ダイエットの意外な落とし穴「有酸素運動でかえって太る人」の特徴
プレジデントオンライン / 2021年6月12日 11時15分
※本稿は水野雅登『1年で14キロ痩せた医師が教える 医学的に内臓脂肪を落とす方法』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
■多少の運動では全然足りない現実
健康診断などで「体重を落としましょう」と患者さんに言うと、すぐに「運動します!」とか「運動してなくて……」といった返事が返ってきます。
しかし、私は運動のみで体重を落とすことはお勧めしません。有効性という点でも、運動のみで体重を落とすのは至難の業。マラソン選手のように毎日、ものすごい距離を走るようなハードな運動を続けない限り、体重を落とすことは不可能だと言っておきましょう。
とはいえ、日本人もひと昔前の明治時代までは、かなりの運動量でした。
当然ながら、コンロをひねれば加熱調理ができる……ということはなく、薪(まき)を割ったり、火にくべたり。水が必要なときは井戸で汲み、掃除は掃除機ではなくほうきやぞうきん、洗濯は洗濯機ではなくタライと洗濯板を使うなど、体を常に動かす必要が、現代と比べられないほど多くあったわけです。
電車や自動車や自転車も普及しておらず、移動はもっぱら徒歩でしたし、仕事も座ってデスクワーク、なんていうことも一部の人を除いてはありませんでした。
現代日本人からすれば、考えられないくらいの運動量が、必然的に毎日毎日、絶えることなく続いていたのです。
■有酸素運動でかえって筋肉が減る?
ウォーキングや水泳などの有酸素運動が体に良いかどうか? といえば、もちろん有酸素運動は体に良い影響があります。健康面だけに限らず、精神的にもメリットがあります。たった5分のウォーキングでも心の健康が増す、といった報告もあります。
ただし、「優先順位」が重要です。なぜなら、「いわゆる有酸素運動を長時間する」ことにはデメリットもあるからです。タンパク質などの栄養を摂取せずに長時間の運動をすることで、筋肉が減る場合があるのです。
タンパク質不足を放置したまま運動すると、体は体内のタンパク質、つまり、筋肉を削ってエネルギーを産生するしくみ「糖新生」を発動します。もう少し詳しく言うと、絶食中の運動では、体内の糖の蓄えが尽きると、脂質の代謝が始まります。しかし、運動量が多かったり、持続していたりすると、今度はタンパク質を糖質に変換することが始まります。これが「糖新生」です。
結果、筋肉を育てるどころか、かえって筋肉を減らしてしまい、さらに太りやすい体をつくることになってしまいます。
■タンパク質不足だと運動で太りやすい体に…
私は方々で指摘しているのですが、ほとんどの日本人がタンパク質の摂取量が不十分です。食べたタンパク質がある分には、その食べたタンパク質を利用してエネルギーへと変換されますが、それが尽きると、今度は体を構成するタンパク質(筋肉など)を使い始めてしまいます。
このため、日本人の多くは、絶食状態で長時間の有酸素運動を行うと、筋肉を分解して、糖(エネルギー)に変換する糖新生が始まってしまうリスクがあります。これが、有酸素運動のデメリットです。
筋肉が減ること自体が健康的ではありませんし、基礎代謝も下がってしまいます。安静にしているだけで使っていたエネルギーも、筋肉が減ることで減少してしまうのです。
つまり、無理に有酸素運動を長時間すると、筋肉が減って基礎代謝が下がり、かえって太りやすい体ができ上がってしまいます。
■脂肪が燃える体を作るには「筋トレ」
では、脂肪燃焼しやすい体を作るためには、どんな運動が効果的なのかというと、タンパク質を十分にとったうえで、筋肉トレーニング(筋トレ)をすることです。
筋肉を増やせば、基礎代謝も増え、さらにその他の運動時にもエネルギー消費量が増えて、痩せやすい体となります。
筋トレはジムに通ったり、トレーナーについたりするのが最も有効ですが、さまざまな事情でそれが難しい場合には、自分の体の重さを使った「自重トレーニング」や、ゴムのチューブや腹筋ローラーなど市販の器具を使った筋トレもおすすめです。
また、脚やおしりなど、エネルギー消費量が大きい筋肉を鍛えるのも、代謝アップには有効です。そういう点では、スクワットがよくおすすめされています。
いずれの方法も、間違ったやり方で行うと体を痛めてしまうので、正しいやり方をよく調べてから行ってください。
■有酸素運動はあくまで「補助的手段」
なお、有酸素運動がまったくおすすめできないかといえば、そうではありません。
有酸素運動は、たった5分でも集中力が増したり、ストレスが減ったりといったメンタルに望ましい効果が得られます。そして、20~30分の運動をすると、ストレスがかかったときに分泌されるストレスホルモン「コルチゾール」の分泌量が少なくて済むようになる、ということもわかってきています。
コルチゾールは、副腎という腎臓の上にある小さな脂肪の塊(かたまり)にように見える臓器から分泌されています。コルチゾールは、私たちの体を「ストレスに対応できるように」してくれるホルモンです。
しかし、人類の長い進化の過程のなかで、このホルモンが必要になるのは、近代までは緊急事態の折のほんの短時間のことでした。猛獣から逃げる1時間だけ、コルチゾールを分泌すればよかったのです。
ところが、現在は「ストレス社会」などといわれるように、持続的にストレスがかかるため、コルチゾールが長時間分泌され続けるようになりました。人類の体は、コルチゾールの長時間分泌にさらされ続けることに適応していないのにもかかわらず、です。
そのため何が起きるかというと、脳の理性や記憶を司る「前頭前皮質」や「海馬(かいば)」の萎縮(いしゅく)です。脳細胞が通常よりも早く死んでいき、しかも増えにくくなります。最初は「短期記憶」から低下していきます。実際、ストレスがかかり続けると、ちょっとしたことが覚えづらくなります。
それだけに留まらず、コルチゾールは過食の引き金になったり、「中心性肥満」というものを引き起こしたりすることもわかっています。
中心性肥満とは、おなか周りが出てくる肥満で、本書のメインテーマである、内臓脂肪が多いタイプのことです。
有酸素運動は、このコルチゾールの分泌量を減らしてくれます。このため、ストレスは減り、脳の萎縮も抑えられ、過食が抑えられて、脂肪が燃えやすくなります。つまり、運動のみで体重を減らすのは困難ですが、運動は体重を減らす助けにはなってくれるというわけです。
ただし、BMI30以上の場合には、いきなり走ったりすると膝や腰などの関節が負荷に耐えられないかもしれません。その場合は、ウォーキングやサイクリング、水中ウォーキングなど、関節への負荷が少ないものにしておきましょう。
■「筋トレの後に有酸素運動」でエネルギー消費を爆上げ
「筋トレ+有酸素運動」という合わせ技にすることで、さらにエネルギー消費量を上げることも可能です。筋トレの後に有酸素運動をするのが、最も効果的に体脂肪を減らすことができるからです。
筋トレで事前に筋肉内に蓄えられている糖質(筋肉グリコーゲン)を使っておけば、すぐに脂質代謝や糖新生に代謝を切り替えることができます。
糖新生では、エネルギーを使って、タンパク質を糖質に変換するので、さらにエネルギー消費量が増えます。
■運動前のタンパク質対策を忘れずに
ただし、筋肉が分解されないように、運動前にタンパク質をとっておく対策は必要です。
ホエイプロテインを事前にとったり、タンパク質よりも吸収の早いアミノ酸を運動中にとったりすることで、筋肉を分解することなく体脂肪を燃やすことができます。
なお、運動中にタンパク質をとっても、消化・吸収が間に合いません。このため、ホエイプロテイン・肉・卵は、運動前にとっておきましょう。アミノ酸の場合は、消化が必要なく、そのまま吸収できるので、運動中に摂取しても間に合います。
最近では必須アミノ酸を含んでいる味の良い製品が色々と発売されていますので、運動の際には利用するとよいでしょう。ただし、必須アミノ酸だけを大量に摂取すると、必須ではないアミノ酸が逆に不足したり、他の栄養素も不足してしまうので、避けましょう。
ホエイプロテインや肉・卵を十分にとったうえで、必須アミノ酸の製品をとる必要があります。
■体重計を捨て、全身鏡で体型チェック
内臓脂肪を減らすために運動は必要不可欠ではありませんが、女性に多い皮下脂肪を減らすためには必須です。もっといえば、運動なくして皮下脂肪は減らせません。
なお、これは比較的多くの方が知っていることと思いますが、体脂肪よりも筋肉のほうが、重さがあります。このため、筋トレをする場合には、体重自体はあまり目安にならなくなります。
今はご家庭の体重計で「体脂肪率」などが表示されるものも多くありますが、ごく簡易的なため、実際の体脂肪の量とは異なる場合が多くあります。
筋トレをする場合には体重だけをチェックすることはやめて、簡易的には全身鏡などで、日々体型をチェックすると良いでしょう。
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医師
日本糖質制限医療推進協会提携医。両親ともに糖尿病家系だった自らの体の劇的な変化をきっかけに、糖質制限を中心とした治療を開始。97単位に及ぶインスリンの自己注射を不要とするなど、2型糖尿病患者の脱インスリン率100%という実績を打ち出す。糖質制限やインスリンを使わない治療法などの情報をブログ、Facebook、Twitterや講演会などで精力的に発信している。首都圏を中心に健康診断での診察も行っている。
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(医師 水野 雅登)
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