始まった。
「しかも父はちょうどこの頃、自分の会社を立ち上げたばかりでうまくいかず、派遣で日雇いの仕事を入れたりしていたんです」
天馬さんはこれまで経験したことのない慌ただしさを抱えていた。
■経済的に苦しかった「私と妻の実家はともに夜逃げ経験があるんです」
人生を歩む中で、人には大なり小なり「試練」が訪れる。
東京都足立区に生まれ育ち、私立中高一貫校に通い吹奏楽部で青春を謳歌した。一年間の浪人時代を経て、東京大学に進学し、現在、文学部4年の天馬さんは、一見すると誰もがうらやむ経歴だ。しかし、彼のこれまでの人生は試練という一言では収まらない波乱を抱えていた。だがそれが彼を強くした。
一つめの大きな試練は天馬さんというより、両親が抱えていた厳しい試練だ。
それはお金の話だ。世帯年収は天馬さんが小さい頃から、そして東大生となった今も「平均300万円台」だという。勤務意欲は父親も母親も十分にある。だが、後述するように双方の実家が営む仕事がうまくいかないという“負の遺産”を引き継がざるをえなかったことが、長年経済的な苦しさを抱える原因となっているのだ。
東大生の親の収入についての調査がある。東京大学の「学生生活実態調査」(2016年)によれば、東大生の親の年収で「950万円以上」は約6割だった。ある調査では45~54歳の男性の高収入層は1割程度であることを考えれば、東大生は生活水準がかなり高い家庭で育ったことは明らかだ。前出の東大の調査では、年収「450万円以下」は約1割。布施川家は、この範囲に入ることになる。
父の栄次さんが次のように告白する。
「実は、私と妻の実家はともに夜逃げ経験があるんです。妻の親は事業をしていて、妻が中学時代に夜逃げをして名古屋から東京に出てきました。妻は経済状況もあり、定時制高校に通い、中退しています。私の親もある事業をしていましたが、私が大学生の頃に失敗してしまい、私はアルバイトで生計を立てなければならなくなりました。ちょうど就職活動の時期でしたが、私はそれどころではなかった。何とか入った会社も業績が悪くなって、妻の親が経営していた会社のたこ焼き事業を手伝いました。ところが、それも……。食いつなぐために、深夜の倉庫の軽作業などもやりました。天馬が高3の時からは、デパートの催事場などで菓子類を販売する会社を立ち上げてなんとかやっています」
天馬さんが中学高校時代の家計状況は、特にどん底だったそうだ。ピンチの連続で、着る服もリサイクルショップで買っていた。当時、新品のユニクロの服なんて高嶺の花だった。そんな生活を送る中で、夫婦で話し合ったのは「負の連鎖を自分たちの代で断ち切ろう」ということ。
だから、天馬さんにはできる限りのことをやってやりたいというのが夫婦の共通の思いだった。
■夫妻で、親子で「褒め合う」習慣で前を向く
そうはいっても、いかにして東大合格を勝ち取り、「負の連鎖」を断ち切れたのか? その秘訣を探ろうと、布施川家にどんな特徴があったか聞いてみた。
すると、生活が安定しない中でも、全員が変わらず続けていたことがあるという。
それは、「褒め合う」という習慣だ。天馬さんが「ウチはものすごい平和」だと語ることからわかるように、親子や夫婦の喧嘩がない。天馬さんは親から怒られた記憶は幼少期と小学校時代に2回しかない。美由起さんは言う。
「天馬が小学校時代から、受けたテストの点数がよければ『すごいねー』『あんた、やるねー』。スーパーの会計でお釣りの計算をできても『すご~い』って言っていましたね。家ではゲーム三昧で、部屋の片づけをしていなくて足の踏み場がなくても叱りませんね。私も片づけが上手ではないほうですし(笑)」
なぜ、こうした家族肯定力ともいえる文化ができたのか。栄次さんは、こう話した。
「おそらく妻の生活の智恵なんです。妻は私と違って、いつもポジティブ。ネガティブな言葉を口にしません。家計が苦しくても愚痴を吐きません。それは吐けば余計ネガティブになることを知っているから。だから、夫婦でよく話しているんです。『いいことは、口に出して褒めたりたり讃えたりして、喜びを何倍増しにしよう。悪いことが起きたら、そのことで厄は落ちたから、この後はもう悪いことは起きないって考えよう』って。お金が苦しい上に、夫婦や親子で喧嘩したら、やっていけなくなる。そんな暗黙の了解もあったのかもしれません」
どんな状況でも互いを褒め合い、前を向く。それが数々の試練をのりこえる力となり、最後には「東大合格」として実を結ぶことになる。
■私立中の体験に行ったら「とんとん拍子で特待生」の幸運
ポジティブな姿勢が引き寄せたのだろうか、天馬さんに「幸運」とも言えるターニングポイントが訪れる。私立中学の特待生として学費免除で通えることになったのだ。近所にある私立中高一貫校で行われたイベントに参加したことがきっかけだった。
「小6の夏休みに共栄学園中学で理科実験教室のようなイベントがあり、それに親子で参加したんです。その時、入試体験会のような名目で簡単な試験を受けたんですが、その日、学校からの帰りにラーメンと餃子を食べているときに『特待生で入学できる』と学校から連絡があったんです。突然の事態に、親も子も状況がよくわからなかったのですが、要は、学費なしで私立に通えるということで、共栄に進学することになりました」(天馬さん)
栄次さんは天馬さんを中高一貫校に通わせたいと思っていた。栄次さん自身、親の事業がうまくいかなくなる前には私立中高一貫校に通い、のびのびと青春時代を過ごした経験があるからだ。
「最初は、学費がかからずにいい教育が受けられる公立一貫校に入ってくれるといいなと思っていました。当時は天馬を進学塾に通わせる余裕はなかったので、通信教材をとって家で勉強をさせて受験させようと考えていました。ですが、全然やらないんですね。途中で通信教材もやめてしまいました」(栄次さん)
家から自転車で行ける距離にあるイベントに両親が連れて行かなかったら天馬さんは私立中学には入っていなかっただろう。
■「勉強は好きではなかった」が最低限勉強したことで東大合格へ
偶然入った学校だったが、天馬さんは学生生活を満喫した。吹奏楽部に入りチューバという大きな金管楽器を担当。高校のときは生徒会長にもなり、応援団も立ち上げた。
「友達もたくさんできて学校生活はとても楽しかったですね。勉強は……正直、しなかったです。もともとそんなに好きではありませんでしたし。中高6年間は、学校の授業、部活や生徒会、家に帰ってきてゲーム、寝るというサイクルです」(天馬さん)
それでも最低限勉強する必要はあった。成績が基準を下回ると、特待生ではいられなくなってしまうからだ。そうなれば学費がかかり、学校にいられなくなる。
「定期テストのたびに父、母の両方から『大丈夫?』と聞かれるのは結構プレッシャーでした。毎回綱渡りで、成績表をみてホッとするという感じでした」(天馬さん)
(以下、後編へ続く)
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(ドラゴン桜「一発逆転」プロジェクト&東大カルペ・ディエム)
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