「文京区は2人に1人」都心に住む親子が中学受験に必死になる本当の理由
プレジデントオンライン / 2021年6月14日 11時15分
■文京区では2人に1人が中学受験をしている
近年、首都圏の中学受験は増加傾向にある。首都圏の多くの私立学校が入試を行う2月1日の受験者数は、2020年にはついに4万人を超えた。新型コロナウイルスによる経済状況の悪化で、受験者数が減少すると予測された2021年度入試も、蓋を開けてみたら前年とほぼ変わらず4万1251人という結果になった(「入試状況はどう変化したか――私立中学受験状況」森上教育研究所)。
こう言うと、東京で子育てをするとなると、中学受験は避けられないと思ってしまう親がいるかもしれない。だが、地域差はある。例えば葛飾区や足立区、江戸川区といった東京東部では、私立・国立中学に進学する子どもは全体の約1割にとどまっている。ところが、港区、中央区になると全体の約4割、文京区においては約5割、すなわちクラスの2人に1人が中学受験をしていることになる。そういう地域では、幼稚園や保育園の送り迎えのときに、すでに中学受験の話題が出ているという。つまり、暮らす地域によって、中学受験をするか否かが決まってしまう傾向にある。
■「○○中はいじめがあるらしい…」地元中学の悪い噂
では、なぜ今、首都圏では中学受験熱が高まっているのだろうか。理由をひと言でいえば、「先々の不安を回避するため」と感じている。親たちの不安は主に次の3つだ。
1つは「公立中学に対する不安」だ。
「○○中はいじめがあって、不登校の子も多いらしい」
「公立中学は部活に全員入らなければいけないらしく、しかもどの部活も練習が厳しいらしい」
など、地元中学の悪い噂を聞くと、「中学受験をさせた方がいいのではないか」と考えてしまう。しかも、地元中学の悪い噂は耳に入ってくるが、遠方の私立中学の悪い噂はなかなか入ってこない。そうすると「中学受験をさせたい」と考えるようになる。親世代が小学生だった頃も、「地元の中学が荒れている」「怖い先生がいる」といった理由で、中学受験をする家庭はあった。実際、その時代は公立中学が荒れていて、社会問題にもなった。ただ、今よりもそういった理由で受験をする家庭は少なかったと感じる。
■「高校受験の内申書」が親たちを不安にする
2つ目は「高校受験に対する不安」だ。高校受験を回避したがる親が気にするのは、調査書(いわゆる内申書)の存在だ。調査書とは、生徒一人ひとりの成績や学校生活について、各都道府県や教育委員会が定めた評価基準で評価するもので、高校受験では合否判定の資料の一つとして使われる。
調査書の存在は高校受験では大きくのしかかる一方で、その中身を見ることはできないため、不安は拭えない。特に中学生は反抗期の時期と重なるため、「うちの子みたいなタイプは先生に嫌われそう」と思い、だったら実力勝負の中学受験の方が良いのではないかと考える親は少なくない。
3つ目は「大学受験に対する不安」だ。2021年度から大学入試改革がスタートした。従来の知識重視の入試から、思考力を問う問題へと変わるのは、ご存じの方も多いだろう。しかし、どのようなスタイルになるかはいまだ揺れているのが現状だ。
その不安を回避するために、中高6年間でじっくり大学入試対策をしてくれる私立中高一貫校や、内部進学ができる大学付属校を選ぶ家庭が増えている。早慶やGMARCHなどの難関大学の付属校はこれまでも人気が高かったが、近年はその下のレベルの中堅付属校も受験倍率が高くなっている。このように先々の不安を回避するために、中学受験を選択する家庭が増えているのだ。
■「高校から入れる私立上位校」が減っている
中学受験をしなくても、高校から私立の上位校を目指せばいいじゃないかと思う親もいるかもしれないが、ここにも落とし穴がある。中学受験ではたくさんあった私立学校の選択肢が、高校受験になると一気に減ってしまうのだ。
親世代が高校受験をした頃は、多くの私立で高校募集をしていたが、近年、中学受験熱が高まるとともに、6年一貫の教育カリキュラムが確立されていった。6年一貫校であれば、高校受験がない分、中3の段階で高校の勉強へ進むことができる。すると、高2の終わりには高校で必要な勉強をすべて終え、高3では大学受験のための勉強に専念できる。そうやって、多くの私立が大学進学実績を伸ばしてきたのだ。ところが、高校募集をすると、中高一貫生と高校入学生とでは学習の進度が違うため、クラスを分ける必要が出てくる。こうした手間が、高校募集を減らしている大きな理由だ。
■本当の理由は「自分の子だけ損をさせたくない」
しかし、私はこれらの3つの理由は後付けであると考える。今の親たちが中学受験をさせたがる本当の理由は、「自分の子だけ置いてきぼりにされたくない」からだ。今の時代は、良くも悪くも情報で溢れている。中学受験のサイトを見れば、首都圏では中学受験をするのは当たり前で、しないという選択をする余地はない。そんな情報を目にして、もし「しない」という選択をしたら、この子の将来はどうなってしまうのだろうと不安が募る。「しない」ことによって、この子が将来損するかもしれない。そうなったら、かわいそうだ。「損をさせたくないから受験をさせる」というのが、今の時代の中学受験だと感じる。
「うちの子はちょっとやんちゃだから、内申点で苦労しそう」
「いまだ揺れ動いている大学入試。この子のときにどうなっているか分からないし、無駄に苦労させたくない」
かわいいわが子に、つらい思いや失敗をさせたくないと思う親の気持ちは分からなくもない。でも、そうやって親が障害物をどかして、安全な道へと進ませて本当にいいのだろうか。
私は、中学受験は「損をしない」ためにあるのではないと思っている。そういう理由で中学受験をさせると、親は必ず偏差値にこだわるようになる。人より偏差値の高い学校へ入れることが、人生の幸せを手に入れられる切符だと信じて。そして、そこに合格できないと、「受験に失敗=この子の人生は失敗してしまった」と思い込む。こうなってしまうと、中学受験は本当につらいものになる。
■中学受験の意義は子どもを自立・自律に導くこと
中学受験をさせるのであれば、親はまわりの情報に振り回されず、覚悟を持って、わが子を支えるべきだ。そして、結果ではなく、プロセスに目を向ける努力をするべきだ。
子育ての最終ゴールは子どもを自立・自律させることだ。受験である以上、合否は必ず出る。だが、中学受験をする上で大事なのは、結果ではなく、そこまで頑張った過程だ。
受験を通じて何を学ぶことができたか。まず、いろいろな知識を得ることができただろう。また、受験勉強を通じて、努力をすれば成果が出ることも経験しただろう。その上で、自分よりも上の子がいることも知っただろう。こうしたさまざまな経験こそが、子どもを成長させ、自立させていく。それを育むのに、中学受験は最高のツールだと、私は感じている。
ただし、それには親の関わりが重要になる。結果ばかりに目が行くと、子どもの成長に気づきにくい。大事なのは、日々の小さな成長に気づいてあげることだ。そして、それを言葉で伝えてあげてほしい。そうすれば、子どもの気持ちが前向きになり、自分から勉強を楽しめるようになるだろう。中学受験をさせる意義はそこにあると、私は信じている。
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プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。
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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)
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