原因不明のだるさに微熱が続く…そんな人は「コロナ後遺症」かもしれない
プレジデントオンライン / 2021年6月7日 9時15分
※本稿は、平畑光一『新型コロナ後遺症 完全対策マニュアル』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■微熱や体の痛みを繰り返す厄介さ
2020年3月、ほかの病気で私のクリニックに通っていた患者さんが、微熱や体の痛みを訴えて来院されました。症状は突然現れて、出たり消えたりを繰り返し、何が原因かわからない。ほかの内科で検査をしても異常がないため、「心因性」として精神科に行くように言われたといいます。
私はこの患者さんを長く知っていましたが、精神疾患があるようには思えず、それ以前に、軽い風邪のような症状があったことから、新型コロナウイルス感染症を疑いました。当時はまだ、新型コロナ感染後にさまざまな後遺症が現れることが知られていませんでしたが、同様の症状を呈する患者さんがたくさんいることを知り、この患者さんは新型コロナ感染症の後遺症であると確信しました。
当初は目の前で苦しんでいる患者さんをなんとかしなければと手探りで診察していましたが、当院がコロナ後遺症に対応していることが口コミで広がり、全国からコロナ後遺症に苦しむ方が訪れるようになりました。そこで、しっかりと向き合うために、「コロナ後遺症外来」を設立し、これまでに1500人以上の患者さんを診察してきました。
■症状も時期もバラバラ、何度も繰り返す
新型コロナ感染症は症状が出ないことが多く、多くの場合、軽い発熱程度で治ってしまいます。抗体ができてもすぐに消えてしまうため、新型コロナウイルスに感染したかどうかはっきりわからないこともあります。そうした患者さんが、のちに後遺症を発症し、原因がわからずに苦しんでいることがとても多いのです。
コロナ後遺症は症状が実にさまざまで、発症する時期も人によって異なります。医師にもわからないことが多いため、新型コロナの後遺症だと気づくまでに時間がかかってしまうのです。
コロナ後遺症は、いったん改善してもまた繰り返すことが多く、長く付き合っていかなければなりません。無理をすると悪化することから、患者さんはもちろん、周囲の人にも正しい知識が必要です。倦怠(けんたい)感や脱力などの症状は決して本人が怠けているわけではありません。コロナ後遺症を決して他人事と思わず、正しい知識を身につけていただきたいと思っています。
そこで、新型コロナウイルスに感染して軽症で済んだ方、無症状のまま感染した方に向けて、『新型コロナ後遺症 完全対策マニュアル』(宝島社)をまとめました。現在、世界中の医療機関からさまざまなエビデンス(科学的根拠)が報告されています。あくまで、2021年3月末の時点でのコロナ後遺症への対策であることをご理解いただけますと幸いです。
■呼吸困難、頭痛、脱毛…症状はこんなに多い
新型コロナウイルスに感染しても、若い人は無症状あるいは軽い症状だけで治ってしまうことが多いといわれていました。しかし、治ったからといって安心はできません。その後、多くの人がさまざまなコロナ後遺症に悩まされています。
コロナ後遺症の症状は、実に多様です。味覚障害や嗅覚障害はよく知られていますが、ほかにも、長引く微熱(断続的な場合を含む)、倦怠感、疲れやすさ、胸の違和感、咳・喘息(ぜんそく)のような症状、のどの違和感、呼吸困難、食欲不振、腹痛、関節痛、頭に血が上る感じ・顔がほてる感じ、頭痛、悪寒、皮疹、脱毛などの症状が現れることがあります。
急激に増えたのは、長期にわたって続く微熱を訴える患者さんです。倦怠感や疲れやすさといった別の症状を併せ持つ人も多く、2~3カ月治療しても、なかなか完治しません。食欲不振は、味覚や嗅覚の異常で食事がおいしく感じられなくなったせいでしょう。関節痛は、ひざや足首などの下半身に多く起こっています。関節に限らず、太ももやふくらはぎなどの下半身に痛みを感じる患者さんもときどきいます。
![仕事中に肩に痛みを覚え手をやる女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/1/670/img_d12760fcd0733011690bbbdc1ebdd9a8355823.jpg)
■救急車を呼ぶほどつらい「クラッシュ」状態
コロナ後遺症は症状がさまざまで、発症のタイミングも人によって異なります。病院に行っても原因がわからず、「心因性の不調」として診断されるなど、適切な治療が受けられないケースが非常に多いのが現状です。
コロナ感染による後遺症だと判明しても、周囲から「もう治ったのでしょう?」「いつまで怠けているんだ」などと言われてしまうことも少なくありません。こうした声を受けて無理にがんばってしまうと、さらに悪化して、命にかかわることもあります。
後遺症の中で最も多い症状の一つが「だるさ」です。これは気持ちの問題とは無関係で、気力でどうにかなるものではありません。「クラッシュ」という状態になると、歩けない、立っていられないような強い倦怠感で救急車を呼ぶほどの強烈な症状に見舞われる人もいるのです。
コロナ後遺症の対策は、このクラッシュをいかに起こさせないかが重要で、なるべく体を動かさない、無理をしないことが治療の大前提となります。そのためには、周囲の理解が必要不可欠です。コロナ後遺症について、すべての人が正しい知識を持つことが、今後ますます重要になってきます。
■「臭いや味がしない」は実は少ない
新型コロナウイルスに感染すると、嗅覚障害や味覚障害が起こりやすくなります。イタリアの新型コロナ感染患者の嗅覚・味覚障害についての論文によると、感染患者(調査対象は204人)の実に64.4%に嗅覚・味覚の変化が現れたと報告されています。しかし、嗅覚・味覚の異常だけが起こるわけではありません。嗅覚・味覚障害が唯一の症状であった患者さんの割合は3.0%と意外に少なかったこともわかっているのです。
また、最初に嗅覚・味覚の異常が起こったのは11.9%、ほかの症状と同時が22.8%、ほかの症状が先行したのは26.7%でした(※)。つまり、嗅覚・味覚の異常が単独で現れるのはわずか3.0%にすぎず、ほとんどの人は発熱や咳、疲労感など別の症状を併発しているのです。感染の有無を嗅覚・味覚の変化だけで判断するのは極めて危険といえるでしょう。
嗅覚・味覚の異常しかない状態が続く場合には、ほかの病気も疑ったほうがいいかもしれません。亜鉛欠乏、薬の副作用、肝障害、腎障害、糖尿病、甲状腺機能異常、舌炎などのさまざまな原因によって、嗅覚・味覚の異常は起こります。
※ 出典:SG. Spinato, et. al. Alternations in smell and taste in mildly symptomatic outpatients with SARS-CoV infection. JAMA, April 22 (online), 2020.
■感染すると血液が固まりやすい?
新型コロナウイルスに感染すると、血液の凝固線溶(血液の固まりやすさ・固まりにくさ)系に異常が起こりやすいことがわかっています。
一般に、感染症全般による凝固線溶系の異常は「線溶抑制型」といって、感染で起こる炎症によって一時的に血液が固まりやすくなるものの、この凝固を抑制する体の機能が働き、やがて治まります。しかし、新型コロナ感染症の場合は、なかなか治まらず、逆に悪化しやすくなります。
日本血栓止血学会では、新型コロナ感染症の重症患者6例を調べた結果、血液の凝固を抑制しにくい「線溶亢進(こうしん)型」の様相を呈しており、うち2例が脳卒中を合併したと報告しています。つまり、凝固線溶系異常によって、脳梗塞や脳出血などの脳卒中を招く可能性があるのです。
日本でも、酸素飽和度、CT画像所見に加えて、D-ダイマーという血液検査値を重症化の指標とすることになりました。D-ダイマーを測定することで、凝固線溶系異常の有無がわかります。ただし、コロナ後遺症として凝固線溶系異常が現れることは少ないので、新型コロナ感染症の回復後は、血栓を心配しすぎる必要はありません。
■なぜ下痢が起きやすいのか
新型コロナ感染症による下痢、これに伴う腹痛や嘔吐などの症例が数多く報告されています。新型コロナに感染すると、なぜ下痢などの症状が起こるのでしょうか。
新型コロナウイルスは、体内の細胞への侵入経路としてACE2(アンジオテンシン変換酵素2)という酵素と、TMPRSS2(Ⅱ型膜貫通型セリンプロテアーゼ)という酵素を使っています。新型コロナウイルスは複数の突起を持つ球状の形をしていて、この突起がACE2受容体と結合して、細胞内に侵入します。
受容体とは、体の内外からの刺激を情報に変換して利用するための器官です。TMPRSS2も受容体のように働きます。ACE2とTMPRSS2は、肺や小腸上皮に多く発現しており、ACE2は上部食道、肝臓、大腸にも多く発現しています。そのため、新型コロナウイルスは腸や食道などの消化器に侵入しやすく、下痢、腹痛、嘔吐、さらには食欲不振などの症状を引き起こすのです。
なお、便中の新型コロナウイルスは鼻咽頭よりも長く検出されたとの報告もあります。トイレに行ったときには、手洗い・消毒を徹底しましょう。
■「子供にはあまり感染しない」のウソ
新型コロナウイルスは、子供にはあまり感染しない、感染しても無症状か軽症で済むことが多いといわれていました。しかし、実態は違うことがわかってきました。
中国疾病管理予防センターに報告された論文によると、子供2143人(確定例731人・疑診例1412人、中央値7歳)を調べたところ、90%以上が無症状~中等症でしたが、そのうち無症状は4.4%、軽症は50.9%でした。
![咳をする男児](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/1/670/img_5113cf2648797688db59c6d7e65bce8b409578.jpg)
みなさんは、軽症が半数ほどと聞いて、思ったより少ないと感じたのではないでしょうか。無症状・軽症の症例を除くと、中等症以上の症例も少なくないことがわかります。ちなみに、軽症の症状として同論文では、発熱、鼻水、咳、倦怠感、筋肉痛、嘔吐、下痢などを挙げています。風邪のような症状ですが、子を持つ親としては心配でしょう。
最近、新型コロナウイルスの変異株が海外から持ち込まれ、大きな問題になっています。特にイギリス由来の変異株は、子供にも感染しやすい構造になっているので、気をつける必要があります。今後、子供への感染の広がりが懸念されます。
■脳卒中の発症リスクは最大8倍近く上昇
もともと高血圧や糖尿病の人は、脳卒中や心筋梗塞といった重大な病気の発症リスクが高いとされていますが、新型コロナウイルスに感染すると、この発症リスクが格段に高まります。
中国・武漢での調査によれば、新型コロナウイルス感染による急性期脳卒中の発症率は4.9%と推測されており、呼吸器疾患にかかった初期の3日間に脳卒中発症リスクが3.2~7.8倍増加すると報告されています。
この報告を受けて、国立循環器病研究センター病院の豊田一則副院長をはじめとする世界18カ国の臨床脳卒中医が、新型コロナウイルスに感染した患者が脳卒中を発症した場合の診療の要点をまとめ、脳卒中併発を十分に注意する必要があると呼びかけています。
新型コロナ感染症の治療と併せて脳卒中の治療も必要となると、命取りにもなりかねません。まして、高血圧や糖尿病などの持病で動脈硬化が進んでいる人に限れば、急性脳卒中の発症率は一気に跳ね上がるものと考えられます。
自粛生活で運動量が減り、食べすぎも相まって体重が増えてしまう人が多いようです。感染対策に加えて、適度な運動と食事を心がけましょう。
■なぜ糖尿病を持つ人は危険なのか
糖尿病を持つ人は、特に新型コロナウイルス感染に注意しなければなりません。
糖尿病の人が感染すると血糖値が急激に高くなり、網膜症や腎症などの合併症を引き起こすリスクが高まります。さらに、血液中にブドウ糖が異常に多い高血糖の環境では、ウイルスが非常に繁殖しやすいため、感染すると重症化し、回復期間が長くなってしまうからです。
![平畑光一『新型コロナ後遺症 完全対策マニュアル』(宝島社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/3/200/img_d3ec1a14cf97bff4259b97cb8a89aa47271013.jpg)
血糖降下薬にも注意が必要です。特にインスリンが分泌されない1型糖尿病の人は、SGLT-2阻害薬を服用中に感染すると突然、DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)を引き起こす可能性があります。DKAは悪心、嘔吐、腹痛、意識障害などを引き起こすもので、非常に危険です。
SGLT-2阻害薬は、スーグラ、フォシーガ、ルセフィ、デベルザ、アプルウェイ、カナグル、ジャディアンスといった薬剤名で知られています。
ただし、SGLT-2阻害薬以外の血糖降下薬でもDKAを引き起こす可能性があり、DKAは1型糖尿病に限らず、2型糖尿病にも起こります。心配な人は、血糖降下薬の処方やDKAについて、かかりつけ医に相談してください。
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医師
山形大学医学部卒業。東邦大学大橋病院で一般内科、循環器内科を研修、国立病院機構東京病院にて呼吸器内科研修を経て、東邦大学大橋病院消化器内科にて大腸カメラ挿入時の疼痛、胃酸逆流に伴う症状などについて研究を行う。胃腸疾患や膵炎など、消化器全般の診療に携わる。2008年7月より東京・渋谷にある「ヒラハタクリニック」院長に就任。2020年3月に「新型コロナ後遺症外来」を開設。日本消化器内視鏡学会専門医、日本医師会認定産業医、日本内科学会認定医。
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(医師 平畑 光一)
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