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「あなたの未来を強くする」住友生命が10年間、まったくメッセージを変えていないワケ

プレジデントオンライン / 2021年6月4日 11時15分

住友生命の高田幸徳社長(左)、立教大学ビジネススクールの田中道昭教授(右)

「あなたの未来を強くする」。住友生命は10年間、このブランドメッセージをずっと使い続けている。その狙いはどこにあるのか。この4月に戦後10代目の社長に就任した高田幸徳新社長に、立教大学ビジネススクールの田中道昭教授が聞いた――。(前編/全2回)

※本稿は、デジタルシフトタイムズの記事「住友生命新社長 高田幸徳氏×立教大学ビジネススクール 田中道昭教授対談」(4月1日、4月8日公開)を再編集したものです。

■新入社員へのメッセージ「4つのシン」の意味

【田中】社長就任おめでとうございます。今日は入社式でした(編註:取材は4月1日に実施した)。新入社員のみなさんにはどのようなメッセージを送られたのですか。

【高田】みなさんには4つの「シン」についてお話ししました。まずは保険会社の原点である信用信頼の「信」。それから自分の価値や今あるものを深めていくという意味での「深」。次に、新しいものにチャレンジする「新」。そして最後が「進」です。住友生命の社是に「進取不屈の精神」がありますが、「進取」=「進んで取っていく」というスピリットを持ってほしい。それらの思いを込めて、4つの「シン」を実現する職員になってほしいとメッセージを送りました。

また、4月1日は、多くの新入社員にとって、社会人になった初めての日、つまり“Day 1”です。これから人生を歩む中で、今どのような気持ちで自分はこの会社に入ったのかという原点を、常に覚えておいてほしいというお話もしました。

■いまは日本企業が変わる大きなターニングポイント

【田中】高田社長の社会人としての“Day 1”は1988年4月1日でした。三菱UFJ銀行の半沢淳一新頭取も88年入社です。金融業界が一気に若返りましたね。

【高田】私たちはいわゆるバブル世代で、入社当時の世の中はイケイケドンドンでした。ただ、そこが頂点で、以降は失われた何十年という時代を経験しました。そして今、平成不況を抜けて世の中が少し良くなってきたところで、コロナ禍という想像し得ないことが起きました。この一年は一人間、一地球人としてどうあるべきかを考えさせられた一年でした。そのようなタイミングで同世代が経営に参画していくのは興味深いこと。日本企業が変わる大きなターニングポイントになる気がしています。

【田中】今日が社長としての“Day 1”です。社長の仕事は何だとお考えですか。

【高田】住友生命は指名委員会等設置会社で、社外取締役等で構成している指名委員会が社長を選ぶ仕組みです。選任にあたって、候補者は約一年前から自分の経営観などをプレゼンしてきました。私はまさか自分がやるとは思っていなかったので、自分がやりたいことを気楽に話していました。具体的に社長の仕事として挙げたのは、「長期的な経営方針の明示」「決断」「人材育成」の3つです。宣言した以上は、実現していきます。

■「教える、育てる」ではなくて「共に育つ」

【田中】戦後10代目の社長ということですが、次世代にはどのような価値を残していくおつもりでしょうか。

【高田】なんといっても人材です。これからの時代は、経営陣やマネージャーの変革力や、多様性を許容する企業としての在り方が問われます。そして、イノベーションを興すのも人。その意味で人材育成は欠かせない仕事です。

直近では、「人財共育本部」という組織を社長直轄で立ち上げます。教育といっても、「教える、育てる」ではなくて「共に育つ」の「共育」がコンセプトです。2、3年で完結する仕事ではないので、社長在任中はずっと取り組まなくてはいけないテーマだと考えています。

住友生命の高田幸徳社長
住友生命の高田幸徳社長

【田中】私が高田社長に初めてお会いしたのは、営業企画部長をされているころでした。営業企画部長になられたのが2011年3月。東日本大震災から10年たったという点でも今年は大きな節目です。

【高田】住友生命は現在、「あなたの未来を強くする」というブランドメッセージを掲げています。実はそのブランド戦略をスタートさせたのが10年前の2011年4月でした。震災が起きたのはその直前。危機からのスタートでしたが、今まさにコロナ禍でわれわれは危機と共にあり、そういう意味でも原点を感じています。

■生命保険は目に見えない商品

【田中】危機といえば、コロナ禍を受けて昨年9月に中期経営計画を改定されました。当然、改定に関与されていたかと思いますが、狙いはどのようなところにあったのでしょうか。

【高田】デジタルシフトがさまざまな業界で起きていますが、われわれの保険業界では、扱っている商品は非常に足の長い商品であり、それほど進んでいませんでした。また、お客さまからも対面の方が安心できるというご意見もいただいており、対面によるサービスの提供を主にしていました。

しかし、春先からコロナが世界中を震撼させて、お客さまとの接点を簡単に持てなくなりました。そうすると、デジタルシフトせざるを得ません。そこで、デジタルでサービスの提供や、加入から支払いまでができる体制を突貫工事で整えました。ただ、それだけでは足らないので、デジタルシフトの進め方を見直した計画を9月に出しました。

【田中】12月の社長就任発表の記者会見でも、「デジタルと人」とおっしゃっていました。

立教大学ビジネススクールの田中道昭教授
立教大学ビジネススクールの田中道昭教授

【高田】生命保険は目に見えない商品ですが、デジタルだけで安心を感じられる方はまだそう多くありません。やはり最後は対面だからこその安心感です。そのことはさまざまな調査でも判明しています。ですから、まずはわれわれの原点である「人」、その上で「デジタル」を活用して、「人とデジタル」でやっていくことを私の方針として発表させていただきました。

■ブランドメッセージが10年変わらなかった理由

【田中】ブランド戦略についてうかがいます。コトラーは、「ブランディングの三拍子は、強く、好ましく、ユニーク」と指摘しています。「強く」はインパクト。ただ、インパクトがありすぎると「好ましく」なくて共感されにくい。その2つを両立するものを他から借りてくると、今度は「ユニーク」ではなくなります。

住友生命が10年前に掲げたブランドメッセージ「あなたの未来を強くする」は、これら3つを実現しており、特に特徴的なのは「強くする」です。保険会社としては使うのに勇気のいる言葉だったのではないですか?

【高田】おっしゃる通りです。住友生命は生真面目な会社で、お客さま本位を地道にやる一方、同業との競争で一歩抜き出て差別化する、というところは強くありませんでした。ですから、このタグラインを選ぶにあたって、「生命保険会社が『強くする』と打ち出すのはどうなのか」「寄り添うと言った方が良いのでは」という反対論も当然ありました。しかし、当時の社長の佐藤(現・取締役)がこれでいく、と選んで決まったという経緯があります。

住友生命の高田幸徳社長(左)、立教大学ビジネススクールの田中道昭教授(右)
住友生命の高田幸徳社長(左)、立教大学ビジネススクールの田中道昭教授(右)

■ミッションの重要性をトップが説き続ける

【田中】日本の生命保険会社はブランドミッションに相当するものを数年に一回変えていきます。一方、住友生命は10年間同じメッセージを掲げ続けてきました。だからこそ社員のみなさん一人ひとりの目標になると同時に、対外的に強固なブランドプロミスになっています。10年間続いた秘訣は何ですか。

【高田】会社の中の人間たちの火を灯し続けるために、インナーブランディングには力を入れてきました。田中先生にもレクチャーをいただきましたが、ご著書の『ミッションの経営学』にも強く共感しました。ミッションの重要性をトップが説き続けること、そして新しいチャレンジに挑み、先進の価値を出していくこと。ご著書にある通り、それを実践していたら、結果として10年たっていたという印象です。

【田中】ミッションはまず策定することが重要です。ただ、もちろん作っただけでは達成されません。ミッションに書かれている内容が、社員の行動に投影されたり、顧客に提供している商品やサービスの中に練り込まれていることが重要です。住友生命の場合、ブランドミッションがリーダーを含めて働く方一人ひとりの目標になっていたからこそ、10年続いているのでしょう。

【高田】住友グループには、「自利利他 公私一如」という教えがあります。自分を利するだけではなく、他人さまやお客さまも同じように考える、今で言う「CSV(Creating Shared Value)」の考え方が当時からありました。私たちの中には入社以来織り込まれています。そうしたベースがあるので、あのブランドメッセージも一人ひとりに浸透したのではないでしょうか。(後編に続く)

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高田 幸徳(たかだ・ゆきのり)
住友生命保険 社長
1964年生まれ。大阪府出身。88年住友生命保険入社。2007年秋田支社長。09年営業企画部次長兼営業企画室長。11年営業企画部長。17年執行役員兼企画部長。18年上席執行役員。18年執行役員常務CX企画部Vitality戦略部担当(企画部、営業企画部副担当)。19年ブランドコミュニケーション部、CX企画部、営業企画部、Vitality戦略部担当(企画部副担当)。21年4月より社長。

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田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(以上、PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)などがある。

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(住友生命保険 社長 高田 幸徳、立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授 田中 道昭)

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