「年金が年15万円ダウン」意外に知らない"選択的週休3日制"の盲点
プレジデントオンライン / 2021年6月9日 8時15分
■「選択的週休3日制」とは
選択的週休3日制とは、従業員が希望すれば、週に3日休み、4日働くことが可能になる制度です。大企業の一部が導入し始めており、今後、柔軟な働き方ができる企業が増えると考えられます。自民党でも正社員らが週休3日制を選択できる制度の政策提言を目指しています。
週休2日では家事をするだけで終わってしまう、もう少し勉強する時間が欲しい、介護と仕事を両立させたい、などと感じている人にとっては、週休3日という働き方を選べることは歓迎すべきことです。自由な時間が増えれば、スキルアップや副業も可能になるかもしれません。企業や国としては、スキルアップしたり、リフレッシュしたりすることで、従業員の発想力が高まり、イノベーションが生まれることを期待する向きもあるようです。多様な働き方ができる会社として、優秀な人材が採用しやすくなる、などとも考えられています。
柔軟な働き方ができることは歓迎すべきことだといえます。ただし、気になるのは収入です。
■給与2割減でもライフプランは大丈夫か
選択的週休3日制を導入している企業の中では、1日の労働時間を長くすることで1週間の労働時間を週休2日と同じにし、給料も変えない、という方式をとる例がある一方、週休3日で給与は2割減、週休4日で4割減、といった例もあります。額面で給与が40万円の人なら、2割減では32万円となり、かなりの収入ダウンとなります。
「育児や介護などの事情から、週休3日制だから働ける(そうでなければ辞めざるを得ない)」という人は、給与が減っても仕事を続けられるのはいいことでしょう。しかし、収入ダウンが家計に大きく影響するのは言うまでもなく、現実的には、週休3日制を選択するのはなかなかハードルが高いと言えそうです。
週休3日制に関心がある場合は、給与がどの程度まで減っても許容できるか、具体的に考えてみるといいでしょう。決断するのはそれからです。
■給与が減れば社会保険も年金も減る
もう1つ、大きな落とし穴があります。
あまり知られていませんが、給与が減れば、社会保険の給付や年金も減る、ということです。影響が生じるのは、傷病手当金・出産手当金・育児休業給付金、介護休業給付金、将来受け取る年金、さらに失業給付です。
厚生年金保険料、健康保険料、雇用保険料は、「報酬月額」によって計算されます。ベースになるのは、事業主から受け取る報酬の月額を区切りのよい幅で区分した「標準報酬月額」の等級です。選択的週休3日制で給与が下がり、標準報酬月額の等級が下がれば、社会保険料も下がります。
保険料が下がるのはいいことのように見えますが、そうではありません。傷病手当金や出産手当金、年金の額は支払った保険料に応じて決められ、保険料を多く払った人ほど、受け取れる額は多くなる仕組みです。したがって、給与が減って社会保険料が減れば、受け取れる額も減る、というわけです。
ちなみに、保険料は労使折半で半分を事業主が負担しています。給与が下がれば、事業主があなたの社会保険や年金のために支払ってくれている社会保険料の額も減ります。
![日本の年金帳](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/7/670/img_d7ec0b41da6d9e6eb4c57300ec3f1e87821446.jpg)
■出産手当金+育児休業給付金で68万円減額
実際、どの程度の影響があるのか。月収40万円、40歳、東京都在住の会社員の例で、給与が2割減った場合について試算しました。
給与2割減により、健康保険料は年間約6万円安くなります。一方で、病気やケガで4日以上続けて仕事を休んだ場合に給付される「傷病手当金」や、出産や育児で休業する際に受け取れる「出産手当金」「育児休業給付金」、介護のために仕事を休む場合の「介護休業給付金」も少なくなります。
「傷病手当金」は1日あたり約2000円、540日(最長の給付日数)で約108万円ダウンです。保険料は年間約6万円しか減らないのに、給付は最大で約100万円以上も減ってしまうのです。
「出産手当金」は、98日で約19.6万円ダウンです。育児休業給付金は、子供が1歳で職場復帰予定だと約48.6万円減ります。出産手当金と育児休業給付金を合わせると約68万円も少なくなってしまいます。出産を考えている場合、とくに妊娠中は仕事の負担を抑えたいと思うかも知れませんが、お金の面で考えれば、給付金を受け取るまではフルタイムで働いた方が有利と言えます。
会社を辞めて再就職を目指す場合に受け取れる失業給付では、保険料が年額約3000円安くなります。月収40万円では基本手当の日額は6666円ですが、給与2割減では6082円となり、1日あたり584円の減額です。
■最もダメージが大きいのは、老後の年金
最も影響が大きいのは「老齢厚生年金」です。
給与が2割減り、それがずっと続くと仮定すると、年金保険料は年間約10万円軽減されますが、将来受け取る年金は、年間約15万円ダウンします。
公的年金は老後資金のベースになるものです。亡くなるまで受け取ることができる終身型のため、長生き時代にはとくに頼りになる存在です。現役時代にたくさん稼いで公的年金保険料を多く支払うことは老後資金作りとして効果的ですから、週休3日制で年金が減るのは影響が大きいのです。傷病手当金や出産手当金などは全員が受け取るわけではありませんが、年金は一定の年齢になればすべての人に関係します。
また退職金も給与額がベースになりますから、給与が減れば退職金も減ると考えられます。
■副業先での社会保険加入の条件
では、週休3日制でも収入や社会保険、年金を減らさない方法はないでしょうか。
対策として挙げられるのは、「副業」をすることです。
副業としてフリーランスとして請負契約で働くケースもありますが、企業に雇用されて働く場合、一定の条件を満たせば、副業先の企業でも社会保険に加入できます。しかし、条件に含まれる所定労働時間や日数は、下記のように週に1日増えた休暇でカバーできるものではないため、ハードルが高いと感じる人が多いでしょう。
副業の勤め先が法人などの企業、または従業員が常時5人以上いる個人事業主であること。加えて、以下のAまたはBを満たすこと。
A:週の所定労働時間および月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上
B:以下のすべてを満たす人
・週の所定労働時間が20時間以上
・雇用期間が1年以上見込まれる
・賃金の月額が8.8万円以上
・学生でない
・常時501人以上の事業所に勤めている
(600人以下でも労使合意があれば加入対象となる)
もしこの基準を満たすことができて副業先でも社会保険に加入すれば、将来受け取る厚生年金や各種の社会保険の給付も増えます。副業の場合でも、保険料負担は労使折半です。
ただし週休3日制の有無に関わらず、副業を認めている会社と認めていない会社があるので、職務規定などをしっかり確認しましょう。
フリーランスや業務委託といった形で副業をする場合は、社会保険には加入しないため、社会保険の給付が増えることはありません。
■年金を増やすにはiDeCoへの加入を検討
年金が減ることに対しては、自助努力での年金づくりを検討します。その有力な方法となるのが、iDeCo(個人型確定拠出年金)です。iDeCoは毎月一定の額を積み立てて投資信託などで運用し、原則60歳以降に年金や一時金として受け取るものです。掛金は全額が所得から控除されて所得税や住民税が軽減されるほか、運用によって得られた利益が非課税になるなどの税メリットがあります。給与が減った状態で積み立てをするのは大変ですが、月額5000円から始められますから、無理のない範囲で年金づくりをしたいものです。
働き方が多様化するのはいいことです。しかし働き方によって経済的にどのような変化が生じるかを理解しておくことが大切です。対策なども含め、検討しましょう。
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ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)
関西大学卒業。社会保険労務士。厚生労働省社会保障審議会企業年金、個人年金部会委員。『大図解 届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください』(日経BP社)、『残念な介護 楽になる介護』(日経プレミアシリーズ)など著書多数。
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(ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者) 井戸 美枝 構成=高橋晴美)
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