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「宿題なし・定期テストなし」勉強しろと言わないのに生徒が勝手に勉強する公立中学校の"魔法の質問"3つ

プレジデントオンライン / 2021年6月3日 11時15分

工藤 勇一 横浜創英中学・高等学校校長 - 撮影=岡村智明

子供の自主性はどうすれば育つのか。横浜創英中学高等学校校長の工藤勇一さんは、2014年から6年間務めた名門千代田区立麹町中学校の校長時代に、宿題、定期テスト、クラス担任制を廃止した。「日本の学校教育は『起立、気をつけ、礼、着席』に象徴されるように、すべて命令形。これでは主体性は育ちません」という。工藤さんが生徒に繰り返し使ってきた3つの魔法の質問を紹介しよう――。

※本稿は、『プレジデントFamily2021春号』の一部を再編集したものです。

■自分で決められる子になる「3つの言葉」

私はおととしまで、東京都の千代田区立麹町中学校で校長を務めていましたが、毎年、中1の入学後に着手するのは、生徒の主体性を取り戻すリハビリでした。

今の子たちの中には、幼いときから勉強も遊びも与えられ続け、親や大人の指示にしたがってきた子が少なくありません。

そういう子は、楽しいことも、やるべきことも、外から与えられるのが当然と、無意識で思ってしまっています。その結果、自分で決めて行動することができない子が多いのです。

また、日本の学校教育は、「起立、気をつけ、礼、着席」に象徴されるように、すべて命令形です。これでは主体性は育ちません。

主体性を失ってしまった子を変えるために、問題が起きるたびに私たちが繰り返し使ってきた三つの言葉があります。

まず一つ目の言葉は「どうしたの?」です。お互いに現状を把握する言葉です。その回答がどんなに勝手な理由でも叱ったりはしません。

二つ目は「じゃあ、この後、君はどうしたいの?」です。この質問に答えられない子が大半です。今までそう問われる経験がなかったから当然です。

そこで三つ目に「何か手伝えることはある?」と尋ねます。最初のうちは解決策をこちらから提案し、最終的にどうするかは生徒に任せるようにしていました。

私たちは学校でトラブルが起きたときにも、頭ごなしに叱ったりせず、必ずこの三つの言葉を使って生徒と対話してきました。三つの言葉がすべて質問形になっている点がポイントです。

■「自分で国や社会を変えられると思う」率が3倍近く多い

自分で決めるという経験を積み重ねるうちに、子供たちの自己肯定感はどんどん上がっていきます。その証拠とも言える興味深い調査結果があります。

世界の若者が対象の「18歳意識調査」で「自分で国や社会を変えられると思う」という項目で「そう思う」と答えた日本の若者は18.3%で9カ国中、最下位でした。

しかし、同じ質問を麹町中の3年生にしたところ、50.5%もの生徒が「そう思う」と答えたんです。自己決定を繰り返す中で自分に自信がついたのだと思います。

「子供が恥をかかないように」とか「子供の成績が上がるように」などと気を回して、転ばぬ先のつえだと思って手助けをしようとするのはやめましょう。

親の力で良い子にしようと口を出す行為が、子供の成長の機会を奪っているのです。

世間体を過度に気にしたり、親が勝手な子供像を思い描いて足りない部分を数えるのは、親子ともに不幸なことです。

■大人が待ってやることで、子供の自立は高まる

たとえば、わが子が友達とうまく交流できていないとしましょう。そんなとき、親はつい「もっとお友達と遊びなさい」とか「お友達と仲良くしなさい」と子供に伝えてしまうことがあります。

もちろん親としては善かれと思ってやっていることですが、子供自身にとっては良いことはほぼ起こりません。そもそも問題意識さえ持っていなかった子供にとってはとても不幸です。「自分は仲良くできないんだ」と要らぬ問題を自覚させられたり、仲良くできない自分に劣等感を抱くようになります。

横浜創英中学・高等学校校長の工藤 勇一さん(撮影=岡村智明)
横浜創英中学・高等学校校長の工藤 勇一さん(撮影=岡村智明)

もし子供自身が本当に友達と仲良くなりたいと悩んでいるのであれば、そのときこそ親の出番です。「人と仲良くするのって大人でも難しいんだよ。だから全然大丈夫。良い方法を一緒に考えようか」と言ってやれば、子供は安心するはずです。

子供には愛されているという安心感と同時に、あきらめずに工夫する大切さを伝えてほしいのです。子育ての最終目標は、子供が自分で問題解決をし、一人で無理な場合は周囲に助けを求められる人間に育てることといえます。

極端な話、命の危険があること以外は、子供に決めさせていいのかもしれません。自分で物事を考えて、判断して、決定するということの繰り返しをどれだけ積み重ねたかで、その子の大人になったときの自立度が変わります。

親から見れば遠回りだったり、失敗が目につく場合もあるでしょう。しかし、それがいいんです。どんなに時間がかかろうとも、そのプロセスに注目して子供を見守ってください。待ってやるのが、大人の大きな役割だと思います。

■工藤校長が親に授ける子供の自主性を育てるコツ1

Q:「ルールを守る子にするには、どうしたらいい?」

ルールを守らせたいならば、それを決めるところから子供に任せてみましょう。自分が作ったルールであれば、守ろうとするモチベーションが生まれます。

麹町中は宿題も定期テストもなく、教員も「勉強しろ」とは言いません。入学してきた当初、子供たちは大喜びで自由を満喫します。

しかし、そのうち何も言われなくても自分から勉強するようになっていきます。どうしたらいいのかと常に問い続け、自分で考え、判断し、行動するようになる。その中で、「自由というのは楽しいことだけじゃない。自分のことに自分で責任を持つということなんだ」ということを徐々に理解できるようになっていくのです。

成長したくない子供なんて一人もいません。最初は麹町中の教員も保護者の方も、「宿題も定期テストも廃止して子供に任せる」という方針を聞いて、不安だったようです。それでも最終的には子供自身が自分で決めることのメリットを見いだしていったのです。

■「給食当番はボランティア」生徒発案が大成功したワケ

ルール作りといえば、麹町中でのおもしろい事例があります。あるとき、給食委員会の生徒が「給食当番はボランティアでいいんじゃない?」と言い出したんです。それまではクラス全員が順番に担当していたのですが、やる気のない当番の場合、給食の準備が遅くなり、昼休みが短くなってしまうことがありました。それならば“昼休みを確保するために自分がやりたい”という人を募ってみようということになったのです。

結果はというと、希望者は集まり、当番業務も円滑に回り、全員にとって良い結果になりました。

自分たちで考えた方法がうまくいったときの充実感は、何物にも代えられません。こうした経験を経ることで、子供は自分の周りにある課題を見つけ、自分で解決策を見いだせるようになっていきます。

自分で決めないと自立できない
出典=『プレジデントFamily2021春号』

子供に決めさせず、大人が与え続けていくと、子供は自分がうまくいかないことさえ他人のせいにするようになってしまいます。

たとえば、朝、毎日起こしていたら、寝坊して遅刻した際に文句を言われた経験はありませんか? 寝坊した自分が悪いのではなく、親が7時に起こさなかったからだと不満を言うようになるのです。

子供にルール作りを任せるといっても、最初は親のサポートが必要なケースも多いと思います。忘れ物が多かったり、朝起きられなかったりなど、子供がうまくいっていないタイミングで「どうしたの?」と質問し、対話しながらルール作りのサポートをしてやってください。

子供が具体的な内容を考えつかないときは、親が一緒に考えながら具体例を示し、そこから選択させてもよいと思います。

さらに、子供の考えたルールが期待外れなものでも「勝手にしなさい」とは言わないことです。「任せる」と「見放す」はまったく別の行為です。それに、もしそのルールで子供が失敗したら、そのときこそチャンスです。

なぜ失敗したのか、次はどう工夫すればいいのかを話し合うことは子供にとって大きな学びの機会になるでしょう。

子供に失敗をさせたくないと思う気持ちはわかります。しかし、試行錯誤をしながら前に進んでいく喜びは誰のものでもなく、子供自身のものなのだと理解しておきましょう。

A:ルールを子供自身に考えさせて

■工藤校長が親に授ける子供の自主性を育てるコツ2

Q:「ゲームやユーチューブなどの誘惑に打ち勝つにはどうしたらいい?」

子供がゲームやユーチューブばかりで困っている、という話はよく聞きますが、具体的に何が問題なのでしょうか? 子供に伝える前に、まず親自身が「なぜ困っているのか」について自問自答してみてください。

勉強時間が減っているからでしょうか、家族の会話が奪われているからでしょうか、暴力的なコンテンツだから、睡眠時間が減っているから、さまざまな理由が思い浮かぶはずです。まずは親の悩みの本当の理由を分析してみてください。

睡眠時間が減って遅刻したり、成績が下がって自身が落ち込んでいるといった問題を子供の側も認識している場合には、解決は容易かもしれません。

たとえば、睡眠不足の場合、なかなか起きられない子に、「どうして起きるのが遅かったの?」と聞いてみてください。すると「昨日の夜ね、ずっとゲームし続けちゃったんだよね」って。「それで昨日は寝るのが遅くなっちゃったんだ」って。日頃から叱られない安心・安全な環境だったら子供はちゃんと答えてくれます。

さらに「そうか、どうしてゲームがやめられなかったの?」と問うと、「楽しすぎて、集中しすぎて、やめられなかったんだ。時間がわかんなかったんだよね」と理由を教えてくれるでしょう。そこで「そうだったんだ。楽しかったんだね。時間がわかるようにするにはどうすればいいのかな?」と徐々に解決策に向けて子供に話を聞くんです。

子供も「自分で何か工夫してみる。目覚ましでもかけてみようかなあ」といった形で何か方法を考えるはずです。もちろん、その工夫が失敗することだってあります。でもその試行錯誤こそが大事なのです。

子供への質問が、信頼関係をつくる
出典=『プレジデントFamily2021春号』

■子供を伸ばすなら、ひたすら質問を繰り返す「ソクラテス式問答法」

今挙げた、ひたすら質問を繰り返す対話の仕方を「ソクラテス式問答法」と言うそうですが、小さな自己決定の繰り返しは自己肯定感を必ず高めてくれます。台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タン氏は、小学生の頃から父親とこうした会話をしていたそうです。

親は、自ら考えた工夫が失敗することも含め子供を肯定してやることが大切です。ついつい私たち大人は反省を求めてしまいます。もちろん自らの行動を振り返ることは大切なことですが、強いられた反省は、自分を責めることを覚えさせます。劣等感を植え付けます。

だから、“反省”という精神論ではなく、工夫するプロセスをほめて、あえて助けるのであれば、続けられる仕掛けを親子で一緒に考えてみてください。話を元に戻すと、ゲームに夢中なことで起きている問題が解決できるのであれば、ゲームを無理にやめさせる必要はありません。子供の行動を否定せず、親も子供もありのままを認めて、幸せな親子関係を築くことが一番です。

A:まず親が「なぜ夢中になってはいけないのか」を考えて

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工藤 勇一(くどう・ゆういち)
横浜創英中学・高等学校校長
1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年から千代田区立麹町中学校長。2020年4月1日より横浜創英中学・高等学校校長。教育再生実行会議委員、経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会委員等、公職を歴任。著作に『学校の「当たり前」をやめた。―生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(時事通信社)、『子どもが生きる力をつけるために親ができること』(かんき出版)など。

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(横浜創英中学・高等学校校長 工藤 勇一 構成=松本 史)

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