「ノーヘル、右折OK…あまりに危険」電動キックボードの車道走行は禁止すべきだ
プレジデントオンライン / 2021年6月9日 15時15分
■乗って分かった電動キックボードの危険性
電動自転車のシェアリング事業を展開する事業者など4社が、国の特例措置を受け、実証実験という形で4月から電動キックボードのシェアリングサービスを東京や大阪、福岡などで順次始めた。
電動キックボードとは、その名のとおり電気モーターが付いたキックボードだ。
もともと日本の道路交通法上では「原動機付自転車(原付)」に分類されるが、今回、国から特例措置を受けた4社の電動キックボードは「小型特殊自動車」として公道走行が認められた。
これより今後、ドライバーやサイクリスト(自転車乗り)たちは、この新しいモビリティと頻繁に車道を共有することになる可能性があるわけだが、元トラックドライバーという観点から率直に言うと、どうして日本の道路状況下で、この電動キックボードの走行が許されたのか理解できない。
ルールの曖昧さと道路の狭さから、自転車と自動車すら安全かつ平和的に道路を共有できていない現在。このモビリティを走らせるには危険が多すぎる。
筆者は東京の渋谷駅、代々木公園周辺で実際に乗って確認してみた。モビリティを詳説しながら、その感想を率直に述べる。
■「時速15km」と「ヘルメット任意」
先述どおり、特例措置が認められた4社の電動キックボードは、これまで必要だった免許が「原付」から「小型特殊自動車」となった。そのため、
小型特殊自動車には、フォークリフトや除雪車、農耕トラクターといった乗り物が該当するのだが、原付とは走行時のルールが大きく異なる。
中でも特筆すべきは、「時速15km」と「ヘルメット任意」だ。
<1.制限速度「時速15km」>
原付の制限速度は時速30kmだが、この今回の電動キックボードは時速15km。自転車と同じか、それより遅いくらいのスピードだ。
しかし、速度が遅いと安全性が高まるのかと言えばそんなことはない。むしろ事故を誘発する大きな原因にもなる。道路で生じる危険は、「速度」そのものだけでなく、他車両との「速度差」にもあるからだ。
現在、車道には「自転車」「スクーター」「バイク」という二輪車のほか、よりスピードが速く殺傷力も高い自動車たちが走っており、容赦なく電動キックボードを追い抜き追い越していくことになる。
特に昨今、このコロナ禍で需要を伸ばしているフードデリバリーの自転車が多く走っており、今後は自動車による二輪車・電動キックボードの追い抜き・追い越しだけでなく、「道路左側組同士」による追い抜き・追い越しも増えるだろう。
そうなれば、電動キックボードに乗っている人自身が事故を起こさなくても、自分が原因で周囲が事故を起こすことも出てくる。
今回、実際にキックボードに試乗してみると、「ママチャリ」を含む多くの車両に追い越された。自転車とは、クルマ以上に距離感が近くなる。彼らが音もなく追い越しにくるたび、緊張が走った。
一方、渋谷の交通量や路駐の多い大通りを走った際、追い抜いていく瞬間に必要以上にエンジン音を上げていくクルマからは、ドライバーのイライラがひしひしと伝わってきた。4トントラックに追い越された時は、その圧迫感と音に一瞬目をつぶりそうにもなった。
■車道は“気軽”に走る場所ではない
<2.任意になったヘルメット装着>
この電動キックボードで、速度以上に懸念されるのが「ヘルメットの着用が任意」になったことだ。今回、事業者がヘルメットを任意にしたかったのには、おそらく「シェアの難しさ」が背景にあるのだろう。
本体そのものは他人とシェアできても、誰がかぶったのかも分からないヘルメットまではシェアしにくい。特にこのコロナ禍、これからの季節にヘルメットを共有するのはかなりの抵抗がある。自前ヘルメットの用意を利用者に求めれば、売りにしている“気軽さ”が落ちる。事業者はその障壁を避けたかったはずだ。
しかし自動車、とりわけ大型車を運転する側からは、車道は“気軽”には走ってほしくない。
殺傷力の高い大型車のドライバーたちには、たとえ相手のほうに大きな過失があったとしても自身が現行犯逮捕・実名報道される事例が過去にいくつもあるため、“気軽”に乗られてはたまったものではない。
今回、多くの利用者に倣い、筆者も安全に配慮しつつノーヘルメットで走行してみたが、生身の体で車道を走るすべての乗り物は、むしろヘルメット着用の義務化を進めるべきであり、交通事故を減らしていこうとする世の動きに逆行したうたい文句には全く賛成できないと改めて感じた。
■自転車と比較にならない“不安定な重心”
この電動キックボードが、ヘルメットを任意にして車道を走ってはいけない理由は、ほかでもない。「危ない」からだ。車道を人が立った状態で移動するのは、あまりに「不安定」なのである。
中でも筆者が気になったのは「荷物」だ。
5月上旬、実証実験の様子がメディアで頻繁に取り上げられていたが、実際乗っている人たちを見て大きな違和感を覚えた。ほとんどのケースで「荷物」を全く持っていなかったからだ。
「買い物の時にも気軽に利用」をうたう事業者があるということは、実用時には荷物を持っているか背負っていることが想定されているはず。
自転車の場合、荷物を入れるカゴが付いているし、重たいリュックを背負っていても本人が座っている状態であるため、重心はぶれにくい。が、この電動キックボードにはカゴがなく、直立かつ足を前後させた状態で乗ることになるため、リュックを背負った場合、上重心となりふらつきやすくなる。
実際走った際は、パソコンや手帳、取材道具などを入れたリュック約6kgを背負い走行してみたが、キックボードの構造上、両足を揃えられないことも手伝い、右左折時にバランスが取りにくかった。
肩に掛けたカバンが走行中にずり落ちた際、掛け直そうと片手を離そうものなら転倒し、重大事故につながる可能性もある。
また、買い物で荷物になりがちな「紙袋」は、肩ではなく手に掛けることになるが、風を一身に受ければ、走行中ずっと手元で踊ることになる。
■緩すぎるルールの数々……
「服装自由」「スカートでも気軽に利用」ともうたっているが、ヒールやスカートは非常に危ない。紙袋同様、風になびいたスカートが気になり前方不注意になったり、スカートを押さえることで片手走行になる恐れも。中でもロングスカートは、大きくなびけば隣車両の車輪や車体に絡まったり、ひっかかったりする恐れもある。
今回筆者も比較的ユルめな服装で走ってみたが、スピードが出るところではなびきが気になった。靴もヒールでは絶対に利用しないほうがいい。
両足を揃えて乗れない電動キックボードは、平均台にいる感覚に似ている。後述するが、日本の道路はガタついているところが多いため、ヒールはよりバランスを崩しやすいし、足を地面につける時も非常に不安定になる。
また、走っていた時に非常に気になったのが「スマホホルダー」の位置だ。今回の電動キックボードには、ハンドルとほぼ同じ高さにスマホが取り付けられるホルダーが付いているが、自動車と違い走行時は視線が自然と真下に落ちる。
フードデリバリーの配達員たちによる走行中のスマホながら事故が多く報告されていることに鑑みると、今後、電動キックボードでも同じような事故は間違いなく起きると断言できる。
■「右高左低」の道路に不向きだ
電動キックボードが不安定になるのは、彼ら側の走行条件に限ったことではない。
電動キックボードが主に走らされる「道路の左側」は、路駐のクルマをはじめ多くの障害物があり、道路の中でも最も不安定な場所なのだ。
日本の道路は、落下物や雨水などを道路脇に流すため、多くが「右高左低」となっている。そのため道路左側には、転がってきたごみや水たまり、側溝だけでなく、重心が左に寄ることでできる「クルマの轍」までが集中する。
一方、この電動キックボードは、思った以上に車輪の径が小さい。
実際走ってみると、ほんのわずかな段差や道路のつなぎ目でハンドルが取られるだけでなく、粒径の大きいアスファルト道路でも手に振動が伝わってくる。
こうした障害物の多い道路を、この径の小さい車輪で、しかもノーヘル直立のライダーが荷物を持って走行すれば、たとえ速度が遅くても、バランスを崩し転倒・大事故の可能性が十分にあるのだ。
■「小回り右折」というルールの欠陥
多くの危険性を上げてきたが、中でも筆者がこの小型特殊自動車において最も危惧しているのは、「二段階右折」が禁じられていることだ。
原付乗りからは「面倒くさい」とされるこのルールだが、「小型特殊自動車」である今回の電動キックボードは、車道上においてはむしろ「小回り右折」をしなければならい。
つまり、右折時には車線の右側に寄るか、右折レーンがある場合は、他自動車と同じように車線変更をして右折レーンに入り、そこから右折をせねばならないのである。対向車がものすごいスピードでやってくる中、時速15kmのモビリティが右折したらどうなるかは想像に難くない。
試乗前、SNSで実際に「小回り右折」した利用者がこんな経験談を投稿していたのを発見した。
「さすがに車線が多い道路で小回り右折は怖いと思いながら右折レーンに入り信号待ちをしていたら、交通整理をしていた警察官に『時速15kmしか出ない乗り物で小回り右折は周囲との速度差がありすぎて危ない』と止められた。確かに無理があった」
この投稿を受け、実際電動キックボードで同じ交差点に行ってみたが、時速60kmのクルマが走る中で、3度も車線変更をして右折レーンに向かわねばならず、あまりの危険から筆者は走行を断念した。
この投稿者に当時の話を詳しく聞いたところ、「警察官は2人だったが、うち1人はルールを把握していなかったようで、『原付なので小回りダメ』と注意された。もう1人は知っていたようだが、警察官の方によっても理解がまちまちのようだった」と教えてくれた。
当該4社の一部には、右折時はモビリティを降りて横断歩道を利用することを推奨する社もある。しかし、小回り右折自体が法的に禁じられているわけではないため、大きい交差点ならいざ知らず、比較的小さい交差点の右折のために、わざわざ横断歩道を押し歩く利用者がどのくらいいるのかは謎だ。
■「日本と真逆」韓国は規制強化に乗り出した
PRや報道では「海外ではすでに人気の乗り物」とされているが、アメリカのような広大で、自転車文化が根付いている国とは比較にならない。都市部においてもカーブや坂の多い日本と違い、道路が比較的道がまっすぐなうえ、ハイヒールやロングスカートなどでモビリティに乗っている人は皆無だ。
あえて比較をするならば、アメリカでは電動キックボードが出始めたころ、1年間に少なくとも1545件の関連事故が発生したというニュースは見逃すことができない。
道路環境や服装などが似ていてアメリカより比較しやすいのは、韓国だろう。
同国では日本よりも前に電動キックボードが公道を走っていたが、事故が多発。最近、満13歳以上・無免許で乗れていた電動キックボードを「16歳原付免許」以上かつ、ヘルメット装着を義務化するなど規制を強化したばかりだ。
■悲惨な事故を起こさぬためにルールの再考を
今回、「靴」「荷物の重さ制限」「小回り右折に対する危険性」に関して、事業者4社のうちの1社である「株式会社LUUP」に取材を申し入れたが、「どのような紹介記事になるのか」という確認連絡があったきり、期限内に回答が来ることも「回答が遅れるならば連絡をしてほしい」という筆者の申し入れに対する反応もなかった。
危険性を伴う乗り物を世に送り出す以上、説明する責任が生じるはず。悲惨な事故を起こさぬためにも、真摯に向き合い対応してほしかった。
時世柄、3密を避けられるモビリティの多様性を追求するのは決して悪いことではないし、移動がスマートになることは理想的なことだ。かくいう筆者も、近距離における時短移動という意味では、こうした乗り物は魅力を感じる。
しかし今の日本の道路には、新しいモビリティを受け入れる体制が全くといっていいほど整っていない。道路全体の安全を守れるルールの再考は必須だろう。
「“気軽”に利用できる」とする乗り物には、現状「ルールやマナーに対する意識」までもが軽視されやすい。利用者も利用者でない人も、こうした危険性を把握し、このモビリティによって事故に巻き込まれる人がひとりでも減ることを切に願っている。
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フリーライター
元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化祭、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆や講演を行う。
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(フリーライター 橋本 愛喜)
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