「イケア社長もビックリ」次々とオープンする都市型店舗で売れる"意外な商品"
プレジデントオンライン / 2021年6月11日 11時15分
■パリやバルセロナでも都市型店舗がオープン
「外に出たついでにイケアに寄る」のは、都心に住むイケアラバーにとって願ってもみなかったことだった。これまでは大型店舗に行くには半日割いて予定を立てるしかなかったからだ。
都市型のコンパクトな店舗は、香港と台湾に数十年前から存在し、すでに都市生活に溶け込んでいた。いつかは世界中にできるものと予想はしていたが、近年のそのペースの速さには目を見張るものがある。
東京、パリ、バルセロナ、マドリッド……サンフランシスコにも今秋オープンの予定であり、しかも東京ではこの1年で原宿、渋谷、新宿と立て続けに3店舗が開店というスピード。東京の半分の大きさの香港で5店舗を巡った筆者にとって、都市への集中は不思議なことではないのだが、日本では大きな関心が寄せられている。
■「イケアに初めて触れる人」を増やすのが狙い
イケア・ジャパンのヘレン・フォン・ライス社長に聞いた。
「都市型店舗の存在意義は、物を売るだけでなくイメージアップにあります。メガシティに出店することで、我々は多くの可能性とチャンスを得ることができました。大型店舗、ネット通販、そして都市型の店舗と、たくさんのチャネルを用意して、イケアに初めて触れる人が増えることが狙いです。
出店の立地については、IKEA Family(無料のメンバーシップクラブ)のメンバーがどこにいて、どう移動しているかなど、人々の動きを分析した結果決定されました。今回の3つの場所は山手線沿いにあり、乗り換えの拠点であることも大きな要因です。中でも原宿については、計画を立てずに動く人が多いという特徴もあり、ブランドの認知には最適でした」
香港の渋谷ともいえるコーズウェイ・ベイにあるコンパクトなイケアでは、イケア名物のミートボールをたこ焼きのように小さなカップで売っている。よく高校生が学校帰りに立ち食いをしているところに出会すが、特に店内で何かを買ったようには見えない。しかしおそらく彼らは独立し自分に家具が必要になったとき、イケアで買い物するだろう。
■パッと寄れる原宿店、世界初の「7フロア」を持つ渋谷店
さてその東京にできた、原宿・渋谷・新宿の3店舗に違いはあるのだろうか。もともと大型店舗は日本含め世界中どこに行っても大きさと内部設計はそれほど変わらず、それによって設計費のコストダウンを計っている。しかし都市型の店舗に規格はなく、面積だけで比べると、大型店舗(約25000m2)に比べ渋谷がその約5分の1、新宿が約7分の1、原宿は約9分の1だ。
2020年6月にオープンした原宿店は、イケア特有の順路らしいものは見当たらず、2フロア吹き抜けの天井が広々としており、カフェスペースも開放的な設計。入り口に「スウェーデンコンビニ」と称されるコーナーがあり、菓子類や文具、電池やケーブルなどが細々と並ぶ。駅を出てすぐの場所にあり、「あれを買わなきゃ」と思いついた時にパッと寄れる手軽さがある。
その後11月にオープンした渋谷店は、世界のイケアでも初めての7フロアを持つビル型で、最上階にはワンフロアを独占したレストランもあり、かなりのボリューム。レストランのメニューの数は大型店より少ないが、日本風の焼鮭定食(「フィレサーモン定食 ジンジャーソース」)があるなど、いつ来ても飽きない工夫が考えられている。さらに日本のイケアではここだけのプリクラマシーン「Fotobox」もあり、友人同士で訪れた20代の女性たちが嬌声を上げながらユニークな写真撮影を楽しんでいる。
■シングルペアレントや同性カップルを想定した部屋
2021年5月1日にオープンした最も新しい新宿店は、地下1階・地上3階の計4フロア。ワンフロアが比較的広く、奥まで見渡すことができる。この最新の新宿店についてイケアとしてはどのような特徴を持たせているのだろうか。
「新宿店を利用する人物像は、年齢層は比較的高め・多様性を受容し・住みたいように住む人々です。また、予想よりも家族世帯が多く来店しています。イケアの店内にはルームセットがいくつかあるのですが、これは想定する利用者に合わせてインテリアを設えています。例えば新宿店では、『シングルペアレント』『同性カップル』『外国人』『学生』などを設定した部屋があります」
■世界に先駆けて「量り売りコーナー」をオープン
確かに新宿店に初めて訪れたときに見たルームセットは落ち着いた色使いが多く、そこはかとなく年齢層の高さが感じられた。また渋谷店ではそれほど広いスペースを持っていない、イケアが世界のアーティストとコラボレーションした「IKEAアートイベント2021」のコレクションが2階のエスカレーター脇という、非常に目立つ場所で展開されていたのも印象的だった(※)。アートに敏感に反応する人物像を意識してのことだろうか。
※限定コレクションのため、販売終了とともに展示も終了予定
また5月17日より新宿店1階でスタートした「スウェーデン・バイツ」は、世界に先駆けてオープンした「スウェーデン料理の量り売り」のコーナー。店内に座って落ち着けるレストランやカフェはないが、イケアおなじみのミートボールやマッシュポテト、北欧名物のサーモンのマリネなどを好きな分量だけテイクアウトすることができる。オフィスや自宅での手軽な食事にはもちろん、ちょっとしたホームパーティーなどにも重宝するに違いなく、新宿店を使う人々のフレキシビリティーにマッチしている。さらに鮮やかなブルーのソフトアイス(プラントベース)は、新宿店限定の丸みのある形。これを持ち出して外で食べれば、おそらく目を引くことだろう。
「新宿店がオープンしてからの意外なできごとは、ルッネン(木製のフロアタイルでベランダなどに敷き詰めるもの)がすぐに売り切れてしまったことです。アウトドア商品がこんなに好評とは予想していませんでした。ラップトップを使い家の様々な場所で働けるようになり、生活様式が変わったことの現れでしょう。
各店舗それぞれに独特の動向があり、例えば原宿では食品の売れ行きが良く、渋谷ではロゴ付きのショッピングバッグやレインボーバッグが好評です。うちはインテリアショップなのに!(笑) とはいえポジティブなブランドイメージを持ってもらえれば嬉しいです。
日本全国共通の特徴としては、いくつかの家具は日本の限られた居住空間に合わせてダウンサイズしています。またイースタード(ファスナー付きのビニール製フリーザーバッグ)がよく売れていることも日本特有のケースです」
■買い物の選択肢の一つとしての「都市型店舗」
東京で生活していると、街によって明確な個性があり、降りる駅でキャラクターが劇的に変わるのがわかる。日本人としての個性というのは自分自身のことなので気付きにくいが、確かに筆者もイースタードは頻繁に買い足している。食品を入れるだけではなく、普段持ち歩くカバンの中のものを小分けして整理したり、旅行に行くときは大きめのイースタードに服やら靴を仕分けしたり。なによりデザインが愛らしいので、ちょっとしたお礼のものなどを入れて誰かに渡すことも少なくない。そんな行動様式が自分以外にも容易に想像できる。
それでは車で来店できない、広々とした空間がないというデメリットがある一方で、都市型ならではの強みは何なのか?
「大き過ぎないものを揃えているので、ブルーバッグ(イケア名物の大きなプラスチックバッグ)に入れて持ち帰れることです。配送料についてもなるべく低価格であるように工夫しています。
東京の他、パリやマドリッドなど都市に住む人々にはショッピングの仕方や、行動に共通点があります。例えば、時間の使い方が変わってきました。かつては買い物は休日に出かけるものでしたが、今では深夜に急にものが欲しくなったり、携帯が手放せなかったり。特に女性の行動に変化が現れていると感じます。実店舗で買い物をする、思い立った時に通販で買えるなど多様な選択肢の中の一つに、都市型店舗があると思われます」
■世界最大面積の店舗がフィリピンにオープン予定
都市に集まる人々の消費動向はトレンドにより揺れ動く。その変化に細かくついていけるのもコンパクトな都市型のメリットだろう。何年か先には、品揃えがガラッと変わっていることも考えられる。
都市型を世界で積極的に展開する一方、2021年中には世界最大の面積を誇るイケアがフィリピンのマニラに誕生する(本来2020年のオープンが1年後ろ倒しとなった)。イケアのフィリピンへの出店はこれが初で、旺盛な購買欲を支える存在となる。「どこに行ってもだいたい同じ雰囲気」のイケアが変わりつつあるのかもしれない。
「イケアはこれからも日本ではステップバイステップで、いいロケーションを探していきます。まずはその地域について学び、知見を広げようと思います」
<参考資料>
Go-PopUp「Ikea’s Pop-Up Stores for 20th anniversary in Spain」(2021年5月31日閲覧)
INGKAグループ「Ingka Centres Acquires 6X6 Building in Downtown San Francisco」(2020年9月8日)
INGKAグループ公式サイト
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デザイナー
雑貨コレクター、著者。1995年からの香港暮らしでイケアに目覚め、その後約20の国や地域の店舗を訪れる。イケア関連の著作に『IKEA FAN BOOK』『IKEAマニアック』(共に河出書房新社)。バラエティ番組や情報番組などでもイケアを解説している。造形大学大学院修了、桑沢デザイン研究所「キャラクターマーケティング」講師。
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(デザイナー 森井 ユカ)
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